26話 対イオランテ作戦会議ー2
「【イオランテ】の系列のクラブに潜入して、そこにノコノコとやって来る奴らから情報を聞きだすの!」
夕食中、様々な波乱を乗り越えて完成した料理が並ぶ食卓で、ヴァイスは言った。
しかしメナトは食事に夢中で聞いておらず、アイシャは今日の出来事をロートに話しており、彼はそれに優しく相槌を打っている。
必然的に、彼女の発言への反応はエデンに委ねられた。
「えっと、そこは確か、キレイなお姉さんがたくさんいて、優しく接客してくれるお店のことだよな?」
「そうよ。日中ならともかく、夜遊びの最中だったら警戒心も緩くなっているはずでしょ?」
「そうだな。それは同感だけど……誰が行くの?」
「もちろん私よ。実際にスカウトを受けるくらいのポテンシャルがあるとなれば、私以上の適任は考えられないわね」
「バレたらどうする? 【イオランテ】のテリトリーってことは、ヴァイスを知っている人間がいてもおかしくないぞ」
「名前や経歴はもちろん、見た目もできるだけ変えていくわ。女は髪型と服装が違えばもう別人よ。早速明日にでも雇ってもらいに行くから」
「待て待て。見切り発車過ぎるって。なぁ、ロートからもなんか言ってくれ」
「……はい? ああ、えっと」
意見を求められたロートは所々耳に入っていた情報から結論を考え、それから口を開く。
「まぁ、リスクのある行動だとは思います。だけどいいんじゃないですか?」
「いいのか!!?」
「反対は反対ですよ? でも、姉さんは自分が決めたことを最後までやり遂げる人なので……ってカッコよく言ってますけど、ただ単に弟の意見なんか通らないだけですね、これ」
「強い姉を持った弟ならではだな……」
姉の意見には絶対服従。そんなどこか悲しい性をロートから感じる。
「けど姉さん、どうせ潜入するなら人は多い方が情報集めの効率もいいんじゃない?」
「ん、まあ、それはそうね」
「でしょ? だから僕やエデンさんもお供するよ」
おぉ、さすが弟、姉の機嫌を損ねないようにしながらも安全を確保しようとしている。
なんて、エデンは感心しようとしたのだが。
「まあエデンはいいとしても、アンタはまだ幼すぎるわ。連れていけません」
「なっ!?」
提案はばっさり却下された。
「せめてもう少し身長があればいいんだけどね」
「き、気にしてるのに……」
そのうえ追い打ちまでくらうロート。
不憫だった。
「というかそもそも、あの男は女の子を補充しようとしてたんだから、すんなりと潜り込めるのはやっぱり私だけよ」
「はい。じゃあアイシャも」
と、そこで思わぬ方向から立候補の声が挙がった。
話し合っていた全員がそちらを向くと、アイシャは「私に任せて」といった感じの自信満々な態度で言う。
「アイシャも女の子だよ。だからヴァイスと一緒に可愛い服を着てせんにゅうする」
「「「絶対にダメ」」」
そこできれいに三人の声が揃った。
というか揃わざるを得ない。
「ダ、ダメなの? アイシャ、可愛くない……?」
即座に否定されたことで自らの魅力に疑問を持ってしまったらしく、アイシャは涙目だ。
三人はそれぞれ死ぬ気でフォローに回る。
「違う違う違う。逆だ。可愛すぎるからほら、アイシャが行くと他の人のお仕事が無くなっちゃうだろ?」
「そ、そうよ。だから私くらいの女がちょうど良いのよ?」
「アイシャちゃんは僕らとお留守番してようね?」
「でもアイシャ、ヴァイスを一人で行かせられないよ。危ないんでしょう?」
アイシャは慈愛に満ち溢れた無垢な眼差しでエデンを見つめる。
「う、それはまあ……俺が客に紛れて入り込んでもいいけど……店員と客じゃ滞在できる時間が全然違うからな……」
可愛い女の子。
有事の際にヴァイスを守れるだけの戦闘力。
何があっても動じない度胸。
その条件に合致するのはこの空間だと……。
「いやぁ、でもなぁ……」
「…………?」
そこで。
エデンの目線に気付いたメナトはようやく食事を中断し、不思議そうに首を傾げる。
「ご主人様、私の顔に何か付いていますか?」
ここまで読んでいただきありがとうございました!
★5をいただけると作者の励みになりますので、もしよろしければぜひ!




