救出、そして彼らの求めるもの
ギルドクエストで受けた魔物狩りの最中、怪我を負った私を、超いい人聡神さんが教会へ連れて来てくれていた。しかし教会の外では不穏な物音が!? それを聞きつけた私たちは、教会の外に出てみると顔を隠した怪しい男たちに、怪我人と女の子と男の子が取り囲まれていたのだった。
私は庭の木にしがみつきながら「眠れ~眠れ~寝ないと食べちゃうぞぉガォー!」と、男たちに魔法をかける。
そうすると男たちはどんどん眠っていく。師匠に『なにそれ?』 と言われた呪文だが、うちの里では一般的なおやすみの際に掛けると言葉で、睡眠魔法の呪文としても普及されているが、初めて里以外の人に使ってみたがこの効き目……。やはりこっちが一般的な呪文な気がする。
「聡神さん! 寝ました! しばっちゃってください!」
しかし聡神さんは何やらこちらを不思議そうな目で見ている。うーん、やはり一般的ではないのこの呪文?
「ああっ、わかった。行って来る」
そう言って彼は、雨足の弱まったその中を、男たちの方に向かって走っていった。
「こんにちは、君が僕たちを助けてくれたの?」
先ほど一人で細身の剣を持ち、男たちと対峙していた女の子だ。レスースをふんだんに使った騎士にも見える、ワンピースを身につけたこの子は、子りすの様なたたずまいで私を見ている。
「まぁ、そうです。それよりお連れの男の子を止めて、あんなところで、肩から矢を抜いたら大変な事になっちゃいますよ?!」
「僕の事ですか?」
私の里でまだ基礎を教わるくらいの男の子。緑がかった金髪で、ぱっと見、女の子と間違えそうな彼が彼女の横から現れた。 女の子は彼より少しお姉さんで、二人は似てるって程ではないが二人とも可愛い顔だちだし姉弟かもしれない。
「そうです。貴方です」
「矢は抜いてしまいましたが、浅い怪我なので大丈夫そうです」
彼はそう言ってにっこり微笑む。
「今回の事はとても助かったよ。まぁ、たぶん教会には迷惑だっただろけど、この通り御者の彼を除くと僕と彼だけだったから、少しでも助けの呼べる街へと飛び込んだわいいけどこんなありさまさ」
そう言って女の子は肩をすくめて笑う。
「ところで!」女の子が私に顔を近づける。「君たちは冒険者? 僕たち、この街で冒険者を雇おうと思いやって来たんだ。出来たら君たちを、雇いたいと思ってるんだけど……お願い出来るかな?」
彼女の目がキラキラと輝く。男の子は私の様子を見守っているようだ。
そこへ雨の中歩いて聡神さんがやって来る。
「彼女は足の具合が悪いんだ。少し座らせてやってくれ」
あぁ……聡神さんがそう言った事で、私が教会の庭の木につかまりながら話しいる事実を思い出した。
彼から見ればヘンテコな構図だったかもしれない。彼の後ろはでは教会の関係者がやっと出てきて、馬の上に眠る男たちを降ろし、後ろ手に縛りあげている。
「へぇ……」と言って姉弟は顔を見合わせる。何故か、女の子から悪だくみ的なニャリという笑いを感じ取り、慌てて聡神さんを見る。
彼はそんな様子を気にしないように、私を見て「では、教会のベンチへ行くか。君たちもこのありさまだから移動した方がいい」
未だに雨は降りやまず。木の下に居はいるけど、やや雨が防げられている程度だ。
「いえ、ここでいいです」
そう少年が言った。何故、君が言うの? 聡神さんもそんな感じで、彼を見ている。
女の子が「失礼しまーす」と、言って私のスカートを抑える。
そうすると少年は私の前に座り込み「怪我しているのは左足ですか?」
「そうです、そうです」もしや魔法の天才少年?
「何やったんですか、ここから」「痛い!?」少年が触ったすねは今まで全然痛くなかったのに、少年が触ったとたんに激痛が走った。「足首まで、とても深いところまで微細な傷が走ってますよ」少年は少し機嫌が悪そうに話す。そんなに悪いのかな?
