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17話

「って事で、ギルも宿屋に泊めて!」


 パシっと両手を付けて、拝むようにケルトに懇願する。ケルトは苦笑いをし、ウッドは溜息を吐いている。


「あ、あの俺迷惑だったら、その」

「ああ、いや。アルがこんな頼みをしてくるなんて今までなかったからな。ちょっと驚いただけだ。歓迎するよ」


 ギルが申し訳なさそうに断ろうとしていたが、ケルトは慌てて歓迎する。私はその様子に一安心する。ま、ケルトはとっっっても良い人だから大丈夫だと思ってたけどな。はっはっはっは……は?


 ニコニコ笑っていると、ウッドにガシッと頭を掴まれた。


「なんで無茶した……?」


 ドスの聞いた低い声で囁かれて肩が跳ねる。ひぃっ!!全部説明しちゃったんだった!!ご、ごめんなさい!!反省はしてるんです!本当です!


「そうだぞアル坊。今回も無事だったから良かったものを……反省してないようだな?」


 ケルトににっこり微笑まれる。その後ろにドス黒い何かが見えた気がして震え上がる。


「仲がいいんですね……えと、叔父さん何ですか」


 ギルの言葉にケルトの視線が外れる。ホッ……。


「えー……いや。まだアル坊と出会って3ヶ月位しか経ってねぇな。しかしこいつはどこに行っても突っ走るからな。心配が絶えん」


「えっ……じゃあ親戚とかでもないんですか?」

「そうだな。赤の他人だ」


 ギルはビックリして私を見る。なんでしょう?


「他人、なのに、随分と……」

「あー……まぁなんつーかほっとけねぇ感じするじゃん?こいつ」


 ケルトは左手で頭を掻きつつ、右手で私の頭をポンポンと撫でる。ウッドはまだ私を睨んできている。怖いです。でも、あの状況だと仕方ないとか思うでしょ?ね?ね?

 私が冷や汗を流している間、ケルトとギルはヒソヒソと会話している。


「あいつは自分の命を簡単に捨てそうでな。ギル、お前は止めるようにしてくんねぇか?」

「あーはい。なんとなくそれ分かります。俺を助ける時も躊躇しませんでしたし。分かりました見張りましょう」


 二人の会話は聞こえなかったが、ケルトとギルが満足気に握手している所を見ると、仲良くなったんだろう。これからギルが口酸っぱく説教を加えてくる役目になるなんて知る由もない私は呑気に笑うのだった。



 次の目的地は『食の街』アンドリィ。肉や香辛料、また紅茶が有名らしい。キター!『食の街』!!トリエステじゃほとんどありつけなかったからな!期待に胸が膨らむ!!


「アル、随分楽しみなんだな?」

「そりゃあもう!『食の街』トリエステの方じゃ色々あって食事出来なかったし!嗚呼もうしかも肉に香辛料、紅茶だって?楽しみすぎてやばいわ!」

「お、おう……」


 私のテンションの高さについていけず、若干引き気味のギル。塩と胡椒しかない今の状態からクラスアップ出来るなんて夢のまた夢でした!それに紅茶は前世の時も大好きだった。良く家で入れて飲んでたよ。


「そうだなぁ、香辛料はその街でしか手にできない奴もあるんで、俺も今から楽しみだ」


 そうケルトが付け足す。


「ターメリック、コリアンダー、クミン、カルダモン……まぁ色々だな」

「カレー作れそー……」

「え?カレー?なんだそれ」

「いえ、なんでもないです」


 ケルトが言っている香辛料でカレーが作れそうだ。ただし、味が一致してるとは限らないけどなー!だからなのか、異世界人はカレーを諦めてしまったのか?確かに、見た目と味を変えられてしまうと難しいだろうな……。ケルトはカレーを知らない様子だし。しかし!私は香辛料から作ったことのあるツワモノ!見た目に囚われず、舌で勝負してみせるさ!


