10話
主人公視点→リーザック視点→とある男の視点とコロコロ変わります。
また、残酷な表現があります。ご注意下さい。
その日街に戦慄が走った。『リーザック』メンバーの男三名が路地裏でバラバラにされていたのだ。どれが誰の足なんて分からない位酷い状況。顔だけは綺麗に並べられており、『リーザック』メンバーの人間であることは分かった。誰が一番可哀想って死体を処理する人間だ。
嗚咽混じりで涙目、実際吐く奴もいた。
「可哀想に……」
私はその姿にちょっと同情してしまう。死体はちゃんと焼却してあげたら良かったかなー?でもなぁちゃんと死体を残さないと『リーザック』に害なす存在がいるって事が知れ渡らないしな。
「いやいや、知らないのか坊主?あの死体って『リーザック』っていうメンバーでさ、かなり悪いことしてるみたいなんだぜ?正直死んでくれた方が街は安全だ。誰だか知らんがよくやったと思う」
おや、やっぱりそう思います?私もそう思いますよ!気が合いますねおっさん!でも私的に可哀想なのは死体処理班なんだよね……。ああ、また吐いてる……。うう、出来れば代わってあげたい。
「おっと、今の話は内緒な?あいつらに知られたらタダじゃすまねぇし」
そう言っておっさんは人ごみに紛れる。この街のおっさん連中は他人に話しかけるのが好きなのか?噂好きのおばちゃんとかそういう感じ?でも憎めない感じだな。なんかさりげなく注意喚起してくれてるし。『リーザック』は悪い奴だから悪口いうのも気を付けろよ!……みたいな。
離れて様子を見ていたヘンリーが不安気に尋ねてくる。
「ね、ねぇ……どうだった?」
「ああ、なんか『リーザック』メンバーが三人殺されたらしい」
「え……!!」
ヘンリーが驚愕の色を浮かべる。
「倒した人達ってとっても強いんだね……『リーザック』倒しちゃうなんて」
『達』ではなく単騎突入したんだけど。……まぁ普通に考えて三人殺す為には一人なんて無謀なことやる奴いないんだけどな。戦いは基本一対一じゃないとどうしても不利になるだろう。それをヘンリーも分かっているのか、倒した人は多数だと考えたのだろう。間違っちゃいない。
私が規格外なだけだ。
「今日はなんか物騒だし、家で大人しくしてようか」
「う、うん。そうしよう……」
私の提案はヘンリーに迷いなく受け止められる。大人しく家にいてね、街の大掃除するんだから。
…リーザック視点…
「どうなっている!!!」
ドンッと力一杯机を殴る。その衝撃でコップが床に転がってしまった。『リーザック』のリーダーであるリーザックは忌々しくそのコップを眺める。これまで、悪行の限りを尽くし、力で押さえつけて、逆らうものなんて出なかった。
逆らったとしても、力ですぐにねじ伏せる事が可能だった。何故ならリーザック含め主要メンバーは揃ってBランク。ドラゴンの討伐にだって行ったことのある猛者達だった。その『リーザック』達に逆らうのがどういう意味か分からない者なんていないだろう。
「Sランク級の冒険者が入ってきているのか?」
「いえ……門の者もそんな人間入って来ていないと……」
「じゃあどういう事なんだ!!!」
ドンッとまた机を叩く。答えた魔術師風の男はそんな様子は慣れているのか、平然としている。確かにSランク級は入ってきていない。あいつらはとても目立つのだ。それに、街の人間なら顔を知らないはずはない。入ってきたらお祭り騒ぎにもなるはずだ。間違えることはない。けれど、どうしようもない焦燥感がリーザックを襲う。
「はぁ、そんな怒らないでくださいよ。殺された奴らだってCランクで大して強くもないですし」
「『リーザック』に楯突いたんだ!ただで済むなんて思っちゃいないだろう!!!」
ドンッとまた机を叩く。怒り任せに叩いて、机にヒビが入った。
「あー机が……」
「机なんてどうでもいいだろう!!!」
ドンドンと叩いていたらついに机は崩壊した。魔術師ははぁ、と溜息をついてまた買い足さねばならない机に思いを馳せる。リーザックは得体の知れないモノに恐怖を覚える。リーザックは勘が鋭い。これまで勘だけで生き抜いてきたと言っても過言ではない位だった。その自分がどうしようもなくマズイと感じるのだ。これは何かとんでもないモノ仕業に違いなかった。正直逃げた方が最善だという考えが浮かんだ。が、首を横に振って否定した。せっかくここまで大きくしたんだ、他の街で大きく出来るかどうかも怪しい。
他の街にSランクは良くウロつく。あっちは強い魔物がいる為だ。だからあまり来ないこちらの街を選んだのだ。
