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24話

視点が主人公→マリアに変わります、ご注意下さい。

 さて、孤児を拾ったは良いがこれからどうするか。流石に毎日食べさせるのもなぁ……。よし、職を探すか。仕事場は船の乗組員、これは船の技術とかいるから無理。次に遊技場の店員。これは大人ばかりで入り込む余地なし。

 まぁドリンク運んだりもあるんだけれど流石にこう大人ばかりの所に放り込むのもなぁ……。靴磨きをしているものもいるがそれほど儲かってもいないようだ。

 個室のベットシーツを時たま変えたり、掃除要員。これは結構いけるんではないだろうか?後は食堂があるのでその厨房だ。まぁここらが適当な所だろう。


 一気に連れて行ってアレなのでヨークともう一人の少年を連れて厨房に向かう。孤児だと敬遠しがちになりそうなので新しい服を与えて自動洗浄してやった。それなりに見えると思う。これでもうちょっと太っていればもっと良いんだけど……。


 厨房内は大人たちがバタバタと走り回って忙しそうだ。


「あれ、ヨークとゴウじゃないか」

「あ、ウェン兄」


 額に汗を流している青年がこちらに話しかけてきた。ヨークが返事をする。この人は例の年長者組か。


「あれ?その子は?」

「こいつはアルっていう冒険者なんだ。ほら、昨日言っただろ。昨日飯奢ってくれた」

「ああ!」


 合点が行ったのか青年は満面の笑みで私に握手を求めた。


「有難う!どうしても俺たちだけじゃまかない切れなくてな。かと言って犯罪をさせるのもダメだろ?甘いってわかっちゃいても、どうしてもな」


 握手した手をブンブン振っている。とても嬉しそうだ。ただ手は細くて荒れていて相当苦労しているようだ。頬も痩せこけている。結構ギリギリなんだろう。食費削って自分が倒れでもしたらもっと大変になるんだから、もうちょっと食べた方がいいと思うのは私だけだろうか。


「おい!何サボってる!」

「いけねぇ!じゃあな!」


 怒声を浴びせられてウェンは慌てて仕事に戻る。怒鳴った男がこちらに向かってきた。背の大きな熊のような男で、ヨークとゴウが完全に萎縮してしまっている。


「なんだてめぇらは!さっさと散れ!」

「こちらで仕事を頂きに来ました」

「餓鬼に用はねぇ!」

「おや、随分と忙しそうですけれど……手伝えそうなものがあるように見受けられます。例えば……そこの皿洗いだとか」

「ふん、気持ちの悪い喋り方しやがって……オヤジ!」


 熊男がオヤジと呼び、別の男がやってくる。熊男よりは一回り小さい年配の厳しい面をした難しい男が現れた。


「……なんだ」

「こいつら仕事が欲しいってよ」

「子供か……間に合っている」


 そう言ってオヤジは奥に行こうとする。なので慌てて腕を取って引き止める。手首が太くて濃い毛がもっさりしている。オヤジは振り払おうと腕を動かすが、生憎私の力の方が上だ。微動だにしない私を腕を見てオヤジは目を見開く。


