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ウチのギルドマスターが可愛すぎる! ~一流ギルドから不当に追放されたら超弱小ギルドにスカウトされたので、ちょっと復活させてみます~  作者: 抑止旗ベル
3章 イオランテ暗躍編

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24話 ヴァイス&メナトがお買い物中に絡まれるようです

 エデンとアイシャがギルドに滞在している時とほぼ同時刻、第七通りの商店が並ぶ道は大勢の人で溢れており、その中に彼女たちの姿はあった。

 赤いロングヘアを風で揺らしながら早足で歩く少女。

 その一歩後ろをついて歩いているのは、大量の食材を抱えている銀髪ボブのメイド。

 そう、ヴァイスとメナトは買い出しの最中なのである。


「ご主人様たち、大丈夫でしょうか」

「自分のギルドに行ってるだけだから平気よ」

「ですが、もし何か事件に巻き込まれていたら……」

「考えすぎ、ほら、モタモタしないで次のお店に行くわよ」

「……はい」


 メナトはエデンたちのことが気になって仕方ないらしく、無意識のうちにヴァイスを追う足取りも鈍くなっていた。

 当然、メナトは自分も一緒にギルドに向かうつもりだったが、今日は特に三人で行動する意味もなかったため、ヴァイスの手伝いを任命されたのである。

 ただ、任命したエデン&アイシャとしてはただ単に役割分担を重視しただけではなく、もう一つの理由があった。

 それは――


「つかぬことを伺いますが、なんだか買い物の量が多くはないでしょうか? ヴァイスさんの家は商店なのでは?」

「ウチじゃ肉とか魚は売ってないから、そういうのを買ってるの。あと、量が多いのはアンタがたくさん食べるからよ」

「ではもう一つ質問していいですか? 何故、私が全ての荷物を持っているんです? そろそろ前が見えなくなりそうなんですが」

「役割分担よ。私は食材を選ばなくちゃいけないし、見ての通りか弱いの」

「か弱い……つい先程、お店の開店準備の際は大きな木箱をいくつも運んでいらっしゃいましたよね……?」

「そうだったかしら? 中にわたあめでも詰まってたのかもね」


 ――といった感じで。

 二人は決して仲が悪いというわけではないのだが、いまいち歯車が噛み合わない感じだ。

 まあ、ある意味いい関係とも言えるかもしれない一方で、「もっと普通に仲良くなってほしい」というエデンとアイシャの想いによって現在の状況に至る。


「あぁ……なんだかもうお腹が減ってきました。荷物が少なければ空腹になる速度はもっと穏やかだったと思います」

「自分で持ってるからってつまみ食いしちゃダメよ?」

「パンならともかく、生の魚や肉を食べる勇気は流石にありません。……そうです、パンは? パンは買わないんですか? 必要ですよね?」

「食べる気満々じゃない。パンは最後」

「うぅ……人使いが荒いです。メイドは間食をしないと生きていけないのに……」

「そんな情報聞いたことないんですけど」


 そう言い切るのと同時に、ヴァイスは足を止めた。


「ついにパン屋さんですか?」

「パンはまだ先。調味料を買ってくるからここで待ってて」


 ヴァイスはそう言って通りの対面まで歩いて渡り、商品を吟味する。

 吟味しながら――彼女は思う。


「…………」


 由々しき事態ね。

 今まで会ったことのないタイプの人間だから接し方が分からないわ。

 無表情だから何を考えているのか読み取り辛い。

 今わざと素っ気なく接してみたけど、それを露骨に嫌がっている様子もなし。

 あんな態度を取られて嫌じゃないのかしら……あ、もしかして既に嫌われている?

 エデンやアイシャちゃんに仕えているから、仕方なく私とも一緒にいるだけだったり?

