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11話

主人公視点→ウッドロウ視点と変わっていきます。ご注意ください。

 つっっっっっっっっかれた!!!!!!!!!!

 100数名相手するなんて馬鹿じゃないの!馬鹿じゃないの!

 結局あの日はヘンリーの家に帰った瞬間倒れるように寝た。まるまる5日眠っていたみたいで、起きた時ヘンリーは泣いて心配してくれた。起きたは良いものの、まだかなりダルイ。

 枯渇する寸前だったんじゃないだろうか?もうギリギリだったんだなー。しかし魔力足りて良かったよ。あれで途中で倒れてたらハデな演出が台無しだ。

 ヘンリーに街の様子を聞くと、ビックリするくらい平和になったそうな。警備兵が何十人が行方不明で、ちょっとゴタゴタしているらしいが、特に大きな事件は起こっていないらしい。『リーザック』達は違う街にでも引っ越したんだろうと噂になっている。


「ヘンリー……食材を、うわぁあああ!起きてる!」


 入って来たのはハゲのイレデデルだった。私が起きていることに滅茶苦茶ビックリしている。そりゃああの光景見てるからね。でも私に悪意は向いていない様子。


「どうしたのイレデデル?」


 ヘンリーは可愛く小首を傾げている。


「いや?ずっと寝てたから、びっくりしただけ……はぁ……」


 イレデデルは完全に顔色を悪くさせていた。私がそんな彼の様子を窺っていたので、ヘンリーは説明に入る。イレデデルは元々幼馴染で、昔は良く遊んでくれていたようだ。それで、成長とともに見た目が凶悪化したため、『リーザック』に目を付けられた。それからはたまにヘンリーに強く当たるようになったらしい。2日前に突然やってきて、『リーザック』をやめて、土下座をしに来たようだ。許されるつもりもなかったらしいが、ヘンリーはあっさり許したらしい。

 それで、毎日贖罪に食材を持ってくるようになって(ギャグではない)今に至っているという。


「良かったね、ヘンリー」

「うん、昔からお兄ちゃんみたいだったんだ。嫌われてると思ってたけど違うって分かって良かった!」


 そう言ってヘンリーはへへへと笑った。癒されるな。ご飯作ってあげるね、と言ってヘンリーは台所に向かう。


「なぁ……あんたヘンリーと結婚する気あるの?」


 こそこそとイレデデルがそう尋ねてくる。意味が分からないよ。


「……は?なんだそりゃ。ないよ」

「そ、そうか……」


 イレデデルはホッと胸を撫でおろした。正直こんな化け物にヘンリーは任せられない。制限が掛かっているので、口には出来ないけれど。恐らく残された14名も同じ事を思うはずだ。


「まぁまぁ、別に何もしなけりゃ取って食いやしないから安心して」

「……あ、ああ」


 イレデデルはどこかビクビクして怯えきっている。仕方ないよね。それにしても大分魔法使いまくったからな。もう出た方が良さそうだ。何故かって?……ラインハルトが来そうだからな。ラインハルトは恐らく良い奴なんだとは思う。思うんだが……魔王だと認識して接してくるのは……。もうちょっと自由にしたいし。

 ああ、さらば食材。さらば調味料。ほとぼりが冷めたらまた来よう。その時には、もっと素晴らしい街になっている事を願う。私が頑張ってゴミ掃除したんだ。こっからは君たちが頑張る番だ。


「じゃあ、イレデデル。ヘンリーの事を頼むよ」

「え?……あ、ああ……え?」

「じゃあね。またいつか会おう」




 闇を伝い、トンと私は街の外に降り立つ。ヘンリーに挨拶も無しに出て行ったのは気が引ける。まぁ保護者のイレデデルがいるし大丈夫だろう。大丈夫だよね?……うーん……私は魔王!好き勝手するのだ!

