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百折不撓のアルゴリズム-Period-  作者: 一ノ瀬隆
不撓不屈のヴァルファリア

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94話 繋がった輪廻

時計の針が、もうすぐ終わりへと進もうとする。


俺の旅は、永い永い時を超えて、ようやくこの時代で先へと繋がったのだ。


......さあ、”本編”を奏でよう。


向かう先は、すべての因縁が交差する場所。俺の、始発点へと──────。



◇◇◇◇◇



オーバーヒューマノイドを撃退してから半年が過ぎて、現在。


俺、レイ=ヴァルセリアは五百年前の時代、世界を絶望の底に突き落とした『円卓』と、その頂点に君臨する帝王シンを打ち破った。

だが、その代償はあまりにも大きかった。体とヴァルセリアを限界まで酷使した結果、俺は取り返しのつかない命の危険と、深い眠りを背負うことになったのだ。


このまま、歴史の影で静かに朽ちていくのだと思っていた。

しかし──────現実は違った。


始まりの英雄たるロッドが道程を『記し』、二度目の勇者であるユキがその想いを『繋ぎ』、そして、あの真っ直ぐな瞳をした最後の英雄、ローズが未来への扉を『開いた』。

彼らが紡いだ奇跡のリレーの結果、俺は再びこの地に立ち、自らの足で歩くことができたのだ。


「......まったく。どいつもこいつも、お節介が過ぎる」


俺は新しく右腕に馴染んだ白銀のガントレット、フェルファクナ・エデニアムを軽く握り込みながら、微かに口角を上げた。

かつての仲間たちが遺してくれたこの力強い感触が、俺が今、確かに生きているのだと実感させてくれる。


先日、各大陸を襲撃した未知の軍勢『オーバーヒューマノイド』との戦いは、俺たち”五選剣”の勝利で終わった。ローズが敵の巨大な航空戦艦を単騎で撃ち墜としたことで、敵の指揮系統は完全に沈黙したのだ。

世界は今、つかの間の平和と勝利の余韻に包まれている。


しかし。あの始まりの英雄──────ロッド・ガルバスの言葉の節々から、事態が『まだ終わっていない』様子が痛いほどに伝わってくるのだ。

あの男が、これですべて解決したと手放しで喜ぶはずがない。本当の『元凶』を打ち破ろうとしている。


「......次が、本当の最終決戦、か」


俺はヴァルセリアの柄にそっと触れ、静かに、だが確かな熱情を持って気を引き締めた。

託されたこの命、無駄にするつもりはない。五百年前の忘れ物を取りに行くため、俺は最後の戦いへと向けて、静かに闘気の炎を燃やし始めたのであった。


しかし、己の内で密かにシリアスな覚悟を決めている一方で。

それはそれとして、実は一つ、俺の身の回りに大きな変化が起きていた。


俺がかつて隊長を務め、五百年前の戦いで失われたはずの勇者直属精鋭部隊──────『エデニアム』を、この時代で再結成したのである。


「こっちの資材は地下の貯蔵庫へ! 武器のメンテナンスルームは東棟の空き部屋を改装して使うから!」


拠点となるのは、もちろんこの広大なアーゼリア家だ。

次の得体の知れない計画に向けて万全の準備ができるよう、この屋敷の主であるローズと、神出鬼没のロッドが裏で色々と手配してくれたらしい。

かつての仲間たちが遺してくれた『フェルファクナ・エデニアム』を右腕に宿した俺が、新たな時代で、新たな仲間たちと共にエデニアムの看板を背負う。その事実が、少しだけくすぐったく、そして誇らしかった。


だが、準備が進めば進むほど、俺の中にある一つの『疑問』が大きく膨らんでいった。

オーバーヒューマノイドという異次元の軍勢。彼らが狙っていたもの。そして、ロッドが未だに隠し持っている底知れぬ謎の数々。


俺は、テラス席で分厚い魔導書をめくっていたロッドの元へと歩み寄り、単刀直入に問いかけた。


「......なあ、ロッドさん。そろそろ教えてくれないか」


俺の影が魔導書に落ちる。ロッドはページを捲る手を止め、ゆっくりと視線を上げた。


「この世界の真実って......結局のところ、何なんだ?」


俺の真っ直ぐな問いかけに対し、ロッドはいつもの人を食ったような笑みを浮かべることはなかった。彼は静かに本を閉じ、どこか遠くを見るような、あるいは重い枷を背負うような、そんな静謐な瞳で俺を見つめ返した。


