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ヴァンゲン  作者: Tamashi


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第2章 ― 「新たな地平」

アルファエルの目は必死に、焦燥のまま、周囲を駆け巡った。もしこれが本当に「拘束」なら、どんな小さな情報も彼の生死を左右するかもしれない。

まず目に飛び込んできたのは、空だった。

もはや夏でも昼でもない。冷たい夜が無限に広がり、風は骨を切り裂くほど鋭く吹きつける。膨れ上がった月がかつて見たこともないほど明るく照らし、世界を淡い銀色に染め上げていた。星々は暗闇の中でくっきりと輝いている。

「星……ちゃんと見える。でも光害はない?ここ……いったいどこだ?」

視線を地平線に落とす。山々は鋭く尖った巨人のように立ち並び、雲に隠れた頂は手の届かない高さだった。近くにはより小さな山脈が横たわるが、それでも故郷の風景をはるかに超えていた。

次に目を向けたのは地面だった。

草は――豊かで、厚く、信じられないほど鮮やか――青色に輝いていた。風に揺れるたび、葉脈を光が流れるように走る。

思わず笑いが漏れた。

「青い草……夕食で母さんに見せなきゃ。」

慌ててスマホを取り出し、写真を撮る。

「ちょっと待て。電波がない?電話もできない。あれ、ほかの人もこの草に気づくかな?」

振り向いて周囲に知らせようとした――

だが草はすでに青ではなかった。

赤く染まっていた。血の海に浸ったように。

その時、アルファエルは初めて気づいた――世界の本当の声を。

恐怖の咆哮、叫び声のカオス。何千、何万という人々が悲鳴を上げ、助けを求め、崩れ落ちていく。その上で、さらに悪い音が響いた――骨が折れる音、まるで巨大な顎に脆い枝を砕かれるような音。

血の河の源。

アルファエルは凍りついた。

影が平原を横切る。四つ。巨大な影。

カラス――もしくはそれに似た何か。それぞれ家ほどの大きさ。黒い翼を広げ、星を覆い尽くす。人々はくちばしに捕らえられ、まるで農夫の鎌に刈られる穀物のように飲み込まれる。

空気は鉄の匂いに満ち、肉が裂け、骨が砕け、叫び声は静寂に溶けた。

アルファエルの理性は崩壊した。しかし体は動いた。足は彼を前へ運び、群衆の中を駆け抜けた。

「死にたくない、死にたくない、死にたくない!」

言葉は頭の中で轟き、思考を飲み込む。

踏みつけられる草は光を放ち、踏まれた葉は青から明るい蒼へと脈動し、また元の青に戻る。誰も気にしない。誰も止めない。方向はひとつ、逃げるのみ。

アルファエルは生存者の群れに身を任せた。群れの流れに沿って森へと進む――木々は青い草と同じ色の葉を持ち、風に揺れる。

「森か……ここに隠れられる。」

藪をかき分け、枝に肌をかきむしられ、茂みで足を絡め取られながら、恐怖は彼らを前へ押し出す。

前方の男がつまずき、蔓に足を取られ転倒した。

必死に木の幹に手を伸ばすと、ランタンほどの大きさのキノコに触れた。

瞬く間に開花し、胞子の雲が彼の顔を覆い尽くす。嘔吐し、血と胆汁を吐き、悲鳴は湿った音に変わり、手で顔を擦りつけ、肌と肉に深い溝を刻むような狂気を見せた。

アルファエルは恐怖で足を止め、胃を押さえた。

「――助けるべきだった――」

男は倒れ、静かに動かなくなった。

アルファエルは口を押さえ、吐き気を堪える。

「助けるべきだった。何かすべきだった。くそ、くそ。」

だが森は哀悼を許さなかった。

影が落ち、樹冠が裂ける。

巨大なカラスの一体が流星のように降りてきた。翼は紙のように木々を切り裂く。地面は衝撃で揺れる。着地ではなく、隕石の衝突のようだった。

黒い巨体は目の前に迫り、羽の下で筋肉がうねる。翼を広げ、月を覆い隠す。先端の爪は手のように曲がり、地面を抉り、四足動物の姿を模した不気味な支えとなる。

そして、顔を見た。

青白い骨のマスクがくちばしと眉を覆い、ギザギザの隆起が頭蓋を飾る。彫られたものでも、被ったものでもない。骨が羽毛と肉に融合し、内側から成長した死の顔。

息を呑む。

「……マスク?」

胸を膨らませ、カラスは叫ぶ。世界が引き裂かれる音。アルファエルの歯は震え、視界は歪む。森は飢えの遠吠えで揺れ動く。

怪物が飛びかかる。

逃げる生存者を捕らえ、必死に手足をもがく前に丸呑みする。悲鳴は喉の奥で途切れ、体は咥えられ飲み込まれる。獣は唸り、味わいながら顔を上げた。

その目がアルファエルを捉える。

「俺……見てるのか?なぜ!?」

足が震え、身動きできない。獲物の証。

「いや!離れろ!」声は裂ける。

カラスは叫び、爪を深く食い込ませ、恐るべき速度で彼へ迫る。

アルファエルは後ろに倒れ、中年の男にぶつかった。男の目に恐怖が灯る。

「助けてくれ!」アルファエルは叫ぶ。

一瞬、男は動くかと思った。だが代わりに、胸を押され体は横に飛ばされ――怪物の方へ。

男は振り返り、逃げ去った。アルファエルは耳にかすかに言葉を聞く:

「俺よりお前の方がいい。」

状況は逆転した。

カラスは男をくちばしで掴む。男は悲鳴を上げ、アルファエルを呪い、手足をもがく。顎が閉じ、肉と骨を切り裂く。腕が空中を舞い、アルファエルの足元に落ちる。

胸が高鳴る。

「いや……俺は……」

歯を食いしばる。

「奴が先に……先にやったんだ。俺は悪くない……」

周囲の生存者は目を見開いた。少年が大人を殺した。狂気。

カラスの爪が再び降りる。アルファエルの体へ。

寸前。

世界が閃く。

眩い光が夜を切り裂く。森は一瞬昼となり、カラスは羽をばたつかせて後退。木々は割れ、枝が落ちる。必死に羽ばたき、闇へ逃げ去った。

生存者たちは反射的に目を覆う。光が落ち着くと、彼らは唸り、光の正体を問う。

アルファエルも混乱していた。突然すぎて、起きたことを理解する余裕がほとんどなかった。

静寂が訪れ、ゆっくりと全員がアルファエルに視線を向ける。

人を殺した少年――殺人者。

光の心配は一瞬で消え、視線はアルファエルに集中する。

彼らにとって、次は自分たちかもしれない。

その時、森を切り裂く音が響いた。

多くの足音。一定。

藪が揺れ、ランタンの光が木々の間に揺らめく。制服を着た男女が、鋼の武器を手に、表情を険しく現れた。

女性が叫ぶ:

「助けに来てくれたんですか!?」

他の者も声を合わせ、救いを求めた。

希望がアルファエルの胸に灯る。戦士たち。以前の拘束からの生存者かもしれない。世界を知る者たち。自分を救える者たち。

膝が崩れ、息が震える。

全ての恐怖、裏切り、流血の後――

彼は救われた。


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