 罪悪感で胸が一杯になるのを振り払いつつ、周りを見渡すと、ちょっと離れた場所に商人2人の荷車があった。

 取り合えず道を聞こう。


「すみません。このトリエステに近くて大きな街って言ったらどこですか?」

「ああ?……それなら西にあるブラックフォードだな。今向かってる途中さ」

「そうなんですか?良かったら護衛とかいかがでしょう?」


 その言葉に商人は吹き出して笑った。


「ガハハハ!面白い事言うな坊主!そんな弱そうなのに!冗談が上手いな!」

「むむ……本気なのに」


 そう言うと商人はさらに笑い転げる。


「おい、小僧。護衛は俺だ。お前は必要ない」


 もう一人の獣耳をしている可愛らしいのに渋いおじ様が私に進言する。


「ガハハ……ははは……いや良いよ。退屈しなさそうだ坊主ついてくるか?」

「ホント!!おじさん有難う!!」

「おい、ケルト」

「いーっていーってガキの一人や二人変わんねぇよ。第一お前が飯を大量に喰うからそっちの方が問題あるんだよな」

「ぐぬぬぅ……」


 ふむ?このおじさん二人は随分と親しげだな。昔からの付き合いって感じだ。それにしても滅茶苦茶ツイてる。今まさに彼らは出発する所だし。目的の街にも行ける。商人だから調味料も食料も積んでるはず!この運の良さが街の中で発揮されて欲しかったもんだ。


「坊主……ってのもアレだし、名前は?」

「アルだよ。ケルトおじさんでいい?」

「おうさ!宜しくなアル坊。こいつは護衛で俺の幼馴染のウッドロウだウッドって呼んでやれ」

「分かった。宜しくウッドおじ様!」

「ガハハハ!おじ様!!ガハハハハ!柄じゃねぇなぁ?ウッドォ?」


 獣耳のウッドは複雑そうに顔を歪めた。獣の耳がピクピク動いてるのが可愛い。逆にケルトは実に愉快そうだ。楽しい旅になりそうだった。



 トリエステが『食の街』と言われるなら、ブラックフォードは『道具の街』と言われているそうだ。様々な便利な道具を排出し、発展しているそうだ。その恵みは異世界人が齎したものである。

 勿論、ブラックフォードで作られる以外のところでも似たようなモノは作れるらしいが、ブラックフォードの品質の足元にも及ばないそうだ。……ブラックフォードには優秀な職人が集まっているのが要因らしい。

 また、優秀な弟子も募集しているそうな。


 ケルトは話をするのが好きらしく、話をしてくる。話題がとぎれることはない。ブラックフォードに行くまで二ヶ月はかかるそうだ。途中それなりに大きい街もあるので、そこでも商売をして何日か滞在するので、実際にはもっと時間が掛かると言っていた。トリエステから近いって条件出してるのになんでそんな遠い街推薦するかな。まぁブラックフォードは話を聞けば聞くほど興味深いので、もう是非行ってみたい気持ちになっているが。

 下水道の突貫工事を行ったのもブラックフォードかららしい。トリエステも結構な大きさだったが、ブラックフォードはそれの何倍もあるらしい。そもそもブラックフォードは国らしい。旅人には『道具の街』で通ってるようだが。街と国じゃ大きさが全然違うのも頷ける。

 ……いやいや、誰が別の国に連れてけって言ったよ?街単位の話してたよね?さっきまで。まぁいいけどさ。

 他にも『服の街』、『ガラスの街』、『バラの街』もあるらしい。トリエステ以外の『食の街』もあるらしい。行ってみたいな。一回行ったら闇で渡れるんだよね。これは行くべき。

 『服の街』じゃあ平民でも貴族のドレスを気軽に着れたり、奇抜な服装が許されたり……。

 『ガラスの街』には様々な色のガラスを使ったステンドグラスが街に溢れて宝石のようにキラキラしているのだとか。

 『バラの街』は様々な花が咲き誇っており、目や鼻を楽しませてくれるのだとか。バラと言われているが、種類は様々。「じゃあ花の街って呼べば?」と聞くと「花街と間違えられるから却下された」らしい。

 聞けば聞くほど様々な街に行きたくなってくる。ケルトは話が上手い。話しに惹かれて興味が出てくる。私がワクワクしながら聞いているので、ケルトの方もつい熱を入れて話してしまうそうだ。


 ケルトとウッドはブラックフォード出身らしい。ブラックフォードの中でもかなりの田舎だったらしいのだが、他の田舎に比べるとかなり良い環境らしい。ウッドはトラの獣人で、村でいじめられているのをケルトに助けて貰ったのだとか。あるんだね、種族の違う者に対するいじめって。

