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第8章・conclusion

カット版最終章です。


蝗害が去って数日後、人々はようやく元の暮らしに戻りつつあった。田畑などはもちろん使い物になるはずもなかったが、食料や物資が予め備蓄されていたためか、当初想定されていた被害によるダメージは少なかった。しかしそれとはまた別の問題が発生していた。当初蝗は作物だけを食い尽くしていくのだと思っていたのだが、彼らはこともあろうか、そう、人間をも捕食したのだ。この知らせが届いた時には既に多くの国民がその餌となっていた。あるものは妻を、あるものは子供を失った。流石のベールもこれには顔色を隠せなかった。そしてその知らせを受け取ったレノン皇子は遂に寝込んでしまった。

このことが民衆たちの怒りを爆発させた。その矛先は皇子のみでなく、王家や貴族全体にも向けられた。それは、長い時をかけジワリジワリと積み重なった不満や怒りも少なからず含まれていた。

「みんな!王は俺たちの苦しみなんざちっとも分かってねぇ!この有様には目を向けず、ずっと寝てばかりだって言うじゃないか!?」

「そうだ!王族貴族は俺たちに重い税金と労役を課すくせにこういうときは何も守ってくれねぇ!」

「私の子供はあいつらに殺されたようなものよ!!」

 ある者は怒りの声を上げ、ある者は嘆き、またある者は同意の意を叫んだ。そして遂に、誰かが全ての運命を決める言葉を叫んだ。

「あいつが、あの女が悪いんだ!あいつが王家に入ってから全てが狂った!あいつは…あいつは《魔女》だ!!」

 その瞬間、辺りが静寂に包まれた。そしてすぐに、また声が上がった。それは先ほどまでのただまき散らすだけの怒りではなく、その対象が明確に定まったものであった。

 そして、暴動が始まった。

 皇都で始まった暴動は瞬く間に国中に広がり、民衆たちはみな皇都へと向かった。数日の内に彼らは皇都周辺へと集まった。それは国民の殆どが集ったものであり、町に入りきれない群衆は城壁を囲むように集った。彼らはみな口々に思いを叫んでいたが、やがて一つの言葉へとまとまっていった。

『王を惑わし我々を苦しめる《魔女(モース)》を殺せ!』


 暴動の知らせを受けたレノンは、家臣らにせがまれ王の執務室へと向かった。その先には、ベールがいた。彼は神妙な顔で王に語りかけた。

「ようやくご自分の立場を自覚されましたかな?では早速本題に入るといたしましょう。」

「…民のことか?根も葉もない虚言であろう?」

「しかし民はそれでは納得しますまい。今彼らが求めているのは形ある結果。王が彼女を魔女でないと仰った所ではたして聞く耳を持つものはいるでしょうか?」

「だが証拠はない!」

 レノンが疲れと怒りが入り混じったような口調でそう告げると同時に、部屋の扉が開いて、一人の小姓が部屋に入ってきた。

「申し上げます。先日宰相様より申し付けられた件の報告に上がりました。」

「…何を頼んだのだ、ベール?」

「まぁ聞けば分かりましょう。申せ。」

「はっ。噂に信憑性が無きことを裏付けるためにモース様の家を調べてまいりました。」

「何!?そなた何の権限があって…」

「続けろ。」

「彼女の家には治療で使うであろう薬草や薬品が数多くありました。しかし念入りに調べてみますと地下室を発見致しました。その地下室ですが、そこには…その…動物の死骸や怪しげな書物が数多くあり、また、人の肉片のようなものも…。」

