正義はどこまで届く?
作者の倫理観が反映されています。
古書に原典がある訳ではございません。
そしてストーリー性を気にしてないです。
そして今回はちょっと繰り返しが多くてくどいです。
『昔々、ある国に一人の農民がいた。
彼は貧しいながらも礼儀正しく、恩を受けたら深々と頭を下げるのだった。
作物の収穫が終わったある秋の日、彼は森の中へ食物を探しに行った。
しかし、不幸にも道に迷い、さまよった後森の中で気を失った。
次に目が覚めたとき、彼は見知らぬ部屋の中に寝ていた。
彼が起きようとすると、部屋に見慣れない服装をした人が入ってきた。
彼はどうやら異国の貴族に助けてもらったようだ。
彼は感謝の言葉を述べる。しかし言語が違うようで伝わらない。
貴族は彼の言葉に首をかしげながらも、料理を勧めてくれた。
彼はさすがに空腹だったので、ご厚意に甘えて料理を食べた。
しかし彼は礼儀をわきまえていたので、十分なほどの料理をいただくと、
食事をやめ、深々とお辞儀をした。
途端に、それまで温和な顔をしていた貴族は激昂し、使いの者に命じて
彼を牢獄まで連れて行かせた。彼は流罪となった。
彼は知らなかった、その国では食事を中断することはマナー違反であり、
頭を下げることは最上級の侮辱であることを。
貴族もまた、彼が彼なりに礼儀を尽くしていたことなど知るはずがなかった』
話を聞いて、ボクは言った。
「無知ほど恐ろしいものはないですね」
それにセンセイは答える
「そう言ってしまえばそれまでだけど、もうすこし深く考えてみようか。
まず聞くけど、君は正義をどんなものだと思う?」
ボクは頭をひねる
「うーん、人が絶対に正しいと信じているもの、でしょうか?
自分勝手に振りかざすようなもののイメージがあるので、
ボクはあまりこの言葉は好きじゃないです。」
センセイは答える
「振りかざす云々の問題は後に回すとして、
正義というのは、君の言う通り、人々が正しいと信じる、
その信じていることだと私は考えている。」
センセイは言葉を続ける
「正義は、それを共有する人間がいなければ成り立たない。
これは、『常識』とも言い換えられるね。
さて、それでは聞くが、なぜ『彼』は罪を問われたのだろう。
正義という言葉を使って説明してみなさい」
「それは、『彼』の正義を信じる者がそこにいなかった、
つまり『彼』の正義は成立しなかったからでしょう」
それを聞いたセンセイは満足そうに言う
「その通りだよ。今、『正義』という言葉を『常識』に似た意味で使ったけど、
ここからはそういう意味で使うよ。
『彼』は、食事を遠慮するのも、お辞儀をするのも、正義だと思っていた。
でも、貴族を含めその場の人々はそうは思わない。
自分たちの『正義』とはまったく違う行動だったからね」
「『彼』が一番不幸だったのは、お互いに正義が違うことを
知る術も、教え合う術も持たなかったことでしょうね」
センセイは頷く
「うむ、礼儀正しい『彼』ならば相手の正義を知りさえすれば、
もしかしたら相手と上手くいっていたかも知れん。しかし……」
センセイは少し暗い口調で続ける
「世の中では、そう上手くはいってないのだよ。
今や言葉が通じない例は少なく、世の人々は相手の正義を知る術も
教え合う術も持っている。にもかかわらずだ、
互いに異なる正義が対立し、悲劇が生まれている。なぜだ?」
ボクもやや暗い口調になって答える
「知ってもなお、相手の正義を認めようとしないからでしょう。
たいてい、正義は絶対的なもので、二つ以上の正義は
相容れないですから。」
「そこに問題がある。最初も言ったように、正義はそれを信じる人々がいて
初めて成り立つもの。それを唯一絶対とみなすこと自体おかしいのだ。」
「『彼』の正義が成り立ったのも、『彼』が『彼』の国にいる間だけでしたね。」
「そう、『彼』は相手の正義を知りようがなかったから仕方ないのだが、
相手の正義を知ってもなお自分の正義を突き通そうとすることは、
例の異国の貴族に頭を下げることと同じようなこと。
それは一概に間違いとも言い切れないが、正しいとは言えないということを
憶えておきなさい。」
「はい。正義ってやはりあてになりませんね」
その言葉をセンセイは訂正する
「いや、やはり信じている人々がいればそれが正義なのだ。
絶対視はせず、その場の正義を見極め、それから
その正義に従うかどうか考えましょう。
時には自分の正義を相手に伝えるのも一つの手ですよ。」
「はい、分かりました」
あくまで作者の倫理感ですからね。
絶対的なものではもちろんないです。