 大きくなってからは獣人の方が人より何倍も身体能力がある為、いじめられなくなったが、今でも友人なのだとか。いいね、アツい話だね。男同士の友情って素晴らしいね。ウッドは基本的に無口で奥手な為、現在の妻と婚姻させるまで相当ケルトは苦心したようだ。この大変だった話をしようとするとウッドは凄い形相で止めにかかるので聞かせてくれない。まぁ、いい年して顔が真っ赤になるくらいは恥ずかしい思い出なのだろう。……聞きたいな。



…ウッドロウ視点…


 見た瞬間厄介なものが来たと思った。礼儀を弁えたその態度と身のこなし、そしてその整った顔立ち。完全に貴族のガキだった。ヘラヘラ笑って生ぬるい生活ばかりした馬鹿者だと思った。姿はボロいし、お金もほとんど持っていないという。……厄介だった。親が排斥されたりでもしたのだろう。行くあてもなくフラフラとしているようだったし。全くもってお荷物だった。ケルトはお人好しだ。そうと分かってて受け入れた。敢えて遠い道のりを選択した。他国に逃亡の手伝いでもする気だ。

 こういう奴って暗殺者が来たりもするのに……俺に守ってやれってか。……ああくそ。分かってる、俺はあんたに借りがあるんだ。文句は言わねぇ。


「食費って凄いかかるんだって?」

「そうなんだよ。ウッドの野郎大量に喰うんだ。その分働いて貰うがな」


 ああ、すまん。本当にすまん。なんせ燃費が悪いんだ。力は強いがすぐに腹が減るんだ。……んな目で見られてもどうしようもないだろう。


「そう……あ、ちょっと待っててくれる?」

「あ、おい。どこ行くんだ?トイレか?」

「そんなとこー!」


 荷馬車を降りてアルという少年は森に駆けていく。


「あいつ、森で迷子になるんじゃ……」

「あー……ありえそうだが」


 俺の心配にケルトも不安になった様子だ。五分経っても戻って来ないので、俺は探しに行くことにした。全くこれだから世間知らずのガキは困るんだ。「すまんな、頼む」といってケルトは謝ってくる。いや、お前がそういう奴だってのは知ってるさ。だから俺たちは友人にもなれたんだ。それを謝られても困るだけだぞ。


 俺が森に丁度足を踏み入れた時に、少し横の茂みからガサガサとアルが出てきた。良かった。探す手間が省けたようだ。と、胸を撫で下ろしていると。

 アルは茂みからとんでもないモノを引っ張ってきた。……野生の熊の死体だった。


「食料!食料取ってきたよ~!」


 頬は血が少し付いて汚れていた。さもなんでも無い事のように少年は無邪気に笑っている。


「やー連れてってくれるお礼も兼ねてます。じゃあちょっと皮を剥ぎますね」


 ちょ、ちょっとまて……。アルが手馴れた様子で熊の皮を剥いでいく。アルはいつものヘラヘラした顔で淡々と作業をこなす。いやいやいや、ちょっと待てよ食料は確かに有難い。有難いんだが。


「あれ、もしかして不快ですか?そうですよねウッドさんトラですもんね……」


 いやいやいやいや。アルは明後日の方向を気にしている。そういう事は思ってない。そもそも獣と獣人は全然違うモノだ。流石にトラは抵抗があるかもしれんが。


「アル坊、お前それ一人で狩ってきたのか?」


 ケルトがそうアルに尋ねる。そうだ、そういう問題だよ。俺でも野生の熊なんて厳しいのに。ましてやちょっとトイレーみたいな感覚で狩れるもんでもない。そしてなんて言っても5分という短さだ。一瞬で狙いを定めて殺してしまわないと、ここまで引きずって来れない。まして軟弱で折れそうな腕をしているのにどこにそんな力があるんだ?


