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5:封印の手がかり


発情期が完全に収まってから3日後。


俺とノヴァは、まだあの夜の話をしていなかった。

お互いに意識しているのは明らかなのに、タイミングを掴めずにいる。


そんな微妙な空気の中、レオナルドから呼び出された。


「古代遺跡の調査を頼みたい」


ギルドマスター室で、レオナルドは一枚の古い地図を広げた。


「王都から東へ3日。そこに、竜族に関する遺跡があるという情報を得た」


「竜族の?」


ノヴァが身を乗り出した。


「ああ。300年前の記録が残っているらしい」


300年前。それは、ゲームの設定では竜族と人間が共存していた最後の時代だ。


「もしかしたら、ノヴァ君の記憶を取り戻す手がかりがあるかもしれない」


レオナルドは意味深にノヴァを見た。彼は、ノヴァの正体に気づいているのかもしれない。


「行きます」


俺は即答した。ノヴァのためなら、どんな危険も厭わない。


「俺も行く」


意外な声がした。カイルだ。


「お前たちだけじゃ心配だからな」


「私も行くわ」


リーナも手を挙げた。


「古代遺跡なんて、ワクワクするじゃない」


こうして、4人で遺跡調査に向かうことになった。

道中、カイルが俺に話しかけてきた。


「なあ、お前とノヴァ、何かあったのか?」


「な、何もないよ」


「嘘つけ。お互いを見る目が、前と違う」


鋭い。カイルは見た目と違って、意外と観察力がある。


「まあ、無理に聞かないけどさ」


カイルは肩をすくめた。


「ただ、お前らが上手くいくことを祈ってる」


「え?」


「だって、お似合いじゃん」


カイルの言葉に、顔が熱くなった。


「お、俺たちは別に...」


「はいはい」


カイルは笑いながら先を歩いていった。

3日後、俺たちは遺跡に到着した。

苔むした石造りの建造物。入り口には、竜の紋章が刻まれている。


「これは...」


ノヴァが紋章に触れた。瞬間、紋章が淡く光った。


「反応してる」


リーナが驚く。


「やっぱり、ノヴァは竜族なのね」


ノヴァは複雑な表情で紋章を見つめていた。

遺跡の中は、思ったより保存状態が良かった。壁には古代文字がびっしりと刻まれている。


「読める?」


「...少しだけ」


ノヴァは壁の文字を指でなぞった。


「『銀竜王アルジェンティウスは、人間を守るため...』」


俺の心臓が跳ねた。アルジェンティウス。ノヴァの真名だ。


「続きは?」


「読めない。文字が擦れている」


奥へ進むと、大きな部屋に出た。


中央には石の台座があり、その上に一冊の本が置かれていた。


【竜族史記】

内容:竜族の歴史が記された書物

保存状態:良好


解析眼で確認すると、危険はなさそうだ。


「開けてみよう」


俺が本を手に取ると、ページが勝手にめくれ始めた。

そして、ある一ページで止まった。


『銀竜王アルジェンティウスの犠牲』


そこには、驚くべき内容が書かれていた。


本に書かれていた内容を、俺は声に出して読み上げた。


「300年前、魔族の大軍が人間の国を襲った。圧倒的な戦力差に、人間は滅亡の危機に瀕していた」


ノヴァは黙って聞いている。その表情が、だんだん青ざめていく。


「その時、銀竜王アルジェンティウスが人間の味方についた。彼は配下の竜たちと共に魔族と戦い、人間を守った」


「俺が...人間を守った?」


ノヴァが呟く。


「しかし、魔族の王は卑劣な手段に出た。人間の子供たちを人質に取り、アルジェンティウスに降伏を迫った」


俺は息を呑んだ。そんなことがあったのか。


「アルジェンティウスは、子供たちを救うため、自ら魔族の呪いを受け入れた。その呪いは、竜の力を封じ、記憶を奪い、人間の姿に変えるものだった」


ノヴァの体が震えていた。


「そして、アルジェンティウスは姿を消した。彼の犠牲により、人間は救われ、魔族は撤退した」


本を閉じて、俺はノヴァを見た。


「ノヴァ...いや、アルジェンティウス。君は英雄だったんだ」


「英雄...」


ノヴァは自嘲的に笑った。


「英雄が、奴隷市場で売られていたのか」


その言葉が、とても悲しかった。


「きっと、呪いのせいで...」


「待って」


リーナが別の本を見つけた。


「ここに、呪いの詳細が書いてある」


リーナが読み上げる。


「呪いを解く方法は一つ。運命の番との絆。それが、封印を解く鍵となる」


運命の番。

その言葉に、俺とノヴァの視線が一瞬交わった。すぐに逸らしたけど。


「でも、問題があるわ」


リーナが続ける。


「呪いを解くには、運命と番になる必要がある、って」


運命の番。


俺の心臓が激しく鼓動する。


オメガバースの世界では、運命の番は特別な存在だ。

互いのフェロモンに強く反応し、他の誰とも結ばれることができない、唯一無二の相手。


俺は、ノヴァに強く惹かれている。彼のフェロモンに、他のαとは違う特別な反応をする。

もしかして、俺たちは...


「それと、もう一つ」


カイルが壁の文字を指差した。


「ここに、警告が書いてある。『呪いを解く時、竜は全ての力を取り戻す。その時、真の番でなければ、竜は理性を失い、破壊の化身となる』」


全員が息を呑んだ。

失敗すれば、ノヴァは...


