25話
「予想以上に使える。感謝している」
そう言ってオヤジさんは頭を下げてきた。
「いえ、雇ってもらえるようで良かったです」
いやはや、真面目な男でよかった。気難しい感じだったので少しだけ心配していたが、難なく雇ってもらえたという。
「お前を少し誤解していたようだ。謝罪する」
「あー……いえ、正当な評価がされてこちらは嬉しい限りで」
前回と違う態度にこちらは少し戸惑ってしまう。
「それで、相談なんだが……」
「はい?」
「ウェイトレスを2人教育してくれないだろうか」
「えっ」
「あの2人があれだけ使えるようになったんだ。ウェイトレスもさぞ使えるだろうと思ってな」
「はぁ……構いませんが」
こちらとしても多く雇ってもらったほうが孤児たちの負担も少なくなる。丁度、ヨークの妹とその友達の女の子が働きたいって言ってたし……何も問題はない。渡りに船だ。次は清掃員の方で雇ってもらおうかと思っていたし丁度良い。
「よろしく頼む」
そう言って頭を深々と下げてきたので逆に恐縮してしまった。
「いえ、こちらこそ宜しくお願いします。今度は二週間後に」
「という訳で教育しますよ~」
ヨークの妹レーアンとミュウは少し顔を強ばらせながら頷く。ずっと栄養価の高い食事をとっていたために彼女たちも大分血色が良くなってきた。まだ細いけれど、大丈夫でしょう。何より、こういうのはやる気の問題だ。
皿洗いと違って接客の方は色んなお客が来るため、難しいことが多い。注文を忘れないように間違えないように通したりだとか、難しい客の対応、言われたことが分からなかった時の対応。
まぁ色々あるのですよ。
基本的にゴタゴタしてしまう前にあの熊みたいなおっさんが対応するらしいのでそこら辺は安心できるだろう。
「まずは採寸しましょう」
「「えっ」」
二人は動揺している。何故自分たちが測られないといけないのか、と。その様子に少し苦笑する。あまりに可愛いからだ。
「仕事用の服を作ってあげますから。その服だと申し訳ないんだけど不衛生でしょう?」
二人は顔を見合わせて恥ずかしそうに俯く。ごめんねぇ、でも接客業だから仕方ない。二人の採寸を終えて便利空間に投げ入れられている服を物色。魔王城でヴァネッサから貰った可愛らしい服が何着もある。これを応用すればいいだろう。
まぁでもまずは。
二人にメニューを書いた紙を出す。
「これを2日後までに完璧に覚えろ」
「えっ……読め、私たち読めないんです」
レーアンが不安そうに尋ねる。
「分からないなら聞け。取り合えず泣き言は聞かん。完璧に覚えろ。生きる為なんだろう?」
二人はぐっと顔を引き締める。すぐに私に読み方と書き方を尋ねて来るようになった。この分だと覚えるだろう。いやはや……小学生程度の女の子たちを働かせるのは気が引けるが、これが現実なのよね。
私は裁縫をしながら彼女たちの質問に全部答えていった。
接客の方は他の残りの孤児達と協力した。孤児達が客役でありとあらゆるパターンを吟味していく。たまに孤児の方から二人を困らせるアドリブを入れたりしていた。ナイスです。そういう時でも落ち着いて対応出来るようになるのがベストなんです。
チクチク裁縫しながら夜の海の風を感じる。
忙しいが、それなりに充実している。裁縫する魔王ってのは実にシュールな絵ヅラだが、誰も知らないので問題ない。私がいなくなったあと、少し大きくなってもいいようにちょっと大きめサイズだ。
3着ずつ作れば十分だろう。少しヒラヒラしていてメイドっぽい感じに仕上げれば完璧。それなりに手先は器用なのでこういうのは得意だ。
光も付けずに黙々と作業していたら光が近づいてきた。夜に慣れていた目が少し痛く感じる。
その光に慣れてきて目を向けると、ギルが立っていた。
「いつまでやってるんだ」
「ああ……う~んまぁ……」
私は苦笑した。最近あんまり眠っていない。寝てもあまりいい事なんてないからな。夢見が悪すぎる。
「お前はいつもそうやって人の為に無茶をする」
ギルは不機嫌そうにそう言う。
「それは違う。自分の為だ」
自分の目覚めが悪くならないようにする為だ。だから、自分の為。私はギルのようにお人好しにはなれない。人の心配ばかりしているのはギルのほうだろう。
「お前はそういうと思ったよ……」
「ふっ分かってきたじゃないか」
ギルは諦めて私の隣に腰掛ける。私の手元を光で照らしてくれる。
作業がしやすいようにとの計らいだろう。私は夜目が聞くのであんまり必要もないのだが、まぁ、甘えとくか。
しばらく黙々と作業していたら光がゆらゆらと揺れだした。見るとギルが眠りそうになっていて腕が揺れていた。眠そうな顔が幼くて微笑ましくて笑ってしまう。私はそっと燭台を取って火を消す。
そしてギルに毛布を掛けてあげる。さて、運んであげたほうがいいだろうか?
