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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ニートんちの廊下がダンジョンになった!!~俺は昼飯を食うため、はるか台所を目指す~

作者: numa


 俺の名前は時任(ときとう)まさる。一応、肩書は高校生だが、ひきこもりだ。


 学校は怖い。クラスメイトにリンチにあってからは、家の外には出れなくなった。


 それからは、ひたすら家でゲームをする毎日だ。


 ゲームなら誰も俺を傷つけないし、痛くもないからな。


 もっともこれ以上、親に迷惑をかけるのは問題だ。なんとかしたいと思うが……部屋の前に立つと体が震えるんだよな。


 俺はいつもの、答えの出ない問題に悩んだ。そうしていると、不意に俺の腹がなった。


 ああ、そういや腹が減ったな。そう思ってスマホで時間を確認すると、『14:28』と表示されていた。なんだ、もう十四時半(にじはん)か。ゲームに夢中になりすぎて、昼飯を忘れてたみたいだな。


「……飯を食わないと」


 そう言って、俺は部屋のドアの前に立つ。体が震える。大丈夫だ。いつも母さんが部屋の前に飯を置いてくれてる。


 ドアを開けて飯を取るだけだ。誰も俺を傷つけたりしない。大丈夫だ。


 意を決して扉を開けると、そこには廊下があった。それ自体は普通だ。だが長さが普通じゃない。俺の部屋から一階に降りる階段まで、数㎞に渡って廊下が続いている。廊下の幅も数百mほどに広がっていた。


 これじゃあ、ちょっとした道路みたいな広さじゃないか。


 もちろん、昼食は置いてない。


「はぁ!?」


 なんだこれ、どうやったらこんなことになる?家の中だぞ!?二階の俺の部屋から、一階に降りる階段まで数mもないはずだ。


 空間がねじ曲がったのか?いや、そんなこと物理的にあり得ないだろ。


 そんなことを考えていると、廊下に丸い影のようなものがいくつか現れた。


 そこから黒い(もや)が浮かび上がり、人の形を為していく。


 あれは…オークか?


 (もや)が二足歩行の豚みたいな生き物になった。


 なんだ?何が起きてる?廊下が数㎞もあって、廊下に複数のオークが出てきた?これは何だ?夢か?


 ほっぺたをつねるが、痛い。夢ではなさそうだ。


 俺が思考に没頭していると、いつの間にかオークに囲まれていることに気づいた。


 やばい!殺される!! 必死で逃げようとするが、足がすくんで動けない。


 そう思った瞬間、オークの槍が俺の胸を突き刺した。


「がはっ…」


 胸が熱い…意識が遠くなる……目の前が暗くなって……


[あなたは死にました]


[リスポーン地点で復活します]


 ………………………… 気がつくと、俺は自分の部屋に居た。


 なんだ?俺はオークに殺されたはず…もしかして、本当に夢だったのか?


 俺は淡い期待を抱いて、再びドアを開けてみた。


 数㎞の廊下が続いている。無数のオークが闊歩している。ダメだ、さっきと変わってない。


 死に戻り…みたいなことができるってことか?しかし…現実にそんなことあるわけない。ゲームの世界に入ったなんて、もっとありえないしな。


 とにかく死んでも大丈夫なら、色々試してみるしかないか…?


 足が震える。当たり前だ。生き返れるからって簡単に死ねるもんか。


 だが、どうにかして昼飯を食わないといけない。


 昼飯だけなら我慢すればいいが、このまま部屋にいたらずっと飯が食えない。いずれは餓死するだろう。


 死に戻りの仕様はわからないが、下手したら生き返っては餓死し続けることになるかも知れない。


 やるしかないってことか…。


 俺は覚悟を決めて、廊下に一歩踏み出そうとした。


 だが、やはり足がすくむ。まるで(おもり)でもついてるかのように、足が動かない。


 大丈夫だ。死んでも死に戻れるんだ。放っておいて、餓死し始めたらどうなるかわからないんだぞ!!


 やるしかない!動いてくれ、俺の足!!!


 俺はしばらく足を動かそうともがいてみたが、固まったように動かない。そして体中が冷や汗でびっしょりになっている。


 ダメだ。恐怖におびえてる限り、体が動かないんだ。


 けど、このまま動かなかったら、いずれ本当に死ぬかもしれない。


 死……。俺が死んだら、あるいはこのまま帰れなかったら?


 誰か悲しむだろうか?引きこもりの俺の死を誰が……。


 母さん!!


 そうだ。母さんは間違いなく悲しむだろう。女手ひとつで俺を高校まで育ててくれた母さん。


 俺が引きこもっても、見捨てず毎日声をかけてくれている。飯も三食作ってくれる。母さんだけは俺を傷つけない。


 これ以上、母さんを悲しませちゃいけない!!


 足が動く!!そうか、あるのか。こんな俺の中にも『小さな勇気』がまだ残っているってことか!!


 ならやってやるぜ。どうせ死に戻れるんだからな、思いつく限りなんでも試してみよう。


 それから、俺はあらゆる方法でオークを倒そうとした。


1.死角をついて襲い掛かる→死角はつけたが殴ってもノーダメ

2.部屋の中にあるものを武器にする→刃物がない、椅子で殴りつけたがノーダメ

3.隙をついて階段まで駆け抜ける→何度やっても途中で殺される

4.相打ちにさせる→やつらは知能と戦闘技術が高く、仲間を攻撃しないように立ち回る。


[あなたは死にました]


[通算45回目です]


[リスポーン地点で復活します]


 俺は、自分の部屋・ゲーム機の前で復活した。


 度重なる死に戻りで、俺は憔悴していた。一度は振り絞ったはずの勇気も、少しずつ失われてきている。


「もうダメだ……。あんなやつら俺に倒せるかよ。こっちは引きこもりだぞ」


 それに死亡回数がカウントされてるのも気になる。もしかして死に戻りには回数制限があるんじゃないか?


