4話 ギルドを大掃除!
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ギルドという組織の役割は主に橋渡しのようなもので、まず民間や国からの依頼を請け負って「クエスト」としてギルド内に提示し、それを冒険者たちに解決してもらい、依頼主からの報酬の内いくらかをギルドが徴収し、残りを冒険者に支払う形で完了する。
依頼主がいなければクエストは受けられないし、ギルドに人がいなければ依頼は解決しない。
多くの人間が関わることによってギルドというものが成り立っている以上、その構成メンバーが二人だけというのは誰がどう見ても厳しい状況だった。
しかしまあ、長々と説明しておきながら申し訳ないのだが、エデンたちにはそれ以前に向き合わなければいけない問題がある。
それは。
「……まずは掃除だよな」
「そうだね。色んな人に来てもらえるように、キレイにしないと……こほっ」
「大丈夫か?」
「だいじょうぶ。慣れてるから……くしゅん!」
「……やれやれ、久しぶりにアイシャ以外の人間が入ったからホコリが舞ってるんだな」
エデンはハンカチを取り出し、咳にくしゃみにと忙しいアイシャの口元を軽く覆う。
「苦しくないか?」
「だいじょうぶ。ありがとう」
「よし、まずはこのホコリっぽさからどうにかした方が良いな。換気しよう。俺は二階に行くからアイシャはここの窓を全部開けてくれ」
「りょうかい」
親指をグッと立てたアイシャを残して、エデンは二階へと上がる。
「階段もミシミシいって怖ぇな……崩れたらどうしよう……」
二階に着いたからといってその不安が消えるわけでもなく、今度はギシギシと音を鳴らす床を歩きながら各部屋の窓を開けていく。
部屋は全部で八つあり、その最後に入ったここ――階段を上って一番手前の部屋は他に比べて小綺麗なので、この場所がアイシャの寝床だろう。
まあそんな推理をしなくとも、ベッドの傍に飾られている家族の写真を見れば一目瞭然なのだが。
窓を開け終えて無事に一階へと下りてきたエデンは、アイシャが箒を持っているのに気が付いた
「どうしたんだそれ?」
「倉庫に眠ってたの。これで床をキレイにできるよ」
と、アイシャは手にしていた二本の箒のうち、その片方をエデンに渡す。
「おーいいね。そうだ、アイシャに面白いもの見せてやるよ」
「なぁに?」
「昔からこれだけは得意だったんだよな――【道具操作】」
エデンは箒を持っている指先に魔力を込め、小指、薬指、中指と徐々に箒から手を放していく。
最後に親指が離れたが、箒は空中に浮いたままだった。
エデンはそれを自由自在に操り部屋中を飛び回らせる。
「わー……すごい。こんな魔法見たことない」
「マイナーな魔法だからな。普通に掃除した方が早いし」
「ねぇねぇ、まだ飛ばせるの?」
「他の箒もってことか? もちろんだ」
「ほんと!? じゃあじゃあじゃあ……!」
と、アイシャは一度外に飛び出し、箒を両手一杯に抱えて戻ってきた。
どう見ても七本ある。既に飛ばしている分を足すと九本だ
村で限界に挑戦した時は四本が最高記録だったが……。
「よし、やってみよう」
テンションの高いアイシャを興醒めさせないよう、二つ返事で引き受けてみた。
可愛いギルドマスターの期待を裏切る訳にはいかない。
いざテイクオフだ。
「3、4……5……そろそろキツいか……6……あれ? 7、8、9」
気が付けば九本全てを難なく操ることに成功していた。
以前と比べて負担が少なく感じ、なんならまだいけそうだった。
(なんだ……? あの魔導書で知識が深まったからかな? なんというかこう、魔法の出力が増してるような……まあいいか、とにかく今は)
掃除モード突入だ。
エデンはまるで必殺技を発動する魔術師のように、高らかに宣言する。
「見てろアイシャ、この数の箒があれば――掃除なんて一瞬で終わらせてやる!」
※
箒は隊列を成して宙を舞い、床や壁に美しい軌跡を残していく。それは浜辺に押し寄せる波のように床の汚れを除去し、ギルドはある程度の清潔さを取り戻す。
「エデン……ぶらぼー」
その光景を眺めていたアイシャにパチパチパチ、と拍手を送られた。
まるで大層なショーでも見たあとのように目をキラキラさせている。
「アンコールしてもいい? 今の【ナイン・ソルハバキ】」
「ただの掃除にカッコいい名前を付けてくれるのは嬉しいけど、アンコールは勘弁してくれ。流石に疲れた」
エデンは九本の箒を床に降ろし、両手を腰に当てて感慨深く室内を見回す。
空気が浄化されたというのはこういう状況で使用する言葉なのだろう。初めて入った時のどんよりとした雰囲気は一掃された。
ひとまずは大きな一歩である。
「暗くなってきたし、今日はこれぐらいにしとくか」
「うん、そうだね。おつかれさまエデン」
「アイシャこそな。さて、それじゃ何か食べに行こ――」
そこまで言ってエデンは固まる。
自分が一文無しだということを思い出したからだ。
こうなったら何か所持品を売ってアイシャだけでも食事を……そんな風に考えていると。
「任せて」とアイシャは自信ありげに自らの胸をポンと叩いた。
「エデンは今日いっぱい頑張ったから、アイシャがごちそうしてあげる。おじいちゃんがギルドのために残してくれたお金が、あと少しだけあるから」
「……そりゃどうも」
エデンにとって今日という日は。
生まれて初めて王都を目にした日であり、生まれて初めてギルドに所属した日であり、そしてなにより――
生まれて初めて年下の女の子にご飯を奢られた日になった。