「貴様は……」

「私はアル。Bランク冒険者です」

「……で?力づくででも仕事を貰おうってか?」

「いえいえそんな。出来れば穏便に済ませたいところですが、どうでしょうか」

「使えない餓鬼はいらん」

「使える餓鬼ならば要りますか?」

「……使えるならな」

「今の言葉、忘れないでくださいよ?一週間で彼らを使えるようにしますので雇ってください。雇ってくれないと暴れちゃうかもしれませんね」

「冒険者は野蛮だな。その力に溺れて振り回す。……だが、使えるようにしてくれるならば文句もない」

「ふっ、決まりです」


 私はオヤジの腕を離してやる。オヤジは少し赤くなった手首をさすりながら厨房の奥に逃げるように入っていく。私の方も用は済んだのでさっさと厨房から出ていく。


「あ……アルよう……暴れる気なのか?」


 ヨークが不安そうに尋ねてくる。


「ふっ、暴れるわけないじゃない。疑われたからちょっと乗ってみただけ」

「で、でも一週間で使えるようにするって……」

「皿洗いに礼儀に調理器具の名前等を覚えるんだよ。皿洗いは勿論割らないように丁寧にそれでいてスピードも要求されるだろうね」

「れ、礼儀とか俺ら分かんないんだけどっ」


 若干涙目でゴウが叫ぶように言い捨てる。


「今から覚えるんだよ。大丈夫。生き抜く為だ。私が徹底的に教え込む。安心しろ、割ってもいいよう練習は私のモノがあるし、勿論礼儀も叩き込む。何、難しい事じゃない。泣かないでしっかり言う事聞いて仕事をキチンとこなせばいいだけさ……」


 ニヤリと笑うと二人は顔を引きつらせて後ろに下がる。伊達にバイト掛け持ちしていないぞ……くくく、見ていろ……日本人の接客は世界一だという事を……!!


 私の悪い笑みに二人が逃げ出そうとしたので首根っこを掴んで引き止める。逃げるなよ。




 一週間バッチリガッチリ教えてやった。接客の良さの割に給料の少ない日本人のバイターの根性を叩き込んでやった。結構いい線いったと思う。皿ももう殆ど割らないし、その上早いしハキハキと返事もする。元々孤児としての根性はすわっているのだ。コレくらいどうということもないだろう。


「俺、厨房のあのおっさんよりアルの方が怖い」


 ヨークは私にトラウマを植えつけられたようだ。私と目が合うと青ざめてガクブル震える。失礼な餓鬼だ。せっかく人が日本人バイターの真髄を教えてやったというのに。別に良い暇つぶしが出来たとか思っておらんぞ?ほんとですよ。


 厨房に二人を送り届けて、仕事が終わるのを待つことにした。しっかり教え込んだし、心配もないだろう。あのオヤジが正当な評価さえしてくれればの話だが。

 まぁ、ずっと近くで見るわけにもいかないので私は甲板で一休みすることにした。


「ふー、ちょっと張り切り過ぎたなぁ」


 ぽつりとそう呟く。揺れる海に流れる空を眺めてやっと落ち着く。最近はずっと二人をしごいてたからなぁ。二人がいなくなったらなったで次の練習を考えたり……。


「お疲れ」


 そっと私の隣にギルが腰掛けてきた。そして飲み物を私に差し出してきた。


「有難う」


 遠慮なくその茶を受け取りまた景色に目線を戻す。そういえば最近はあんまりギルと話してなかったな。マリアがいつも近くにいたし、今回に至っては孤児達の相手ばかりしていたし。


「マリアは?」


 ギルしか見かけないのでそう尋ねるとギルが少し不機嫌な顔になった。


「あいつなら適当なところをブラブラしてるよ」


 そうか。まぁ索敵でもウロウロ色んなところに移動しているようだし、大丈夫だろう。


「なぁ……」

「ん?」


 ギルは何か言いたげにこちらを向いている。目が合うと途端に目が泳いで口を閉じた。


「いや、やっぱ……なんでもない……」

「そうか?気になることがあるなら聞いたほうがいいぞ?」

「え、その……やっぱなんでもない」


 ギルは両手で顔を覆って首を振っている。それからは、言葉を交わすことなくのんびりとした時間が流れた。昼になって孤児たちがご飯を貰いにくるまでずっと無言。けれどそれも心地よかった。

 久しぶりにギルとのんびり出来たし、癒されるわ。



……マリア視点……


 クソ。クソなの。全てがクソなの。滅びれば良いの。そう心の中で悪態を吐きながらマリアは必死で森を駆け抜ける。

 マリアは聖女であった。生まれ落ちたその瞬間から女神の祝福を受けて光属性のヴェールを纏っている。光属性を扱うことこそ出来ないが、魔物討伐後にその地を正常に戻す事が出来る。その為生まれた時からマリアは超重要人物として親元から離されて王都に保護されていた。

