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エステルは二度目は許さない ~一度目の人生で断罪された令嬢は、舞い戻り無能王子と優雅に踊る~  作者: shiryu


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21話 共犯者と舞台へ


 私が被告席で立ち上がり、第二王子であるレオンハルト様が隣へ歩み寄ってきたとき――私達は、まるで示し合わせたように微笑み合った。


 裁判所の厳粛な空気の中で、周囲は一瞬でざわつく。


 遠くでミリアムが唇を引き結んでいるのが見えたけれど、私は構わずレオンハルト様と視線を交わす。


(計算通りですね、殿下)


 私が目でそう訴えると、彼はかすかに頷いてわずかに笑みを深めた。

 周囲から見れば冷ややかに映るほど落ち着いた態度だが、私にはその笑顔が頼もしさの証明に思える。


「では、これより被告エステル・グランディールの反証を聞きましょう。エステル、証拠はあるか?」


 裁判長が重々しく問いかけるなか、私はすぐには答えず、隣のレオンハルト様を示すように視線を向けた。


 彼もまた、一歩前へ進み出る。


「この裁判を傍聴しているだけのはずが、急に第二王子殿下まで……。どういうご関係で?」


 書記官の声に、傍聴席の一部がまたどよめいた。

 私と王子、しかも無能王子と呼ばれてきた彼の繋がりが表沙汰になるのは、当然騒ぎになるだろう。


 私たちの関係を表に出すタイミングは、きっと今しかない。むしろ、そうしなければ私の無実を証明することは難しかった。



 ――実は、この貴族裁判が始まる前から、私たちは話し合っていたのだ。


 時はさかのぼり、裁判の前日。

 朝早くから寝付けず、私はグランディール家の離れにある書斎で書類を見直していた。


 やがて扉が静かに開き、フードを被ったレオンハルト様がひそかに入ってくる。


「おはよう、エステル。……ずいぶん疲れてるみたいだね」


 彼はいつもの眠たげな瞳で私を見つめる。私は苦笑いしながら、机の上のメモを指さした。


「ご覧のとおり、私のほうで集められる証拠は限られていて……ミリアムの捏造を暴く決定的な材料は、どうしても王家の記録や財務大臣まわりの動きを押さえなくちゃダメなんです。つまり……」

「つまり、僕が表に出なければならないんだね?」


 レオンハルト様は私の言葉を遮るようにさらりと続ける。

 淡い金髪をかき上げる仕草はどこか気だるげだけれど、その灰色の瞳には鋭い光が宿っている。


「ええ。私とあなたが『共犯者』であることを隠したままだと、今回の横領疑惑を覆すだけの証拠を正規の場で提示できそうにありません。……ご迷惑をおかけします」


 自嘲気味に言う私に、彼はくすっと笑いかける。


「いいさ。むしろ一緒に舞台に上がれるのは望むところだ。『無能王子』なんて呼ばれているままじゃつまらないしね。僕も君に救われてるから、ここは遠慮なく頼ってほしい」

「ありがとうございます。……では、裁判の場で、私たちの関係を公にするかもしれません」


 そう告げると、彼は目を細めて楽しそうに微笑んだ。


「もちろん。舞い踊りましょう、僕の共犯者。せっかくの舞台だ、鮮やかに決めようじゃないか」


 私たちは顔を見合わせ、そのまま小さく笑い合った。

 それは、私が一度死にかけて以来、久しく感じなかった安心の瞬間でもあった。


 ――そして、今。


 貴族裁判の現場で、レオンハルト様は堂々と私の隣に立つ。


 あれほど無能王子と軽んじられてきた彼が、まさか私の無実を証明するために姿を現すなど、ミリアムも傍聴席も予想だにしなかっただろう。


 私は一歩前へ進み、意図的に会場全体へ声を響かせる。


「皆さま、驚かれるかもしれませんが、私は第二王子レオンハルト殿下に協力を願い出ました。今回提出されている証拠が、いかに捏造されたものか――その証明には王家の正式な記録が必要でした。そして、その記録を得るには、レオンハルト殿下の権限が不可欠だったのです」


 ざわり、と人々の驚きが伝わる。

 遠くでミリアムが顔を引きつらせているのがわかる。


 裁判長は、面食らったように目を見開きつつも、視線でレオンハルト様に続きを促した。


「第二王子として、私が提出する書類があります。グランディール家の財政報告や、王家への納税関連の記録、それから財務大臣グスタフ殿とのやり取りに関する書類……これらを照らし合わせると、明白に見えてくることがあります」