 切りのいい数字……50回か100回か……だとすると、これ以上死ねないぞ。


 もちろんだからと言って、このまま部屋に引きこもるわけにもいかない。


 俺が確実な形で生き残るには、台所に行って飯を食うしかないんだからな。


 しかも……まずいぞ。さっきまでより腹が減ってきた気がする。死に戻っても、腹の減りまでは回復しないってことか?


 てことは、回数制限があるにしろないにしろ、餓死し始めたら詰みってことじゃないか。


 追い詰められた俺はとにかく考えた。オークに殺されるのも嫌だが、無限に餓死し続けるなんてもっと嫌だ。何か突破する方法を思いつかなきゃいけない。


 何かないか…例えばゲームだったらどうだ?俺のプレイしてきたRPGなんかにヒントが無いか?


 待てよ、そうか。家の空間がねじれたと思ってたから、試してなかったが…。ここがゲームみたいな空間だとすると、もしかしたらあるかも知れない。


「ステータス・オープン!!」


名前:時任まさる

職業:ニート

レベル:1

HP :70/70

MP :3/3

攻撃能力:2

防御能力:3

魔法攻撃力:6

魔法防御力:4

EXP:0/10


 やったぞ!やっぱりステータスがあるんだ。しかもレベルもある……!レベルさえ上げれば、オークを倒すことだって……。


「オークを倒さないとレベルが上がらないじゃんか!!」


 そうだ。今、俺の前にいるモンスターはオークだけだ。レベルを上げるにはやつらを倒すしかないだろう。


 うーん……話は振出しに戻ってしまった。いや、とりあえずステータスがあることはわかったんだ。もう少し、よく見てみよう。


 ……!!MP……魔法攻撃力!?俺は魔法が使えるのか!?


 いいねえ!家がダンジョンになっただけかと思ったら、レベルに魔法か。ちょっとわくわくしてきたぞ。


 もっとも、それに気づくまでに45回も死んでるけどな。説明書や攻略サイトなんてないから、仕方ないけどさ。


 しかし、どんな魔法が使えるんだ?ステータスには書いてないよな。


 思いつく、魔法を唱えてみるしかないか…。やるなら廊下でやろう。部屋の中で炎や水が出てきたら困るからな。


 いや……、廊下が燃えても困るけどね。でもオークが出てくる不思議空間なんだから、そう簡単には壊れないんじゃないか?


 俺は廊下に出た。オークの方を向いて、意識を集中させる。とりあえずは炎魔法だな。ファイアとか……。


 俺がそう、頭の中で考えた瞬間だった。


『ファイア』


 まるで、俺の思考を読み取ったように、機械で作った合成音のような『ファイア』という音が響き渡ったんだ。


 そして俺の手のひらの中に炎の球が現れた。


「こ、これは……!!」


 俺は飛び上がりそうになるくらい、嬉しい気持ちでいっぱいになった。


「すごい!!」


 よし、こいつをオークにぶつけてみよう。もし倒せるようなら、台所までの道のりがかなり楽になるはずだ。


 俺は野球のピッチャーのように振りかぶって、炎の球をオークに投げつけた。


 ジュウッ!!


「ブモッ!!」


 炎の球は見事に当たり、オークは余りの熱さに飛び上がった!!


「ブモアーァァァァ!!!!」


 そして怒り狂ったオークが俺に向かってきて、槍で俺の胸を突き刺した。


[あなたは死にました]


[通算46回目です]


[リスポーン位置で復活します]


 ………ふう。死なないようにしようと思った途端に死んでしまったが…今回は多少収穫があったぞ。あの炎の球を何度か当てることができれば、オークを倒せるかも知れない。


 しかし、死に戻った後でも、さっき与えたダメージは有効なままなんだろうか?確かめる方法が欲しいな。


 ラノベとかでいうなら『鑑定』みたいな能力だな。


 俺がそう考えると、また機械音で『鑑定』という音が部屋中に響き渡った。それと同時に、周囲のものの上ににアイコンみたいなものが開き、情報が記載された。


名前:椅子

耐久力:30


名前:ドア

耐久力:50


名前:壁

耐久力:100


 おーっ!これは…もしかして、鑑定スキルか?そんなものがあるなら、早く教えてほしかったぜ。


 どうやら頭に魔法の名前を思い浮かべれば、それが使えるようになるらしいな。


 試しにアイスとかウォーターとかウインドとか回復とかを頭に思い浮かべてみたが、特に変化はなかった。


 うーん……そういう魔法自体がないのか、レベルや条件が足りなくて覚えられないのか……?


 まあいい!とりあえずはオークだ。さっき炎の球を当てたと(おぼ)しい個体を鑑定してみなくちゃいけない。


名前:オーク

職業:モンスター

レベル:-

HP :315/320

MP :0/0

攻撃能力:123

防御能力:125

魔法攻撃力:0

魔法防御力:1


 能力がケタ違い過ぎるだろ!魔法に弱いのは助かるが……HP・攻撃力・防御力が俺と二桁違うぞ。どうりで、殴ってもダメージが入らないわけだ。


 HPは5減ってるな。こっちの魔法攻撃力が6で、オークの魔法防御力が1だろ。差額分、ダメージを与えたってことか?


