第3章 ― 「アクシス」
ついに、生存者たちは救いを見つけたと思った。 制服姿の男女が整列し、ランタンの光にわずかに反射する武器を手に、厳しい視線を群衆に向ける。その視線は、まるで次の獲物を狙う狼のようだった。
アルファエルの胸はわずかに緩む。心の中で思った―― 「この光を出したのは彼らか?あの巨大なカラスを追い払ったのか?」
言葉にする前に、人物の一人が前に出た。 肩幅の広い屈強な男。重い黒いコートに身を包み、厚い髭と長い白髪は頭上の毛皮ウシャーンカに溶け込む。顔には古い傷が刻まれ、声は深く、掠れ、金槌で打たれたような重みを持つ。
「皆さんはここに来たばかりですか?」
生存者たちは硬直した。質問さえも危険に感じられる。
以前助けを求めた女性が震える声で答える。 「はい……はい、私たちはこの場所に現れただけです。どうか助けてください。」
男は手のひらの厚い指で髭をかき、頭を傾ける。目は上の月光のように冷たい。
「つまり……皆さんは人間だと考えていいのですね?」
生存者たちは互いに不安そうに視線を交わす。人間という言葉は彼の口から違和感を漂わせた。しかし、やがて全員がうなずいた。
アルファエルは少し考える。「ほかに何だろう?私たち、人間に見えないの?」
屈強な男は鋭く手を振る。兵士たちは迷わず動き、群衆に近づく。
アルファエルは目を瞬かせ、茫然とした。「え……家まで運んでくれるのか?」 言葉は無意識に漏れた。
彼は一人の兵士に視線を向ける。顔を薄い布で覆い、鼻と口を隠す男。暗い髪が鋭く読めない目に垂れる。膝をつく高齢者の前で立ち止まる。脚をねじり、痛みに顔を歪めた男だ。
男は手を上げ、安堵で声を震わせる。「どうか……助けてください。」
アルファエルは奇跡が起きるのかと思った。
だが兵士は手を伸ばさなかった。
代わりに――靴先が。
森に骨と歯の砕ける音が響き、靴が男の顎を打ちつける。血が飛び散る。男は呻き、横に倒れ、声は絞り出されたような悲鳴に変わる。
アルファエルの世界は揺れた。奇跡は目の前で崩れ、再び血の匂いが漂った。
一人だけではない。周囲の兵士たちは次々と生存者に襲いかかり、引き倒し、打ち、蹴り、地面に押し付ける。悲鳴が重なり、アルファエルの耳にこびりついた。
「待て――助けに来たんじゃないのか?」
思考がまとまる前に、頭部に衝撃が走る。視界が白くなり、頬が冷たい土に押し付けられ、苦味が口に広がる。
「くそっ――!」
屈強な男の声が混乱の中で響く。鉄のように、容赦なく: 「捕まえろ。」
手首に縄が食い込み、生存者たちは一列に鎖でつながれる。兵士の号令で行進が始まった。
枝が顔を打つ。イラクサが足首を擦る。手は縛られ、防御はできない。数分後、ついに森を抜ける。
前方に広がる平原。近くの草原は依然として異様な青い光を放つ… だがさらに先では、草は色を変えた。地平線のすぐ下で、草原は見覚えのあるエメラルドグリーン。
生存者の足は崩れ、休息を懇願する。しかし監視者たちは一瞬たりとも許さず、遅れれば鞭や蹴りで叱る。
歩き続けるうち、アルファエルは違和感に気づく。どれだけ歩いても、地平線の緑の草は近づかない。蜃気楼のように遠くに留まり、努力を嘲笑う。
「いったいどこに連れて行くつもりだ?」
遠くに巨大な建造物が地平線に立ちはだかる。溶岩のようなオレンジの光が輪郭を照らす。最初は街かと思った――だが違う。要塞だ。地平線を横断するほど巨大な要塞。壁は暗い石か、それに類するもので百メートル以上にそびえ、一部はさらに高く突き出して監視塔となっている。
屈強な男が声を上げる。 「はっきりさせておく、ヴァンゲン。お前たちは侵入者だ。その罪により、マツラヴァの輝かしい国家の所有物となる。名を覚えておけ。」
アルファエルは歯を食いしばり、眉を寄せる。「侵入者?どうしてこんな場所を侵略する必要があるんだ?早く家に帰らせろ!」 しかし口は閉ざしたまま。
勇敢な女性が沈黙を破り、涙を流しながら叫ぶ。 「マツラヴァ?勝手な国で働きたくない!早く家に帰らせて!子供がいるのに!わかってくれ!」
兵士が剣を抜き、喉元に押し付ける。「リュウェリン指揮官、この者の無礼を処刑してよろしいですか?」
指揮官は首を振る。「ヴァンゲンのために刃を汚す必要はない。我々には使い捨ての兵士が必要だ。」
冷たい視線で捕虜の列を眺める。 「女性よ。もし解放したとしても、本当に家まで生きて帰れると思うか?」
彼はため息をついた。 「よく理解しておけ。お前たちヴァンゲン――自らを人間と呼ぶ者たち――は別の世界に迷い込んだ。我々の世界、それがアクシスだ。我々はアクシと呼ばれる。お前たちの種族がここに迷い込んでから50年、一人も脱出した者はいない。」
彼はウシャーンカを軽く叩く。「頭に刻め。家には帰れない。生きては。」
女性は嗚咽した。他の者も続き、静かな絶望の合唱が生まれる。
アルファエルの目は大きく見開かれ、地面を見つめる。 「いや。いや。いや……嘘だ。そんなはずない。別の世界?そんな馬鹿な……母さんはどうなるんだ?!」
だが心の奥底で、彼は理解していた。故郷の論理はここでは通用しない。ここは――既に彼に殺人を強いたこの場所だ。
意識がぼやけ、やがて彼は自分の居場所に気づく。要塞の門が目の前に広がる。巨大で暗い。
門が轟音とともに開き、マツラヴァの核心が姿を現した。 そして中にあったのは――救済ではなかった。




