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2話

いきなりダークサイドに落ちますご注意下さい。

 私が転生してから一年ちょうど365日。日本とほぼ変わらない。四季も春夏秋冬あった。今は春だ。兄はあれから父と毎回顔を出すようになった。毎回といっても、頻度は二週間ほどなので、今日で四回目。兄は会うたびに私を甲斐甲斐しく世話していた。両親はソレを微笑ましく眺める。じつに平和な風景だった。元気のなかった母も、見るからに元気になった。母と私の二人の時は暗い顔ばかりしていたのに、今では鼻歌まじりに料理をしたりしている。私はというと今は立って歩けるようになった。まだよたよたしてしまうが、何も持たずに歩けるのは本当に嬉しかった。自立歩行ってイイよね。生前はどうやってこの困難を乗り越えたのかな……。

 物心ついた時には既に歩けていたし。私が歩く時、兄は心配そうに私の傍に寄り添って離れようとはしない。随分と過保護なようだ。会うのが少ない分、それは仕方のないことなのかもしれない。兄がずっと私の傍にいても、両親は目を離す位には安心している。というのも、私の魔力暴走が起きた事がないためだ。起きたことがないからと言って安心出来るような代物じゃあない気がするのだが……。だってあれは時間をかけて体内に蓄積することによって、体から放出するものっぽいし。

 如何せん、両親自身も魔力については良く分かっていないようだった。確かに、両親や兄には魔力の流れというものが極端に少ない。一般的な量なのかもしれないけれど、私と比較するとどうしようもないくらいに少ない。彼らが魔法を使っているのも見たことはない。魔力暴走なんて起こしたことなんてないのだろう。そういうのは、魔術師系統の貴族の子供に見られるみたいだし……。兄と両親がそんな話をしていた。普通の子供は、すぐに癇癪起こしたり、自分の感情の制御もままならない。おそらくは魔力の流れも上手く掴むことなんて出来はしないのだろう。その点でいうと私は随分と有利な状況だ。なんてったって精神年齢が16歳+1歳だからね。高校生だから、子供と言えば子供なんだけど、普通の1歳ではありえない理解力があるだろう。現に今は魔力を頻繁に消費して暴走を起こさないように努めているからね。この小さな体では頻繁に魔力抜きをしないといけないらしい。

 大きくなってしまえば、その問題もなくなるのだろうか。ていうかなくなってくれないと困るなぁ。まぁ大きくなってからそれは分かるだろう。


「準備出来たわよ。クラウド、アルリリア。いらっしゃい」


 私たちが外で遊んでいる間に、料理が出来たらしい。私の方も最近じゃ歯も生えてきて、味は別に作っているらしいが、普通の食事が出されるようになった。今日は私の誕生日で、いつもより気合を入れて時間が掛かったようだ。


「アルリリア、行こう」


 そう言って笑って兄は私の手を引く。何気ないその幸福に思わず笑みがこぼれてしまう。


 料理はいつもより豪華で、とても美味しそうなものだった。冬の時に驚いたのだが、日本にいた時と変わらない野菜があった。じゃがいもと人参だ。異世界なのに変わらないんだなーと思って当時離乳食に切り替えた時に、不思議に思いつつも馴染みのある素材に嬉々として口にしたのだが。じゃがいもスープだといわれた白いスープからは人参の味と風味があり、戦慄を覚えた。思わずブホォッと吐き出してしまい母が慌てていたのをよく覚えている。おかげで「アルリリアはじゃがいもが嫌い」というのが家族の常識だ。

