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第4章

脇役?がいっぱい




「やはり君は来ると思っていたよ。」

「この七日間考えてみました。私なんかでいいのかと。もし嫁いだとして仕事はどうすればいいのか、王家の者となった後にどうすればいいかと。そして色々と考えた末、貴方の求婚を受けさせて頂くことに決めました。先日のとんだ非礼、大変申し訳ありません。」

「謝る必要はない。私の突然の申し出を受けてくれただけでも感謝しきれないからな。それでは父に・・・。」

「その前に一つ宜しいでしょうか?」

「なんだ。申してみよ。」

「はい。前にも申しましたが私は富や名誉には興味がありません。しかし、その代わり一つだけ欲しいものがあります。」「それは?」

「無礼を承知ですが、今は申せません。ですがここでならそれが手に入ると信じたから、私は貴方からの申し入れを受けたのです。」

「ふむ・・・。分かった。君には君の考えがあるのだな・・・では父に会いに行こう。」


宮殿の敷地内は彼女が思っていたものとは違っていた。昔祖母からお城には金銀財宝がところせましと敷き詰められ庭も煌びやかで、なんとも形容し難いほどに豪華だと聞いた覚えがある。確かに綺麗ではある。しかしそれは豪華、というよりも慎ましいものであった。垣根や芝は均等に整えられ、奥には東屋のようなものも見受けられた。花壇の花々は色とりどりに咲き乱れ見る者の心を和ませた。そして長い道を通るとようやく屋敷の入り口に着いた。壁はどこか赤みがかっていて、厳格な雰囲気を漂わせている。以前に町長のお屋敷を訪れたこともあったが、それとは比べるまでもないまでに大きく、迫力に満ちていた。

「あまり知られてはいないが、この建物は『紅月館こうげつかん』と呼ばれている。もともとは違う名前だったらしいが何代か前の王が変えたそうだ。」

 そういう彼の顔はどこか悲しげであった。気のせいだろうか、モースは一瞬、彼の顔に何か暗いものが過ぎった気がした。

「今から父、いや、王に会う。あらかじめ今日のことは伝えてあるものの、正直不安はある。」

「王様は理解してくださっていないの?御自分で婚約相手を決めることができるのでしょう?」

「いや、王は反対されない筈だ。まぁ、完全に賛成というわけではないが。それよりも気を付けるべきは宰相を務めるベールだ。」

「?」

「彼は野心家で蛇のように狡猾だ。宰相の地位を利用し貴族らと影で結びつき、実質的に国の頂点に立つ男と言っても過言ではない。裏で色々と工作を…まぁ、知らなくてもいいことか。とにかく、ベールの言葉には気を付けろ。いつ言葉尻を取られるか分からないからな。」

「はい。分かりました。」

「…君は物分りがいいな。」

「王家のことについては何も知りませんから、貴方のいうことに素直に従おうと決めたのです。」

「この前みたいに自分の意見をはっきりと述べるのも大切だぞ?…扉の前で喋っていても仕方ない。中に入るとしよう。」

「まっすぐ陛下にお会いに?」

「その前に服装を整えねばな。」

彼に促されるままにモースは中へと踏み込んだ。屋敷の中は庭とは対照的にいかにも王族、という印象を受けるものであった。床や壁は大理石で作られ、また真紅の絨毯が至る所に敷かれている。正面にある階段の上には、バイサス王家の紋章が掲げられている。辺りをそれとなく見渡せば、至る所にいかにも高級な壺や装飾品が置かれ、壁には著名な画家に描かれたであろう絵画が所せましと掛けられている。

「こちらだ。」

そう言って彼は彼女を二階の部屋へと連れて行った。

「こんなに大きなお城なのにどうして人がいないのかしら。」

「今日は君を紹介する他に、領主や他国の来賓の人々との会食もあるからな。みんな準備に追われているのだ。」

「この部屋だ。さぁ、入ってくれ。」

言われるままに中に入るとそこは客室のような部屋であった。寝所には天幕が掛けられ、調度品もまた、他と劣らぬほどに素晴らしいものだった。そして、窓際の椅子には一人の女性が腰かけていた。扉の開く音に反応したのか、彼女はこちらに振り向いた。

「あら、レノン。もう帰ってきたの?」

「はい。ただ今戻りました。」

「そちらの御嬢さんは…あぁ、貴方が言っていた女性ね?」

「はい。こちらが私の妻となるモース・フロイン嬢です。」

「モースさん?初めまして。レノンの母親のメアリよ。」

突然自分に話が振られたことに驚いて、彼女は咄嗟に答えられなかった。

「お、お初にお目にかかります!!」

「あらあら、緊張しなくていいのよ?」

「ここで着替えてくれ。衣服は全てそこの衣装棚に入っている。着付けなどは母上に手伝ってもらうといい。」

「そ、そんなこと…!」

「いいのよ。他にやることもないのだから。」

「では母上、頼みました。私は王に報告したのち、彼女を引き合わせに参ります。」

「えぇ。後は私に任せておきなさい。」

 そういうと彼は部屋を立ち去った。

「さて、それでは着替えるとしましょうか。」

「…はい。よろしくお願いします。」

 メアリは棚を開くとドレスを選び出した。「これもいいわね…こっちの青いのも捨てがたいわ。うぅん、どれが似合うかしらね。」

「あの…これではだめでしょうか?」

「緑の?掲げてみてくださる?…まぁ、ぴったりだわ!早速着てみましょう。」

 彼女の手際は驚くほどに素早く、かつ正確であった。とても王族とは思えないほどであった。モースも出来る限り自分で着ようとはしたのだが、結局は成されるがままにされてしまっていた。

「これでいいわね。」

そう言って彼女は鏡を向けた。モースが映ると、そこにいたのはまるで別人であった。見違えるように美しい、思わず自分でも思ってしまうほどであった。

「とてもよくお似合いよ。あとは飾り物ね…その耳飾りはどちらの?」

「耳飾りですか?これは先日市で買った東のものです。」

「東の?それなら不足ないわね。何か首飾りはあったかしらね…。」

彼女が探していると、扉を叩く音がした。

「失礼します。」

「あら、セバス。どうなさったの?」

「レノン皇子よりモース様をお迎えに上がるように仰せ付けられて参りました。」

「そう、それじゃあお願いするわ。モースさん、彼はセバスと言ってこの城の執事長なのよ。」

 執事長と聞き、彼女は反射的に頭を下げていた。

「初めまして。モースと申します。よろしくお願いいた…」

「頭をお上げください。貴方はこれから我々の上に立つお人。使用人に頭を下げるなどあってはなりません。」

「でも私礼儀作法など何も知りませんもの。先にいる者を敬え、という格言もあるほどですし。」

「それならご心配なく。メアリ様も最初はそうでしたから。」

「もう。それは言わないでと言っているじゃない?」

「失礼しました。」

「え?メアリ様も…その…平民の?」

 モースのその疑問に、両者はただ微笑むだけで答えることはなかった。

「さぁモース様、王がお待ちです。」

 彼に案内され、彼女は一階の奥の部屋へと導かれた。



どうなるモース!?


どうなる王様!?



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