 もっともファイアより強い魔法なら、もっとダメージが通るのかも知れないけどな。


 しかし……てことは、ファイアで倒そうと思ったら、あと63発当てなきゃいけないのか……。さっきファイアのMP消費がどれくらいか確認しとけば良かったな。


 俺のMPは死に戻りで回復したのか3/3となっている。とりあえず、ファイアを当ててすぐに部屋の中に隠れるって方法で一発当ててみるか。


『ファイア』


 俺は手の中に炎の球を出し、狙いを定めた。そして振りかぶってさっきと同じオークに炎の球をぶつけた。


 ジュウッ!!


「ふごっ!?」


 オークが飛び上がるのを見届けて、俺はすぐに部屋の中に引っ込んだ。


名前:時任まさる

職業:引きこもり

レベル:1

HP :70/70

MP :0/3

攻撃能力:2

防御能力:3

魔法攻撃力:6

魔法防御力:4

EXP:0/10

使用可能魔法:ファイア、鑑定


 うーん…どうやらファイアは一発でMPを3消費するらしいな。これじゃあ、何かMPを回復させる方法がないと次のファイアが撃てないぞ。


 考えられるのは、休憩・睡眠・死に戻りってとこだけど……。時間をかけると餓死する恐れがあるからな。


 うーん……、MPが回復しそうなこと……例えばマジックドレインみたいな魔法があればいいんじゃないか?


 いや、ダメだな。オークのMPは0だった。他にモンスターがいない以上、マジックドレインがあっても俺のMPは増えない。


 あとは…そうだなHPをMPに変換するとか…?『生命力変換』みたいな魔法があればいけるかもな。


 俺がそう思った瞬間、また例の機械音が流れた。


『生命力変換』


 おおっ!そんなのホントにあるのか!!俺はMPが増えたことを期待して、ステータスを見直す。


名前:時任まさる

職業:引きこもり

レベル:1

HP :60/70

MP :3/3

攻撃能力:2

防御能力:3

魔法攻撃力:6

魔法防御力:4

EXP:0/10

使用可能魔法:ファイア、鑑定、生命力変換


 確認してみると、MPが最大の3まで増えてHPが10減っていた。10消費して3回復ってことか?ちょっと効率が悪い気がする。


 いや、ホントは5回復するところを最大MPが3だったせいで、3しか回復しなかった可能性もあるぞ。まあ、だとしても結局レベルが上がらないことには最大MPも増えないだろうから同じことか。


 とにかく、これで一度死ぬまでに7発はファイアが撃てるようになったわけだ。


 でも…あと62発も当てなきゃいけないんだよな。今回、あと7発当てるとするだろ。そしたら残りは55発だ。


 死に戻り時には回復して1発、あとは生命力回復を使って7発当てる。つまり1回の死に戻りあたり八発は当てられるんだから…。


 55発当てるには、『あと7回』死に戻ればいいわけか。ここまでに46回死に戻ってるから、もし死に戻りの上限が50回だったらアウトだ。


 俺は覚悟を決めた。餓死するより、可能性を試して死ぬ方がマシだ。生き残れる可能性があることはやってみるしかない。


 とりあえず7発当ててみるか。次の死に戻りは大丈夫だろうしな。


『ファイア』

『生命力変換』

『ファイア』

『生命力変換』

『ファイア』

 ………………………


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

[あなたは死にました]


[通算47回目です]


[リスポーン位置で復活します]


 七度目の生命力変換を使った俺は、そのまま倒れた。しまったせっかく変換したのに、最後のファイアが使えなかったぞ。


 うーん、HP残り10のときに生命力変換を使うのは、無理があるってことか。そうすると死に戻りあたりのファイアが七発になるから……。


 あと56発あてるには8回死に戻りか…。まあ50を超えたらきっと100回までは死に戻れるだろうし、大丈夫だと信じよう。


[あなたは死にました]


[通算48回目です]


[リスポーン位置で復活します]


[あなたは死にました]


[通算49回目です]


[リスポーン位置で復活します]


名前:オーク

職業:モンスター

レベル:-

HP :210/320

MP :0/0

攻撃能力:123

防御能力:125

魔法攻撃力:0

魔法防御力:1


 俺は49回目の死に戻りから復活した。大分ダメージを与えたけど、まだまだ残りの方が多い。あと42発か…。このまま順調にいけばあと6回の死に戻り、通算55回のときに最初のオークが倒せるはずだ。


 ……なんだか馬鹿馬鹿しくなってくるが、やるしかないだろう。


 とりあえずは50回、死に戻っても大丈夫か……命がけの検証をしないといけない。


 俺はもはやルーチンとなったファイアと生命力変換をこなしていく。七発あててHPが10になる。ここで、攻撃を受けるか生命力変換をもう一回使えば、50回目の死に戻りだ。


 自分の引き金は自分で引こう。


『生命力変換』


[あなたは死にました]


[通算50回目です]


[50回目の記念として、スキル:踏ん張りを取得しました]


[リスポーン位置で復活します]


 俺は、自室のゲーム機の前で目を覚ました。


 やった!やったぞ!!50回目の死に戻りはセーフだ!死に戻り回数が上限に達してホントに死ぬなんてことはなかった!ただの杞憂だったわけだ。


 それにしても…、さっき普段の死に戻りとは違うメッセージがあったな。確か50回目の記念でスキルがついたとか。


「ステータス・オープン」


名前:時任まさる

職業:引きこもり

レベル:1

HP :70/70

MP :3/3

攻撃能力:2

防御能力:3

魔法攻撃力:6

魔法防御力:4

EXP:0/10

使用可能魔法:ファイア、鑑定、生命力変換

スキル:踏ん張り


 確かに新たにスキルって欄ができてるな。しかしどんなスキルなんだ。『鑑定』できるかな?