「アル……」
少しだけ開いた目をこちらに向けている。とても眠そうだ。
「運ぶよ」
そう言うとギルはゆっくり首を振る。
「ここにいる」
駄々をこねる子供のようで笑ってしまった。早いうちから両親の元を離れてずっと旅をしてきているのだ。寂しいと感じないはずがない、か。それに最近はまた別の要件でギルに構ってあげていない。13歳なんてまだまだ子供。多少我が儘いっても許されるんじゃないだろうか。
私は笑ってギルの頭を撫でてやる。すると安心したように瞳を閉じた。
おや、ギルがこんな所で座って眠るなんて珍しい。長生きはするものだね。
ギルが風邪を引かないように念入りに毛布に包み込んで、また作業を再開した。
「はい、それじゃあこれをあげよう」
特訓の日々も終わり、少女二人は前よりも大人びた表情をするようになった。畏怖ではなく尊敬の眼差しで私を見るようになったと思う。まぁ男の子の時より指導が優しくなっていたのは、仕方がないと思う。
キリッとしたメイド服を纏った少女二人に香水を吹く。片方にはレモングラス、もう一人にはピーチの香りを。それぞれにその香水を渡す。以前『服の街』に行った時に衝動買いしてしまったものの一部だ。
買ったは良いものの男として生きている今の私には不要なものだった。まぁ、でも使わなくても欲しくなるもんだよ、こういうのは。
「有難うございます」
二人は重々しくその香水を受け取る。その仕草はキッチリしすぎてて逆に心配になる。まるで軍隊の訓練のようではないか。
教育を何か間違えただろうか……。
「吹きかけすぎないようにね」
「承知しております。汗が出て少し匂いが気になる時にでも使わせていただきます」
「匂いがキツいかどうかは互いにチェックできるでしょう。飲食ですから、匂いも機敏でないといけませんからね」
「う、うん」
私が一言言うと的確な推理が次々と飛んでくる。思わず私も慄いてしまう程にハキハキしている。指導する時は厳しく接していたが、普段の会話の時にこういう反応をされるとちょっと動揺してしまう。
娘の成長を喜ぶべきなんだろうけれど……ちょっと淋しい。あ、これが娘を嫁にやる父親の気持ちっ!?