全員でかかればSランク一人ならなんとかなるくらい大きく成長しているのだ。数も多いが、何より質もなかなかいい者達を揃えているのだ。今更手放すなんて出来はしない。そんな事をイライラしながら考えていると、扉からノックの音がした。
ゾッとした。自分の勘は良く当たる。今までそうやって生きてきた。マズイモノが来た。直感がそう告げる。
「こんにちはーえーとここが『リーザック』アジト?」
ひょっこり顔を出してきたのはまだ十歳にも満たない子供だった。自分の勘は外れたのだろうか、と思ってしまう位には緊張感の感じられない子供だった。が、ここは『リーザック』の本拠地。そうやすやすと子供が侵入できる訳がない。
「何しに来た……ガキ」
「やっぱこういう形でやった方がてっとり早いと思ってさ。死体処理を他人に任せるのを見てるのはちょっと罪悪感が出てさぁ。力ずくの方がそっちと同じでわかり易いでしょ?」
ニコニコ笑っている様はとても子供らしい幼い顔だが、内容は死体やら力ずくやら物騒だった。
《裏の庭にメンバー全員集めてよ、リーザック》
その瞬間リーザックは死を覚悟した。
…とある男視点…
リーザックからの強制招集で裏の庭がごった返している。メンバー全員が集められたらしい。そんな目立つことをすれば、流石に警備兵も気がつく。こんな全員呼び出すことなんて今までなかった。ざわざわとしていて皆落ち着かない様子だった。
どいつもこいつも悪人面ばかり。まぁ、俺も物凄い悪人面の上にガタイも凄い。だからメンバーに入れられてしまったが不本意ではあった。が、やつらに逆らう事は死に直結しているのだ。メンバーとして入って、ある程度適当に過ごす。幼馴染には怯えられるようになってしまった。
何故なら彼女を殴ってしまったから。もう嫌われたに違いない。彼女の事は妹のように可愛いと思っていた。殴る事を止められなかった自分が情けない。彼女の両親が殺されたと知った時、もうメンバーから抜けようとも思った時もある。けれど、逆にある程度痛めつけ、それでアイツらが満足するなら、彼女が死ぬ事がなければ、それでいい。俺はこちら側から彼女を守ろう。そう誓った。
ギルド内に新顔が来たとき、彼女に代わる良い獲物だと思った。なぜなら少年の髪は彼女と同じだったから。少年がそのせいで傷つくのは気が引けた。が、今までも悪事を働いてきたんだ。今更だった。
そいつに絡んでいたら、驚いた事に彼女が庇ってきた。何て事するんだ。せっかくの獲物なのに。あんたの為なのに。ケローカスが腕を振り払い、彼女を横に払う。彼女は軽くて、思い切り腰を打ち付けて苦痛の声を上げた。……ああ、許してくれなんて思わないさ。このままの状態でいいんだよ。気を取り直して少年の方を向くと、少年は闘志を燃やしていた。
隙なくこちらを窺い、やる気十分だった。……こいつなら彼女を守ってくれるんじゃないかと思った。俺よりも何歳も年下の子供に何を期待しているんだと思うかもしれない。でも、少年のその毅然と悪に立ち向かう姿はそう思うに相応しい。子供が大きな悪の集団に楯突くなんて馬鹿のする事だ。ただ、少年の目には死の恐怖は映らない。目の前の悪を許せない。そういう目だ。
ただの正義感で手を出すと痛い目を見るぞ、少年。ああ、でも。あんたは迷いがないようだ。止めても止まらないのだろう。
案の定、少年は彼女を守るように次に日ギルドに来ていた。良かった、守ってくれる人が出来たんだな。こっちはこっちで何とかなると思う。なんだか知らないが、昨日からトーデムとケローカスが帰って来ない。
あいつらは彼女に目をつけてた筆頭で、いなくなって正直ホッとした。これで俺が彼女に関わらなければ良いだけだ。俺は、受付に絡んでる仲間を宥めて外に出ることにした。可哀想に、彼も狙われるんだろう。何も出来ないのが悔しい。誰か、誰か助けてくれ。誰でもいい。この街に蔓延る悪を叩きのめして欲しい。
そんな物語みたいなこと起こらないと思っていた。
「今日は集まってくれ、ご苦労」
リーダーであるリーザックが皆に大きな声で話しかける。ざわついていた者たちが一時的にでも静かになる。凄いカリスマ性。そんなものを無駄な方向にばかり活かす。
「今日はとある人物の依頼で集まって貰った」
そう言ってリーザックの横からひょっこり現れたのは……あの少年だった。意味が分からなかった。何故、あの少年が?リーザックの仲間だったのか?そうだとしたらマズイ。彼女が危険な目に遭ってしまうじゃないか!なんてこった。何呑気に守ってくれなんて思ってたんだ!
