我が子は蛙
私の胎からあの子が出てきた時、痛みと緊張で記憶は曖昧ではあるけれど、チラと視界に映った我が子は確かに紛れもなく蛙であった。先生や看護師さんの息を飲む音と誰から発されたのか息を吸う音が今でも目をつむると脳に響く。
手足や体のつき方は確かに人間ではあった。けれど、人間とは思えないほど飛び出した眼球、首元に存在するエラ、大き過ぎる水掻き。極めつけはあの明らかに薄くぬめりのある肌。
色はまだ血だらけで、産まれたての人間の色をしていたが、しばらくすると、やはり蛙。赤子を置いた台に近い色へと変わっていった。
あの子を産み落とした直後、私は、我が子をただ見つめていた。そして、看護師さんや先生が何か慌ただしく、分娩室を出たり入ったりしているところを横目に、
「産んだ後には赤ちゃんを抱かせてもらえるものではないのか」
などと思いながら、我が子の飛び出した眼球を見つめていたのだ。
幸い、だったのだろう。この場合。私には家族はおらず、あの子の父親も、もうどこにいるかすらわからなかった。あの子の父親は、ただの人だった。ただの人である私と、ただの人であるあの人から、蛙の子が産まれた。私はそれでもよかった。あの子がいれば、もう1人ではない。そう考えていた。
出産後、入院室へ私だけ移動し、あの子を預けた。
「お産の疲れを取るために今日は赤ちゃんと離れて休みましょう」
看護師さんにそう言われて、あの子から離れてしまった。色んな人にオマエはバカだバカだと言われてきたが、それは間違いではなかった。私はバカだ。あんな得体の知れないカラダを持つ子が産まれたら、一緒に過ごすことなど出来るはずがないのに。