 俺は心の中で「踏ん張りを鑑定」と念じた。


スキル:踏ん張り

説明 HPがちょうど0になるダメージを受けたとき、HP1で持ちこたえる。


 なるほど…なんだか狙ったようなスキルだな。これでHP10のときに生命力変換を使ってもHP1で生き残れる。死ぬまでに一発多くファイアが当てられるわけだ。


 あと35発なら、5回の死に戻りでいけるな。まあ、死に戻りあたり7発でも8発でも5回だけどな。


[あなたは死にました]


[通算54回目です]


[リスポーン位置で復活します]


名前:オーク

職業:モンスター

レベル:-

HP :15/320

MP :0/0

攻撃能力:123

防御能力:125

魔法攻撃力:0

魔法防御力:1


 よ、ようやくここまで来たぞ…。あと三発当てれば、オークは死ぬはずだ。


 もちろんオーク一匹の経験値がどのくらいかはわからない。それに、レベルがどのくらい上がったらオークを楽に倒せるようになるかもわからない。


 だけど、とりあえず一歩前進できる。


『ファイア』

『生命力変換』

『ファイア』

『生命力変換』

『ファイア』


 俺がファイアを唱えると、俺の手の中に炎の球が出てきた。すっかり慣れてきた光景だ。だが、これから起こることは初めての体験だ。


 ついにオークが倒せる!夢にまで見たレベルアップのときだ。


 俺は狙いを定め、オークに炎の球をぶつけた


「ぶもお……」


 オークはわずかにうめき声をあげて、そのまま倒れこんだ。


 シュウウウウウウ……。


 オークの体が溶けていき、黒い靄になっていく。そして、その靄が俺に近づいて来て、体の中に入り込んだ。


[オーク一体を倒しました]


[経験値:500を取得しました]


[レベルが6に上がりました]


 おお!!一気にレベル6か!美味い美味い!!もっとも逆に言えばレベル1で倒すような相手じゃないってことだよな。他にモンスターがいないからしょうがないけど。


 さてと、レベルが上がったからにはステータスも上がったはずだ。最大MPさえ上がれば、死に戻らなくてもオークが倒せるだろうからな。


名前:時任まさる

職業:引きこもり

レベル:6

HP :140/140

MP :15/15

攻撃能力:5

防御能力:8

魔法攻撃力:18

魔法防御力:12

EXP:0/530

使用可能魔法:ファイア、鑑定、生命力変換

スキル:踏ん張り


 うひょー!!いいぞ!!新しい魔法は覚えなかったが、MPが12に魔法攻撃力が18か!ファイア一発で17削れるとして、オークのHPが320だから……。


 19発当てれば倒せる!!MPが15だから5発は当てられるし、HPが140もあるからあと14発は当てられる…つまり、こっちが満タンのときからなら『丁度倒しきれる』ってわけだ。


 せっかく、倒した後に次の奴を倒すために死に戻りするってのも変な話だが…。時間をかけるわけにいかないからしょうがないか。


 よっしゃ!行くぜ!!


『ファイア』

『ファイア』

『ファイア』

『ファイア』

『ファイア』

『生命力変換』

『ファイア』

………………………………


[オーク一体を倒しました]


[経験値:500を取得しました]


[あなたは死にました]


[通算55回目です]


[リスポーン位置で復活します]


 俺はそれから、オークを倒しまくった。廊下にいるオークの総数は300と言ったところだが、全部は倒していられない。とりあえず階段までのルートを作ることが目標だ。


 ちなみにどうも一度倒したオークはリポップしないみたいだ。これはありがたい。いくらレベルが上がっても雑魚狩りにMPをとられたら面倒くさいからね。


 そして、どうにか階段までの道筋を作り上げた!


名前:時任まさる

職業:引きこもり

レベル:15

HP :350/350

MP :30/30

攻撃能力:12

防御能力:20

魔法攻撃力:54

魔法防御力:30

EXP:10000/15550

使用可能魔法:ファイア、リファイア、鑑定、生命力変換

スキル:踏ん張り

[リスポーン回数:62回]


 よーし、オークを狩りまくってそこそこ強くなったぞ。これなら何が出てきても大丈夫だな。


 オークは100匹くらい狩ったかな?あと200匹くらいいるが、すでに階段へのルートは確保した。邪魔してくるやつもいるだろうが、倒しながら行っても階段に着けるだろう。


 そういえば、レベル15になって、新たな魔法を覚えたんだっけ。鑑定してみよう。


魔法:リファイア ファイアの上位魔法 敵一体に魔法攻撃力+40のダメージを与える。消費MPは6


 お、おお!?+40!?マジか!!いまや魔法攻撃力は54あるからな。一発で96ダメージ与えられる。四発撃ったらオークが倒せるぞ。


 HPをすべて変換すればMP175にできる。元のMPと合わせて205だ。リファイア34発分か。一回の死に戻りでオークが八匹は倒せるようになったな。


 まあ、それはいい。こっからは必要最小限しか倒さなくていいんだ。


 俺は階段に行くことを心に決めた。そろそろ腹の減り具合も限界だ。この戦いを始めてから、もう数時間経った。スマホには『21:12』と表示されている。晩飯の時間も過ぎてしまったな。


