13話 絶賛ギルド改装中ー1
それから数分後、第七通りの外れにある【エル・プルート】が本拠地を構える道路にて。
「すご……」
生まれ変わったギルドを見た瞬間、エデンの口から思わず声が漏れた。
外壁は落ち着いた紺色に塗り替えられ、窓は新品に取り替えられている。
それだけでも十分見違える出来なのだが、加えてもう一つ。
ギルドの入り口には【エル・プルート】と刻印されたプレートが取り付けられている。
アイシャが守り続けたギルドの証――それがようやく日の目を見る時がきたのだ。
その技術に感動しつつ、エデンはギルドの入り口で多くの大工に指示を飛ばしている人物に話しかける。
肌が茶色に焼けている壮年の男性――戦闘の直後にエデンの肩を叩いたのは彼だ。
「どうもこんにちは」
「おお兄ちゃん! もう動いて大丈夫なのか?」
「ええ、どうにか。それにしてもすごいですね」
「なぁに、俺達にかかりゃ楽勝よ! もう一階の工事は終わってるぜ。家具なんかも入ってるから見ていきな。おーいお嬢ちゃん! ちょっとおいで!」
その威勢のいい声とは対照的に、控えめな声色がギルド内から返ってきた。
「ブラオさん。お嬢ちゃんって呼ぶのは恥ずかしいからやめてください。私は……あ」
ギルドから姿を現した人影はエデンに気付くと言葉を失った。
その表情は、目を見開く驚いたものから嬉しそうな笑顔に変わり、少女はそのまま駆け寄ってくる。
そして。
ぎゅうっ、とアイシャはエデンに抱きついた。
「エデン! エデンだぁ……!」
「久しぶりだなアイシャ。心配かけてごめん」
「うぅん。無事でよかった。魔力切れで寝込んじゃう人は普通二、三日で元気になるはずなのに、エデンはそうじゃなかったから……アイシャ本当に不安だったの……」
「あー……一回切れると貯まるのが遅い体質なのかもな」
そう言うと頭の中で括弧から『使用者の魔力量が常人より多いためだと推測されます』という横槍が入ったが、エデン以外には聞こえていないのでスルーする。
「それにしても驚いたよ本当に。寝てる間にこんなことになってるなんて、やるじゃないかアイシャ」
「ア、アイシャは何もしてないよ? みんなが助けてくれたから、こうやってギルドが新しくなってるの」
「いやいや、ここの指揮はお嬢ちゃんが執ったようなもんじゃねえか。兄ちゃんがせっかく掃除してくれたから、全取っ替えでリフォームするのは嫌だって言ってな」
ガハハ、と笑いながらギルドの裏手に回っていくブラオ。
アイシャはそれを頬を膨らませて睨んでいる。
「もう、ブラオさんはホントにもう……行こうエデン、一階のギルドスペースを見に」
「ああそうだな。それじゃあ……えっと、そろそろ離れてくれないか?」
と、エデンはアイシャに提案する。
再会を果たしてからずっと、話している間もずっとずっと抱きつかれたままだったのだ。
しかし。
「イヤ」
そんな答えが返ってきた。
以前のアイシャからはおおよそ予想もできない返答だったので戸惑うエデン。
「は、離れないと二人とも歩きづらいだろ?」
「アイシャ寂しかった。毎日寝ているエデンに声を掛けて、今日あったことを話しても……何も言ってくれなかったから」
「アイシャ……」
長い間一人だった少女は、エデンに出会って再び人と関わるようになった。だが、その矢先でもう一度孤独になる悲しみをチラつかせてしまったのだと、エデンは気付いた。
アイシャの頭を優しく撫でながら――彼は言う。
「大丈夫だ。もう絶対アイシャに寂しい思いをさせたりしない」
「……ホント?」
「ああ、約束する」
「じゃあ……手、手を繋いで。これはギルドマスターの命令です」
「了解。仰せのままに」
差し伸べられたアイシャの手を握り、優しく引いて、エデンはギルドへ入る。
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