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仔猫を埋めた土を撫でる俺の頭に、征志が鞄をゴツンとぶつけてきた。
「いつまで浸ってんだ?」
見上げると、呆れ顔の征志が腕を組んで、俺を見下ろしている。俺は鞄を受け取って、立ち上がった。
何か言いたげな征志に、チラリと目を向ける。
「征志。 お前、俺に何か隠してんのか?」
孝亮の言った『ケジメをつける』ってのには、何か特別な意味でもあるのだろうか……?
しばらく俺をジッと見つめていた征志は、俺の問いには答えず、クルリと背を向けて歩き出した。
「なんだよ、ノーコメントなのかよ」
地面に放り出したままの上着を拾って、俺は急いで征志を追いかけた。
「しっかし、お前にしては珍しく、あの仔猫にはやさしかったな? さっき」
征志に追いついた俺は、征志の顔を覗き込むようにして、胸にコツンと拳をあてた。
「ああ。……一緒だったから」
「えっ?」
「言ってたろ? あの仔猫。泣いてるとこ、二度と見たくないって思ったって。俺も昔、そう思った事があったから。俺にも、二度と泣かせたくない人がいたから」
「…へ…えぇ…」
意外な征志の台詞に、俺は目を丸くした。フイと俺に目を向けた征志が、フフンと笑う。
「なに? もしかして、意外だった?」
「お? ……おお。 いや。…そーでもないケド」
ヒョイと片眉を上げた征志は、のんびりと両腕を上げて伸びをした。
「ダルいな。……やっぱり帰って寝るかな。どうせ遅刻だし」
ほんとに向きを変えて帰りかねない征志の左腕を掴む。
「ジョーダン! ここまで来といてそれは無いだろ。あの孝亮だって、お前ほどはサボらなかったぜ」
俺の言葉に、征志は思い切り顔をしかめた。さらに重くなった足取りの征志を、引きずるようにして歩く。
「ほれ! ちゃんと自分で歩けよ。一人でまともに学校へも行けねぇのは、お前の方じゃねーのかぁ?」
「……かもな…」
他人事のように言う征志に目を剥く。それを見てクスクスと楽しそうに笑う征志に、おれは大きく溜め息を吐いた。
「俺の仲良くなる奴って、手の掛かる奴ばっか……」
腕を引っ張る手に力を入れて、見えてるのに遠く感じる校舎目指し、俺は一歩一歩足を進めた。
『鍵』最終話です。
最後までお読み下さり、ありがとうございました。
次は長編となります。
なるべく早く書いて皆様に読んでいただきたく思います。
では次のページはまた恒例のよく解らない『詩』のページとなります。
不快な方は、こちらでページを閉じて下さいますよう……。