 昼飯も晩飯も抜きで、オークと戦い続けるのはニートにはきつい。いい加減に台所にたどり着かなきゃならない。


 これまでの戦いで階段へのルートはできている。俺はあらかじめ決めたルートに従って、オークの間をぬって階段に向かった。


 何度かシミュレーションしたこともあり、俺は特に新たなオークを倒すこともなく、ノーダメージでオークの間を抜けていった。


 よし!ノーダメで階段まで着けたぞ。


 後は、一階がどうなってるかだな。二階のようにオークがいるのか?それとも別のモンスターがいるのか……。


 そんなことを考えながら歩いていると、突然周囲の風景が変わった。


 今まで廊下にいたはずなのに、広い部屋に出たのだ。


 俺は何が起こったのか理解できずに周囲を見渡した。


 この部屋は半径1㎞ほどもある巨大な円状の部屋だ。天井はなく、上には青空が広がっている。


 丁度、古代の闘技場(コロッセオ)みたいな感じだな。


 そう思っていると、オークとは比べ物にならないほどの『黒い靄』が、部屋の中央に集まり始めた。


「な、なんだありゃ!?」


 俺はびっくりして腰を抜かした。ここまでで、驚くのには慣れていたつもりだったが、もう一度度肝を抜かれた。


 そこには幅は10mほど、高さも10mほどあるゴーレムがいた。


 階段に近づいたら闘技場に飛ばされて、そこには巨大なゴーレムがいる……。


 つまりボス部屋でボスと戦えってことか?


 闘技場は、どう考えても俺の家より広い。第一、天井がなく空が広がっている。どう考えても家の中じゃない。つまり階段の前からテレポートさせられたのか。


 そのとき、例の機械音が流れた。


[リスポーン位置が更新されました。これからは死亡時にボス部屋でリスポーンします]


 なんだと!?それじゃあ、ゴーレムを倒すまでもう部屋には戻れないのか。


 ということは…、オークを倒してレベル上げすることは、もうできなくなったわけだ。今の強さのまま、勝てるまでゴーレムと戦い続けないといけないのか…。


 クソッ…。何なんだ?これは?どうして一々、俺に不利な条件をつけやがる?


 とにかく、ここまで来たんだ。せっかくここまで来たんだから、もう餓死や回数制限でホントに死ぬなんてゴメンだ。


 だったらこいつを倒すしかないわけか。


 それも、この先 今以上に腹が減ったら、動きに障害が出てくるはずだ。


 もうレベル上げができない以上、そうなったら詰みだ。作戦で勝つしかないのに頭や体が働かないんじゃ話にならない。


 つまりここから、せいぜい十数回くらいではカタをつけないといけない。


 よし!ならば重要なのは作戦だ。そのためにもまずは鑑定だな。


名前:ゴーレム

職業:階層ボス

レベル:-

HP :32500/32500

MP :1200/1200

攻撃能力:1200

防御能力:2400

魔法攻撃力:1200

魔法防御力:2400

使用可能技能:ハイパーガード、波動レーザー


 だから桁二つ違うんだって!俺の防御力20なんだぞ!!これだけ強くなったのに、また一撃死じゃねえか!!


 俺の能力が低すぎるのか、モンスターの能力が高すぎるのか……。


 もしゲームだったらクソゲーなことは確かだな。


 さて、まず問題になるのは魔法防御2400だ。物理防御力も2400だが、そっちは底上げの方法がないので、どうでもいい。


 こっちの最高火力はリファイアの魔法攻撃力が96だ。正直言って、とてもじゃないけど通らないな。


 ……え、詰んだじゃん。


 だってレベル上げができないんだぞ。攻撃力を上げる方法がない。


 いや、待てよ。そうかバフか。攻撃力や魔法攻撃力を上げる魔法があればいいんだ。ついでにゴーレムの能力を下げるデバフもあればいい。


 異世界にせよゲームの中にせよ、これだけゲームっぽいんだから、まさかバフやデバフがないってことはないだろう。


 んー……そうだな。単純に『攻撃力強化』とかでいいんじゃないか?


魔法:攻撃力強化

MP消費:10

説明 対象の攻撃能力を10%上昇させます。重ねがけはできません。


魔法:魔法攻撃力強化

MP消費:10

説明 対象の魔法攻撃能力を10%上昇させます。重ねがけはできません。


 10%アップは破格だとは思うが、このゴーレム相手じゃ焼け石に水だな。重ねがけできないって明記してあるところがいやらしい。


 できれば、オークと戦ってるときに思いつきたかった魔法だな。


 デバフの方も同じような仕様だとすると、役に立ちそうもないかな?いや、役に立たないことはないが、他の方法と併用しなきゃダメだな。


 要するにパラメータが上げられればいいんだよな。例えばHPが極端に減る代わりに攻撃力が上がるとか。RPGじゃあんまり聞いたことないけど、少年漫画とかだとありそうだ。


 HPを犠牲にする攻撃……。HPは体力だから『体力攻撃』とかか?


スキル:体力攻撃

説明:HPを減らした分だけ、攻撃のダメージを上乗せする


 おお!悪くないねえ。俺のHPは350だから、リファイアと合わせて96+350の446までは与えられるわけだ。


 まあ、相手の魔法防御力が2400(10%下げれるなら、2160だ)だから、全然足りないけど一歩前進したぞ。こういう発想だ!


 後は……後はそうだな……。


 俺は頭をひねるが、そうそう簡単に新しい魔法・スキルのアイディアなんて、出てこない。


 落ち着け……考えろ。何かきっかけのようなことでいいから!


 そうだな、例えば二発の攻撃を一発扱いにできないかな?もし魔法攻撃力96リファイア二発を一発扱いにできれば192までは通る。


 加えて、一発目に体力攻撃を乗せれば542までは伸ばせるんじゃないか?


