20話 新メンバー加入!
エデンの腕を掴んだまま、メナトは言う。
「私は他人からよく『人や物を見る目がない』と言われます。自分ではそう思っていませんが、事実、今回もそうでした。このままだと再び同じ目に遭ってしまうかもしれません。なので、私をご主人様の傍に置いていただけないでしょうか?」
「お、俺たちが良い人間だという証拠はないぞ?」
「あります。ご主人様は私にご飯を恵んでくださいました。悪い人間ではないはずです」
「いや、それもメナトを油断させるための罠かもしれないし……そもそも、こういう人事みたいなのは俺の一存で決められることじゃない」
「つまり、ご主人様よりも偉い方に許可をいただければいいわけですね?」
と、メナトの鋭い視線はエデンから、その隣に座っているアイシャに移った。
テーブルから身体を乗り出しグイッと詰め寄るメナト。
そしてそれに気圧されるアイシャ。
まるで肉食動物に睨まれている子猫だ。
「私はメイドという仕事に従事していますので、人間の上下関係には敏感です。どうやら、ご主人様はこちらのお嬢様に頭が上がらない様子ですね。戦闘の際はまず初めにお嬢様の安全を確保しようとしていましたし、食事の代金もお嬢様が出していました」
「え、えっと、私……?」
「はい、お嬢様はご主人様のご主人様ですか?」
「あの、その……ふぇぇ……」
「無表情で顔をそんなに近づけるな、怖いから」
「よく言われます。別に脅かすつもりはなかったのですが」
「お、驚いてごめんなさい……」
「いいですよ。お気になさらず」
「なんでお前が許す側になってるんだ」
「交渉の最中ですので、ご主人様はお静かに」
「ご主人様に命令してるけどいいのかそれは……」
納得のいかないあしらわれ方をされたような気もするが、まあひとまず、エデンは言われた通りに黙って様子を見守ることにした。
「お嬢様、私を雇っていただければ、お嬢様がどこかに移動する際は護衛を兼ねて常に抱っこで運ばせていただきます」
「は、恥ずかしいからいいよぉ……。あの――」
「それだけではありません。睡眠時は夜襲に備えて添い寝も致します」
「ひ……ひとりで寝られるもん。あ、あの――」
「それではこういうのはどうでしょう、ええっと……」
メナトは自分を雇うメリットを絞り出そうと頭をフル回転させる。
しかしアイシャの優しい性格を鑑みれば、そもそも彼女にはメナトを拒む気なんて微塵もありはしない。
エデンが乗り気ではないのを見て、アイシャも同じ気持ちであると誤解しているメナトが間髪入れずに喋り続けているため、彼女は答えられないのだ。
「わ、私がお二人を襲ってしまったのは事実です。易々と受け入れてもらえるなんて思っていません。しかしどうか、その罪を償うため私にチャンスを……」
「お、落ち着いてメナトさん。アイシャたちは別に怒ってないよ?」
「……どうしてですか?」
「人にはそれぞれいろんな事情があるからだよ。昔、おじいちゃんが言ってた。『物事を判断する時はたくさんの人に話を聞いてから答えを出しなさい』って。【イオランテ】のお話だけしか聞いていなかったメナトさんと、今のメナトさんの考えは違うでしょ? だからアイシャは、今のメナトさんの思いを尊重するの」
「お、お嬢様……」
「だからメナトさん、アイシャの話を聞いてくれる?」
「……もちろんです。相槌の腕には自信がありますから」
「えっとね、アイシャたちのギルドはとっても小さくて、まだ全然活動もしてないの。いろんな人が助けてくれて少しずつ前に進んでいるけど、まだまだ道のりは長い。だからその途中で躓いちゃうかもしれないし、困っちゃうかもしれない」
いつになく真剣な面持ちでアイシャは言葉を続ける。
「その結果、ギルドを支えてもらうためにメナトさんには負担を掛けてしまうかも。メナトさんは強いから、他のお仕事を探した方がうまくいくかもしれないよ。……それでもいい? それでもメナトさんは、アイシャたちのギルドに入ってくれる?」
そう問いかけるアイシャに、メナトはやはり眉一つ動かさず――けれど普段の無表情とは違う真摯さを纏いながら、答える。
「当然です。こんな私を受け入れてくださったお嬢様たちに、この身を捧げる覚悟はできています」
「分かりました。では――」
メナトの手を取ってアイシャは言う。
一人の少女ではなく、【エル・プルート】のギルドマスターとして。
「私、アイシャ・リラ・シャングリラは【エル・プルート】を統べる者として、貴方が当ギルドへ属することを許可します」
ここまで読んでいただきありがとうございました!
★5をいただけると作者の励みになりますので、もしよろしければぜひ!




