非常事態
迷宮の広場、トカゲたちと戦う中、不用意なミスで多くの魔物たちが私たちの存在に気付いてしまった。新米パーティーは、階段を目指しこの危機を脱しょうとしていた……。
――あぁー大変、私は魔法の杖である、樫の木の杖で地面に防波堤となる1本の線を描く。
「大いなる飛沫をあげる滝の濁流よ! ここに我らが敵と隔てる壁を作れ!」
滝の壁が出来たが、この魔法は魔物たちが怯み滝を越えられないってだけで、攻撃手段としては全然ダメダメだ。時間稼ぎとなるが、それもある程度、理性がある魔物だけ……。
だから次の手を考えなきゃ。
私は足踏みをして考える。振り返ると、背後にいるノアは崩れ落ちながら歩いている。そんなに傷は深そうではなかった。しかし彼の言っていたトカゲの毒がやばいのかもしれない。
これじゃーまだ、時間を作らないといけない? どうしょうー!
私の作った滝は、敵の攻撃や進行を妨げるが、こちらの攻撃も通り抜ける際は弱体化してしまう。
頼みの綱のナナミちゃんは、階段部分まで逃げてしまっているだろうか? 遠くてよくわからない。
とりあえず私は走り出し、新たな魔法を唱えるための、新しく安全なエリアを確保しなければならない。
しかしなかな良い場所は見つからず、すぐにノアに追いついてしまった。
「おい、エクレア後衛は先に行けって……」
「うるさい! 気が散る!」私はそう彼に怒鳴って、ノアを追い越し走っていく。
ノア達を超え、道が細く、壁にかかったたいまつが、トカゲが来るだろう先に長ーく伸びた絶好の場所があった。
ふたたび、樫の木の杖を地面に突き立て、それを両手で支えながら目をつぶり集中する。息をゆっくりと整える。
薄暗い道の先から、カリストとノアがやって来る足音……。そしてそれを追うドダドタドタと無数の足音。
「原始の時、一筋の赤、敵を滅せよ……」
ドタドタドタ迫るトカゲ。今、丁度、赤々と燃えるたいまつ光の線へとトカゲが入った!
「赤き炎!」
幾つもの炎が私の杖、前方に現れノアたちの方へ線を引いて向かっていく。
トカゲたちは速さの違いは、あれどノアたちに目標を定め走って来る。丁度先頭のトカゲが弾みをつけ、支えとなるクリストを目掛け大口を開けて飛び掛かる。
ドォッーン!ドォン!! その横面へ炎が当たり、トカゲは壁に打ち付けられて動かなくなった。
そのまま次の炎が低く飛び、後へと続くトカゲたちへと次々に当たって行く。
ドカッ!ドン! ドン! ドドド!
「エクレア」
「駄目だ、これだけ続けて撃っているんだ。俺たちが記号くらいの認識しかされてない」
「ノア」
「すまん抱えて行ってくれ、この調子じゃ、集中はすぐ切れるエクレアの稼げる時間は少ない」
――それより先に魔力が尽きる。だから、止め時の見極めが肝心だった。
トカゲは装甲が厚いのか、1匹目にヒットしたモノは倒れるが、2匹目、3匹目のトカゲは吹っ飛ばす程度のダメージしか与えられない。
倒すのは1つの炎で、1匹では分が悪るすぎる。どうやらここの階層はトカゲが、トカゲを呼び込むタイプなのか減る気配がない。
ドォーン、ドォーン、ドォーン!
――いけない!? 魔法に集中し過ぎて、思った以上に距離を詰めらてる!?
樫の杖を持ち上げようとしていた手を止める。今までとは違う明らかに異質な音、声、鳴き声? とにかく敵対を示す声が聞こえる!
シャ――ァ――ッ、シャ――ァ――ッ
たいまつの光の闇の向こうから、現れたその大きなトカゲの姿は、いままのどの個体より明らかに大きい。
いけない! いけない! いけない! あれはボスなの!?
呼吸を改めて整える。微かに手の震えを感じる。師匠……。
『駄目な時は、なにやっても駄目だから、気楽に頑張りなさいよ』
青空の下で笑っている師匠。その記憶が蘇る、が、これはここで蘇っては、ダメな部類のきおーくー!?