「治しますので、ちょっと違和感が出るかもしれません」
「ありがとうございます。本当に助かりました。治療できる教会の方々が、みんなラクアノールへ行ってしまっていて治療出来なくて困っていたところでした」
「ラクアノールに?」
少年は女の子と顔を見合わせ、厳しい顔をする。
「あの……」
「失礼、すぐ治療を始めますね」
そう言って彼は手をかざすと、お湯に足をひたした様な感覚が足に広がり。金色のホワホワした光がまわりに飛び交う。
「うーん、……神の癒しはみな平等に、それは死と同じくありて、生まれる喜びもそこにある。そのすべて癒す力を今ここに」
「もしかして忍術ですか?」私は木を両手で掴みながら、彼に聞いた。
「忍術?」彼は不思議な顔をする。こっも違ったらしい。師匠の言う忍者は、どこにいるのだろうか?
「あははは、王子、忍術はこっちの侍の彼の国、日ノ本の隠密部隊の使う魔法ですよ。この子いい感じにクレジイーで、とってもいいですね。気に入りました。僕たちの旅に是非同行して貰いましょう」
「王子……」
「そうです。 僕はルシア エンドレセン、そのラクアノールの第一王位継承です。その僕に刺客を差し向けたのは、現女王のジュリエッタ妃です。今回はさすがに命の危機でした。そしてこの街の高位のヒーラーを我が国へ呼び寄せているとは……どうやらジュリエッタは僕を生かして帰す気はないらしい。そして母国への旅はまだ続くでしょう……。だから僕たちを守ってくれる人間が必要なのです。助けていただけないでしょうか?」
「僕はビエネッタ。母はルシア王子の乳母なんだ。だから幼い頃は一緒に過ごし、今は王子の影武者として彼に寄り添っている。なにぶん僕は女の子だから成長期が王子より早く来てしまったので、すべてにおいて一致という事はなくなったけどね。王子が厄を避けるためにだったり、ちょっとした趣味で女の子の恰好をしてる事はよくあることだから、きっと問題ないよ」
王子様とビエネッタはそう言い、私は足を恐れ多くも治療を受けながらそれを聞いていた。それにしても、これは恩人に対して断り難い状況だ。しかし王子の警護ともなれば、私の相手は魔物ではなく人間になる。私は深く考え込むが……。
「俺はいいが、彼女はつい先ほど知り合ったばかりの人間で、彼女に強制するような事はしたくない。だから今回、俺のみ行くっていうのはどうだろう?」
「そうですね。私も今回の事を恩にきせて無理強いするような事はしたくない。君、忘れてくれないか、今の話を」少年は顔もあげず、そんな事を言った。
「何を言っているんですか、ルシア様、僕たち今さっき死にかかったんだんですよ!? 今回の事だって彼女が居なければ人数に押されていれば、僕たちは貴方の命を失う事で、負けていましたよ! 僕は、僕たちの国は貴方失うわけにはいかないのですよ!」
彼女が言うと……お葬式のような空気が漂う。
私は聡神さんを見た。優しい聡神さんは貝のように口を閉じ、心を痛めているようだ。
「……行きます。同行致します」
私はそう言って口を閉じ観念した。
「やったールシア様、やりましたね。見ず知らずの僕たちを助けてくださったので、絶対すごーく優しい方々たちだと思っていました。ありがとうございます」
「そうですね」ルシア王子は立ち上がり、私と聡神さんの顔を見る。
「お二方、ありがとうございます。では、さっそくギルドへ行って雇用契約をしましょう。報酬は前……」と、凄く準備万端なしゃべりを見せた、ルシア王子は幌馬車を見て固まった。
幌馬車、全焼である。その前で御者が途方にくれ雨の中立っている。
「すまない、後払いで頼む」
「あはぁはは……わかりました」
こうして旅費が無一文になってしまった。王子一行との旅は始まろうとしていた。
続く
見ていただきありがとうございます!
またどこかで。