 そんな魔法……そうだな『連続魔法』とでも呼べばいいか。


スキル:連続魔法

説明:二発の魔法攻撃を一発分として扱います。相手の魔法防御力が二発分以内の場合、上回った数値分、貫通します。


 ダメだ!!


 俺は絶望して、膝を降ってうずくまった。


 通じない。どんなに工夫しても、まだ桁が違う!


【俺の魔法攻撃力】543.9

リファイア+魔法攻撃力強化 54+5.4+40=99.4

+体力攻撃         99.4+350=444.5

+連続魔法         444.5+99.4=543.9


【ゴーレムの魔法防御力】2130

魔法防御力弱化      2400×0.9=2130


 何か……何か……ダメだ。腹が減って思考が回らない。どうすりゃいいんだ。なんであんなにパラメータが高いんだよ!!


 いっそ、あいつにあいつを殴らせることができれば……。


 待てよ!そうか『魔法攻撃反射』それはアリの発想だぞ!!


スキル:魔法攻撃反射

説明:10%の確率で、相手の攻撃を反射します。バフで高められたダメージもそのまま反射します。


 うーん……今まで最高の発想なんだが……ダメだ。やつの魔法攻撃力は1200だ。魔法防御力は下げても2130だ。通らない。


 んん?


 俺は魔法攻撃反射のテキストを読み直す。


 『バフで高められたダメージはそのまま反射』……。


 俺はこの文言が気になった。何だ、俺は何に気づいた?何かとんでもない発想が……!!


 んんんんん……まさか……いや、そうかも知れない!!


 バフだ!!


 俺は『攻撃力強化』のテキストを読み直す。


「『対象の魔法攻撃能力を10%上昇させます』……やっぱりだ!『貴方の』や『味方の』とは書いてない!!攻撃力強化は敵にもかけられるぞ!!」


『HPを減らした分だけ、攻撃のダメージを上乗せする』

『二発の魔法攻撃を一発分として扱います。相手の魔法防御力が二発分以内の場合、上回った数値分、貫通します』


 やはりそうだ。体力攻撃や、連続魔法も対象を敵の攻撃にすることは可能っぽい!!


 ということは……?


【ゴーレムの魔法攻撃力】

基本値           1200

+体力攻撃         1200+350=1550

+連続魔法         1550+1200=2750


【反射できたときのダメージ】

2750-2130=620


 と、通る!!攻撃が通るぞ!!


 けど、反射は10%の確率か……。35000のHPを削るには……ええと、35000÷620だから……


 暗算が難しいと思った俺は、スマホの計算機アプリを使った。


 うん、56.45くらいだな。じゃあ、57発当てれば倒せるんだ。


 10%は跳ね返せるんだから、理論上は570発攻撃させて、その内10%を跳ね返せば倒せるわけだけど……。


 相手だって、そんなに跳ね返されたら警戒するだろう。


 あとちょっと、あとちょっとなんだ。もう一つ何かアイディアがあれば、あいつを倒せるのに……!!


 そう思っていたら、ふいにゴーレムの胸のあたりが輝き始めた。なんだ?やつの攻撃か!?


『波動レーザー』


 いつもの機械音で、そんな言葉が聞こえた後、エネルギーが充填されるように、ゴーレムの胸は輝きを増した。


 そして、一筋の光が俺に向かって飛んできた。


[あなたは死にました]


[通算63回目です]


[リスポーン地点で復活します]


 俺は、ボス部屋の端っこで復活した。部屋の中央には今もゴーレムの姿が見える。


 いかんいかん。思考に没頭し過ぎて、完全に油断していたな。


 だが!見えたぞ、今ので!!


 最後の1ピースをやつ自身が埋めてくれた。


 勝てるぞ!これで!


 そのためにも、まずは鑑定だ。あの波動レーザーが、通常攻撃よりどのくらい強いのかがわからないといけない。


 それに『ハイパーガード』ってのがあったな。上手く跳ね返せたときに、そんな技で防御されたんじゃたまらない。特性を知っておく必要があるだろう。


「鑑定!波動レーザー!」


特技:波動レーザー 体内の魔力を光線に変換して撃ちだす攻撃魔法。命中時に魔法攻撃力+800のダメージを与える。消費MPは100


【ゴーレムの魔法攻撃力】

基本値           1200

+波動レーザー       2000

+体力攻撃         2000+350=2350

+連続魔法         2350+1600=3950


【反射できたときのダメージ】

3950-2130=1820


 いいぞいいぞ。1820なら、えっと20発で倒せる。200発撃たせることができれば、倒せる計算だ。


 どうしても数が多いな。反射の確率をもうちょっと、どうにかできないか?


 第一、ゴーレムのMPは1200しかないんだ。撃てても12発までだぞ。


 死に戻ってもそれまでの状況が変わらないのは、オークで確認済みだ。ということは、俺が死に戻ってもゴーレムのHPMPは回復しないってことだ。


 12発で倒すには……。


 俺は考える。後、何があれば12発で倒せるか?


 つまり反射率を100%にしたとしても、一度のダメージを2917まで上げないと、倒せないんだ。


 そんなダメージを叩きだそうと思ったら、発想を変える必要がある。


 何か……!相手の防御力を0にして、反射の命中率を100%にする都合の良い魔法が!!


『波動レーザー』


「あっ!」


 危ないと思ったときには、もう避ける方法も防ぐ方法も無かった。


[あなたは死にました]


[通算63回目です]


[リスポーン地点で復活します]


 俺は再びボス部屋の隅で復活した。ゴーレムも積極的に攻撃してくるようになってきたな。考えてる場合じゃないってことか?


