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ウチのギルドマスターが可愛すぎる! ~一流ギルドから不当に追放されたら超弱小ギルドにスカウトされたので、ちょっと復活させてみます~  作者: 抑止旗ベル
3章 イオランテ暗躍編

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32話 テオ・ジュピトリス壊滅

 第六通りの外れにある廃墟――元々ここは大きな屋敷だったようだが、長い間人が住んでおらず今は見る影もない。

 滅多に人が寄り付かない場所のため、深夜である今現在、人影は僅か四人だけだった。


 カイン、マリー、バラク、そしてセラである。

 彼らは日中にバラクが集めてきた情報からこの場所を割り出した。

 バラク曰く、ここはそういう裏取引の溜まり場になっているらしい。


「うわぁ、お化けとか出そうで怖いねここー」

「なんだマリー、怖いのか? そんなもんいねぇよ」

「私は魔力を操るスピリチュアル系女子だから繊細なのー。カインと一緒にしないで」

「ああそうかよ。幽霊に襲われても助けてやらねえからな」

「いーもん。バラクに助けてもらうから。ね? バラク?」

「あはは、僕が勝てればいいんだけどね。まあでも確かに……ここは不気味な場所だよ」

「だよねー? ほら、玄関のドアとかもぶっ壊れてるしさぁ……セラは何にも感じない?」

「…………」

「セラ?」

「え? あ……うん、そうだね、ちょっと怖いかも」


 マリーの問いかけに対し、セラはぎこちなく返事をする。

 セラが彼女の質問にすぐ答えられなかったのは、この場所の雰囲気に気圧されていたというより――得体の知れない不安が心を覆っていたからだ。

 今回の事件の調査はなんだかスムーズに進みすぎている。

 なんだかまるで――誘いこまれているような。


「よし、屋敷の中に突入するぞ。…………って、なんだ、誰もいねえじゃねえか」


 先頭に立って屋敷に侵入したカインは、入ってすぐの大広間で拍子抜けした声を上げた。

 だだっ広い空間には一切の明かりや人気がなく、ただただ静まり返っている。


「んー、ハズレかな? マリー、運は良い方なんだけどね」

「まだ分かんねえぞ。これから奥の部屋を一つずつ見て回る」

「えぇー、面倒くさーい」

「…………」


 やっぱりおかしい。

 セラは月明かりに照らされた大広間の床を眺め、心の中でそう呟く。

 自分たちが歩いた場所に足跡が付かない。普通、これだけ放置されていればチリやホコリが床に堆積しているはずなのに……それがない。

 つまり、ここは頻繁に人の出入りがある場所ということ。

 なのに今日は示し合わせたように誰の気配もない。


「あ、あのさ、バラク。ちょっといい? ここに大商人が来るかもしれないっていう情報はどうやって手に入れたの?」

「ん? セラと同じように、道端の商人からの盗み聞きさ」

「そ、それって――」


 柔らかく受け答えする優男のバラクに、セラはそれ以上追及しなかった。

 カツン、カツン――と。

 屋敷の中に四人以外の足音が響いたためである。

 それは四人がいる一階ではなく、大広間の階段から繋がる二階からのようだった。

 全員が即座に警戒態勢を取り、カインは小声で指示を飛ばす。


「聞こえたか? まだ人だと決まったわけじゃないが……近いぞ、固まれ」

「お化けだったりして。ふふ、どうするカイン? 二階に行って確かめる?」

「当然だ。セラは俺の近くで援護、マリーはすぐ後ろに隠れてろ。バラクはマリーを守りつつ背後を警戒だ」

「はーい、りょーかい」

「うん、分かった」

「僕も了解――――と言いたいところだけどね」


 次の瞬間、バラクは素早く剣を引き抜きカインを背後から斬りつけた。


「ぐあっ!」

「うわっ!? ちょ、ちょっとバラク!? 何してん!? え、えっと……まず回復しなきゃ」


 余りにも突然の出来事に慌てふためくマリーは、うつ伏せで倒れたカインの傍にしゃがみこみ、回復魔法で治療を始めた。


「おや、敵に背を向けるのかい、マリー?」

「敵ってなに!? どういうこと!? なんでいきなりカインを斬るの!?」

「いきなりじゃないさ。ここに来てからずっと、油断してくれるまで待ってたんだから」


 言いつつ、一歩踏み出してマリーに詰め寄るバラク。しかしそれ以上近づかせないよう、セラはその間に割り込むようにして彼を制する。

 杖を構えて、いつでも攻撃に移れるよう警戒しながら。


「バラク……どういうつもり?」

「ごめん、攻撃する相手を間違えた……って言ったら信じてくれる?」

「ふざけないで。誰に命令されてこんなことをしているのか答えて」

「誰って言われてもね、ま、それに答えるのなら『僕自身』かな。【イオランテ】のギルドマスターである、僕の判断」

「【イオランテ】のギルドマスター……あ、あなたが?」

「ああそうさ。人に任せるのは信用ならないんだよ。だからこうして、重要な仕事は自分で片付けるようにしている」

「……なにそれ。今回の事件がなかったら、ずっと私たちと旅をする気だったの?」

「いいやまさか。【テオ・ジュピトリス】の機密を探るために入り込んだだけだし、内情をある程度把握したら消えるつもりだったよ。ほら、君たちのパーティは優秀だから良い情報も流れて来るし、すぐにクビになれるだろ? だからちょうど良かったんだ」

