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【コミカライズ連載】エステルは二度目は許さない ~一度目の人生で断罪された令嬢は、舞い戻り無能王子と優雅に踊る~  作者: shiryu


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コミカライズ記念SS


 ヴィクター殿下が断罪されてから、しばらく経った。


 もちろん、すべての問題が解決したわけではない。

 あの男は脱獄し、今もどこかで新たな陰謀を企てているかもしれないのだから。


 それでも、以前と比べれば随分と穏やかな日々を過ごせるようになった。


 そんなある日のこと。


「エステル、明日は時間があるかな?」

 グランディール家を訪ねてきたレオンハルト様が、突然そんなことを尋ねてきた。

「明日、ですか?」

「ああ。少し僕に付き合ってほしいんだ」

「もちろん構いませんが……何かありましたか?」

「ちょっとね。詳しいことは明日になればわかるよ」


 レオンハルト様は、どこか楽しそうに微笑んだ。


 ……怪しい。


 いや、この方を疑っているわけではない。

 けれど、これまで何度も共に陰謀を暴いてきたのだ。


 こうして目的を伏せられると、どうしても何かあるのではないかと考えてしまう。


(もしかして、ヴィクター殿下について新しい情報が?)


 あるいは、グスタフの行方に関する手がかりが見つかったのかもしれない。


「わかりました。明日は予定を空けておきます」

「ありがとう。楽しみにしているよ」

「ええ、私もです」


 そう答えながら、私は頭の中で明日の準備を始めていた。


     

 翌日。


 約束の時間になると、レオンハルト様が迎えに来てくださった。


「お待たせ、エステル」

「いいえ。私も今、準備ができたところです」

「そのドレス、よく似合っているね」

「……ありがとうございます」


 突然褒められて、思わず視線を逸らしてしまう。

 あの舞踏会で告白されて以来、どうにも調子が狂ってしまう。


 私は気を取り直して、レオンハルト様と馬車に乗り込んだ。


 ところが。


「あの、レオンハルト様?」

「どうしたんだい?」

「王宮へ向かうのではないのですか?」

「ああ。今日は街へ行こうと思ってね」

「……街、ですか?」


 街ということは、誰かと密かに接触する予定でもあるのだろうか。


 そう考えているうちに、馬車は王都の賑やかな通りへと到着した。

 周囲には商人や買い物客が行き交い、あちこちから楽しそうな声が聞こえてくる。


「エステル、何か難しいことを考えている?」

「えっ? い、いいえ。何でもありませんわ」

「そう? ならいいんだけど」


 レオンハルト様は小さく笑うと、私を一軒の店へ案内した。


 そこは、王都でも評判の菓子店だった。


「……こちらですか?」

「ああ。ここの焼き菓子が美味しいと聞いてね」

「そうなのですね」


 なるほど。


 菓子店なら、周囲に怪しまれることなく誰かと会うことができる。

 私は店内をさりげなく見渡した。


 しかし、怪しい人物は見当たらない。

 いるのは、菓子を楽しんでいる貴族の令嬢や、仲睦まじそうな男女ばかりだった。


「エステルは何が好きかな?」

「え?」

「せっかくだから、好きなものを頼んでほしいんだ」

「あ、では……こちらの果実のタルトを」

「いいね。僕もそれにしようかな」


 ほどなくして、色鮮やかな果実が飾られたタルトが運ばれてきた。

 一口食べると、甘酸っぱい果実と滑らかなクリームが口の中に広がる。


「……美味しい」


 思わず声が漏れた。


「気に入ってくれた?」

「はい、とても。こんなお店があったなんて知りませんでした」

「それはよかった」


 レオンハルト様は嬉しそうに微笑んでいる。


 ……あら?


 そういえば、まだ誰とも接触していないわね。


「あの、レオンハルト様。こちらでどなたかとお会いになる予定なのですか?」

「いや? 特にないけど」

「……そうなのですか?」

「ああ。君が喜んでくれそうだと思ってね」

「……ありがとうございます」


 私は小さく頭を下げた。


 けれど、疑問は深まるばかりだった。


 菓子店を出たあとも、レオンハルト様は街を案内してくださった。


 美しい装飾品が並ぶ雑貨店。

 珍しい本を扱う書店。

 さらには、花々が咲き誇る小さな広場まで。


 どこへ行っても、レオンハルト様は私の反応を楽しそうに眺めている。


 しかし、肝心の調査らしいことは一向に始まらない。


(……おかしいわね)


 もしかして、私が気づいていないだけで、すでに何かが進んでいるのかしら。


 だとしたら、共犯者として情けない。


 私は意を決して、隣を歩くレオンハルト様に声をかけた。


「あの、レオンハルト様」

「何だい?」

「そろそろ、今日の本当の目的を教えていただけませんか?」

「本当の目的?」

「ええ。ヴィクター殿下に関する情報でしょうか。それとも、何か別の調査を?」


 私が尋ねると、レオンハルト様はきょとんとした。


 そして。


「……ふっ、ははっ!」


 突然、声を上げて笑い始めた。


「れ、レオンハルト様?」

「いや、ごめん。まさかそんなことを考えていたなんて」

「……違うのですか?」

「違うよ。今日はただ、君とデートがしたかっただけなんだ」

「…………はい?」


 今度は私が固まる番だった。


 デート……デート?