 何か、何か方法はないか?俺のステータスをもう一度見てみよう。ゴーレムのステータスばっかり見てたからな。俺のステータスも見れば、何かアイディアが思い浮かぶかも知れない。


名前:時任まさる

職業:引きこもり

レベル:15

HP :350/350

MP :30/30

攻撃能力:12

防御能力:20

魔法攻撃力:54

魔法防御力:30

EXP:10000/15550

使用可能魔法:ファイア、リファイア、鑑定、生命力変換

ユニークスキル:小さな勇気

スキル:踏ん張り

[リスポーン回数:63回]


 やはり変化は……ん?


 ユニークスキル:小さな勇気


 何だ?これ?確かボス部屋に入る前に見たときは無かったぞ。それに俺が唱えないと、魔法は増えないんじゃないのか?


 いや、待てよ。そういえば、最初に死に戻りの覚悟を決めたとき……!確かに言ったぞ『小さな勇気』!!


 母さんのことを想い、足を踏み出せた自分に対して、俺にも『小さな勇気』があると。


 けど、あの時にはスキルが増えなかったはずだ。どうして今になって……?


 ボス部屋に入ることが条件だったのかも知れない。とにかく鑑定してみよう。


ユニークスキル:小さな勇気

 貴方のレベルを1にします。スキル:物理攻撃反射をスキル:完全物理反射に進化させ、反射確率を100%にします。スキル:魔法攻撃反射をスキル:完全魔法反射に進化させ、反射確率を100%にします。


 その勇気が本物になったとき『勇気』に進化します。


 性能は最強クラスだけど、レベル1になるのか。記述を見る限りパワーアップしたスキル自体はレベル1になってもそのままみたいだけど、多分MPが足りなくなるだろうな。


 それに『勇気が本物になったとき』進化するってのも気になる。多分、そいつが決め手だ。それがあれば、ゴーレムを倒せるスキルになるはずだ。


 んだけど、そもそも『勇気』って何だ?


 オークに対して、死に戻り覚悟で挑んだときに『小さな勇気』が生まれた。それがボス部屋に来たときにスキル化したとする。


 今、ゴーレムに対して挑んでてもスキルは進化してない。だったら、『勇気』の条件は何だ?


 勇気……勇気とは俺が俺の意思で恐怖を乗り越えることだ。


 俺の恐怖は何だ?


 そうか。なるほど、俺はこの期に及んでも……。


 最も恐れているのは学校なのか。あんなに何度もオークに殺されたのに、まだリンチが怖いのかよ。


 当たり前だ。人生は一度死んだら終わりだ。ここみたいに死に戻ることなんてできない。だったら、死ぬのはもちろん、大怪我だってビビるに決まってる。


 とはいえPTSDってやつが実際の危険と関係なく、無暗に恐れることも確かだ。俺は存在しない危険を恐れているんだろうか?


 俺はオークとの戦いを乗り越えた。何度死に戻っても、諦めず必死に策を練ってどうにか倒した。


 現実で死に戻りはできないけど、諦めずに頑張る方法はないか?そういう考え方に自分を持っていけないだろうか。


 何か……何か……?何か忘れてる気がするぞ。長いこと、ひきこもってたせいで何か……。


 救急車?


 そうだ。あのリンチのとき、救急車は誰が呼んだんだ?最初に殴られたときから、もう意識が無かったからあまり気にしてなかった。


 だが、俺はあのとき文字通り死にかけた。もし、救急車を呼ぶのが数分遅れていたら危なかったらしい。つまり、救急車を呼んだ奴は命の恩人ってことになる。


 そして、俺が呼び出されたのは校舎裏の不良以外は誰も立ち入らない場所だった。あそこに俺が倒れていたとして、一般生徒が見つけるとは思えない。


 ということは……俺をリンチしたやつらの中に救急車を呼んだ奴がいるってことになる。


 だが、それは不良グループのリーダーに対する裏切りだ。リンチして自分たちで救急車を呼んだら、自分達がボコボコにしたと言っているようなもんだからな。


 人に危害を加えるのは犯罪だ。警察沙汰になってもおかしくない。


 その危険を承知した上で、救急車を呼んだ奴がいる!!


 罪悪感か、リーダーに対する反抗心か、そんなことはどうでもいい。


 問題は、そいつが俺に変わっていじめられてる可能性が高いってことだ!!


 命の恩人が俺に変わっていじめられている……!!それを俺が許していいはずがないだろう。


 それで俺にいじめの矛先が戻るかも知れない。今度こそそいつも俺を見捨てるかも知れない。だが、それでいいんだ。


 そのときこそ、俺はオーク戦で身に着けた『しつこさ』で諦めず挑み続け、不良たちと仲良くなる!あるいは、まともなグループに味方を見つける。


 俺のやるべきことは……それしかない!!


『ユニークスキル:覚悟を身に着けました』


『ユニークスキル:小さな勇気とユニークスキル:覚悟を統合します』


『アルティメットスキル:本物の勇気を身に着けました』


アルティメットスキル:本物の勇気

 貴方のステータスをすべて1にします。『リスポーン』が不可能になります。


 完全物理反射と完全魔法反射を統合し『完全反射』を身に着けました。


 完全反射が進化し究極反射に進化しました。


アルティメットスキル:究極反射

反射確率99%、相手の防御力を無視し、被ダメージを10倍にして反射する。


 相手の防御力を無視して、ダメージを10倍にして返す!?


