誰かの善意
街中ではしゃいで駆けていった王子とビエネッタを追いかける。そういう事は結構慣れっこで、すぐに二人に追い付く事ができた。私が追いつき、その後から聡神さんが追いかけてくるのを、彼らは貴金属店のウインドウの前に立ち、待っていた。
そして聡神さんが追い付いたのを確認すると、その街の普通の少年が着るような木綿の服。その長袖の袖口から、およそ不釣り合いな金の腕輪を覗かせながら「では僕の身につけている、これらの装飾品を売ってお金をつくりましょう」そんなおよそ子供らしくない事をルシアは言い放つ。
「装飾品ってその貴金属ですよね。勝手に売ってしまっていいんですか?」
「はい、亡き母がこういう時に換金しやすいようと、これらのものを僕に持たせてくれていたのです。だから大丈夫、問題ありません」
そんな事を聞いてしまっては『はい、そうですか』と、とても言いづらい。だから、聡神さんが……。
「しばらくは、俺も食うに困らない分の貯蓄はある。だから、それは収めておけ」
そう言って、王子の手を彼の手で包みこみ、静かに下へ降ろしていくのを見るのも当然の流れのような気がした。
でも、王子は「貴方が、私の良い友だとしても施しは受けません」そう言うのだ。
――あぁ……私、毎回普通にノアの魔力回復薬の小瓶貰っていたなぁ~。ノアは合理的だから、そういうものとしか考えてなかった。こんど、ノアに甘いものが苦手な人でも、食べられるお菓子持っていこう。甘いものが嫌いか知らないけど、苦手そうだから。
「えぇ、どうして少し借りればいいのにー、僕たちは子どもであるという事実を認めるのは大切な事だと思うよ」
ピエネッタちゃんが、聡神さんとルシアあいだに場所を移しそう言った。
「これらの貴金属も僕の働いて買ったものではないけど、護衛の報酬も後払いで、このままずるずるとこの関係を続けるのは良くないと思わない? ビエネッタ。聡神さんを食い物にしているようで、親しい間柄としても嫌なんだ。それなら公的なギルドを頼るべきそう思う」
「ルシアはさぁ、そういう所が頭が固いよね、仕方ない。僕が協力して一緒にお金を作ろうか!」
「どうするんだ?」
「ルシア、僕が君の頭の上に林檎を置き、ナイフを飛ばして突き刺すよ」
そうピエネッタちゃんは太ももから隠しナイフを取り出し言った。彼女のバッチリ決まった決め顔と、彼女が持つ鈍く、そして黒く光るその鋭さに私は、言葉を無くし立ち尽くした……。
「ピエネッタ、警護対象に剣を向ける護衛がどこにいるんだ。お前はもう少し考えて物を言え!」
そうピエネッタちゃんはすぐさま、ルシアに怒られてしまう。
「でも、技能をいかして、簡単に出来るお金稼ぎの方法だよ。ルシア、君は働く事を舐めていないかい? リスクは付き物だよ」
「確かに僕は働く辛さを知らないが、その手段のために自分の命を簡単に危険さらす事はしたくない。今の僕の立ち位置では、それは無責任な事だ」
「……わかっているよ。僕は君をちょっと試しただけ、わかってくれるよね?」
「とにかく、金を換金してくれる店を、覗くだけ覗きませんか?」ビエネッタちゃんには返事をせず、ルシアは金銭問題の解決を優先していた。正直、二人の掛け合いはおもしろいが、永遠に続きそうだししょうがない。
そこですべてを察する侍、聡神さんは静かに語り出した。
「そもそも君たちは何を買おうと言うんだ」
「食事! 服! 家具!」ってな具合に、二人から意見が出る。
「家具はまだいらないし、服は古着を買ってやるからそれを着ておけ、それか教会へ行け、無料でくれる。食事はパンの耳が一袋、あそこのパン屋で買えるから買ってやる。栄養が偏っても一日くらいでは死なん」
「えぇーパンの耳なの!?」と、拒否の色を示すビエネッタちゃんに対し、「わかりました」と、受け入れるルシア。
そして本当に聡神さんはパンの耳を、パン屋で買うためにパン屋の入口をくぐった。
「あら久しぶり、今日は何買う?」パン屋のおかみさんが、彼に対して親し気に話す。どうやらそこそこ聡神さんの行きつけのパン屋のようだ。
「パンの耳を頼む」
「あら、そちらはもっと久しぶりね。また誰かに騙されちゃったの?」
「今度は無一文の子どもを、拾ったからな」
「もう聡神さんは! 子どもにはちゃんと食べさせなきゃだめじゃない!?」
お金を払い、パンの耳の大袋を受け取った、聡神さんが今度は怒られる事になってしまった。しかしすんなり相手に、信じられてしまうところが、聡神さんの凄いところだ。
そういってそのおかみさんは調理場の奥へと入っていき、「これうちの今日の昼ご飯のおかず。たぶん残ると思うから持って行って」といって聡神さん紙の箱に入ったそれを持たせる。
「いや、でも……」
「4人で、パンの耳一袋じゃたりないでしょう? ほらほら、子どもたちおかずが温かい内に帰りなさい!」
そしてあれよ、あれよという間に店を出る事になった。
「ルシア、この国に来てはこういう事もあっても俺は強く断れない、お前の言うように良くないと思うが、彼女の気持ちを思うと断れない。そしてこれはお前たちふたりの分だから、家に帰ったら分けてた食べろ」
そう彼が言うので、うちの宿屋のへみんなを連れて行き、今日出ていく事と、1階の共同リビングを使う事の了承をえた。
そしてルシアとピエネッタちゃんの前で箱を開けると、コロッケが入っていた。聡神さんはリビングルームに座ると、パンの耳を私が持ってきた小皿にいれてもぐもぐと食べだした。
私は多めにパンを貰い。共同の調理場に置いてある冷蔵庫から、買っておいた牛乳と卵を取り出し、その混ぜた液へパンを浸け。その後に砂糖をふりかけながらフライパンで焼く。その出来たものを、みんなの前に「はい」って出すと、ピエネッタちゃんには「わぁー美味しい!」って好評だったが、聡神さんとルシアは一口食べて押し黙った。
そしてしばらく彼は押し黙ったまま、何本か調理したパンの耳を食べた後、パンの耳の方を食べ「最高を知ると……普通が辛いな」と言った。その後に続き、残りの私たちもパンの耳を黙って食べた。
ちょっと余計な事をしてしまっただろうか? って気もしたが、砂糖でまぶしたパンの耳はやっぱり美味しい。
「それにしてもさっきは、聡神さんは思い切った行動しましたとね。日ノ本では偉い人の息子にパンの耳のみとか食べさせても、お咎めとかないのですか?」
そう彼に聞くと、彼は少し固まったのちに。「……なるな。下手をしたら腹を切る事になる」
「えぇ――!?」
思わす声をあげて叫んでしまった。優しいばかりと思っていた聡神さんも、そんな突拍子もない事をするんだ。と驚いた。
続く
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