 そう言って、レオンハルト様は懐ろから書類の束を取り、裁判長と書記官へ手渡す。


 まさかここまで具体的な資料が提示されるとは誰も思っていなかったらしく、一瞬、会場が静まりかえる。

 私はその機を逃さずに口を開く。


「被告である私が主張するのは、ミリアム・グランディールによる証拠の捏造です。まず彼女が提示した私の印鑑や契約書ですが、第二王子殿下の権限で確認した王宮の原本と照らし合わせると、印影や署名の配置が不自然にズレているんです。それだけでなく、グスタフ殿への資金の流れも、実際には私ではなく“別の人物”が管理していた……」

「その別の人物とは一体……?」


 裁判長がなおも確かめるように問うと、私はちらりとミリアムのほうを見る。

 視線が交差した瞬間、彼女の瞳は大きく見開かれていた。


「ミリアム・グランディール本人です。財務書類を扱える立場を利用し、私の印鑑やサインを無断で複製し、不正な資金操作をしていました。それをグスタフ大臣側が黙認していた――いえ、むしろ共謀していた可能性があります」


 その言葉と同時に、レオンハルト様がさらに追い打ちをかけるように声を上げる。


「さらに、ここにある書簡はグスタフとミリアム嬢の私的なやり取りを示すものだ。彼らは明らかに『ある派閥』の利益を得るために、グランディール家の財政を利用しようとしていた節がある。ミリアム嬢が出した証拠は、その計画を隠すため、そしてエステル嬢を陥れるための捏造である可能性が極めて高い」


 レオンハルト様の穏やかだが芯のある口調に、傍聴席が一気にどよめく。

 ミリアムは唇を噛みしめ、まるで信じられないという表情で小刻みに頭を振っていた。


「ありえない……そんな、馬鹿な……! そんなはずないわ……!」


 彼女の声は震え、周囲の貴族たちが困惑と好奇の視線を浴びせている。


 裁判長と書記官が慌ただしく書類を読み込み、関係者である数人の証言を照らし合わせる。いまや空気は完全に騒然としていた。


 しばらくして、裁判長は大きく息をつき、そこでようやく人々に静寂を促す。


「このままでは、グランディール家の内部問題に留まらず、国全体を揺るがしかねない大事件となる。……しかし、現時点で審理できるのは『被告エステル・グランディールの横領疑惑』に関してだ。レオンハルト殿下が提出された記録を確認する限り、少なくとも彼女が犯人ではない可能性が非常に高い。捏造された印影であることも、ほぼ証明されていると言える」


 その一言に、私は胸を撫で下ろす。

 ミリアムが絶句している横で、レオンハルト様がそっと私を見つめ、静かに微笑んだ。


 裁判長は書類を机に置き、慎重な調子で言葉を続ける。


「よって、当裁判所としては、エステル・グランディールに関して『無罪』と判定する。さらに、ミリアム・グランディールが提出した証拠については捏造の疑いが強いと判断せざるを得ない。今後、ミリアム嬢およびグスタフ大臣の関係を含めて、別途調査を行う必要があるだろう」


 最終的に、裁判長が木槌を打ち下ろすと、それを合図に会場は怒涛のようなざわめきに包まれた。


 死刑どころか無罪放免となった私。


 しかも、ミリアムが「被告」側に回る可能性まで示唆されてしまった。


「ば、馬鹿な……こんな、私が、そんな……!」


 ミリアムは呆然自失としながら、何度も「ありえない」と繰り返している。


 その姿は今まで見せてきた優雅な佇まいとは打って変わって、まるで崩れ落ちそうなほど取り乱していた。


 私はふっと息を吐き、レオンハルト様と視線を合わせる。

 混乱した空気の中、私たちは自然と笑みを交わした。


「殿下、ありがとうございます。あなたがいなければ、私は今頃……」


 小声でそう告げると、彼は首を横に振る。


「いや、僕だって助けてもらったさ。共犯者としてね。舞台はまだ終わらないだろうけど」

「ええ、まだミリアムの件もグスタフの件も決着はついていませんので」


 私は取り乱したミリアムを睨む。


 待っていなさい、ミリアム。


 あなたの罪は、すぐに清算させてもらうわ。




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