18話 戦闘! VSクール系メイド!ー2
「……やっとついた」
「お疲れさまエデン、あっ、ここ空いてるよ」
多くの人間で賑わう【テオ・ジュピトリス】の食堂にて、誰も使用していないテーブル席を見つけたアイシャは嬉しそうに言った。
「おぉ、ナイス……アイシャ」
その反面、エデンは疲労を隠せない面持ちである。
というのも。
「ほら、ついたぞ。いい加減離れろ」
「あぅ、せっかく見つけたんです、逃がすわけには……」
「逃げないからくっつくなってマジで……」
そう。
エデンは体力が尽きたメナトに肩を貸して食堂まで歩いてきたのだ。
脱力している人間を運ぶのは非常に体力を消耗するうえにプラスアルファとして、そんな状態でもエデンを逃がすまいと腕を絡めてくるメナト。
エデンにしてみれば先程の戦闘よりもよっぽど面倒だった。
「いいから早く座れ」
「きゅう……」
既に抵抗する力が残っていないメナトを着席させると、彼女はテーブルに突っ伏してしまった。
「何か食べ物を買ってくるから、アイシャはここで見張っててくれ」
「アイシャにできる? メナトさんだっけ、このお姉さん強いんでしょ?」
「大丈夫だよ。槍も取り上げてるし、腹ペコで動けないみたいだから」
「うん、わかった。それじゃあ、エデンにこれを渡しておくね」
そう言って、アイシャはポケットから綺麗な布の袋を取り出した。
「これは?」
「お金だよ。エデン持ってないでしょ?」
「あぁ……そういえばそうだった。ありがとうギルドマスター」
自身が無一文であることを忘れていたエデンは、アイシャから受け取ったお金を持ってカウンターへ向かう。
流石に大手のギルドだけあって品数も豊富だった。
(とりあえずアイシャが好きそうなやつを頼むか。メナトの好みは分からないし)
そうこうして、エデンがカウンターで注文を終えて待っていると――
『アノ。やはりあの女は【魔究空間】にぶち込んで運搬すればよかったかと』
頭の中でそんな声が響いた。
その荒々しい発案の主は紛れもなく括弧である。
「ぶち込んでって……お前な、もし仮に生身の人間が入れたとしても、【魔究空間】の中で誰かさんがちょっかいを出すかもしれないだろ?」
『ナニモシマセン。ただ【イオランテ】の魔術師の魔法が保管してあるスペースに一緒に置いておくだけです』
「危ないことすんな。丸焦げになるわ」
『マッタク。あの女は重量のある物体をぶら下げているので使用者の肉体に余計な負担がかかりました』
「身体自体は細いからそうでもないさ」
『ハァ? そうですかそうですか。使用者もやはり男ですね。いくら動けない相手を運ぶからって、あんなに密着して……あの女が懐に短剣でも仕込んでいれば使用者は刺され放題でしたよ』
「なんかやたらメナトのことを嫌ってるな……え、括弧は性別とかあんの?」
『オソラクハ。使用者のように綺麗な女性に弱くはないので、男性ではないと思います』
「だとしたらお前がどんな顔してるのか見てみたいわ」
『タイメンデスカ。いいでしょう、少しお待ちください。今出ますから』
「ははっ、いいね、面白い冗談だ。壁画の動物をロープで捕まえてみろって無理難題を出してた昔話を思い出した」
『ジョウダンジャナイデス。【括弧】がその気になれば……』
「あっ、料理が出来たからもう切るぞ。魔導書を【魔究空間】に入れとくから暇つぶしに読んでるといい。また後でな」
『チョット、まだ話は終わってな――』
プツン、と括弧との交信を終了して【魔究空間】に魔導書を収納するエデン。
そのままカウンターから料理を受け取りアイシャたちの元へと戻る。
「お待たせ。メナトが空腹だって言うから多めに買ってきた」
「うわぁ、おいしそうなお料理がたくさん」
テーブルに並べられた料理を待望の眼差しで眺めるアイシャは、「いただきます」と手を合わせて食器を取り、それから料理を口へと運んだ。
「うん、おいしい!」
「良かったなアイシャ。ほら、メナトも」
「ん……あ……私は、お金を持っていないので……」
「遠慮するなよ、死んじゃうぞ。はい、あーん」
多少強引に、エデンは机に突っ伏しているメナトの口へパンを押し込む。
「むぐっ……んっ……おいしい、です」
「そりゃ何よりだ。あとは自分で食べろよ」
「いいんですか……?」
メナトは机に突っ伏した状態からゆらりと身体を起こし、不思議そうに尋ねる。
「私はあなたたちへ武器を向けたのに、どうしてここまでしてくださるんですか?」
「どんな相手だろうと目の前で倒れたらそりゃ心配するさ。まあ、そういう話はとりあえず食べ終わってからだ」
「……はい。では、ご厚意に感謝して。いただきます――」
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