27話 潜入ミッションのためにイメチェンを
昨晩の騒動から一夜明けた翌日。
本日は、ヴァイスが考案した潜入作戦の準備が進められていた。
【イオランテ】と関係の深いクラブに潜入するため、まずは恰好を整える必要がある。
朝早くから買い物に出かけ、洋服とヒールとメイク道具を新調し、ヘアサロンで髪の印象を変え、現在、二人はヴァイスの部屋で着替えとメイクを行っている。
そして、それに付き添ったエデンは既に体力を使い果たしていた。
女子二人組のショッピングというのは永久とも呼べるような長い時間だったのだ。
「疲れた。マジで疲れた。ポーション使おうかな……ダメだ、今ある分は全部ヴァイスに渡したんだった……」
彼女たちを一階で待っているのはエデン一人だけで、アイシャとロートはギルド改修の手伝いに出ている。
なんでもアイシャがいると大工さんたちの士気が上がって工事が捗るらしい。
急ピッチで進められていた工事もいよいよ大詰めで、明日には完成する見込みだ。
「けど、その前に【イオランテ】をどうにかしないとなぁ。大事にはしたくないけど、向こうが俺たちを見逃してくれるわけないし……お」
その時、考え込んでいたエデンの耳に階段を軽快に降りる足音が飛び込んできた。
「私、メイド服以外を着るのは久しぶりです」
「もったいないわよ。メナトは可愛いんだからもっといろんな格好をしなきゃ。おまたせエデン、どうかしら?」
そう言って感想を求めてくるのはヴァイス。その隣に立っているのはメナトである。
……そうだよな?
と、エデンは自分の目を疑う。
誰だろうこの美人さんたちは。まるで別人じゃないか。
ヴァイスは露出度の高い白のドレススタイルで、その太ももの辺りからは大胆なスリットが入っている。
トレードマークであるストレートの赤い髪は軽くウェーブがかかっていて、彼女の雰囲気をいつもより柔らかく見せていた。
一方のメナトは露出を抑えた漆黒のワンピースに身を包んでおり、あまり肌を見せてはいないものの、彼女自身のプロポーションと数々のアクセサリー(イオランテ製)によってとても魅力的な仕上がりになっている。
銀髪のボブだったヘアスタイルは彼女の強いこだわりにより変化していないが、彼女は常にメイド服を着ている印象が強いため、服装が変わるとその雰囲気は一転する。
「…………」
なんて長々と感想が出てくるくらい、エデンは目を奪われてしまっていた。
「エデン? もしもし? どうって聞いてるんだけど?」
「え? あ、あぁ……うん、良いと思うよ」
「どこがどういう風に?」
「どういう風にって言われても……」
「例えばほら『ヴァイスって普段は着痩せするタイプだけど意外と大きいなぁ』とか?」
「人の服装を見て開口一番にそんなこと言ってくる奴がいたら嫌だろ!」
ていうかそれは知ってるよ。そっちは知らないだろうけど。
なにせあのベッドでの件があったからな。
「せっかくコーディネートしたんだからちょっとは褒めて!」
「あぁいいよ! そこまで言うなら褒めてやる。めちゃくちゃ可愛いと思うな! こんな綺麗な人に会ったことないわ! ただ潜入先ではあんまり喋るなよ! ボロが出るから!」
「私は声までバッチリ可愛いわよ!?」
「そういう意味じゃねぇー!」
「……あの、ヴァイスさん。用意ができたなら早く出発した方が良いのでは?」
エデンとヴァイスがギャアギャア騒いでいると、横でメナトが落ち着かない様子で言う。
「そもそも採用してもらえるかも分かりませんし、接客に出るためにはある程度の研修を受ける必要があると思います」
「あー、まあそうね、本来の目的を忘れるところだったわ。それじゃエデン、行ってくるから。帰ってこなかったら無事に潜入できたってことで」
「ああ、気を付けろよ。一応、夜になったら俺も客として様子を見に行ってみるから」
クールダウンしたヴァイスと慣れない服装にソワソワしているメナトを送り出し、エデンはため息をつく。
大人しくしていると近寄りがたいくらい綺麗なのに口を開くとこれだもんな、と辟易するエデンだった。
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