 頭の中で、その言葉を何度も繰り返す。


「で、ですが、昨日は何か目的があるような……」

「君に付き合ってほしいとは言ったけど、仕事だとは言っていないよ?」

「そ、それはそうですが……!」


 確かに、その通りだった。

 レオンハルト様は一度も、調査や仕事の話などしていない。


 勝手に深読みしていたのは私だけ。


(……なんてことなの)


 ヴィクター殿下の陰謀を暴き、クラリッサの嘘を見抜き、数々の策略を乗り越えてきたというのに。


 まさか、こんな単純なことに気づかなかったなんて。


「エステル、もしかして昨日からずっと考えていたの?」

「……ええ、少し」

「少し?」

「……夜遅くまで」

「ふふっ、それは申し訳ないことをしたね」


 そう言いながら、レオンハルト様は明らかに笑っている。


「わ、笑わないでください!」

「ごめん、ごめん。でも、君らしいと思って」

「まったく……最初から教えてくださればよかったのに」

「そうだね。ただ、君を少し驚かせたかったんだ」

「十分驚きましたわ」

「それに……」


 レオンハルト様は、そこで少しだけ表情を和らげた。


「君には、たまには何も考えずに楽しんでほしかったからね」

「……レオンハルト様」

「これまで、ずっと気を張っていただろう? だから今日は、ただのエステルとして過ごしてほしかったんだ」


 その言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなった。


 確かに私は、二度目の人生を始めてからずっと復讐のことばかり考えていた。


 誰が敵で、誰が味方なのか。

 どんな言葉にも裏があるのではないか。


 そうやって疑い続けることが、いつの間にか当たり前になっていたのだ。


「……ありがとうございます」


 私は小さく微笑んだ。


「おかげで、今日はとても楽しかったです」

「それならよかった」

「ただし、次からは最初に教えてくださいね」

「善処するよ」

「……その言い方、あまり信用できませんわ」


 私がそう言うと、レオンハルト様はまた楽しそうに笑った。




 夕方になり、そろそろ帰る時間が近づいてきた。


 夕日に照らされた街並みを眺めながら、私は今日の出来事を思い返す。


 美味しいお菓子を食べて、店を巡って、他愛もない話をして。

 それだけなのに、不思議なくらい満たされた気持ちになっていた。


「エステル」

「はい?」

「また、こうして二人で出かけてもいいかな?」


 レオンハルト様が、少しだけ真剣な表情で尋ねてきた。


 その顔を見て、私はあの舞踏会での告白を思い出す。


 人生のパートナーになってほしい。


 そう言ってくださったレオンハルト様に、私はまだ正式な返事をしていない。


 それでも、今日一日を過ごして、ひとつだけ確信したことがある。


 私は、この方と一緒にいる時間が好きなのだ。


「……ええ。もちろんです」

「本当かい?」

「はい。ただし、次は最初からデートだと教えてくださいね」

「それなら、また誘ってもいいんだね?」

「……そういう意味です」


 私が少し顔を逸らすと、レオンハルト様は嬉しそうに笑った。

 そして、そっと手を差し出してくる。


「では、帰ろうか」

「ええ」


 私はその手を取った。


 大きくて、温かな手。


 以前は共犯者として何度も手を取り合ってきたけれど、今は少し違う意味を感じてしまう。


(……まったく。この方には、どうにも調子を狂わされてしまうわね)


 復讐の策略なら、簡単に負けるつもりはない。

 けれど、恋愛の駆け引きとなると、どうやらまだまだ敵わないらしい。


 ……まあ、それも悪くないかもしれない。


 そう思いながら、私はレオンハルト様の手をほんの少しだけ強く握り返した。


 二度目の人生。


 復讐のために始まった私の物語には、どうやらまだ、思いもよらない幸せが待っているようだった。




コミカライズ記念のSSです!


コミカライズが本日10/31から、コミックフェスタにて連載開始です!

下記にURLを貼っておりますので、そこから飛んでお読みください!


よろしくお願いします!

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『エステルは二度目は許さない~死に戻り令嬢と無能を装う王子の華麗なる復讐劇』
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