25話 対イオランテ作戦会議ー1
「いやぁ、丸一日使って収穫ナシっていうのは厳しいな」
「エデン、今度はきっとうまくいくよ」
「そうだといいけど……はぁ、なんか変な仮面まで買わされちゃったし」
夕方、ヴァイスの家に戻ってきたエデンたちのムードはどんよりとしていた。
ブラオに話を聞いた後、エデンは一日中第六通りで【イオランテ】の裏商売に関する情報を集めていた。
相手にはエデンの顔が完全にバレているわけではないので、アイシャにギルドで待っていてもらい、彼らから直接情報を掴もうとしたのである。
昼食も取らずに【イオランテ】の縄張りを回ってみたが、こっちが少しでも何かを探っている気配を出すとたちまち口が堅くなった。
「まあ、簡単にボロを出すようなら、もうとっくに他の誰かが糾弾してるよな…………ん?」
二人が家に入ると、なにやらキッチンの方から楽しそうな話し声が聞こえてくる。
「ヴァイスさん、こ、こうですか?」
「そうそう、まずは野菜をしばらく炒めて、火が通ったら一旦お皿に移す。それからお肉を焼いていくの」
「そして仕上げとして、一緒に炒めて味付け……ですね?」
「よく分かってるじゃない。そっちは任せるわ。私はサラダ用の野菜を切ってるから」
「了解しました」
「「…………」
そのやり取りを聞いて、エデンとアイシャは顔を見合わせる。
「……ねえエデン、ふたり、なんか仲良くなってない?」
「ああ、そうだな……」
声の様子から判断するに二人で料理をしているようだ。
昨日の夜の時点ではそんなこと想像もできなかった。メナトが教えを乞うとは思えないし、ヴァイスがそれに応えるかも定かではない。
正直、今日二人だけで行動させて喧嘩でもしてしまったら……と危惧していたのだが。
「うん、良かったな、お互いに心を許せたみたいでなによ――」
「――だからぁ! 火が強すぎるのよ! 勝手に強くしちゃダメ!」
「ですが火力を高めた方が時短になると思います」
「そのせいで味が犠牲になってるんですけど!? こんな黒い野菜見たことないわよ!?」
「お腹に入れば同じことかと」
「まあ百歩譲ってメナトはそれでいいとしても、エデンやアイシャちゃんにこんな真っ黒な料理を出せるの?」
「む、それは確かに……望ましくありません。失礼しました料理長、もう一度お願いします」
「よし、今度こそうまく炒めるのよ」
「はい。………………熱っ……あの、料理長、油がハネて熱いです。調理とはこうも危険を伴うものなんですか?」
「それはアンタの胸元がガラ空きだからでしょ! エプロン持ってくるからちょっと待ってなさい!」
ドタドタドタ、とヴァイスが室内を駆け回る足音が響く。
「……あれれ? あ、あんまり変わってないのかな……? アイシャの気のせい?」
「うーん……まあ、徐々に仲良くなっていけばいいんじゃないかな」
「――えっと、エプロンは確かロートが二階に置いといてくれたはず……あ、エデンとアイシャちゃん、おかえりなさい」
キッチンの方から階段目掛けてやってきたヴァイスは、入り口で立ち尽くしていた二人に気が付いた。
それにアイシャが意気揚々と返事をする。
「ただいまヴァイス、今日もごはん作ってくれてありがとう」
「いいのよお礼なんて。それよりブラオの話はどうだった? 何か問題があるって言ってたけど」
「えっとね、アイシャたちのギルドが活動するうえで、拠点が近い【イオランテ】は脅威になりうるの。なんだか良くない商売をしてお金儲けをしているらしくて……今日はそれを確かめるためにエデンが頑張ってくれたんだけど……」
「ダメだったの?」
「うん。営業中のお店に聞き込こもうとすると、それだけでまず警戒されるみたい」
「ふぅん……つまり【イオランテ】と関係の深い商人から話を聞ければいいわけでしょ?」
言いつつ、ヴァイスは今日の出来事を思い返す。
買い出し中に絡んできたあの男、確か【イオランテ】が関わってるキャバクラみたいな所に私を誘ったわよね。
なんて言ってたかしら、えっと……確か、ギルドのお偉いさんとか有名な冒険者とか、お金持ちの商人さんが来るって――
ヴァイスはそこまで思い出すと、それ以上余計な記憶は掘り起こさず――不敵に笑う。
「二人とも、私にいい考えがあるわ。警戒されずに相手の懐に潜り込む方法、知りたい?」
「うん、しりたい」
「エデンは?」
「俺も知りたいけど……その前に……あれ」
と、エデンはなにやら黒い煙が上がっているキッチンの方を指さしながら言った。
「なんかすげぇ焦げ臭いんだけど……大丈夫か?」
「へ? ……えええぇぇ!?」
振り返ったヴァイスは血相を変えてキッチンへダッシュする。
「もー! メナト!!!!」
ここまで読んでいただきありがとうございました!
★5をいただけると作者の励みになりますので、もしよろしければぜひ!