 途中までは実に平穏平和だった。そう、途中までは。


「あの、イカレ神官!帰ったらただじゃ済まないの!殺す!殺すの!!」


 心の底からの怨嗟の叫びは、とてもじゃないが聖女とはかけ離れていた。


 マリアは出来るだけ王都から離れようと走っていた。

 王都は魑魅魍魎が跋扈する暗くてドロドロした世界だった。子供の頃は素直に受けていた言葉は、決して純粋なものではなく裏に打算と欲望が渦巻くものだった。気づかなければ幸せだったかもしれない。けれどマリアは気づいてしまった。

 彼らの不正と欲望に。自分の頭の良さを恨みたくなった。今まで純粋に受け取っていた言葉を素直に受け止めきれずに動揺を隠しきれなかった。それにいち早くあの腐れイカレ神官に気づかれた。

 あろうことかマリアに禁術である魅了や傀儡を使おうとまでしてきた。


 あんな奴の事を今までマリアは実の兄のように慕っていた。

 胸糞悪かった。今までの馬鹿な自分を呪い殺してやりたくなった。むしろ馬鹿だったならずっと馬鹿で通してしまえば良かったものを。


 あの腐れ糞イカレ神官は今度は私を亡きものにしようと刺客を向けてきた。

 マリアはとうとう王都から逃げ出した。


 もう一週間はまともな食事も取らず、休息もとっていない。

休もうとする体を強制的にヒールで叩き起してまた駆ける。走る時も風属性を上手く扱って速く走った。こんな事の為に王都で修行をした訳ではない。領民の為、果ては世界の人々の為である。

 私利私欲の為に使うものではないのだ。本来ならば。けれど生き抜くには全力で使うしかない。


 けれどもう限界だった。


 刺客も振り切った。ある程度はきっと安心できる。だからもう休もう。


 マリアは細い道に倒れ込んだ。



 ハッと気づいたら朝になっていた。動こうと思ったが体が引き攣って上手く動く事が出来なかった。魔法の酷使に休息も取らなかった身体は悲鳴を上げていた。胃の中も魔力で補っていたが今は拒絶される。

 こんな状態で刺客に見つかったら確実に殺されてしまう。マリアは冷や汗が流れるのを止められなかった。


 そんな時に人が来る気配がした。


 ゴトゴトと馬を歩かせて馬車を走らせている。見たところ高級そうな馬車だ。


 終わった。とマリアは思った。


 高級そうな馬車を引くのは貴族。或いはあのイカレ神官のような者だ。振り切ったと思ったが甘かったらしい。ゆっくりと馬車から降りてこちらに来る者をチラチラと横目で見た。


 しかしそこにいたのは美少年。確かに貴族であるだろう。だが、あのイカレ神官の手の者だろうか?少し戸惑いながらこちらに苦笑を浮かべる姿からはとてもじゃないが刺客に思えない。


 その微笑みはとても穏やかで、助けを求めるのにも躊躇がなかった。



 そんな少年はアルと言った。もう一人銀髪の奴はギルというらしい。貴族の坊ちゃん二人で旅をしているなんて……。どう考えても訳アリそうだ。マリアも人のことは言えないが。

 ギルという少年はアルと違って警戒心むき出しだった。むしろいきなり他人を信用して助けるアルよりもよほどマトモな神経をしていると思う。言い方は腹が立つが、仕方がないものだとも思う。


 アルは平和ボケし過ぎているのではないだろうか?昔の自分を思い出して少し嫌な気分になる。相手の言葉を純粋に受け止め、ニッコリ裏もなく笑う。これは将来痛い目に合いそうだな、私のように。

 なんて、思っていた。


 だが、何にもできないボンボンとは少し毛色が違った。野生の熊を狩り、食事とし、魔物も簡単に打ちのめす。料理も王都の料理人顔負けの腕前で種類も豊富。荷馬車のソファーでしか眠れない坊ちゃんのギルと違って、地面に座って眠る。まるで歴戦の戦士のようだ、と思った。


 アルという少年は強かった。それこそ息をするように人を助ける。そうするだけの力が備わっているように思う。きっと彼は他人に裏切られても平気で笑っていそうだった。裏切られても大して痛手になるようなこともないのだろう。