「やめよう」


ノヴァが言った。


「このままでいい。俺は、今の生活に満足している」


「でも...」


「翔」


ノヴァは俺を見た。その目が、とても優しかった。


「お前と出会えた。それだけで、十分だ」


胸が熱くなった。


でも、このままでいいはずがない。


「ノヴァ、君は自由になるべきだ」


「自由?俺はもう自由だ」


「違う。その枷も、人間の姿も、全部呪いのせいだ」


俺は決意した。


「俺が、君の呪いを解く」


「翔...」


「だって、俺は...」


言いかけて、止まった。

ここで告白していいのか。カイルとリーナもいるし。


でも、ノヴァの目が、続きを促していた。



遺跡から戻る道中、俺たちは黙々と歩いていた。


あの後、結局告白はできなかった。タイミングを逃してしまった。


「なあ」


カイルが口を開いた。


「さっきの話、本気か?」


「呪いを解くって話?」


「ああ。失敗したら、ノヴァが...」


カイルの心配はもっともだ。


「でも、このままノヴァを縛り付けておくなんて、できない」


「お前の気持ちはわかる。でも...」


「カイル」


リーナが割って入った。


「これは、二人の問題よ。私たちが口を出すことじゃない」


「でも...」


「ただし」


リーナは俺を見た。


「覚悟は必要よ。番になるって、一生の絆よ。番になったら、もう他の誰とも結ばれることはできない」


わかっている。でも、俺にとってノヴァ以外は考えられない。

その夜、宿に戻った俺は、ノヴァの部屋を訪ねた。


「入っていい?」


「...ああ」


ノヴァはベッドに座っていた。その表情は、いつになく真剣だった。


「話がある」


「俺もだ」


二人同時に言って、少し笑った。


「先に言っていい?」


俺は深呼吸した。


「ノヴァ、俺は君の呪いを解きたい」


「翔...」


「君は、人間を救った英雄だ。そんな君が、呪いに縛られているなんて、間違ってる」


「だが、リスクが...」


「わかってる。でも...」


俺は勇気を振り絞った。


「俺は、君を愛してる。君と番になりたい」


ノヴァの目が大きく見開かれた。


「発情期のせいじゃない。君と出会った時から、ずっと惹かれていた。君のフェロモンに、他のαとは違う特別な反応をした。君の強さも、優しさも、不器用なところも、全部好きだ」


顔が熱い。でも、言葉を止めない。


「だから、君を自由にしたい。本当の姿を取り戻してほしい。そして、正式に俺の番になってほしい」


ノヴァは黙っていた。

長い沈黙の後、ノヴァが口を開いた。


「俺は、竜だ」


「知ってる」


「人間とは、違う」


「関係ない」


「寿命も違う。お前が老いて死んでも、俺は生き続ける」


その言葉が、胸に刺さった。

確かに、そうだ。竜の寿命は、人間とは比べ物にならない。


「それでも、俺と番になれるのか?」


ノヴァの目が、俺を試すように見つめている。


「なれる」


俺は即答した。


「一緒にいられる時間が限られているなら、なおさら大切にしたい。それに、番の絆は死んでも続くって聞いたことがある」


ノヴァの表情が崩れた。


「お前は...本当に...」


「ノヴァは?」


俺は聞いた。怖かったけど、聞かずにはいられなかった。


「俺のこと、どう思ってる?」


ノヴァは立ち上がり、俺に近づいてきた。


そして、俺の頬に手を添えた。


「最初は、ただの人間だと思っていた」


ノヴァの手が、温かい。


「弱くて、愚かで、すぐに俺を捨てるだろうと」


「...」


「だが、違った。お前は、俺を名前で呼んでくれた。仲間だと言ってくれた」


ノヴァの顔が、近づいてくる。


「いつの間にか、お前なしでは生きられなくなっていた」


「ノヴァ...」


「翔、俺も...お前を愛している。お前を、俺の番として迎えたい」


その瞬間、ノヴァの唇が俺の唇に重なった。


初めてのキス。


甘くて、温かくて、少し震えていて。


そして、お互いのフェロモンが混じり合って、これが運命なんだと確信した。


離れたくないと思った。


でも、息が続かなくて、離れる。


「これで、条件は満たしたかな」


俺が冗談めかして言うと、ノヴァが笑った。


「まだだ。正式に番になるには、もっと深い絆が必要だ」


「どうやって?」


ノヴァは俺を抱きしめた。


「時間をかけて、ゆっくりと。焦る必要はない」


その夜、俺たちは朝まで話をした。


お互いの過去のこと、未来のこと、些細な好みのこと。


そして、時々キスをした。


幸せだった。


呪いのことも、リスクのことも、一旦忘れて。


ただ、二人でいることを楽しんだ。


でも、朝日が昇る頃、ノヴァが言った。


「翔、一つ約束してくれ」


「何?」


「もし、呪いを解いて、俺が理性を失ったら...」


ノヴァの目が真剣だった。


「俺を、殺してくれ」


「そんなこと...」


「約束だ」


ノヴァの目に、覚悟が宿っていた。

俺は、頷くしかなかった。

でも、心の中で誓った。


絶対に、そんなことにはさせない。

俺たちは運命の番なんだから。


きっと、大丈夫。

そう信じて。

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