「そうだよ?」


 アルはきょとんとしている。それ以外何があるんだ?とすら聞いてきそうだ。


「アル坊、お前さん貴族の生まれじゃあないのか?」

「ふっ、なんかそれ前にも言われたなぁ」


 くくく、と喉でアルは笑う。本当に楽しそうだ。


「一応、違うかな。まぁ複雑な『事情』ってのはあるけど」


 一応、とアルは言っているので、貴族と関わりが完全にないかと言えば否定するのだろう。だが、決して貴族のような育てられ方はされていまい。じゃないと熊なんて狩ってこれない。まぁ詳しく説明をしてもらうつもりもないが。


「なんで、皆そんな貴族扱いすんの……?」


 ううん、とアルは悩んでいる。そのまま熊の処理を終えて荷馬車に積んでいく。


「基本は顔だな。貴族ってのは顔で選んで結婚することもあるから、その子供も必然的に綺麗な顔になるんだ」


 へ、へ~とアルは笑っているが、顔が引き攣っている。


「そんな見目麗しい感じですかね……」


 全く分かっていないと言うようにアルは自分の頬をムニムニ引っ張っている。そのおかげか、頬の血は拭われたようだった。


「勿論、身のこなしも貴族っぽいんだがな。将来アル坊は立派な女たらしになれると思うぞ」


 その言葉にピシリと完全に固まった。

 顔を若干青ざめさせている。が、俺たち二人は意味が分からず顔を見合わす。男なら女にモテるのは歓迎するべき事だろうに、何かトラウマでもあるのだろうか。というか、七歳で女にトラウマが残る環境ってどんなんだよ。


「……悪癖は本気で治すべきだな」


 と呟いていた。良く解らないが心当たりがあるらしい。




 その後からは、俺たちはアルの認識を改めた。決して生ぬるい環境で育った甘ちゃんではなかった。盗賊の集団が来ても機敏に対応出来るし、度々色々な動物を狩って来てくれる。おかげで食費がかなり浮いた。アルが剣以外何も持っていないのは、他の人間に寄生して生きてきたという訳ではなかった。その度、獲物を狩って食べているので荷物など必要なかったのだ。お金もこんな生活続けていたら必要もないだろう。

 剣しか持っていないのではない。剣だけで十分なのだ。なんとも心強いものだった。


 それと、野宿で寝るのも全く抵抗がないようだ。それどころか、アルは座って寝る。完全に慣れている。野生児だった。


 だが、たまに様子が可笑しい夜もあった。


「……っ!」


 ビクリと顔を上げてアルは跳ね起きた。俺は火の番をして、周りに注意を払っていたのでたまたまその日起きていた。顔面蒼白で冷や汗を流している。ガクガクと震え、顔には絶望が張り付いていた。しばらく呆然としていたが、落ち着いてきて状況を把握したようで、ゆっくりと俺の方に向き、目が合う。


「あーえと、おはよう?」


 へら、と笑うのは何時もの呑気な顔だった。顔には血がめぐり、何時ものような顔に戻っている。


「……悪い夢でも見たのか」

「……そんなとこ」


 はぁと憂いを帯びた溜息を吐く。気まずそうに目線を逸らし、空を睨んでいる。こんな小さな子供が一人で旅をする時点で何か複雑な事情があるのは容易に想像できた。そんな子供が親しい者を作らず、誰にもほとんど頼ることなどない。それはどんな厳しい状況なのだろう。

 俺が七歳の時なんて両親はしっかりいたし、いじめられこそすれ、ケルトという友人もいた。はっきり言ってアルに比べて俺はなんの苦労もしていない。あんな風に絶望に染まる悪夢なんて見たこともない。それなのにアルは呑気といって良い程明るかった。見た瞬間なんの苦労もしてない貴族の坊ちゃんに見える位には。

 アルの過去なんて知らない。だが泣きたくなるほど辛い出来事があっただろう事は分かる。まだ七歳。七歳なのにアルはその悪夢で魘されたとしても叫びもしない。涙を流す事もしない。俺なんて膝を擦りむいただけで泣いてたってのに……。強かった。アルは強い。だからこその孤独だった。失礼な第一印象を謝ってしまいたくなる位しっかりしていた。


「すまない」

「は?え?」


 俺の突然の謝罪に大いに困惑していたが、その後ニッと笑って宣言する。


「おお、私の寛大な心で許してやろう!」


 上から目線の大きな物言いに思わず笑ってしまった。同時にもの悲しくなる。この子は我慢をし過ぎている。心を許せる人間が存在していないのだ。それはなんて悲しいことなんだろう。俺の謝罪の意味なんて分からないだろう。だが、アルは笑う。どんなモノでも「許す」と笑う。


 俺はいつか……いつかこの少年の傷を癒せる者が現れますようにと願う事しか出来ない。

主人公、何か悪夢に悩まされてます。

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