ざわざわと辺りは騒めく。少年は無邪気に笑っているのだ、どう考えても場違い。
「ふっ、今日は悪人退治にきたんだぁ!」
ばっと手を広げ、ニパッと笑う。あまりに突拍子のない言葉に皆あっけにとられる。
「どういう事だ!」「説明しろ!」「引っ込んでろガキ!」
などと暴言が行き交うようになり、辺りは騒然とした。あの少年は何を考えているんだ?悪人退治だなんてそんなガキの戯言みたいな事言って……。
あの子、このままじゃ殺されるんじゃ?と思って隣のリーザックを見ても、微動だにしていない。どう考えても様子が変だ。こんなの悪の権化と言われるリーザックが黙っているはずがないのに。
《みぃんな私の言う事、ぜぇんぶ聞いてもらうよ》
「取り合えず黙ってね、そんで動かないで」
その言葉で急にシンと辺りが静まった。もう虫の声しか聞こえない。どう考えても異常。体に走る気持ち悪い感覚。なんだ?動けない、気持ち悪い。周りに視線を動かしてみると、皆同じ状況な事が分かった。
冷や汗を流しても動く事は出来ない。なんだ、これは?意味が分からない。意味が分からない。少年はその状態に満足したのか、腕を組んでうんうんと首を縦に振っている。その行動はとても幼い。なのにこの場の支配をしているのは完全にあの少年だった。普通だったらそんな馬鹿なと返したかも知れない。だが、あの少年はなんだか不気味で、変な威圧感を感じる。
「はーいじゃあ、人殺しした事ある人はコッチー、ない人はコッチに移動してね!」
少年は無邪気に言い放つ。身体は勝手に動き出し、その指示に従う。俺は『殺していない』側にもくもくと向かう。
「うへー70人位いそうだねー。まぁ遊ぶのは後でいっか。次はー人殺しの計画を立てたり、手伝った事がある者はコッチー、ない者はコッチに来てね」
俺はその少年の傍に行くことになった。少年の下に集まったのは10人程度だった。
「じゃあ、手伝いをした人から救ってあげるね?一人づつ順番に歩いてきてね」
50人ほどが列をなして順番に少年の下に向かう。全員意味が分からなかっただろう。まるで隊列を組んだように勝手に体が動くのだ。自分の体ではない感覚に取り乱していた。
「じゃ、君からだね」
少年はフォンフォンと回る物体を作り、ソコに一人を誘導する。その男に少年は耳元で何か囁き、そいつが頷いたら、そいつを物体に誘導した。そこに踏み入れた瞬間細切れにされる。皆が息を呑んだ。一瞬にして人が肉の塊になってしまったのだ。少年は顔色も変えずにただ淡々と人をソコに誘導させている。まるで悪い夢でも見ているようだ。次々入る人間に後ろにいる奴らの顔色はどんどん悪くなっていく。
悪い冗談だ。夢なら覚めてくれ。なんだこれ?夢にしたって滑稽すぎる。皆が自分の足で死にに行くのだ。最後一人なんて涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔のままその物体に歩いて行った。5人ほど入らずに済んだ者も顔色が悪い。何故入って行かなかったのか分からないが、何らかの選定基準があるのか。
「ほい終了。人数多いと疲れちゃうなー流石に。次は殺した奴ね」
先に殺した側に入っていた奴らはビクリと震えた。得体の知れないその少年に完全に支配されている。実際は震えることすらままならないのだが。
「二人一組になって殺し合って」
そう少年が宣言すると、全員殺し合いを始めた。顔は驚愕と、恐怖に染めたまま。辺りは血で真っ赤に染まってしまっている。立っているのは30人ほどになっていた。
「ヒール」
その30人に少年は丁寧に回復させていく。若干彼らに希望の光が差し込む。が。
「はい、また二人一組で殺し合ってね」
また彼らは仲間と対峙し、殺しあった。斬り合い、魔法を打つ。その間少年は何が楽しいのか、ずっとニコニコしていた。―――――狂っていやがる。
