ノアから受けた解雇宣告
急に降り始めた雨の中を濡れながら、街外れのいつも通う迷宮に到着した私たち、しかしいつもの狩場には日ノ本からやって来た聡神さんがソロで迷宮ウサギを狩っていた。
彼の安定した太刀筋から、魔物の取り合いとなると判断したノアは、一階下のトカゲを狩りの標的に定めた。
けれど初めての獲物であっために思わぬことでピンチなり、その後のピンチの連続中、聡神さんの手助けもありなんとか、その危機を切り抜けた。だが、私の足はナナミちゃんの回復魔法では治療出来ない状態になっていたのだった。
☆
私たちがからくも倒した魔物の大トカゲから、ノアが思わず「おぉ」って声を漏らす物が取れたらしい。
出回る事は少ないそのアイテムを見て「市販の値段でいいので譲ってくれ」っとノアは言う。
聡神さんは「そんなに欲しいのなら、お前の取り分にすればいい」と言ったが「「ダメです!」」と、うちのパーティーの全員が言うので、それならと聡神さんが折れる形になった。
うちの里はそういう銭勘定にはとても厳しいので、そこら辺は普通の青年や乙女と一線を画しているが、それはそれで仕方がないかもしれない。
私たちは再びのトカゲの襲来を恐れ、迷宮の外へ出る事を決める。
もちろんというか、ノアに私を背中に背負うって概念があるかどうか不明だし、ノアは細く筋肉はあるが、戦闘用の筋肉しかなく、女の子より細いかもしれないくらいなので彼には期待出来ない。
しかし頼みの綱のクリストさんは「おれがお前をか!?」と言って、私の姿を上から下まで見て「そんな事出来るわけない」と言って向こうを見て顔を赤らめていた。
「これは……」ナナミちゃんと私は顔を寄せ合って、聡神さんを見る。
「お願いします。えっと……」「忍者、忍者」
私から名前を教えると、ストーカーぽくなるので、見てわかる彼のジョブをナナミちゃんに教えた。
「忍者様、うちの男性陣は女性に免疫がないのです! エクレアを背負って地上に連れて行ってくれませんか?」
白い装束を身に纏い聡神さんに私の事をお願いする彼女は本物の聖女様にようだ。さすがナナミちゃんいい仕事する。私は思わずガッツポーズしそうになった。
「すみません、よろしくお願いします!」
私は座ったままだが、頭をさげた。彼はうちの男性陣を見回す。背負う気ゼロのノアと、顔が赤いまま少し頭を抱えて、こっちをうかがうクリスト。
そして彼は観念し「わかった、聡神伊久磨だ。侍をやっている」
「あぁ~侍ですかー。エクレアです。よろしくお願いします」
「ナナミです。よろしくお願いしますー」
ノアたちはさっき挨拶していたので、「「すまないよろしく頼む」と、お礼だけちゃっかり言いに来る。行儀がいいのか、悪いのかわからない。
暗い迷宮を道を帰路につく、私たちは無口だった。
そして地上への階段が見える一本道で、背負われている私に向かって、ノアが静かに「エクレア、明日からもう来なくていい」そう言った。しばらく時が、止まったように感じた……。
「えっ!?」驚き共に聡神さんを見る。彼はいい人なのだが私より驚ろいてしまってしまっては、私は時を逃した気がして、それ以上驚くリアクション取れなかった。
「ふたりとも、俺が理不尽な事を言っているのはわかっている。足の治療費も払うし、たりなければ、言ってくれていい。理由はこちらの事情だ。もともとMP管理の出来てないナナミには他のジョブやらせるつもりだった。俺たちと一緒にやる以上だが。だからそこにヒーラーを入れると……」
彼はそれだけ言うと、言葉を詰まらせた。
ノアの言う事は一般的に理不尽かもしれない。しかしノアはナナミちゃんの両親からナナミちゃんの事をまかされている。……と、思う。だから同じ里で、彼らの事をよく知っている私には彼の言っている事を理不尽だとは覆せない。
「わかった。今、までありがとうございした」
「悪いな」
そう言ってノアは前方を歩く、カリストさんの元へ行き二人は二言三言、話したのち、ふたりは前を向いてただ歩いている。私は驚くほどあっさりと、パーティーを抜ける事になった。
その事で、心にぽっかりと穴が開いている事に気付く。抜ける事になって初めて、ノアのパーティーは私の中の居場所だったんだな……。
でも、もう終わった事だし、きっと戻って誰も幸せにならない。
「大丈夫か?」
「うーん、どうですかね? でも、聡神さんの背中は気持ちいいですね。普通に歩いてたら多分ちょっと凹んでました」
「……そうか」
彼の静かな声と、そして外からは雨音と雨の匂いがした。
疲労と、怪我、そしてやまない雨のせいで、私は少しずつ夢の中へと落ちていく。多分、ナナミちゃんが背われている私に何か布をかけてくれたようで、迷宮を出た私は濡れないですんだ。
★
……お香の匂いがする。師匠がお店で何か目新しいものとして買って来たのだろうか?