 それが少し寂しくなった。彼は本当は人を信用してはいないのだ。そして、ギルだけは少し違うように思った、それが羨ましいと思った。本当に勝手な事だ。簡単に信用しては痛い目を見るぞと嘲笑っていたというのに。

 彼を知れば知るほど信用して欲しくなってしまう。けれど不思議と心温まる笑顔をする少年だった。


「信用して、とは言わない。けど、裏切るつもりは、ない」


 そう言ったアルはキョトンとしていた。そしてゆっくりと柔らかく笑った。


「マリアの事は信用しているし、裏切るなんて微塵も思っていない」

「でも」


 嘘だ。信用している訳がない。そう思ってもその言葉は私を嬉しさで満たしてしまう。だが、それ自体私の勘違いであった。


「私が信用していないのは私自身だ。それ以外の人間は逆にそんな私に騙されないかと少し不安でね」


 愕然とした。正直意味が分からなかった。王都でもこんな出来た人間はなかなかいなかったというのに。彼は自分を頼るものを分け隔て無く信用していた。そんな自分が信じられないという。

 彼が苦笑を浮かべるのは、相手が自分を信頼してくれる事を心配しているからだった。全くもって理解不能。彼ほど信頼に当たる人物なんてそうお目にかかれない。『監査人』のロイ様くらい信用出来るってのに。


 それをギルは理解していた。だから意地でも彼とともに旅をしていたのだろう。正直その関係が羨ましかった。互いに理解し合い、安心して背中を預けられる存在がいるということが。

 私には、タダの一人も居なかった。


 私も、彼らに仲間として打ち解ける事が出来る日が来るだろうか?

 彼らの仲間になりたい。そう、心から思った。



「いつまで……その顔」


 マリアがげんなりした顔でギルに指摘する。


「うるせーよピンク」


 その反応にマリアはチッと舌打ちした。話しかけなければ良かったと心から思った。だが、改善してくれないと鬱陶しいのだ。うじうじうじうじアルが相手をしてくれないと拗ねているのだ、ギルは。

 アルはというと船上の孤児たちの教育を施している最中だった。

 その様子はとても活き活きしていてとても口を出せる隙は見当たらない。


「弱いの。精神も弱いの」

「なんだと?」


 マリアが挑発するとすぐにギルは乗ってくる。挑発したら苦笑しか返って来ない大人な対応をするアルとは雲泥の差がある。ギルの方が年上だというのにこちらの方が幼い印象を受ける。喧嘩を止める者がいないのでヒートアップするかと思いきや、ギルにそんな元気は残されていなかった。

 怒った顔からまた憂鬱な顔に戻って床に転がる。


「あー……くそ。アルはああいうやつだよ……全く。人の気も知らないで」


 ギルは相手にしてもらえなくて拗ねていた。どうしようもなくモヤモヤして何も手につかない。その状態で遊技場に行っても負けるだけだ。かと言って料理も得意ではない。それに魔物も出てこない。

 スカッと出来るものが何一つない。ギルのアルへの執着にマリアは呆れた。

 マリアがアルに抱きついている時もイライラした様子で突っかかってきたりするのだ。独占欲の塊である。


 マリアは思った。まるで恋のようだと。他人とベタベタするアルを見てイラついたり、相手をしてもらえなくなって拗ねるだなんて。男同士だなんて気持ち悪い。実際神官の男同士でそういうのは見たことある。

 だが、とてもじゃないが見られたものではなかった。しかしアルとギルなら意外と似合いそうだな、なんて変な考えが起こる。なんてったって彼らの容姿はとても整っているのだ。

 アルだって女と言っても良いくらい中性的な顔立ちなのであんまり違和感も起こらなそうだ。実際アルの髪は長いので、下ろすと本当に女の子に見えてしまう時もある。


 しかしまぁ、ギルとアルがそういう如何わしい関係でない事は確実だ。ギルはどうかは知らないが、アルの方は確実に仲間として信頼仕切っている。ギルの方が一方的に想っているのではないだろうか。