あんな奴を彼女の傍になんて思ってたのが馬鹿みたいだった。あいつは人の形をした化け物だ。
どう考えても正気じゃない。戦い、相打ちになったりして、結局10名程になる。中にはリーザックもいた。
「疲れた……」
少年はふぅと息を吐いている。
「もうちょっと人数減らしてからにするんだったな……疲れて楽しむ余裕もない……ヒール」
また残った10名を回復させている。
「すごいね君バサルでしょ?強いんだね」
少年は赤茶色の髪の男に話しかけていた。何やら知っている様子だ。
「卸し金ってとっても素敵な道具だよね。さあ、バサルを削ってやって!」
残りの5人がその男を持ち上げて少年が作り出した道具を4人で支える。そして少年が宣言した通り体を削り出した。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
赤茶色の断末魔が聞こえる。だんだんと自分が削られていく激痛が走っているのだ。正気を保っている方が難しい。ガンガンと削られていき、男がピクリとも動かなくなった後。
「次は君」
そう言って順番に削っていく。俺まで狂っちまいそうだ。なんだこの光景は。夢の方がまだマシなものを見る。色んな人間の断末魔が聞こえる。最終的にリーザックと男2人が残っていた。
「じゃあ横になって、顔だけは自由に動かしていいよ、喋ってもいい」
「どうなってやがる!」「化け物!」「なんだ!なんなんだよぉ!」
三人は口々に喋り出した。今って夢なんじゃなかろうか。彼らはリーザック達。こんな赤ん坊みたいにどうにも出来ないなんてありえない。夢だな、夢だ。ありえない。俺含め、殺していない、手助けしていない者たちはずっとその光景を眺めさせられた。
ありえない光景を前に目を逸らす事もままならない。
最後の3名はちょっとずつ場所を変えてザクザクと剣で刺殺していた。そして、3人とも動かなくなった後、夢みたいに血や死体がすべて燃え尽きて無くなった。血に染まった少年も綺麗に元通り。今残っている15人は全員思ったことだろう。「やっぱりこれは夢なんだ」と。
ふと、少年はこちらに顔を向ける。俺を目があった気がして、心臓が嫌な音を立てる。
「ね、あなたはイレデデル?」
「はい」
ビックリする。俺に話しかけてきた。知ってるのか。彼女に話でも聞いたのか?相変わらずバクバクと心臓が変な音を立てて冷や汗が出る。
「ヘンリーとはどういう関係?」
「幼馴染でした」
「……そう」
少年は疲れているのか、力なくそう答えた。
「ヘンリーの事守りたい?」
「守りたい」
「そう」
少年は嬉しそうに微笑む。そして、他の14人にも質問をしていく。ある者は復讐のために、ある者は脅されて、ある者は逆らうのが怖くて。皆それぞれ『リーザック』を快く思ってない者達だった。
「もう奴らは倒したし、これからは善行に努めなさい」
少年の言葉に全員が縦に頭を振る。ただ、今までのように強制的に動かされてはいない。皆自分の意思で肯定していた。どことなく大人っぽい喋り方をする少年は、こちらの方が素の様子っぽかった。
威圧感もまるで感じず、さっきまでの狂っている感じはまるでない。どこまでも理知的で、大人びている。そしてどこか俺達を慈しむような雰囲気さえある。
見た目は完全に子供なのに、大人っぽい振る舞いがどこか板に付いている。
「ふっ、『命令』しなくても君たちなら大丈夫そうだね」
ふんわりと少年は笑った。どこまでも優しげで、穏やかだった。本当にさっきまでの悪夢が嘘のように。欠片も『狂気』は残されていない。
『私の事は誰にも言わないように、探ろうともしないように』
「まぁこれだけだな。じゃあ解散。頑張ってね」
そう言って少年は目の前から溶けるように消えた。
大量の人間を意のままの操るその姿は完全に魔王です。本当にありがとうございました。