 ……うん。まぁ子供の味覚になってしまっているので、人参の味は正直美味しいとは思えない。その認識でいいのだけれど……。高校生としてはプライドが傷つくわ。


「うふふ……ねぇ、ヨーシス。アルリリアと一緒に暮らしても大丈夫なんじゃないかしら」

「まぁな……。魔力暴走なんて起きないし。色がそうなだけで、黒の忌み子ではないのかもなぁ……」

「え!アルリリアと住めるの!?」


 両親の会話に兄は嬉しそうな顔でバッと顔をあげる。


「いや、周りの目もある。もしかすると、アルリリアが迫害を受ける可能性もある」

「はくがい?」


 父の難しい単語に兄が首を傾げている。それにすかさず母が説明を加える。


「いじめられるってことよ。石投げられたり何もしてないのに怒鳴られたりしちゃうの」

「えっ!!」


 兄の顔がサッと青ざめる。


「……確かにヨーシスの言う通りだわ。私たちは安全だって分かってても周りの人はそうは思わないかもしれないもの」

「そっか……アルリリアと住めないのは淋しいけど。アルリリアがはくがいになるのは嫌だもん」

「……良い子だ」


 父が兄を神妙な顔で撫でる。母も提案は間違いだったと思ったらしい。すでに諦めている様子だ。え。黒の忌み子ってそんな感じの立ち位置なんだ?忌み嫌われてる感じかなぁと思っていたが事態は結構重大みたいだ。石投げられ……罵声を浴びる……。そりゃちょっと離れたところで私を育てるはずだ。そんな事態になれば、被害は私だけではない。両親や兄も石を投げられるハメになる。


 本当に私は迷惑な存在でしかないようだった。こんなにいい家族に迷惑をかけている。そんな事実に切なくなった。私が不安そうな顔をしているのに気が付いたのか、兄が励ましてくれる。


「大丈夫!いつか父さんみたいに立派になってアルリリアを守ってあげる!!」

「おお!頑張れよクラウド!お前なら出来る!」

「応援してるわよ、クラウド。うふふ、頼もしいお兄ちゃんね」


 えっ……父みたいに?……せっかくそんな可愛らしい顔をしているのに筋肉マンになっちゃう気なの?や、やめてほしい……かな。絶対アンバランスだ。父の方もアンバランスなのに……。母はそんな所が好きなのか、父のようにと言っても嬉々として応援している。いや、嬉しいんだけどね。なんか複雑だった。



 兄との対面から三日後。兄と父は町の方に帰り、母と二人でいる時だった。平穏は突然破られる。コンコンと玄関が叩かれる。


「……」


 母は厳しい顔になる。今まで両親と兄以外にこの家に来た者はいない。私が黒の忌み子である事を隠すため、遠くに住んでいる。私を隠すためにわざわざ離れているのだ。そんな家に誰かが来るのは非常に拙い。母の様子から父ではなさそうだし。母はそっと私を物陰に隠してから玄関に出る。


「はい……どちら様でしょうか?」

「おや、ここにいるのは人間なのですか?」

「……は?」


 返事をした男はなにやら変な言葉を吐く。人間なのか?人間に決まっているじゃないか。


「これだから人間は頭が悪くて困ります。もう一度言わないとダメなんですか?」

「……ここに住んでるのは……私だけです」


 男は高慢で高圧的な態度だった。貴族かなにかなのだろうか。声だけで姿は見えないが、おそらくは身なりもいいのだろう。そんな男に母は警戒している。怪しい、怪しすぎる。それに母の事を「人間」だなんて表現しているのが気持ち悪い。得体がしれない。


「……嘘はイケマセンネェ……」

「……ぁっ」


 がしゃぁん!そんな音が聞こえた。なんだ、今の魔力の流れは。母はほとんど魔力を持っていない。おそらくは来た男のモノだろう。大きな音を立てて……魔力を……母に放ったのか!?匂いが……血の匂いがする。私が死ぬ直前に嗅いだあの匂い。それが鮮明に思い出される。

 バクバクと心臓が嫌な音を立てる。カツンカツンと真っ直ぐに私が隠されているところまで来る。台所とこの部屋しかないので迷うことなんてないだろう。探したりも何もせず、最初から居場所が分かっていたみたいに私の目の前で足音が止まる。まずい……まずいまずいまずい!!!私の脳が警笛を鳴らしている。


「見つけましたよ」


 そう言って男はニコリと笑った。その笑顔がさわやかでぞっとした。上に抱え上げられて視界が広がる。周りを見ると、母からは大量の血が流れていた。ピクリとも動いていない。おそらくは即死。なん……だ。何が起きている……?脳の理解が追いつかない。まるで現実味のない光景。さっきまで母は楽しそうに鼻歌を歌っていた。いつも通りの毎日だったはずだ。


「ふむ、下賤な人間の子なので残念ですが……しかし黒の忌み子ですか。なかなか面白い事になりそうですなぁ」


 先ほどの殺人なんて意にも介していない。直ぐに理解する。この男は勝てない。圧倒的な力量差がある。もう少し私が自由に動け、走り回れるなら……或いは。

 私の理性は攻撃をやめるように警告する。だが、感情はついていかない。どうしようもない怒りが私の中で荒れ狂う。


 バリバリィ!!