 旅の間、私はカレーのスパイスと、その味を思い出すために時間を使った。


「ケルトさんって物知りですね!」


 ギルは嬉々としてケルトの話に食いついている。分かる、分かるぞぉその気持ち。私も聞いたことある話もしているが、話し方が上手なのか、飽きることはない。ギルが増えたことにより、荷馬車の中はまた少し狭くなる。ただでさえ狭いのになぁ。


「ウッドさんは全然喋らないんですね?」

「ぶふっ」

「ふっ」


 ギルのセリフにケルトと私は吹き出す。イラッとしたようで、ウッドは私たちを睨み付ける。ウッドは確かに寡黙。だけど、内心じゃ滅茶苦茶心配したりとかしてくれているのだ。話しかけないのは、人見知りだから。昔からの名残で、ケルトと親しくなってからじゃないと滅多に喋らない。とケルトが言っていた。私に対してウッドは大分打ち解け、説教もしてくれる仲だ。

獣耳で人見知りのおじさん……可愛い。笑ってしまう。


「ウッドさんも喋りましょう!声聞いてないんですけど!」


 ギルがウッドに詰め寄る。ウッドは心底困ったような顔をしており、ケルトと私は腹を抱えて笑った。ケルトと私はウッドに思いっきり殴られて悶絶した。それをオロオロしながらギルが見つめる。なんとも平和な道のりだった。



 道中困ったという程でもないが、ギルが地面で寝れないとの事だった。代わりにギルだけ荷馬車内で寝ることになった。


「あれ?でもギルって会ったとき地面で寝てたような」

「あれはもう意識が朦朧としてたからな」


 なるほど。フラフラの状態なら寝る事も可能ということか。でも旅の道中そんな状態にさせることが出来るはずもなく。私達は普段から薄い麻袋のようなものを気持ち程度敷いて寝ている。まぁ、私はソレに座っているが。ギルは旅慣れしていないから、その状態では厳しいそうだ。なんか、土の匂いがして落ち着かないんだと。

 やっぱりお坊ちゃんなのかな、ギル。


 途中、色んな街に立ち寄りつつ、『食の街』アンドリィに到着した。トリエステでは甘い香りがしていたが、アンドリィではスパイシーな香りが食欲をそそる。私がたまらず駆け出そうとするのを、ギルが襟首を掴んで止める。


「アル。走るな。はぐれるだろう。落ち着け。ったく普段のアルは落ち着いてるっていうのになんでそう落ち着かなくなってるんだ?食べ物か?食べたいのか?もうちょっと我慢しろよ。せめて宿屋が決まるまで単独行動ははぐれやすいから禁止だ」

「は、はい……」


 な、なんだろう。この保護者感……。私は借りてきた猫みたいに大人しくするしかない。襟首も掴まれているので、まさにそんな感じだ。でも、オーブルサーチで察知出来るんでそうそう見つからないって事もないんじゃないかな?そう考えていると、ギルに睨まれた。ひっ、す、すいません。大人しくしています。


「ガハハ!頼もしいな、ギルは」


 そういってケルトはなんだか嬉しそうだ。ウッドもウンウンと頷いている。えっ、そんなに私って問題児扱い?何かしたっけ?普段の行いはすこぶる良好だと思ってたんですけど。ああ、スパイスのいい香り。お腹すいてきた。早く食べたいなぁ。


 宿も決定し、ケルトとウッドは商売に。私とギルはブラブラ探索する事になった。この日のために、今は銀86枚!スパイス買いまくってカレー王に私はなる!あれって無性に食べたくなるんだよねー。キョロキョロしているとガッとギルに頭を掴まれる。


「あんまりキョロキョロし過ぎて迷子になっても知らんぞ。なんでそうはしゃいでるんだ。少しは落ち着かんかっ」


 お、お父さん……。ギルはお父さんです。


「ったく、ほら」


 そう言ってギルは手を差し出す。理解出来ずに首を傾げていると、はぁ、とギルはため息をつく。


「手、繋いだほうがいい。逸れなくてすむ」

「えー……」


 なにそれ、そんなに子供じゃないよ?いや、まぁ実際見た目は子供なんだけどさ。ちゃんと精神は成人してるんだよ?お手手つないで歩くとかどこの小学生ですかっ。いや、七歳なんだけどねっ。私が嫌がっていると、痺れを切らしてギルは私の手を取る。


「さ、行くぞ。気になるところがあったら言え。そっちの方に行くから」


 恥ずかしいですギルさん。子供扱いしすぎやしませんか……。お父さんって呼んだりましょうか?ギル。絶対嫌がりそうだなぁ……。10歳でお父さん言われるの嫌だろうなー。ちょっとからかいたくなる。


「ギル、お父さんみたいだね」

「誰がお父さんかぁっ!!」


 ビシッとチョップを食らう。ふっ。面白いなぁ。


「くだらん事言ってないで行くぞ。ほら」

「はいはい」

「はいは一回」

「は、はい……」


 うう、出会った時は無口な感じの子だと思ってたのに……。こんな保護者だったのか、ギル……。キャラ違いすぎだろ。ちくしょう!サバイバルでは私のほうが経験値は上なんだぞ!