「大いなる飛沫をあげる滝の濁流よ! ここに我らが敵と隔てる壁を作れ!」
はぁはぁはぁ……。今回はダメな時じゃなかった……。でも、たぶん魔力は尽きた、後は全力で走るのみ。
タッタッタと駆けだした私の前に、明るく階段は見えてくる。
―― ドォン ――
――えっ!? トカゲのボスが背後から足に喰らいついていた……。何故? 追ってくる気配はなかったはずだが、気が動転し過ぎてわからない。
どうやら滝の壁ではこいつの進行を妨げられず、私との距離を保ちながら私の気が緩む時を待って、突進ざまにジャンプをして私の足に深く喰らいついた……?
足に激痛があり、それが何故か熱いという感覚と混じる。アツイ! アツイ! ポタッ……ポタッと落ちている落ちている赤、それは私の血なの?!
窮地ほど冷静、思慮深く……、なんて無理でしょう!? だって痛いもの!
徐々にトカゲは顔を上げ、私の足を私ごと……持ち上げようと……している? 嘘でしょうこれ……?
「もぉ――!!」
私は手で床を伝い、なにくそぉ! っと足近くのトカゲの下顎にすぐさましがみつく。そしてすぐさまトカゲは顔をブーン、ブーンと、振り回し始める。最悪な事態はまぬれたが、トカゲの顔から手が離れたオシマイ! 魔法を唱えるどころ騒ぎではない。
「桜 花 斬 撃 !!≪オウカザンゲキ!!≫」
私の前に、上の階に居るはずの、聡神伊久磨刀を構えて立っていた。
きれいなピンクの花びらの舞う中で……。
――きれい……。これが師匠の言っていた忍法なのね?
そう感慨に浸っている時に、トカゲの噛む力が緩んだ。思いっきり無事な足でトカゲの顔を蹴り込む。
そして私の背後からトカゲに新たな魔法が、ドンドンドンと連続で撃ち込まれる。見た事のない魔法。その途端トカゲの口が開いた。
落ちるとともに無事な足を軸に立とうとするが、ズキィッ!!と、来る激痛で無様に倒れ込んでしまう。 その近くに顔色の悪いノアが立ち、魔法を撃ち込んでいるのがわかる。
「エクレア!?」
「ナナミちゃん……、助かったよ……」
ナナミちゃんが走って来て魔法で治療を始めた。そこでやっとスカートの裾を、気にして裾を伸ばした。良かった、大変な事態にはなってなかった。
――そして良かった……。これで助かる。
そしてガガァァ――!? と、雄叫びとともにバタンと、軽い感じの倒れる音がする。私は安心して手を胸に組み体の力を抜いた。
「エクレア!?」
「なにー?」
私は体を少しだけ起こして、ナナミちゃんを見る。
「エクレア、永眠しちゃったかと思ったよー」
「ははは……、でも、毒は効いてきちゃったみたいー……」
そういうとカリストさんが背中を支えてくれて、「いいから寝てろ」と言うので大人しく目を閉じた。
「エクレア……」
ナナミちゃんの呆れたって声がした。
「すまなかった。助けてもらって」
「いや、別に、彼女も無事だったらいいんだ」
さすが忍者は言う事がカッコいい。
「エクレア一応、回復が終わったけど、ねんのために立って貰いたいけど、今回、出血が多いようだから無理はしなくていいけど、どうかな?」
ナナミちゃんは私の顔の近くで、しゃがみ込みそう聞いて来た。
「まず、これを飲め」
ノアはまた小瓶を鞄から出しなげて寄越す。パシッ、「ありがとうございます」
上半身を起こし、ゆっくりチビチビと飲む。
――美味しーい! 染みわたーるー。これは体の調子が悪い時、美味しい系だったのか……。
「ノア、まだこの小瓶持ってますか?」
「まだ、欲しいのか?」
「いえ、どれだけ持ってるのかなって思って」
ノア、私を元気だなーこいつって顔をして、トカゲを解体しだし、聡神さんと報酬について相談しだす。
「はぁ……、疲れた」と言って壁を支えにしながら立った。
「痛いっ!?」怪我した足に激痛が走り、支えの壁によりかかりながらずるずると、下に落ちていく。
「大丈夫、エクレア」彼女は私の体を支え、ゆっくり床に再び座り込ませる。
「ナナミの技術不足だな。怪我の炎症は回復したかもしれないが、神経か何かが上手くつながらずにいるようだ」
近くに居たクリストさんがそう私たちに告げた。信じられない……。
続く
見ていただきありがとうございます。
また、どこかで!