4.Rest in Peace
(出だしからハードなので、今回の話だけR15 相当かも知れないです…)
濁った悲鳴が部屋中に溢れ返り、血が壁一面に咲き誇る
何処にそんな力が残されていたのか、マトは白眼を剥いたまま、汚れた子猫を素手で引き裂くとその血を啜り、体毛のこびり付いた肉を貪っていた
「もしマトが本当に悪魔憑きであるなら、これ以上を許容する事は出来ない」
私は噎せ返る臭いを嗅がぬよう、袖で鼻と口を覆いながら明星に言った
「何回か言った通り、彼女は悪魔憑きでは無いよ」
「むしろ、君にでも解る表現で言うなら、病気に近い状態と言えるね」
明星は、猫から滴った様々な体液を浴びて本物の悪魔の様な姿となったマトを視続けていた
私はそこに何かしらの感情を探そうとしたが、表情からは何も読み取る事が出来なかった
「人間が狂気になる病など、聞いた事が無い」
今はマトは動物を殺しているだけかも知れないが、この狂気は危険だ
私はもう審問官では無かったが、正義まで捨てたつもりは無かった
「それは君がまだ知らないってだけの事さ、審問官」
言い終えると、明星は私の首筋に息を吹き掛ける
息の当たった場所が灼けたように痺れた
「もう少しだけ、僕の話を聞いて欲しいな」
明星が上目遣いに私を視る
誘惑に頭を支配されないように、私は頭を振ると、隠し持っていた短刀を自分の脚に突き刺した
その時、マトが白眼を剥いたまま言葉を発した
お救い下さい
私をお選び下さい
繝「繝ォ繝繝薙い 様
最後はほとんど聞き取る事が出来なかったが、その禍々しい響きが悪魔教団の祈りの言葉の様に私には感じられた
「また、この物語のネタばらしをするね」
溜息混じりに明星が口を開いた
「彼女が信仰しているつもりの悪魔は、実際には存在しない」
「マトは、自らの狂気が心の内から発している声に操られているんだ」
「それならば」
今度は私が口を開いた
原因がもし明白であるなら、解決の方法もある筈だ
「答えは簡単だ」
「少しして落ち着いたらマトに『お前は有りもしないものに取り憑かれているぞ』と話そう」
「話しながら証拠を粘り強くいくつか示せば、きっと向こうも解る事だろう」
私が話す程に、明星の表情は昏くなっていった
「論理的に考えれば、多分そうなんだろうね」
「でも…」
説明に窮した仕草、言い方に困った様子で明星は言葉を選んでいた
「彼女には、その『ありもしないこと』が現実なんだ」
「それを壊して彼女を救う事は、多分出来ない」
その時、窓の外に広がる夜闇の中で、いくつかの動く光が私には視えた
「待て、明星」
「この家はもしかすると、もう囲まれているな」
この部屋の騒乱に掻き消されていたため気付かなかったが、静かな足音に家が取り囲まれている気配を私は感じ取った
静かに足音を隠して多勢で人の家を取り囲む理由は、この世界ではあまり多くない
「これは恐らく─」
私が説明を始めるより早く、玄関の扉が暴力で破壊される音が総てを飲み込んだ
《次回 第5話 "Let the flames ignore the sinless."》