「おや、この攻撃はあなた様ですか?痛いですやめてください」


 勝てないと分かっていても母が殺されたのだ。そんなのどう黙って見てろっていうんだ!!確かに母と出会ってからはまだ一年しか経っていない。だが、私のたった一人の母なのだ。今世では、きっと幸せにすると誓った母なのだ。


 雷の魔法を放ったが、全然相手には効いていない。


「さすがですね、私に傷がつきましたよ。しかも、無詠唱なのですか」


 そう言って男はニヤニヤ笑う。こいつ……!こいつこいつ!!!!!!!!!殺したい殺したい殺したい殺したい!

 ついさっきまで笑っていた母、いつも優しく私を呼ぶ声、暖かい家庭。今、全部こいつにぶち壊された。何なんだ!!!!悔しい、こいつを殺せない。こいつを殺さないといけないのに。


「ふふふ……ますます楽しみですなぁ。では、早速行きましょうか」


 男はそう言って私を抱えて外に出る。そしてバサリと黒い翼を出し空へと飛翔する。な……なん……。こいつから翼が出てきた。それに、飛んだ。

 魔法の使える異世界だから異種族がいるのかとは思っていたが……。


 私が混乱している間男は高速で数時間飛び続けた。しばらく深い森を抜けると黒く禍々しい黒い城にたどり着く。そして私をそっと地面に立たせ、恭しくお辞儀をする。


「ようこそ魔王様、魔王城でございます。」


 ―――魔王。彼は私をそう称した。そして着いた場所が魔王城だと。私は混乱した。私の母を殺したこの男は何事もなかったかのように私を大切そうに扱う。その扱いを一%でも母に向けてくれたら……。そう思うと丁寧に扱われる度に殺意が湧く。


 魔王城に入り魔王様の自室です、と通されたのは、豪華な内装の部屋だった。この部屋に来る間、誰にも会わなかった。自室に通されたので、ようやくこの男から離れられるかな、とか考えていると。男がしゃがみこんで私の目を見てくる。


「チャーム」


 バチッと目の前が弾ける。こいつっ……!今チャームって言ったよな!?

チャームって魅了って意味じゃねぇか!お前私を洗脳しようってのか!?つかそんな魔法あるのか!邪悪だな!


「ふむ……弾かれてしまいますか……いいでしょう、まだ幼いようですし。じっくりと教育して差し上げましょう」


 どうやら失敗に終わったようだ。良かった。心の底から良かった。魅了されるとこいつ殺せないし。私の姿は一才の幼児。まだ歩くのもよたよたしているのだ。普通の幼児なら、上手いこと言えば過去の事は忘れるかもしれない。私だって前世の一才の記憶なんて全くない。だが、今なら違う。この男は知らないのだ。それなら殺せるかもしれない。何年掛かるかわからない。けれど、忘れたフリしてここで過ごし、この男より実力が上になった時、殺そう。確実に殺さないと、意味がない。母が浮かばれない。

 湧き上がる憎悪を心に押し込む。私は感情を殺すのが得意なのだ。きっとやりきって見せよう。


 バタンと慌てた様子で別の人間が入って来た。


「ミトラス!帰っているのか!」


 入って来た男は、黒め肌で耳が尖っていて、青色の髪を腰まで伸ばしたイケメンだった。……見るからにダークエルフだった。わぁ、すごい。異世界異世界。私はさっきまで殺意で満ち溢れていたのも忘れてのほほんと彼の登場を眺めてしまった。どうやら、私の母を殺した男はミトラスというらしい。どうでもいいが、媚を売るには名前を覚えるのは必要だろう。


「……。お前……殺したのか」


 入って来た男はピクリと片眉を動かせてそう言った。ダークエルフは鼻がいいと相場が決まっているし、血の匂いを嗅ぎとったのだろう。どことなく声に怒気が含まれている。


「ったく、相変わらず真面目ですなぁラインハルトは」


 つまらなそうにミトラスは返事をする。


「魔王様の親族だったのでは?何も殺すことは……」

「いやぁだって、嘘つかれちゃったし、あの人間に。そんな人間生かしておいても邪魔ですから」


「……まぁいい。体を清めてこい。血の匂いが不快だ」

「すみませんねぇ。言われなくてもそうさせてもらいますよ」


 そういってミトラスと言われた男は部屋から出ていった。残されたのはラインハルトと呼ばれた男と私のみ。ラインハルトは私に憐憫の眼差しを向けている。なんだろう?そのまま私の前で片膝をつき、頭を垂れる。長くて青い髪がさらりと地面を這う。その動きは洗練されており、実に美しかった。