「まさかそんなこと…そんなことあるはず…。」

「…報告は以上か?」

「はっ。」

「下がってよい。」

「御意。」

 連絡を終えた小姓は部屋から去っていった。一人肩を震わせ俯く王に、彼は告げた。その言葉は残酷で、悪意にすら満ちているようであった。

「王よ、聞いた通りでございます。誠に残念ではありますが…彼女を殺さねばなりますまい。」

「…殺すとはやりすぎであろう?せめて死を偽装して暫く隠れるなど方法があるだろう?」

「いえ、つい一月ほど前に国を挙げた式を開いたばかり。民にも彼女の顔は浸透しているでしょう。」

「彼女に真偽を確かめてくる。」

「お待ちなさい。聞いたところで身の潔白を申すだけ。事態を収めるには有無を言わさず彼女を処刑する以外に手はないでしょう。」

「…私は死ぬのですか?」


 ベールが冷たく言い放ったとき、すぐ入り口の所でモースの声がした。皆が驚いて振り返るとそこには何かを悟ったかのような顔の彼女がいた。

「宰相様。私が死ねばこの暴動は収まるのですね?王家は安泰なのですね?」

「聞いていらっしゃいましたか…その通りです。貴女の死が国を救うのです。」

「ならば私は死を選びましょう。」

「モース!!」

「レノン、貴方と出会えて本当によかったわ。短い間だったけど、とても楽しい生活だった。貴方なら大丈夫、きっといい国皇になれる…。」

「…すまない。君を皇后にさえしなければ…」

「過ぎたことを悔やんでもしょうがないでしょう?宰相様、死刑は早めの方がよろしいですね?」

「えぇ。ですがよろしいのですか?そう簡単に生を諦めてしまわれて?」

「欲しかったものは、ほんの少しですけど手に入りましたから…では明日の正午はいかがでしょう?」

「…よろしいでしょう。そのご決断がいつか評価される日も来るでしょう。セバス。」

「はい、すぐに準備致します。」


 そして翌日皇都中央広場で、《魔女》モースの処刑が行われた。刑が行われると知った群集は前日から広場に押し寄せていた。そして、ついにその時がやってきた。王宮の方の人垣が、音も立てずに静かに割れ始めた。その中央を、質素な服をきて、手械を填められた、かつての王妃が衛兵に連れられ進んできた。その前まで暴言を吐いていた人々も、この時は静まり返った。やがて彼女らは中央の死刑台についた。そこには既に宰相と王がいた。ベールは彼女を見ると、懐から羊皮紙を取り出し、静かに読み上げた。

「被告人モース・フラインは《魔女》であり、以下の罪に問われる。王を惑わした罪。前王を殺害した罪。蝗の大群を用い国を荒廃させた罪…。」

 彼が読み上げていくにつれ、民衆からも声が上がり始めた。それはみな、彼女に向けられた呪いのような言葉であった。

「…よって、モース・フラインに火炙りの刑を言い渡す!」


 その言葉とともに、彼女は壇上へ上り始めた。悪言を吐く民衆たちには目もくれず、ただ、死への階段を一歩一歩進んだ。そして、上までつくと、彼女は十字架に縛られた。彼女を乗せた十字架は天高く掲げられた。

「最後になにか述べることは?」

 ベールのその問いに、彼女は静かに笑いながら、しかし広場中に聞こえるようにこう告げた。


「残念ね…もっと殺したかったのに。」


 その言葉に辺りは一瞬言葉を失った。しかしすぐに我に戻った宰相は、彼女の言葉の意味を悟り、内心苦笑いしながら衛兵に言い放った。

「火をつけよ!」


 炎はすぐに燃え広がり、彼女を包み込んだ。誰一人言葉を発せずに、ただその様子を見守っていた。いや、むしろ見とれていた。それは生きているかのように揺れ蠢いた。赤、オレンジ色取り取りの炎が消えては現れ、まるで広場にいる者を嘲笑うかのようでもあった。


 最後に彼女が呟いた一言は、誰の耳にも入ることは無かった。

「…愛してくれてありがとう。」

 耳飾りが静かに砕け散った。



~Conclusion~


―皆様、最後までご覧下さり、誠にありがとうございます。今宵の演目はこれにて終了いたします。またのお越しを心よりお待ち申しております。それでは、足元に気をつけてお帰りください―。



完?


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