 防御力が0で、相手の攻撃力の10倍なら……


【ゴーレムの魔法攻撃力】

基本値           1200

+波動レーザー       2000

+体力攻撃         2000+350=2350

+連続魔法         2350+1600=3950


究極反射          3950×10=39500


 一撃で倒せる!!ただ、反射確率99%か。


 HPが1になって、しかもリスポーンが使えないんだぞ。ゴーレムの攻撃をまともに食らえば本当に死ぬ。今度こそ蘇れない。


 い、いや決めたんだ、覚悟を!!俺は生き残る。生き残って飯を食う!!


 そしたら家から出て学校に行くんだ。母を安心させ、命の恩人をいじめから救い、自らもいじめを乗り越えるために!


 そのために、ここ一番を乗り越える!!


「さあ!こい!!」


 俺はそう叫んで、ゴーレムにありったけのバフをかけた。

 

 そして次の瞬間、待ってましたとばかりにゴーレムが『波動レーザー』を放った!


 いくぞ!ここ一番!!俺の人生をかける!!


『究極反射』


 俺の視界が真っ白になった。レーザーで目を焼かれたのか?それとも『究極反射』のエフェクトみたいなものか?


 ガギッ!!


 俺の周囲を黄金のバリアが覆った!こいつが究極反射か!!


 波動レーザーがバリアに当たった!!その瞬間、レーザーの方向が変わり白かったレーザーが黄金色になった!!


「こいつで終わりだ!!」


 黄金のレーザーは太さが十倍になって、ゴーレムの方に向かっていく。


 ゴーレムはどうにか回避しようとしたが、動きが遅くて避けきれない!


 ドゴォォォォォォン!!


 ゴーレムにレーザーが当たった!ゴーレムの身体は上半身が大きく削れている。


 頭や胸も消失した。人間だったら絶対に死んでるだろうけど、どうだ?


[ゴーレム一体を倒しました]


[経験値:120,000を取得しました]


[レベルが27に上がりました]


[階層ボスを倒したので、1階に転移します]


 そんな声が聞こえて、目の前の景色が暗転した。


 そして、再び目の前が明るくなると、俺は台所の入口に立っていた。


 俺は感慨深いものを感じながら、慎重に台所のドアを開けた。中にいきなりモンスターがいるかも知れないからな。


 レベルは上がったが、『リスポーンできない』は恐らく継続しているはずだ。


 そして扉を開いた先、台所の中には――!!


「母さん?」


「あら、やっとここまで来たのね」


 すました表情で、飯の準備をする母がいた。


「か、母さん!何してんだ!!家がモンスターの巣窟になってんだぞ!早く避難しないと!」


「あら、でもお腹が減ってるんでしょ?ご飯を食べてからでもいいじゃない」


 俺は焦ってまくしたてたが、確かに今は腹が減り過ぎてる。いくら色々スキルがあるからって、この状態のままでかけて、外にもモンスターがいたら、それこそお終いだ。


「わかった。まずは、飯を食うことにするよ」


 そして俺と母さんはとにも昼飯だか晩飯だかわからない、食事を食べ始めた。


 スマホには『00:12』と表示されてるな。もう深夜じゃないか。


「しかし、なんだって家がダンジョンになったんだろうな」


「あら、もしかして、まだ気づいてなかったの?」


 そう話す母さんの口ぶりは、家がダンジョンになった理由を知ってるみたいだ。


「母さんには、こうなった理由がわかってるのか?」


「そりゃ、もちろんよ。だって母さんがプログラムしたんですもの」


「プログラム?」


 話がおかしな方向に向かってきた。プログラムってのは、ゲームとかのプログラムか?家がダンジョンになるようにプログラムした?


「そうよ。世界初の超VRMMOよ!あ、でも今はまだ、まさるしかプレイできないから、VRSO(Virtual Reality singleplayer Online)かしら?」


「VRMMO!?今、母さんと話してるこの空間がか!?リアルってレベルじゃねえぞ。見るもの触れるもの現実と変わらないじゃないか!!」


「あら、褒めても何もでないわよ」


 母さんは少し照れながら、まぶしい笑顔で返してきた。


 つまり、俺はこのゲームのテスターとして、こんなひどい目にあわされたのか?


「何でだ……」


「何で、酷い目に合うとわかってて、俺にやらせたんだ!他に誰にでもプレイヤーはいるだろう!!」


 俺は怒り狂っていた。何せいつ本当に死ぬかと思って憔悴しながら、それでも自分を奮い立たせ、必死に戦ってここまで来たんだ。


 何故わざわざ、こんな体験をさせた?何故、他の奴じゃなく俺にテスターをさせたんだ!!


「それはもちろん、貴方に立ち直って欲しかったからよ」


「立ち直る……?って、引きこもりから抜け出すってことか?」


 確かに俺はゲーム内とはいえ、学校に行く『覚悟』を決めた。母さんを悲しませず、俺の代わりにいじめられてるやつを救うためだ。


 今はまだ覚悟だけだが、一歩前進できたことは間違いないだろう。


「そうね。だって、貴方には立ち直る力があるって信じていたんですもの」


 胸が痛む。母さんはいつも俺を信じてくれていた。


 それなのに、優しい母さんがこんな強硬手段に出ないといけなくなるまで、俺は引きこもり続けていたんだ。


「そうか。ごめんな。でも、もう大丈夫だ」


「そうみたいね。だって、貴方は台所までたどり着いたんだもの」


 そうだ、俺は乗り越えた。空腹と恐怖を乗り越え、ついには覚悟を決めた。


 俺は成長した。これで人生の恐怖に立ち向かえるはずだ。


 そう、そうだ!!俺は……!!


「明日から学校に行く」

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