2 いざ、脱出!!
登場人物紹介と一つ目のエピソード投稿しただけでやり切った感を感じてしまって二つ目のエピソード投稿まで結構日にちが空いてしまいました!!
すみません〜
ー夜ー
セレフィーナは脱出計画を実行していた。
「……行くのよ、セレフィーナ。」
小さく自分に言い聞かせると、セレフィーナはもう一度深く息を吸った。冷たい夜の空気が肺にしみる。震える指先をぎゅっと握りしめ、扉の外に一歩を踏み出した。
深夜の宮殿は、昼間の華やかさが嘘のように静まり返っている。壁にかけられたランプがぼんやりと灯り、長い廊下を淡く照らしていた。
――行くなら、今しかない。
この機会を逃せば、もう二度と自由を手に入れることはできないかもしれない。もし見つかれば、また王女としての檻に閉じ込められてしまう。けれど、もう戻るつもりはなかった。
靴音を立てないように、そっと足を踏み出す。
(巡回の時間は……あと少しだけ余裕があるはず。)
宮殿にいる間、自由を求めてあちこちを探検していたおかげで、護衛たちの見回りの時間も大体把握している。あと十数分は、誰もこの廊下には来ない。
廊下の奥にある王族専用の階段へ向かう。表向きには使われていない古い石造りの階段だが、幼い頃に侍女に隠れて見つけた秘密の抜け道。巡回する兵士たちもここには気づかない。
冷たい手すりを伝いながら、一歩ずつ下りる。薄暗い階段の空気はひんやりと湿っていて、時折、どこかから水滴の落ちる音が響く。胸が早鐘のように鳴り、喉が乾くのを感じる。
(まだ大丈夫……誰にも気づかれてないわ。)
階段を下り切ると、目の前には重い鉄扉が現れた。錆びついているが、鍵はかかっていない。以前ここを見つけたとき、念のため開けられるか確認しておいたのが功を奏した。
(これを抜ければ、宮殿の外……。)
両手で扉に手をかけ、静かに力を込める。きしむ音がしないように、ゆっくり、慎重に――。
冷たい夜風が隙間から吹き込んできた瞬間、心臓が跳ね上がった。自由の匂いが、確かにそこにある。
「……よし。」
そっと扉を押し開け、外に身を滑り込ませる。外は闇に包まれていたが、月明かりが足元をかすかに照らしていた。宮殿の裏庭――ここはあまり手入れされておらず、草木が生い茂っているため、護衛もめったに近づかない場所だ。
(ここを抜けて、城壁の外へ……。)
広い庭を横切る前に、セレフィーナは足元に気を配りながらしゃがみ込んだ。夜露に濡れた草が手に触れる。息を潜め、護衛がいないことを確かめる。
遠くで微かに、甲冑が触れ合う音が聞こえた。正門付近を巡回する兵士たちだろう。彼らがこちらに来る前に、行かなくてはならない。
――今だ。
セレフィーナは体を低くしたまま、草むらを静かに駆け出した。月明かりが肌を冷たく照らすが、それさえ心地よかった。
王女として生きていたら決して味わえない、自由の感触。
やがて視界の先に、古びた石壁が見えてきた。宮殿を囲む高い城壁。正面には厳重な門があるが、彼女が向かうのはその裏手――崖沿いの崩れかけた部分だ。
ここもまた、幼いころに見つけた秘密。誰にも言わずにいたこの場所が、今の彼女にとって唯一の出口だった。
手を石にかけ、慎重に体を引き上げる。指先に石のざらつきが食い込むけれど、それくらいでは止まれない。ワンピースの裾を気にする余裕もなく、必死で壁をよじ登った。
「……あと少し……!」
息を切らしながらも、最後の力を振り絞って身を引き上げる。
そして――ついに城壁を乗り越え、外へと身を投げ出した。
崖を伝って地面に降り立つと、膝に手をついて荒い息をつく。見上げれば、宮殿の塔が暗闇に浮かび、遠くに見える明かりがまだ煌々と燃えている。
もう戻れないかもしれない。でも、それでもいい。
セレフィーナは深く息を吸い込んだ。
――自由の空気が、こんなにも甘く感じるなんて。
「私は……私の人生を生きるの。」
誰に言うでもなく、そっとそう呟くと、彼女は夜の闇に向かって駆け出した。