『ああ。......そうだな。もうそろそろ、話すべき頃合いだ』


ロッドは立ち上がり、アーゼリア家の庭に吹き抜ける風を受けながら、重々しく告げた。


『すべてを明かそう。......ユキ、弦弥、そしてローズ。皆をここに集めてくれ』


新生エデニアムの拠点となった、アーゼリア家の広間。

俺たち四人──────俺、ユキ、弦弥、そしてローズは、円卓を囲むようにして席についていた。


場を支配する、重く静かな緊張感。

その中心に立つ始まりの英雄ロッド=ガルバスは、ゆっくりと皆の顔を見渡し、静謐な声でついにその口を開いた。


『この世界は、1000年という時間を何度もループしている』


「......なんだって?」


あまりにもスケールの大きすぎる言葉に、俺は思わず眉をひそめた。


『世界の分裂地点をターニングポイントとし、1000年の周期を迎えるたびに、この世界は強制的に再起動される。それが、この世界を縛る連鎖ウロボロスシステムだ』


ロッドは自らの胸に手を当て、どこか自嘲するように目を伏せた。


『再起動の時が来ると、どうなるか。......システムは、龍盟の主であるこの私、ロッド=ガルバスに「世界の破壊」を実行させる。私はすべてを塵に帰し、この世界を『ディソナンス』だけが蠢く更地へと変えるのだ』


「ちょっと待ってよ!」


たまらず声を上げたのは、ローズだった。


「ディソナンスって、あの魔物のこと!? 五百年前、ソフィアって人が『人間の悪意を媒介に発散させる、世界の防衛装置だ』って言ってたんでしょ!?」


『ああ、ソフィアの仮説は半分正解で、半分間違っていた』


ロッドは静かに首を振る。


『ディソナンスの本当の役割は、破壊された「前回の世界の記憶と情報」を蓄積するための、巨大な記憶媒体だ。システムは、ディソナンスにバックアップされた記憶を元に、ターニングポイントと全く同じ世界を粒子レベルで再構築する。......そうして、次の1000年の「観測」へと移るのだ』


俺は、その残酷なシステムの全容を聞いて、ふと一つの疑問に行き着いた。

五百年前。俺がこの手で討ち果たした、かつての親友であり、最大の敵。


「......なら、シンが見ていたものは、何だったんだ」


帝王シンは、魔法の世界と科学の世界という二つの平行世界が交わり、互いの存亡を懸けて殺し合う『滅びの未来』を幻視した。

だからこそ、それに備えるために彼は感情を捨て、世界を力で統べる独裁者となったのだ。だが、この世界がループしているというのなら──────。


『......シンの悲劇は、そこにあった』


ロッドの顔に、深い哀悼の色が浮かぶ。


『シンが見たものは、「未来」などではなかった。それは、過去の観測──────第Ⅰ次から第Ⅹ次までのループのどこかで、実際に辿ってしまった「悲劇の結末」の記憶の残滓だ。彼は、システムに蓄積されていた過去のバッドエンドの映像を未来と誤認し、それを防ぐために血塗られた道を歩んでしまったのだよ』


「............っ」


俺はギリッと奥歯を噛み締めた。

シンは、とうの昔に終わっていたはずの過去の絶望に怯え、世界を救おうと狂っていったというのか。なんと残酷で、救いのないすれ違いだろうか。


『シンの悲劇を含め、この世界は同じような悲劇の結末を、すでに「10回」も繰り返してきた。......だが』


ロッドはそこで言葉を切り、真っ直ぐに俺の目を見据えた。

その瞳には、五百年という途方もない時間を越えて託された、強烈な「希望」が宿っていた。


『今回──────この第Ⅺ次観測は、今までと違う』


あの時。ユキの前に現れたという、謎のローブの男の言葉が脳裏に蘇る。

彼もまた、俺のことをこう呼んでいた。


『レイ。キミは、この悲しき連鎖(ウロボロス)円環に反抗できる力をもつ者だ。10回繰り返された悲劇を打ち破り、連鎖を止めることができる『唯一の鍵』。......だからこそ、キミは悠久の時を越えて、再びこの時代に目を覚ましたのだ』


「俺が、連鎖を止める......鍵」


右腕のフェルファクナ・エデニアムが、俺の心臓の鼓動に合わせるように、微かに、だが力強く脈動した。


ただ世界を救うだけじゃない。

何千、何万年と繰り返されてきた、この世界の呪いそのものを断ち切る戦い。


「......分かった。その重荷、エデニアムの隊長として、しっかりと背負わせてもらう」


俺は円卓に手をつき、全員の顔を力強く見回した。

もう、悲劇は繰り返させない。この第Ⅺ次の世界で、必ず俺たちが、永遠のループに終止符を打ってみせる。

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