「なるほどね、あなたが不気味なくらい飄々としてた原因が分かってスッキリした」

「あはは、やっぱり君が一番抜け目ないね。ずっと、君だけが僕を心からは信用していなかった。ま、それは僕の落ち度というより、このパーティーがメンバーをコロコロ変えるせいかな。いわゆる人見知りってやつ?」

「それは違う。あなたとはどれだけ長い時間一緒でも心を許せないだろうけど、エデンやロッキーのことは信用できたから」

「誰だいそれ? 僕より前のお仲間のことかな? まあ……どうでもいいけどさ!」

「きゃあ!」


 セラはバラクが振るった剣を杖で受け止めたが、その力に圧倒されて体勢を崩す。


「ふふ、悪いけど容赦しないよ!」

「それはこっちのセリフ……! 【火炎流星弾】魔力解ほ――あうっ!」


 裏切ったバラクに向けて魔術を撃とうとしたセラだったが、腹部に回し蹴りをくらったことで強制的に発動は中断させられ、衝撃で吹き飛んだ身体は受け身も取れずに床へ叩きつけられた。


「あ……はぁっ……はぁ…………うぅ、マリー……逃げ、て……」


 そこから肘を支えに立ち上がろうとしたものの、腹部へのダメージで呼吸が満足にできなくなった彼女は、そのまま意識を失ってしまう。


「おっと、思いのほか良いのが入っちゃったね。うん、危ないから寝てた方が良いよ。その方が死んだことにも気付かないで済むしさ……よいしょ」


 そんな形だけの配慮を見せ、バラクはセラが手放してしまった杖を剣で叩き折る。

 そして、彼が再びカインとマリーの傍へ戻ると、マリーは怯えた目で、カインは怒りに震える目でバラクを見た。


「さて、これで戦える人間は全滅か。高名な【テオ・ジュピトリス】の人間だから警戒してたけど、なんだか呆気なかったね」

「てめぇ……! どういうつもりだ……!」

「お、僕に斬られて喋れるなんて珍しいな。流石にもう身体は動かせないみたいだけど」

「こんなことしてタダで済むと思うなよ……!」

「タダで済まないのは君たちだろ? 事前に部下が集めてきてくれた情報で知ったけど、仲間を取っ替え引っ換えなんて、中々ハードなことをしてるじゃないか。僕は物理的な悪党だけど、君は精神的な悪党だね。はっ、一緒に旅する仲間をなんだと思っているんだか」

「ぐうぁ……!」


 バラクがあざ笑うようにして踏みつけると、カインは苦痛に滲む声を上げた。

 体中の痛みが彼を蝕み、その目は段々と光を失っていく。


「ま、お互い様だね。君たちは【イオランテ】を糾弾しようとして、僕はそれを防ごうとした。どちらも自分のギルドのために戦ってるだけさ」

「……バ、バラクもうやめよ? 今すぐ人を呼べばカインも助かるかもしれないし……こ、こんなことするような人じゃないでしょ……バラクは」


 マリーは言う。

 しゃがみ込んで回復魔法を使い続けている彼女は、その状態でバラクを見上げるようにして、目に涙を浮かべながら。


「このままじゃカイン死んじゃうよ……セラの怪我も治さなくちゃいけないのに……」

「いやはや、仲間を斬った張本人を前にして呑気なもんだね。逃げないのかい? 僕がセラをあしらっている間にここを飛び出せば助かったかもしれないのに」

「ふ、二人を置いて行けるわけないじゃん……」

「ふぅん、意外と人間らしいとこもあるじゃないか。ただの薄情な人間なのかと思ってた」

「お、お願い、私はどうなってもいいから、カインとセラを治すまで待って。二人には手を出さないで……!」

「悪いけど聞けない願いだ。【イオランテ】を守るためには全員の口を封じなくちゃいけないからね。君たちは立派に戦ったと、生き残りの僕から伝えておくよ。それじゃあ、さようならマリー――」


 泣きながら懇願するマリーへバラクが剣を振り降ろそうとした――瞬間、一筋の閃光が外から廃墟の壁を貫通し、大広間へと到達した。

 その光線はバラクの剣を弾き飛ばし、更に屋敷の壁を大きく破壊する。


「……こんな場所にお客様が来るなんて珍しいね」


 バラクは様子見のため階段の踊り場まで飛び退いて体勢を立て直し、崩壊して外と繋がった壁の方を見やる。

 そこには――仮面を被った男と、二本の槍を背負ったメイドが立っていた。


ここまで読んでいただきありがとうございました!

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