 心の中で文句を言いつつ、ギルに手をつながれて仲良く買い物するのだった。


 宿屋はケルト、ウッドで一部屋。ギルと私で一部屋に分かれている。私達は買い物を済ませて部屋へ戻ってきていた。


「で、何作ってるんだ?アル」


 ギルがそう尋ねてくる。私は大量のスパイスを買い込み、宿屋でコンロとフライパンでカレーを調合中だった。玉ねぎ、コリアンダー、クミン、フェヌグリーク、とうがらし、こしょう、ターメリックメインはこんな感じだろう。

 香辛料は味と名前が変わっているなんてことはなかった。どうしてこの世界にカレーはないのだろう。まぁ、配合とか様々な種類を入れるから難しいとは思う。取り合えず、家でも配合したことあるカレーを作っている最中だ。

 これに成功したら、とろみを出すために小麦粉を入れよう。


「ん、郷土料理?」

「へーなんか難しそうだな」


 私がそう答えるとギルは興味深く眺めてくる。あ、カレーにはナンだよな。しかし、ナンは作ったことないから分かんないな。まぁ、お米も……この街じゃ見かけなかったなー。パンは、硬いしなー。まぁ、パンも浸して食べれば大丈夫かなー。それだと私の好みのとろみは付けない方が良いかな……。ううん……。テンション上がって作ってみたはいいけど、問題あるなー。ご飯が無いなんて……。カレーが完成した後に『あ、ご飯炊き忘れてた!』なんて絶望の言葉だよね。どうすっかな。スープカレーにするべき?あ、クレープ生地くらいなら作れるかも。甘さは排除すればなんとかなるんじゃね?ちょっと固形にして巻く感じで。

 ああ、いいかも。なんか食べたくなってきたかも。


 器に適当に材料投入。ちょっとゆるくなればいいかな。牛乳じゃなくても水でもいいかな……。薄く伸ばして焼く。完成。食べてみる。味は、ない。まぁ、うん。これでいいんだよ……多分。カレーが美味しければそれほど問題もなかろう。


 カレーの方もねっとりしたものになった。それを先ほどのクレープ生地(?)に付けて巻く。ちょっと味見。あ、うん。美味しいわカレー。天才じゃね?やべぇ、これたまに食べたくなる味だわ。外側がもっと美味しければイイんだけど……。ちょっと贅沢は言えないかな。カレーがこれだけ美味しく出来れば上等。これは量産するべき。むしろもっと広めるべき。そして世の中にもっとたくさんのカレーを!


「ん、美味しい。完成かな?」

「へー食べさせてよ」

「ああ、うん。……はい」


 ギルはずっと作業を見ていて興味深々だった。私的には美味しいと感じるけど、他の人はどうなんだろう。この街の料理を見て回っていたら、そこまで複雑にスパイスを混ぜているのは見かけなかった。混ぜても3種類程度だ。

 ギルはブラックフォード出身でスパイスにも慣れていないし、複雑な味にも慣れていないのではないだろうか……。ちょっと不安になりつつもギルになんちゃってカレー風クレープを差し出す。

 ドキドキしながらギルが料理に口を運ぶのを見守る。緊張するな……塩胡椒で味付けした肉なんて比ではない位だ。


「辛いっ……食べたことない味だな……でもなんかクセになりそうっていうか」

「それは、美味しいのか?美味しくないのか?」


 ギルの微妙な反応では、ちょっと分からない。


「ああ、美味しいよ。凄いなアル。なんでこんな料理知ってるんだ?」

「ああ、地元の……郷土料理なんだ。気に入って貰えて良かった」


 嘘は言っていない。正確にはインドだから違うんだけど。そもそも世界が違うからその世界の料理だから、地元って言えない事もない。


「でもちょっと濃いかな。アル、水くれ」

「了解」


 なるほど。濃いかー。私の舌では最高なんだけど。この世界の人たちは基本的に薄味だからな……。他の人に提供するならもう少し薄く伸ばしたほうが良いかも。そもそもお米とかナンとかが無い状態だからなー。確かにちょっと濃いかも。クレープじゃちょっと薄いし。あ、もうちょっと厚い生地にしたら良いんではないだろうか?

