第3章
短いですよね…?
名前も分らぬ男に腕を引かれた彼女が辿りついたのは、大きな家の前だった。家と呼んで良いのだろうか、そう思える大きさだが、彼女の経験からはそうとしか言えなかった。男は彼女の腕を掴んだまま中へ入ろうとした。
「ちょ、ちょっと待ってください!ここはどこですか?それ以前に貴方は誰ですか!?」
彼女が荒げると彼は驚くように手を離した。
「す、済まない…。」
「謝るのは結構ですがちゃんと説明してください。貴方は誰ですか?」
「すまない。私はバイサス皇国国皇ミハイルが息子、第一皇子レノンだ。」
「…は?」
「だからバイサ…」
「お、皇子!?…と、とんだ御無礼を致しまして…」
「いや、構わない。こんな風に連れてきた私が悪いのだから。」
「ということはまさか…ここは、お城?」
「いかにも。」
「あの、不躾かも知れませんが…」
「?」
「どうして私をここまで?」
「あぁ、それはな…いや、その、なんだ…うん。貴方に一目惚れしたのだ。」
「…えぇぇぇぇっ!!」
「しっ。声が大きい!」
「し、失礼しました。ですがなぜ私を?こんなみすぼらしい女よりも素敵な方々が一杯いらっしゃるではないですか?」
「貴族どものことか?あいつらは所詮権力と金が目当てに過ぎない屑共だ。父は貴族の勢力拡大を抑えることしか見ておられない。私があいつらと結婚することで目の届くところに置こうとしているのだ。私の思いや王家の慣習など気にしてすらいない!」
「あの、その慣習というのは?」
「そもそも慣習と呼んで良いかも分からないが、代々王家の人間は成人の儀を迎える際に自分が選んだ相手と契りを交わすという習わしがあるのだ。」
「でも、それならばその上流の方々から…」
「父が斡旋した女から選ぶことに何の意味がある?力づくで結ばされる婚姻など…。」
「まさかそれで街へ…?」
「そうだ。自分の娘を押し付けてくる金の虫どもから逃げてきたのだ。幸い民は私の顔を知らない。だから人ごみに入っても騒がれないだろうと思い紛れて逃げて来たのだが見つかってな。」
「どうしてわざわざ逃げ出した王宮に戻ってきたのですか?」
「…ふむ。言われてみれば確かに。何故だろうな?私にも分からぬ。」
「はぁ…。」
「話を戻すとしよう。追いかけてくる貴族の使い達から逃げ込んだ先で貴方に出会い一目惚れしたのだ。」
「あの…どこをどうすればそのように?」
「恋に理由など必要か?」
「…。」
「では行くとしよう。貴方を王に引き合わせ婚約の意を伝える。そうすれば私は煩わずに済み、貴方は王女として不自由ない生活を送る…とても理想的でないか。」
「…お言葉ですが。」
「何か不満か?」
「はい。お言葉ですが私は権力にも王位にも興味はありません。私には私の人生があります。それにさっきから相槌を打っていれば貴方は自分の都合ばかり…本当に好きな女性を口説くのにそんな言い方がありますか?申し訳ありませんが、お断り致します!」
突然の彼女の反論に、レノンは驚くような顔をした。
「…断るのか?」
「はい。では、失礼します!」
「…フフ…ハハハ、ハハハハハッ!!」
「何が可笑しいんです!」
「いや、まさか本当に金にも地位にも興味がない人がいるとは、いや驚いた。ますます気に入った。いっそう君が好きになったよ。」
「さっき言ったことを聞いていなかったのですか?」
「いやいや、聞いていた。だが君を諦めることはできない。そうだな…少しでもいいから考えてみてはもらえないか?もし、気が変わったなら七日後の十二の鐘が鳴るときここに来てくれ。来て頂けなかった時には…諦めるとしよう。」
「まぁ、考えるだけなら…。」
渋々彼女がそう答えふと空へ目をやると、既に陽は傾き始めていた。
皇子様ムチャシヤガッテ(笑)