 いや、ないない。好かれる理由がなくとも嫌われるようなことはして……したわね。食べ過ぎだって怒鳴っちゃった。

 うーん、メナトって何をしてあげたら喜ぶのかしら……もちろん食べ物をあげる以外で。


「……いけない。早く戻らないと」


 気が付けば長々と店先で考え込んでいたヴァイス。

 彼女はそそくさと買い物を済ませ、待っているメナトの元へ戻ろうと踵を返す。

 しかし、そこから数歩進んだところで。


「ねぇねぇ、ちょっといいかな?」


 と、小綺麗なローブに身を包んだ男が声を掛けてきた。

 その襟元には、自身がどこのギルドに所属しているかを示す紋章が付いていた。ある程度大きなギルドならどこも発行している物なので特に珍しくはない。

 問題は、そのマークが【イオランテ】のものであるということ。

 思わず身構えるヴァイス――しかし、男からは敵意が感じられなかった。

 どうやら素性を知って話しかけてきたわけではないらしい。


「……わ、私に何か?」

「今さ、すっごく時間をかけて買い物してたじゃん? 商品をジーッと見て、どれにしようか悩んでたよね?」

「ええ……まあ」


 確かに端から見ればそう映っているだろうと、ヴァイスはひとまず頷く。


「お買い物でそんなに悩むってことは、もしかしてお金に困ったりしてない? オススメの仕事があるんだけどさ、お嬢ちゃんキレーだからウチならすごい稼げるよ。ドリンクを飲みながらお客さんとお話しするだけ。ねね、興味ない?」


 無駄に陽気な態度で話す男からはアルコールの匂いがした。


「アンタ、朝から飲んでるの?」

「ううん、朝まで飲んでたんだよ?」

「あっそ、どっちでもいいけど結構よ。他を当たって」

「そんな冷たいこと言わないで? ウチの店大きいから有名な人も来るんだよ? ギルドのお偉いさんとかちょー強い冒険者とか、お金持ちの商人さんとか」

「あの、だから……」

「まずは体験に来てみない? 第六通りに入ってすぐの青い建物なんだ。バックに【イオランテ】がいるから厄介なお客さんに絡まれてもすぐ助けられるよ?」


 厄介なお客さんはお前だ――と男を蹴り飛ばしたい気分に駆られるヴァイス。だが、酔っているとはいえ相手は【イオランテ】の人間だ。彼女が戦って勝てる相手ではない。


「最近何人かやめちゃってさあ、すぐに補充しなきゃなんだよね。ほら、とりあえず行ってみようよ、店にあるドレスを着たら絶対やる気になるから。嫌だったら帰っていいし」

「あっ、ちょっと、やめて……!」


 男がヴァイスの腕を掴みそのまま手を引こうとした瞬間――


「あの、それは私も同行してよろしいでしょうか?」


 と、その男の腕をメナトが掴んだ。


「メ、メナト……」

「お、君も可愛いねえ、もちろんいいよ。一気に二人もスカウトできるなんてラッキーだ」

「褒めていただき光栄です。しかし、私に務まるのでしょう……かっ」


 メナトが力を込めると、握っていた男の腕がミシミシッと軋むような音を立てる。


「いでででっ!」

「私は不器用なのでお店のグラスを割ってしまうかもしれませんが、よろしいですか?」

「よくない! 初対面の人に暴力を振るう子はお断りだ! 嫌なら口頭で伝えてほしいもんだね……!」


 男はたまらずヴァイスから手を放し、メナトを振りほどいて人混みに消えていった。


「口頭で伝わらないから実力行使に出たのですが……ああ、もう行ってしまいました。どうやら他を当たってくれるようですね。ヴァイスさん、大丈夫ですか?」

「え、ええ……ありがとう」


 ヴァイスは二重の意味で驚いていた。

 【エル・プルート】に加入するというからには、メナトはそれなりの実力を持ち合わせているのだろうと思っていたが、まさか性別や体格差を一切無視してあしらえる程だとは。

 そして、彼女が自分を助けてくれたことも意外だった。


「すぐに助けられず申し訳ありません。気付いてはいたのですが、今朝、ご主人様に『街でトラブルに巻き込まれてもギリギリまで手は出すな。対応はヴァイスに任せて、彼女がどうしても穏便に解決できない時だけ間に入れ』と言われていたので」