「申し訳ありません、魔王様。ご家族を……」

「今日から魔王様には立派に人を殺して頂かなくてはならないのです。余計なことはこれから一切喋らないように。……でないと……殺しますよ?」

「!」


 出て行ったはずのミトラスがラインハルトの背後にいた。おそらくは魔法だろう。部屋に魔力が流れていたからな。ラインハルトは驚愕を顔を浮かべ、冷や汗を流す。ミトラスの方が強いのだろう。内包する魔力の大きさから言ってもラインハルトが負けている。


「分かった。気をつけよう」

「ええ、よろしくお願いしますよ。あなたは教育係なのですから」


 彼は謝ろうとしてきた。驚いた。そういう感情を持った人物が魔王城にいるとは。だが、彼もこれから余計なことは言えないだろう。ミトラスという存在がいる限りは。


 しかし……分からない事が多すぎる。魔王、魔王城……人を殺す。しっかし今世の母親も死んでしまうとか……神様は私の幸せを壊すのがお好きらしい。せめてもの救いが、兄と父が別に住んでいたことだろう。いつか、ミトラスを殺し、この城から逃げてやる。そして、また会いたい。家族に。





 あれから5ヶ月が経つ。

 魔王城には大量の魔法書があった。読めるようになるまでは苦労させられたが、今では難なく読める。しかし本当に蔵書量が半端ない。体育館程度の大きさにぎっしり本が埋め尽くされている。初級、中級、上級、秘術に魔王の特殊スキルなんでもござれ。私は魔法書を齧るように読んだ。属性は火、水、風、土。特殊属性で限られた者のみ光、闇。そして派生により使えるようになるのが雷、石、氷、草、浮遊だった。

 それぞれ適性がなければ使えない。


 魔術の適性……火、水、風、土で下位魔術師なら一つ、中位二つ、上位三つ以上。下位は魔術師の半数、中位は下位魔術師を除いた中で十分の九ほど、上位三つ以上扱えるのが魔術師の中で20人に一人、適性のみの人数なので、初級までしか含まれない者もいるため多い。全部上位以上となると伝説で残っている大賢者と呼ばれる三名しか知られていない。

 また適性が下位でも強力な魔術を扱えるものも多い。


 ちなみに私は火、水、風、土全部使える。ついでにいうと闇も使えるようです。適性が5つあるってのは珍しいかもしれない。


 私は知らなかったが、雷、石、氷、草、浮遊もそれぞれ条件が揃わないと成功しない。雷は風と水の適性。石は火と土の適性。氷は火と水の適性。草は風と土の適性。空中に浮いたりすることが出来る浮遊系は風と火。それぞれ魔術の中級以上が必要だったりするのだが……。


 本当に私は規格外のようだ。


「魔王様、礼儀作法のお時間でございます」


 そう言って入ってきたのはメイド服を来たサキュバスだ。魔王城の皆さんは、人間の一才の子供というのをキチンと認識出来ていないらしい。それもそうだろう、まともな「人間」がいないし、「人間」を正しく理解していない者ばかりなのだ。だからなのか、魔法書を読んで、詠唱して魔法を放っても疑問に思わない。礼儀作法をキチンと覚えるのも、言葉を喋るのも不思議に思わない。これは私にとって好都合だった。私は適性書と書かれた本を閉じ、サキュバスのヴァネッサに向き直る。


「はい、それではテーブルマナーについて今日はお勉強致します」

「はい」


 そういって彼女は私をしごく。こいつ……本当に人間の事わかってないな……。時には鞭を、時には手を使い叩いてくる。たまに胸とか揉んでくるのは本当に勘弁して欲しい。誰だよ、こいつをマナー講師だって言った奴。いや、確かにマナーの方は出来る悪魔なのだ、彼女は。

 おかげで結構身についたと思う。でもなんかたまに目がランランとしてきて息を荒げてくる。そういう時はいつも中級の魔法を破壊力を弱めて彼女に叩き込んであげる。はぁはぁと言ってありがとうございますぅと言っている姿はマナー講師に向いているなんて全く思わなくなってしまう。いきなり発情する以外は割と真面目だ。ずっとそうならいいのだが……。


「はぁ……はぁ……魔王様ァ……今日は水責めをおねがいしますぅ」


 ダメだこいつ。早く何とかしないと。

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