 そう思うだけの言動と行動をしている。恐らくギルもそういうつもりがないと思う。ないと思うがついからかいたくなってしまった。


「まるで恋。嫉妬?」


 ニヤニヤとしながら聞いたら、ギルの反応は凄まじいものだった。

 ザッと顔を青ざめさせてオロオロして完全に動揺していた。その様子はまるで図星を指された人間のようで。逆に今度はマリアが動揺した。え、マジなの?と。


「冗談のつもり、だったんだけど」

「いや、違うっ!こ、これは―――」


 顔を真っ赤にされて反論しようとしているが全く意味をなしていない。むしろ疑惑が確信に変わっていく。完全に冗談のつもりで言ったものがまさか図星だったとは。男同士なのに。似合いそうだと思ったが実際本気で想っているとなるとドン引きである。


「変態。寄るな。変態」

「だっ誰が―――違うわ!これは断じて違う」

「何が」


 一体何が違うというのだろう。そんな動揺して真っ赤になっていると「好きです」と言っているようなものだ。腕で顔を隠してはいるが、より怪しさが増す。


「ん?なんだ?二人で仲良さそうに」

「アル」

「ううわぁ!!」


 ひょいとマリアの背後から噂の人が顔を出した。ギルは驚きすぎて頭を激しく壁にぶつけてしまっていた。


「うわ、大丈夫か?」


 アルは料理を片手にギルに駆け寄る。打った後頭部を優しく撫で付けている。ギルは俯いてブルブル震えている。恐らく顔は真っ赤になって上げられないだろう。心配気にギルを覗き込むアルに恋のような熱は全く感じられなかった。

 完全にギルの一方通行だった。マリアは哀れに思った。アルには絶対に通じなさそうだな、アルは誠実な人間だ。そんな人間が同性に目を向けようとも思わないだろう。いや、むしろ朴念仁だから誰ともくっつかなさそうな感じだ。

 これだけギルが動揺していたとしても欠片も自分への好意に気づくことがない。


「あ、これ料理。あの子達が具材切ったからちょっと歪なんだけど、味は美味しいよ」


 心配していたアルは大丈夫だろうと踏んで、料理を置いて再び子供たちの方に向かっていった。ずっと俯いたままのギルとマリアでまた二人になった。


「……別にアルの事す、好きとかじゃないから」

「……」


 全くこれほど信用できない言葉がこの世に存在するとは。


「男が好きとか……有り得ないだろ」


 ギルは深々とため息をついた。


「冗談でもアルに言うなよ」


 キッとマリアを睨みつけるギルは真剣そのもの。同性の恋が許されないと考えるあたりギルもそれなりに真面目な男のようだった。それ故にその気持ちをどこに向かわせればいいのか分からずに動揺するしかないのだろう。ますます哀れな男だった。


「大丈夫。呼び名が弱いのから変態にチェンジされるだけ」

「よし、ぶん殴る」


 くくく……と変な笑いを漏らしながらマリアに向かっていく。コイツの目はマジである。


「女の子に、暴力。ダメ。超ダメ」

「ヒールで治るだろ遠慮すんな」


 マリアの背に冷や汗が流れる。確かに傷なんて残らない位にはヒールが使える。だが、女の子に殴るその精神が問題なのではないのであろうか。


「殴ったらチクる。アルに」

「ぐっ」


 女の子を殴ったと知ったアルはきっとギルを軽蔑するだろう。ましてやギルには邪な感情がある。ドン引きされるだろう。そう言われたらギルももう手が出せない。アルにだけは嫌われたくないのだ。だからこのモヤモヤする気持ちも無理にでも閉じ込めようと必死なのだ。男の自分が好きだなんて吐いてみろ、確実に仲間から外されそうだ。それだけは死守したい。一緒にいるだけで幸せな気分になれるのだ。

 っていうかもうその考えをぶっちぎって捨ててしまいたい。何故自分がこんな想いを抱いてしまったのか。

 この怒りを一体どこにぶつければいいのだろうか。ギルは思い悩む。元はといえばアルが無駄に綺麗なのが悪い。そして綺麗な長い髪が更に脳を混乱させるのだ。


「よし、アルを殴ろう」

「トチ狂ったの、変態」


 結局ギルはアルを殴ることは出来なかったという。

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