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1章 配管工のおしごと2

「んっ……」


 声が漏れる。針に刺されたような冷たさがまだ夢心地の目を開かせる。我慢しながら首元から足先まで軽く拭うと、寄せた服を足の指で器用につまみ上げてシンクの中へと放り投げていた。


 部屋の中には紐が垂れ下がっている。そこには数少ない衣服が揺れていた。クローネはその中から白のタンクトップとホットパンツを手に取って手早く着替える。


 スポンジもシンクに投げ入れて、クローネは食糧庫へと向かっていた。雪室と同じく金属製の箱を開けると、中から食材を掴み上げる。


 それはミルクのように白い生きた芋虫が三匹と、一掴みの傘の広い薄茶色のキノコだった。太陽の当たらない世界では緑の植物を育てることは難しい。それを()んで育つ家畜など、一生に一度食べる機会があるかどうか。その代用として生産されているのがこぶし大まで大きくなるオオマダラコウチュウの幼虫だった。

 味はかすかな甘みがあり、分厚い皮の下にはクリーミーな体液がみっちり詰まっている。キノコと砂につくミネラル分で育つ芋虫は生きるのに必要な栄養を多く含んでいた。


 ボウルを用意し、その上で芋虫の口を捻る。唯一固いそこは周りの皮を引きちぎり、ぼたぼたと体液を垂れ流していた。

 出し切り、残ったのは消化器官とゴムのような皮だけ。砂を大量に含む内臓はどれだけ絶食させても完全に内容物を出し切ることは難しいため食用には向かない。手間を考えれば捨てるほかなかった。


 そこにキノコをちぎり入れて、蒸し器に入れる。別の蒸気栓をひねって加熱している間、小さな氷山が流れるシンクの中で洗濯をしていた。指先の感覚が怪しくなるほどの冷水に、クローネは表情一つ変えずに衣服を洗い続ける。時折鼻を近づけて、臭いがあるようなら蒸気を少しだけ当てて汚れを浮かせてとる。


 よく絞り、先程取って空いたスペースにかけ直す。これで洗濯は終わりだ。次いで温め終わった食事へと向かう。


 緩く出し続けていた蒸気を止めて、蒸し器の蓋を開ける。立ち上る香りはいつもと同じで、ほのかに土臭さが混じっていた。

 ボウルを取り出し、匙を入れる。椅子に座る時間も惜しんでクローネはその場で食事を始めていた。


 加熱された虫の体液は程よく固まっていた。すくい上げると形を保ったまま、赤子の肌のようにぷるんと揺れている。それをクローネは匙を何度も突き立てて崩し、ボウルを傾け流し込むように喉に通していた。


 ……ご馳走様。

 忙しない食事を終えて、水分を含んだボウルに乾いた砂をまぶす。乾いたらよく払い落とせば綺麗になるからだ。

 味はいつも通り。脂肪分が多くねっとりと舌に絡んで、甘みと柔らかな塩味を含んでいる。そこへキノコの旨みが溶けだして、口の中で多重奏を奏でていた。ただ朝夕とほとんど代わり映えのしない食事に今更感動などなく、これからも死ぬまで同じものを食べることを考えると食事は栄養補給と割り切るしかなかった。


 生ゴミを片付けて、吊るさがっているツナギを手に取る。土気色のそれはまだ湿っていたが、一日作業をしていれば汗まみれになるからと気にせず袖を通す。

 蛇のように肌に絡まるツナギに若干の不快感を覚えながらクローネは部屋の入口へと向かう。


 目が覚めてから三十分ほどが経過していた。朝の準備を全て終えた彼女はドア近くに置いてある工具箱を持ち上げる。ガラガラと音を立てるそれの重みで身体を傾けながら、ドアを開けて外へと一歩踏み出していた。

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