二人は注文を取るのも素早く、不慮の出来事にも対応できる機転もきく。これならどこの喫茶店でもバイト出来そうだ。
「じゃあ、大丈夫だと思うけれど、頑張ってね」
「「はいっ」」
二人は元気に厨房に駆け出した。メイド服も可愛く仕上がったなぁ……メイド服2着に普段使いの服を1着二人にそれぞれプレゼントしてあげた。布地が高級だったらしく、驚愕して一回突き返されたが、私が持ってても仕方のないものだからと押し付けた。デザインも可愛いので恐縮しながらも頬をほんのりピンクに染めて嬉しそうに受け取る姿は、本当に可愛らしかった。いいねぇやっぱり、女の子というのは……。
うんうんと頷いているといつの間にか横にマリアがいた。
「女好き。アル。顔が緩んでる」
「えっ」
私は慌てて顔に手をやる。でも、仕方ないと思う。娘の晴れの舞台が見られるのだから。あんまり入り浸ったら店にも迷惑になるかもしれないが、昼時に一回見に行くつもりだった。
ふわふわとリボンを揺らして注文をとる姿を想像しただけで……もうニヤける。欧米系の子供ってなんであんな可愛いの!反則だよ、あんなの。
ああ、勿論マリアも可愛いけど……。おっと口から出るところだった。危ない危ない。
「前途多難。女難……嫌、男難?」
マリアは小さい声で良く分からないことをブツブツいっている。
「別に女好きとかそういうのじゃないよ……?」
「そういうと、思った」
コクリと頷くマリア。本当に分かってくれただろうか。というか、男と思っているなら女好きでも構わないんだろうか?いやでも実際私は女だし……。可愛いものは大好きだし、好きと言えば好きなんだけどね……。
「久しぶりに、ギルの相手して。拗ねてる。超ウザイ。目障り」
その言い草に苦笑してしまう。心配しているのが伝わっているからだ。ギルが心配なら素直にそう言えばいいのに。マリアもなかなか難儀な性格をしているようだ。マリアの方が可愛らしいので癒されると思うんだけどなぁ。
結構口喧嘩も楽しそうだし、おばさんちょっと淋しいな……。
「マリアが励ましてあげたほうがいいと思うけど」
「無理。超無理。変態だから。アルに任せる」
へ、変態って……ギル一体マリアになにしたの!?
マリアに居場所を聞いて遊技場に向かう。ギルは観戦を楽しんでいた。真剣に相手の手札を眺めている。
「ギル」
「う、アル……」
なんでちょっと嫌そうなの……。やっぱりマリアが来た方が良かったんじゃ……。そう思ったが、話は続けることにした。
「拗ねてるってマリアに聞いたけど」
「あのピンク……」
忌々しげに呟くギル。本当に仲がよろしい事で……。
「変態っていってたけどマリアに何したの?」
そのセリフにピシッと亀裂が入ったように思う。
「あ……んの……ピンク……!!」
「ぎ、ギル……?」
「何にもしてないっあいつが勝手にそう呼んでるだけだっ」
「お、おう……」
ギルに肩を掴まれて揺らされる。その目は真剣そのものである。まぁギルならそうそう失礼なことをしないと分かってはいるけど。仲がいいと思ったがやっぱり悪いのだろうか……。二人の関係ほど複雑なことはない。
「ご、誤解のないように言っておくけど。女性に手を出したこともないからな!?」
「う、うん……うん」
脳がシェイクされるからちょっと離して欲しい。揺れる……揺れてしまう……。まぁ確かに女性が苦手って感じだもんな、ギルは。あまり得意な方ではないからそりゃあ手も出していないんだろう。しかしそんなに動揺するとは……もしやマリアの事が……?でもマリアはギルの事あんまり好きじゃないみたいだし……素直にならないと伝わらないぞ?ひとしきり私を揺らした後ゆっくり私を解放した。……ふう、やれやれ。
相当女の子の事が苦手らしい……先が思いやられる。
これで私が女だと知った日には卒倒するやもしれん。まだしばらくは言わない方が良さそうだ。
