34話 決戦! VSイオランテのギルドマスター ー2
「すごい……もう倒しちゃった……」
「……マジで強えなアイツ」
エデンが気を失ったセラの手を肩に回してどうにかカインとマリーの場所まで辿り着いたのは、メナトが戦闘を終えるのとほぼ同時だった。
相手は【イオランテ】のボスだというのに、たった一人でねじ伏せてしまった。
それも瞬殺である。
「確か名前はバラクだったっけ。まあどうせ偽名だろうけど【イオランテ】のボスなのは事実なんだし、大商人の証拠と一緒に王都に突き出せばいいか。おーいメナト、拘束してこっちまで連れてきてくれ」
「かしこまりました。しかしこちらの方、怪我の具合が深いようなので治療が必要です」
「そうか。なぁ括弧、ポーションは今どれくらいある?」
『カイトウ。本日昼、既にヴァイス嬢へ納入しているため現在の数量は2です』
「……となると、だ」
エデンは【魔究空間】からポーションを二本取り出し、誰に使うべきかを思案する。
この中で最も大怪我をしているカインは確定。セラとバラクはダメージが軽い方をマリーに治療してもらえばいいか。
エデンはひとまずその優先順位で進めることにして、セラを慎重に横たわらせた後、必死にカインを治療しているマリーへ声を掛ける。
「カインのことは俺に任せてくれ。マリーは他の二人の具合を見てくれると助かる」
「任せてって……わ、私でも治せないのに、無理だよ、カイン、もう意識もないみたいだし……どうしよぅ……」
「大丈夫だ。そう簡単に死ぬような奴じゃないさ。起きたら謝罪の一つでも欲しいもんだな」
悲しみに暮れるマリーを慰めながらエデンはポーションを使用する。
すると、彼の背中にあった痛々しい傷が徐々に塞がっていき、やがて出血は止まった。
「す、すごい……! これなら助かるよ……カイン、良かったぁ……!」
段々と顔色が良くなっていくカインを見て、マリーは安堵のため息を漏らす。
本当の本当に、彼女は心の底から安心しているようだった。
「……皮肉でもなんでもなく、これは純粋に疑問なんだが、どうしてマリーはカインをそこまで心配できる? パーティの方針に問題があるとは思わないのか?」
「私は……他の人たちみたいに『年端もいかない小さな女の子だから』って門前払いせずに実力主義で私を選んでくれたカインのやり方が好き…………だったけど、今回の事で懲りたかも。能力は確かに必要だけど、それだけじゃダメなのかなって」
「そうか。だったら目が覚めたらそう伝えてみるといい。もしかすると――」
「……ん……うぅ……あ」
と、そこで意識を失っていたセラが先に目覚めた。
自分を介抱してくれたエデンを敵ではないと判断し、何かを伝えようとしている。
「き、気を付けて……」
「大丈夫だ。もう終わったから安心してくれ」
「違うの、私たちがここに来た時、二階から足音がして……まだ、ここには誰か――」
その瞬間。
「――がはっ!」
メナトの聞き慣れない叫び声が大広間に響き、エデンがその方向を見た直後――彼女は無数の氷の弾丸に貫かれ階段を転げ落ちていた。
「メナト!」
エデンはすぐさまメナトに駆け寄り、ボロボロになった彼女を抱き起こす。
「おい大丈夫か!? しっかりしろ!」
「も、申し訳ありません、ご主人様……油断しました……」
「い、一体誰がこんな……!」
メナトの息がかろうじてあったことにエデンが安心していると。
カツン、カツンと。
彼女をそんな状態にした張本人が、二階からゆっくりと階段を降りてきて踊り場で足を止め――その姿を現した。
「――うん、普通の人間なら今ので間違いなく死んでるね。なのに生きてるってことは……まあいいや、それを確かめたところで、どうせ全滅させるんだから意味ないか」
その人物の姿を見て、一同は驚愕する。
一見するとものすごく人当たりの良さそうな、長身で長髪の優男。
しかしその男の本性を、この場の全員は知っている。