 そもそもカレーを付ける量を減らしても良いかも。じゃがいもと人参も入れたいな。


 コンコンと私達の部屋の扉が叩かれる。ギルが扉に出ていく。


「はい。あ、ケルトさん」

「よお。良い匂いが充満してるな。何してるんだ?」

「なんかアルが見たこともない料理をしてて……」

「へぇ!どれどれ……なんじゃこりゃ、食べれるのか?」


 その疑問も最もです。なんか茶色い物体Xなんて誰も食べたくないだろう。ギルが濃いと言っていたので、少し付ける量を減らしてケルトに手渡す。


「食べれますよー。この街で売ってるスパイスを調合させたんです」

「そうなのか。どれ……」


 おお……色んな街に行っているケルトの反応はどうだろうか。緊張する。

 食べた瞬間ケルトの顔色が変わる。


「アル……これどこで覚えた?」

「へ……い、家で」


 ケルトのキラリと光るその目に脅える。なんだなんだ。怖いんですけど。


「家……ねぇ……」


 ケルトは何やら考え込んでいる。そして、ポンと手を叩く。


「アル、これ量は作れるか?」

「え、まぁ……」

「日持ちは?」

「水入れずに、スパイス混ぜただけの状態なら結構持つと思うけど」

「よし、これ売るぞ。作ってくれ、報酬は出す」


 マジですかケルトさん。そりゃ、世の中にカレーが広まって嬉しいのは私だが。それに、ケルトには独自の商売のルートなんかもあるだろう。こんなに頼もしい商売もない。スパイスもこの街では安く手に入る。作り方も、複雑な調合さえやっていれば、後は野菜に付けてもいいし、水を足せばスープにも出来るし。まぁ、この街の人たちなら大いに活用してくれるだろう。


「了解です。あーじゃ、明日外で作ることにします。あんまりここで匂い充満させても迷惑なんで」

「分かった。宜しく頼む」


 いえいえ、こっちこそ沢山の人に売って欲しいものです。そうすればまた新しい配合のカレーが出てくるかもしれない。料理の幅も広がる。こんなに嬉しい事はない。



 私は次の日からカレーの調合をし出した。ギルはただ私を見ているだけなんだけど……。退屈じゃないのかな?


「なぁ……疑問に思ったんだが。その鞄って道具箱なのか?」


 道具箱、久しぶりに聞く響き。道具箱は好きなだけアイテムを入れておける便利空間だ。迷宮のアイテムで希に出現する大変高価な代物だ。私の場合は、そんな道具すら必要としていないからとても便利。

 ギルが疑問に思ったのも無理ないだろう。カバンからその大きさに似つかわない量のスパイスやら道具がホイホイ出てくるのだから。むしろ、道具箱という設定の方が便利なんじゃないだろうか。


「うん、そうだよ」

「これって高いんじゃないか?」

「あー……うん。これは私の先祖に代々受け継がれてきた代物なんだ」

「そうなのか。いいな、便利だし」


 うん。嘘ですけどね。しかし上手い具合の言い訳が思いつかない。まぁギルが素直に信じてくれたから良いか。だらだら会話をしながらスパイスを混ぜて行く。調合しただけのスパイスって確かガラムマサラって名前だったっけ……?なんかそんな名前のやつあったなー。正確には覚えてないけど。

 スパイスは順調に仕上がっていった。完成したものは、少しだけ水で練って味を確かめたりしたが、問題もなかった。大量に買ったスパイスはすべて調合してカレー粉にさせた。家庭のお風呂位は出来たと思う。ってか私スパイス買い込み過ぎ。あの時は色んなスパイスがあってテンション上がってたからなぁ。それに、量を買ったらその分安くしてくれたりとかしてくれたから……つい。これで売れてくれたら問題ないだろう。バケツ一杯分位は自分用に残しておいて、後はケルトに任せるかー。


 すべて調合を終える頃には日が暮れていた。


「ふぅ、終わりー。ごめんギル退屈だったんじゃない?」

「いや、なんか見たことないものだったから意外に面白かったぞ?」


 まぁ調合している間ずっと見つめてきてたよね。それでもずっと同じ作業を飽きもせずに見られるその精神力は凄いと思う。


 私はケルトに大量のカレー粉を渡して丸投げしておいた。きっとケルトならやってくれる。名前は『カレー』って事も伝えておいた。これで問題なくカレーが伝わってくれれば良いんだが。そういえば調合の比率も教えないと広まらないよな。まぁ、そこんトコロはカレーが有名になって調合を知りたい人に教えればいいだろう。その時は気軽にそんな事を考えていた。

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