1ヶ月と2週間程で中間の島に到着した。結構好スピードだった。潮の流れや風の流れも良く、優秀な魔術師が船を良い方向に先導しているらしかった。船はここで2泊してから出立する。島と聞いて無人島のようなものを想像していたが、はるかに大きい島だった。
ここで生活している住民も少なくなさそうだ。商店は活気で溢れていてとても賑やかだった。
船での間、残り3名程清掃員に仕立て上げ、孤児達は生活に少し余裕が出てくる位にまでなっていた。そこまで来たら私の役目は終わりだ。今でもたまに食事を作ってあげたりしているが、基本的に奢らなくても良くなった。
生活が出来るようになったから良かった。まだ子供なのに働くなんて……この世界は厳しい。
中間の島で適当に物色して相当減ってしまった食材を買ってまた船の旅に出る。
教育的指導もする事がないので暇だった。
たまに仕事が休みのヨーク達が顔を出したりする位だ。暇なのでやっぱり遊技場をぶらつく。面白いのがダーツだ。上級者は揺れにも負けずに真ん中に当てたりする。多少揺れている中で狙いを定めるのが難しいのに……あの人はいつ来てもダーツやってるから、常連なんだろう。
たまにあの上手い人に挑戦状を叩きつける猛者もいるが案の定負けている。負けた人は皆に慰められつつも、どこか楽しそうだ。いいねぇ……この船は結構治安が良いみたい。ガラが悪そうな連中もあんまり騒動を起こさないし。
ひとしきりダーツを見て楽しんだあと、定位置になってしまった甲板へと足を運ぶ。
吾輩は暇である。暇と言えるこの幸せ。なんとも平和的じゃないか。
甲板で心地良い風を浴びつつ、ついウトウトしてしまう。目をつぶっていたら、索敵に悪意の警笛が鳴り響く。ハッとなって目を向けると私のカバンに手を伸ばした青年と目があった。
カバンを胸に抱きつつ顔を青ざめさせる青年。はて、どこかで会ったような……?
「こ、このカバンさえあれば皆遊んで暮らせる金が手に入るんだよ!あんた金持ちなんだろう?これくらい良いじゃないか!」
ああ、そうだ。厨房にいた青年……孤児達の年長者組だったか……名前は、忘れたな。そのカバンはなんの変哲もない銅貨3枚の代物だ。それで皆が遊ぶ?その言葉に疑問符しか浮かばずに首を傾げる。
……あ、そうか。道具箱として持っているんだったな……。そうか、彼らの前でなんのためらいもなくポイポイ道具出してたもんなぁ……。
そりゃ道具箱なら高いわ。でも、持って行っても糞の役にも立たないぞー?私は思わず苦笑してしまう。
「持って行ってもいいけれど、そのカバンは私にしか使えないよ?」
青年は青ざめさせた顔で私とカバンを交互に見る。
「魔力認証って知ってる?高級品である道具箱はその人物だけにしか使えないようにする魔術があるんだよ。まぁ今みたいな盗み防止だね。所持している人間が死ぬかもしくは譲る意志がなけりゃあ使えないよ」
「じゃ、じゃあ譲ってくれよ」
「ふっ、無理だよ」
だってそれ道具箱でもないし。
「なんでだよ!あんたあいつら助けたいんじゃないのかよ!あんな子供に働かせてなんとも思わないのかよ!これさえ売ればあいつらだってもっと楽になるんだよ!!」
必死でそう主張してくる青年。言いたい事は分かるが盗んだもので生活して彼らは果たして喜ぶのだろうか。
「何やってんだよウェン兄!!」
バタバタとヨークが走ってくる。顔を真っ赤にして怒っている。
「これさえあれば、お前たちが働かずに済むんだよ!」
「そんなの誰が頼んだよっ!?」
ヨークの気迫に思わず後ずさりするウェン。
「この人は働けるように仕事を見つけてくれた。それで生活も楽になった。それでいいじゃないか。それ以上なんて望んでない。仕事が見つかっただけでも幸運なのに、選りにも選って恩人の荷物盗むって最低じゃないか!」
とてもいい子である。こりゃあ助けた甲斐もあったってもんだ。私も出来るならば日本のように子供が働かなくて済む世界にしてあげたい。でもそれを行うのは至難の技だ。取り合えず王様レベルがいるよね。
