33話 決戦! VSイオランテのギルドマスター ー1
「――いいね。【種火生成】もかなり使いやすくなったじゃないか。まるでレーザーだ」
『コウエイデス。しかし、使用者が魔術の破壊力を『上げてくれ』と命令するのは珍しいですね』
「今回ばかりは特別だ。相手が相手だからな」
と、エデンたちは屋敷の大広間へ足を踏み入れ――この場の戦況を窺う。
カインは床に多量の血を流して倒れており、その隣でマリーが必死に治療している。そこから少し離れた場所にはセラが横たわっていた。流血はしていないが、気絶するほどのダメージを受けているらしい。
「遅かったか」
「しかし手遅れではありません、ご主人様」
「ああ、そうだな」
目の前に広がる惨状を目にして、エデンは呟く。
あの後、大商人からこの場所を聞きだし、戦闘に向いていないヴァイスを自宅まで送り届けて、エデンとメナトはここに辿り着いたのである。
そんな二人のことをマリーは泣きながら見上げた。
そして、今の彼女にとって唯一縋れる存在である二人へ、懇願する。
「ぐすっ、た、助けて……助けてぇ、カインが死んじゃう……」
「分かったからそんなに泣くなって。いつもみたいにケラケラ笑ってろ」
「ひぐっ……ど、どういうこと? 私のこと知ってるの……?」
「王都一番のヒーラー様だろ。笑顔は可愛いんだから、お前はもっと健全な理由で笑うようにしろよ」
「……え?」
「ご主人様、今は人を口説いている場合ではないかと」
「……別に口説いてるわけじゃない。どう見ても励ましてるだろ」
「それを決めるのは私です」
「いや普通に俺だよ。……まあいいや。二人の状態が心配だ、一瞬で片を付けるぞ」
言って、エデンは大広間の奥からこちらを見ている男へと向き直る。
男は既に剣を拾い上げており、この状況にも全く動じていない様子だった。
(あの男……以前ギルドで見かけたときはカインたちの仲間だったのに……)
「増援かい? まだ【テオ・ジュピトリス】には気付かれていないはずなんだけどね」
「俺たちは【テオ・ジュピトリス】じゃない、通りすがりの仮面とメイドだ」
「ふむ、ここに人がやって来るということは、また誰かがしくじったのか。まったく、つくづく自分以外には期待できない……な!」
「……ッ!」
他者を見下す愚痴を言い終わるのと同時に。
バラクは懐からナイフを取り出しセラへと投擲する。
しかしエデンがすかさず放った【種火生成】がそれを空中で撃ち落とし、無力化されたナイフは大広間の床をカラカラと滑っていった。
「オッケー。【テオ・ジュピトリス】の人間は君たちの保護対象なんだね? これでだいぶ戦いやすくなったよ」
「……随分と汚い手を使うんだな」
「ご主人様、あの男の相手は私が引き受けます。ご主人様は皆様の保護を。特に、こちらのカインという男性は一刻を争います」
「いくらお前でも一人で戦うなんて無茶だ」
「そうでしょうか? 私は一度ご主人様に勝っていますよ?」
「それはそうだけど、今は――」
「安心してください。敵がどれだけ強大であろうと、私が後れを取ることはありません。負ける気がしないんです。ご主人様やお嬢様、そしてヴァイスさんたちのおかげで――今はお腹と心がいっぱいなので」
「メナト……」
背中から槍を引き抜いて誇らしげに笑うメナトを見て、エデンは意外な感覚を抱く。
ああ、おそらく初めてじゃないだろうか。メナトと出会ってから、彼女にこうも頼もしさを感じたのは。
まだ短い付き合いとはいえ、初対面の時はこんな気持ちになることは一生ないと思っていたのに。
よし、だったら任せてみようじゃないか。【エル・プルート】No.1の武闘派に。
「わかった。俺が三人を守りながら態勢を立て直す間、敵の相手はメナトに任せる。死ぬんじゃないぞ、絶対にな」
「はい、お任せください――ご主人様!」
※
その掛け声と同時にメナトはバラクに突進し、エデンはセラの元へと向かった。
「おっと、セラにはまだそこに転がっていてもらわないと困るん――」
「させません!」
救助に向かうエデンをナイフで牽制しようとしたバラクだったが、とてつもない速度で急接近してきたメナトの存在によりその行動は中断せざるを得なくなった。
彼女の槍を剣が受け止めた衝撃で、暗い大広間に火花が飛び散る。
「……速いね。君、本当にただの人間かい?」
「素早いのは職業柄です。私はメイドなので」
「あはは、関係ないと思うなぁ。悪いけど、僕は誰だろうと容赦しないよ? 邪魔をするならまずは君から排除しようか!」
バラクは剣を巧みに操りメナトへ連撃を浴びせる。
しかし、階段の踊り場という制限されたフィールドの中でも、メナトは顔色一つ変えずそれを捌いた。
「中々やるね。だけどまだ荒削りだ」
「講釈は結構です。ご主人様をお待たせするわけにはいきませんので、早めに決着と致しましょうか」
「言うねえ。それはこの僕を倒すって意味かな?」
「あまり下手に動かない方が良いですよ。じゃないと、倒れるどころか死にますから」
そう言ってメナトは背中からもう一本の槍を抜き、両手に槍を構える。
「二刀流のつもりかい?」
「何本も買わされたので使わないともったいないんです!」
メナトは再び攻撃を仕掛け、二本の槍で息つく暇を与えずに彼を追い詰めていく。
「へぇ、やるじゃないか。そろそろ僕も本気を出した方がいいかもしれないな」
「無駄口を叩いてる暇はないですよ。これでフィニッシュですから!」
バラクが一歩下がって距離を取った瞬間、メナトは左手の槍を空中で手放し、その柄を右側の槍で思いっきり突く。
一時的に射程が二倍以上に拡張された刺突にバラクは対応しきれず、放たれた槍は彼の脇腹に突き刺さった。
「ぐっ……!」
バラクは立っていられなくなり、剣を落として床に倒れ込む。
「僅かとはいえ今の技に反応するとは、敵ながらお見事です。動かなければもっと軽傷で済んでいたのに……まったく、これでは治療が必要ですね」
「ふふ、まさか僕が相手の戦力を測り損ねるなんて……やっぱり君、ただの人ってわけじゃないよね?」
「私はただの人間です」
「本当かな? この街での生活にはちゃんと馴染めてる? その耳を隠してる髪型だって――」
「私はただのメイドです」
「あっそ……まあいいや、本人がそう言うのなら……そういうことにしておこうか」
痛手を負ったバラクは小さな声で途切れ途切れに言葉を残し――そこで気絶した。
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