「エ、エデンがそんなことを?」

「はい。私は世間知らずなので自分の判断が裏目に出てしまうことが多いです。なので頼れる人間の指示を仰いだ方がいいとご主人様は考えたのでしょう」

「でも……た、助けて良かったの? メナトは私のこと、嫌いなんじゃ……?」

「いいえ? そんなこと思っていません。むしろ、割り込むのがギリギリだったので私がこれ以上ヴァイスさんに嫌われてしまわないかとヒヤヒヤしています」

「いや、私だって別にメナトのことをそんな風には思ってないわよ?」

「ですが、現にこうして荷物持ちを任されています」

「ああ……それはやっぱり嫌なのね。そりゃそうよね。安心したわ」

「な、何か至らない点があるなら教えてください。私、本当はヴァイスさんと仲良くなりたいです。でも私、人と何を話せばいいか、分からなくて……」


 今までずっと、そうやってぎこちなく生きてきました。とメナトはどこか儚げに言う。

 彼女なりに抱えている悩みや苦労を、ヴァイスは垣間見た気がした。


「…………」


 なぁんだ、お互いにそんな感じだったってわけね。

 どちらも相手が自分のことを快く思っていないと考えていた。と。


「ねぇメナト、ちょっといい?」


 だからヴァイスは、彼女に一つ質問をしてみることにした。

 良い友人になれるかどうかは価値観が合うかどうかだ。今からそれを確かめる。


「私があの男に絡まれていた時、もし、エデンから何も言われていなかったら、メナトはどういう行動を取ってたの?」

「え? それはまあ、あの人がヴァイスさんの手を掴むより早く、後ろから思いっきり蹴り飛ばしていたと思います」


 まるで当たり前のように淡々と答えるメナト。

 それを聞いてヴァイスはこらえきれずに噴き出した。

 親友確定。


「ぷふっ、あはは、あははははっ!」

「……ヴァイスさん? どうしました?」

「あははっ、普通、こんな乱暴な考え被らないわよ……! ふふふ……大丈夫、どうもしてないわ。良い性格してるなって思っただけ。それより、荷物、半分貸して」

「何故です? まだ買い物の途中ですよ?」

「いいからほら。私も持つって言ってんの」


 ヴァイスは強引にメナトから食材の詰まった紙袋を取り上げ、それを抱え込む。


「どうしていきなり……もしかして私はお役御免ですか? もうクビなのですか?」

「そんなんじゃないわよ。ただ、持ち過ぎて前が見えなくなったら困るでしょ? 友達なんだから分けて持つのは当然よ」

「と、友達……!? 私が、ヴァイスさんの?」

「嫌?」

「とんでもないです。でも、どうして……? 私の至らない点はまだ改善していません」

「そんなの無いわよ。全部メナトの個性じゃない。少なくとも、私はあなたのことが気に入ったわ。友達になりたいって思うくらいにはね」

「友達……ヴァイスさんが、私の友達に……ふふっ」


 そこで初めて、メナトは笑い声を漏らす。

 偽物の槍を掴まされた怒りから來る笑みではなく、純粋に、マイナスの感情を一切含まない理由で笑った。


「嬉しいです。そんなことを言われたのは生まれて初めてで……自分から志願したご主人様やお嬢様とは、また違った関係性と言いますか、その、なんと表現すればいいのやら……ヴァイスさんは私にとっての何なのでしょうか? えぇっと……」

「ふふん、そんなの簡単じゃない。しんゆ――」

「……女王様?」

「友達ね。私はメナトの友達。もし街中でそんな呼び方したら本気で怒るから」


 ヴァイスは光のような速度で即座に訂正した。

 知り合いだらけのここでそんな呼び方をされてはたまったものではない。

 『親友』よりも『女王様』が先に出てくるメナトの人生遍歴に戦慄しつつ、あるいは、もはやそれも楽しみながら、彼女は明るい面持ちで言う。


「まったくもう、そろそろ行くわよ。まだ色々と買わなきゃいけない物があるんだから」


 そう言って、第七通りを颯爽と、赤い髪を靡かせながら歩き出すヴァイス。


「はい! お供いたします!」


 メナトはそんな彼女へ元気に返事をして――軽い足取りでその後を追った。


ここまで読んでいただきありがとうございました!

★5をいただけると作者の励みになりますので、もしよろしければぜひ!


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