外伝 テオ・ジュピトリスの受難ー1
「よし、今日はここで休むか」
エデン離脱後、クエストのため再び王都を発ったカイン一行は近郊の平原で夜を過ごすことにした。
「ふぃー疲れたー。結局また三人かぁ。カインが満足するような人が見つからなくて残念だったね」
「別にいいさ。それよりマリー、火を頼む」
「え? 火? なんで私?」
「なんでってお前、エデンがいないんだから前みたいに火を付ける道具を使わなきゃいけないだろ。以前はお前がその担当だったはずだ」
「あーごめーん。マリー忘れてきちゃった」
「なにやってんだまったく……おいセラ、代わりにお前が火を付けてくれ」
「うーん、私のは攻撃用の魔法だから薪が吹き飛んじゃうと思う……」
「はぁ、どいつもこいつも……」
「カインが剣で木をギコギコやれば?」
「そんなもんで火が付くかよ」
「じゃあどうすんの? もー、こんなことならエデンも連れてくればよかったー! いつもみたいにカインがポイしちゃうからだよ?」
「お前が道具を忘れなきゃよかっただけだろうが!」
「ま、まぁまぁ二人とも……ダメ元だけど私が魔法の出力を抑えてやってみるから……ね? 仲良くしよ?」
うぅ、先が思いやられる……セラは傍らに置いていた杖を掴みながらそう思った。
※
翌日、セラはもう何度目かも分からないある光景を見ていた。
移動の途中で立ち寄った街でカインが優秀な人間をスカウトするのは――何度体験しても慣れない。
「俺は【テオ・ジュピトリス】のカインだ。良かったらパーティに入らないか?」
「【テオ・ジュピトリス】ってあの!? いやぁ、あんな有名なギルドの方から声が掛かるなんて嬉しいなぁ。僕はロッキーといいます、よろしくお願いします」
「私マリー、よろしくね☆」
「セラです、こちらこそよろしく……」
彼の屈託のない笑顔を見てセラの胸は痛む。
同時に、私たちについてこない方が良い、と告げる勇気のない自分が情けなくもあった。
「じゃあ僕、同行する準備をしてきますので少々お待ちください!」
ロッキーが席を外したので、この機会にと、セラは恐る恐るカインに口を出してみる。
「ねぇカイン、こういうのはもうやめようよ。ずっと同じ仲間で戦ってる方が連携も取れるようになるし……ね?」
「そうだな、あいつが俺にそう思わせるほどの人間ならそうするさ」
「カイン……!」
「あっ、マリーわかったー。セラってばロッキーのことが好きなんだー。エデンの時も必死で引き止めてたのに、もう好きな人変わっちゃったの?」
「マリー、私は真面目な話を……」
「あはは、冗談だって。でもさ、まずは人よりも自分のことを心配した方が良いよ? もっと優秀な人が見つかったら、次に追い出されるのは私かセラかもしれないしぃ?」
ま、私より凄いヒーラーなんて見たことないけど。
マリーは自信ありげにそう言って、頭の後ろで手を組んだ。
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