今、再びエデンたちの前に立っているのは――間違いなくバラクだった。
「ど、どういうことだ。バラクはもうメナトが倒したのに……」
動揺するエデン。
実際、バラクの足元にはもう一人のバラクが倒れているのだ。
「あはは、驚いたかい? 僕は自分以外を信用できない人だからさぁ、作っちゃったよ。【魔力分裂】っていう魔法なんだけどね。これがあると暗躍しやすくて便利なんだ」
「【魔力分裂】……?」
確か以前、括弧からそういう魔術の話を聞いたことがある。だけどあれは禁術指定を受けているという触れ込みだったはず……。
「ギルドマスターはねぇ、ギルドが一定の功績を挙げると王都からご褒美を貰えるんだよ。お金だったり、土地だったり、禁術使用の特例許可とかさ。貢献の見返りとして何かしらの融通を聞かせてもらえるんだ」
「だから合法だって言いたいのか?」
「いいや? 僕がルールを守ると思うかい? バレなきゃやってないのと同じさ。王都からはお金を貰って、禁術は裏でコソコソ使えばいい」
エデンの考えを見透かしたように、バラクは口角を上げる。
「……なるほどな。全部わかったよ。その分身に汚れ仕事をさせて、自分は悠々とギルドマスターとして振る舞っていたわけか」
「正解。だけど今回は【テオ・ジュピトリス】の人間を始末する大仕事だったからね。念のために僕も来てて良かったよ。こうして、予定にないお客様をお迎えできるんだから」
「今さら本体が出てきても遅いんじゃないか? メナト程じゃないとはいえ、俺たちだって戦えるんだから」
「君は【魔力分裂】を使ったことがないから分からないだろうけど、分身は完全に自分の思い通りには動かなくてね。例えるなら、本体は利き手で、分身はそうじゃない方の手だ。どっちの方が器用に動けるかなんて明白だろ?」
「悪いけど分からないな。俺は両利きだから」
そう言って、エデンはメナトに最後のポーションを握らせて立ち上がる。
カインは目覚めておらず、セラもまだ戦えるような状態ではない。そしてメナトは重傷。
――俺がやるしかない。
「マリー、俺が戦う間、三人の面倒を見ててくれ」
「う、うん――わかった」
力強く頷いた彼女の返事に成長を感じて、エデンは踊り場にいるバラクを見上げる。
「禁術指定を破っている敵と戦うなら、俺の罪悪感も薄れるな」
「ん、君も何か使うのかい? いいねぇ、アウトロー同士でお友達になれそうじゃないか」
「俺は少しもそう思わない。括弧! 【種火生成】をフルパワーで撃て!」
エデンがそう叫ぶのと同時に【魔究空間】が展開され、灼熱の火柱がバラクを穿つ。
その規模はかつてアイシャを助けた時以上の火力に達しており、炎は天井を突き破って空にさえ届いた。
しかし。
「いいね、長ったらしい予備動作もなしでこの規模の魔術を使えるなんて、ウチのギルドに欲しいくらいだよ!」
「――っ!」
燃え盛る炎を切り裂くようにして、メナトを傷つけた氷の弾丸がエデンを襲う。
不意を突くようにして放たれた凶弾は【魔究空間】によって防御したものの、それはつまり、この戦闘がまだ終わっていないことをエデンに告げている。
炎が収まった後――バラクは涼しい顔をして同じ場所に立っていた。
「そんな……アレをまともに喰らって平気なのか?」
『イエ。違います使用者。魔力反応を見る限り、あの男の周囲だけ【種火生成】が直撃する前に途絶えてしまっています』
と、自らの分析結果を括弧は簡潔に伝える。
『ツマリ。何らかの魔術によって【種火生成】が無効化されたと考えるべきですが、あれだけの魔術を防げる手段は限られています。その中で最も可能性が高いのは――』
「へぇ、君も【魔究空間】を使うんだね」
燃え盛る炎の中。
そう言って、バラクは楽し気な笑みを浮かべた。
ここまで読んでいただきありがとうございました!
★5をいただけると作者の励みになりますので、もしよろしければぜひ!