そして目を開けと『祈りの乙女』が天使たちを見上げて人々の為に祈っていた……。
……私、死んだ?
「神父様、ギアールのお弟子さん目を覚ましましたよー」
良く見るとここは教会で、私は世界の為に今も世界のどこかで祈っているという言い伝えの祈りの乙女の前で、厚手の布の上で寝かされていた。祭壇の反対には説教台が置かれ、私が踏まれないためかもしれないがすこぶる視界が悪い。
「えっ……、なんで? 、師匠が居るんですか?」
私は体を起こし聞くと、彼は「貴方は黒魔術師でしょう? それなのに黒いローブを身に着けていなくて、そんなハレンチな恰好ならギアールのお弟子さんでしょう?」
――…………私はこれからそんなおおざっぱな括りで、身分が判明するの?……。せめて嘘でもいいので、ギルドカードを拝見しましたと、言って貰いたかったな。たぶんそれはいい嘘だと思うなー。
「あれ? 違うんですか?」
「いえ、その通りでござます。ギアールの弟子、エクレアです。以後お見知りおきを」
「はぁ……。ギアールさんのお弟子さんなのに、随分としっかりしてるのですねー。カールです。よろしくお願いします」
――この人、何?! 正直過ぎるでしょう。それとも師匠はそんなに悪名高いの?
私は以前、師匠がどこからか貰って来たワサビを、食べたようにツーンと言うか、ガツーンとした衝撃に襲われていた。
そこへやって来たのは、神父様と聡神さんだった。二人は会釈をし合い、神父様を先頭にカールさんも別の部屋へと去って行った。
それにしても、聡神さんはそんなに親切だと少し心配になるレベルだが、彼は来てそうそう「ノアたちはあの子に、お前に抜けて貰う事をそのまま正直に話してしまったんだ。だからノアたちは来られなくなった」と、言って、ノアたちの事も心配って顔をしている。
「そっか……。似合ってたのにな、あの白い衣装」
「だが、それだけでは、許されない事もある。パーティーはそういうものだ」
「それはそうですねー」
私は動かない足のつま先を見る。座ったままでも、動かすとやはり痛い。
この足の怪我の治療費は前払いの治療なのか、それとも……。
ふと、見ると聡神さんも私の足先を見ている。彼がいくら優しいとはいえこれ以上拘束するのは悪いか。
「私の足どうなんでしょうか? もしかしてこのままだったりしますか?」
私は彼の顔色をうかがう。
「そんな事はない。が、それほどの怪我を見られるお方たちは今、ラクアノールに招かれてこの街には居ないらしい。後は優秀なヒーラーをギルドで紹介してもらうくらいだな」
「それは時間が、かかってしまいますねー」
「親兄妹は?」
「田舎になら」
彼は考え込んでいる。もしかしてこの人は、見ず知らずの私の面倒を見るつもりなの?
「大丈夫ですよ。きっとここなら松葉づえを貸して貰えるし、宿屋も1階なので、段差もありません。気にしない、気にしない」
「しかしだな」
聡神さんの顔を見て、私がにへらぁ~と笑っている時、外の様子が騒がしくなる。
「ちょっと見てくる」
「私も行きます! おんぶしてください」
そう、私は恰好良くおんぶをせがんだ。
言ってみるもので、聡神さんはちゃんと私を背負って教会の外へと向かってくれている。教会の外の様子も心配だが、聡神さんも将来も心配だ!
外へでると、教会の馬車を置くスペースに、後ろ側が半分焼け落ちた荷馬車が大きくカーブした車輪後を残しながら止まっている。こっちの火は雨でその内きえるだろう。
問題は、そのまわりに複数の馬の背に乗った、顔を隠した男のたち。その前に細身の剣を握る女の子が立ちふさがっている。その奥の荷馬車には御者が肩に矢を受け、それを子どもが引き抜こうとしているようだ。それは良くない血が止まらなくなる。
「聡神さん! 私をそこの庭の木の横に! そして子どもが矢を引きにこうとしています何とかなりませんか!?」
私は目の前に見えた、記念樹なのか、一本だけ生えている木を指さし叫んだ。
「こう、遠いと……。それより叫んで男たちに気付かれると、こちらの利が無くなる。まずあちらの男たちをどうかするべきだ。御者はたぶん、そのうち教会の神父出てくるから致命傷にはならないだろう」
私たちのやる事は決まった。しかし一難去ってまた一難、今日は本当に厄日決定だ。
続く
見ていただきありがとうございます!
またどこかでー。