「まぁまぁ……ウェンさんの主張も分かるんだよね」
「あ、アル……」
「だから……殺してでも奪ってみてよ」
ヨークとウェンはサッと顔色が悪くなる。私は剣を何時でも抜けるよう抜刀の構えをとる。
ウェンはカバンを抱きしめるだけでその場から動けないようだ。
「私は冒険者なんだよね。結構危険な目も経験してる。刺されるのなんて日常茶飯事。致命傷を負ったとしても貴様を殺す自信はあるよ。まぁそもそも傷一つ私につけられるか甚だ疑問だけれど……どうしたの?動かないと首が飛ぶよ?人のモノを盗むならそれくらいの覚悟はあったはずだよね?舐めて貰ったら困るなぁ……君のその悪意は果たして本当に孤児たちに分け与えるモノだったかな?私はそうは思わなかったけれど?君、それを売って逃げるつもりだったでしょう?とんだ悪人だよ。平気で嘘を言い並べるなんて、神経どうかしてる」
饒舌に喋りつつ、ジリジリ距離を詰める。ウェンは泣きそうになりながらも震えて後ろに下がる。
「ま、待って!!」
バッとヨークが私の前に出る。私の気迫の中で動いて前に出るとは……感心した。別に死線をくぐり抜けたわけでもないような子供が剣を抜こうとしている者の前に立つとは。
無謀だが……その勇気は評価出来る。流石は私の直伝のバイト精神を持っているだけはある。
「ウェン兄はそんな人間じゃないよ!話したら分かってくれる!だから、だから殺さないでよ!!」
「よ、ヨーク……」
ウェンは目を見開いてヨークを見つめている。その瞳からは涙が溢れ出している。ヨークは恐怖で打ち震えながらも懸命に命乞いをする。感動の絆物語である。いやはや素敵やん?
まぁ、ウェンという男も少しだけ魔が差しただけのようだし、別に殺すつもりなんて微塵もないのだけれど。こんなに怯えられるとちょっとショック。
「返す……返すよ。本当にすまなかった……」
がっくりとうなだれるウェン。ヨークの心が届いたらしい。私は落とされたカバンを回収し、ヨークにニッコリ笑う。
「いやぁ、いい子だねぇ。しかし度胸が凄いね。普通に危ないから前に出ちゃダメだよ?」
「ま、まぁ、アルなら話せば分かってくれるって思ってたし」
少し震えが止まらないようだがそう呟く。
「世の中甘いだけじゃないからねぇ……私じゃなかったら本当にヨークごと切られても可笑しくないんだよ?道具箱って大切にしてる貴族も多いんだからさ……」
ヨークはコクコクと頷く。
「おい、お前らいつまでブラブラしてるんだ!!」
そこに現れたのは厨房にいた熊男だ。どうやら二人共休憩時間だったようだ。熊男に首根っこを掴まれて二人共引きずられていく。いってらっしゃーい。ひらひらと手を振って二人を見送る。
と、入れ違いにギルが来た。
「お人好し……もっと怒ってもいいと思うんだけど」
「見てたんだ?」
いや、お恥ずかしい。
「斬るつもりも殺すつもりもサラサラなかっただろ?そもそも怒ってすらなかったし」
「ふっ、バレてたんだ?」
私の事を分かってくれているようでとても嬉しいよ。あの二人は気迫だけで怯えてしまっていたけれど、ギルはわかってたようだ。長いことパーティー組んでるだけはある。
「……そうやって、一人で傷つくなよ。一人で抱えるなよ。俺に、少しでも……甘えろよ」
そう言ってそっと私の頬に触れてきた。少しくすぐったくてクスリと笑う。照れて赤くなっているギル。でも撫でるのはやめないらしい。その様子に心が温まる。
「甘えてるよ……」
こうしてギルと旅が出来ている事自体が甘えだ。それはとても幸福なことで、騙している事に罪悪感を覚える。私は魔王だから。
いつまでこうしていられるのだろうか?どうなれば離れられるのだろうか?
出来るならばずっとこうして旅をしていきたい。もっと生きたい。
私はギルの手を両手で包んで額に持っていく。私の行動に少し驚いたのか、ギルの手がピクリと震えていた。




