9話 申し訳ないが三下では相手にはならないようです
群衆の中から抜け出し、ロートとヴァイスの元へ足を進めるエデン。
それに気づいた魔術師の男は、ヴァイスから手を離して向き直った。
「何か文句でもあるのか? これは当ギルドの問題。部外者の口出しは不要だ」
「こういうことをされるとギルド全体の評価に響く。同業者としての警告だ。やめろ」
「その態度……それは私が【イオランテ】の人間だと知っての言葉か?」
「知らないな。そんなマイナーギルド」
「……お前の所属は?」
「【エル・プルート】」
「ふっ、ふははっ……ハハハッ! これは傑作だ。無名どころか嘘とはな。ありえん、名前に冠詞が付くのは王都直属のギルドだけだ。今の王都にそんな名前のギルドは存在しない」
「…………」
いや知らないよ。そんなこと言われても。
名前なんて好きに付けられるものだと思ってた。
そんな感想を悟られないようにエデンは真剣な面持ちで黙り込む。
田舎育ちのエデンにとってギルド周りの情報はブラックボックスだ。
「ハハハ……まあ、笑わせてもらったが邪魔をしたのは事実だ。報いは受けてもらう」
そう言って、魔術師は腰元から杖を取り出した。
魔力消費の軽減や威力の増大に繋がる、魔法のサポートをするための道具だ。
その先端は――当然エデンへと向けられた。
「おいおい、こんな場所で撃つ気か……いや、人のことは言えないけど」
昨日の出来事を反省しつつ、エデンは小声で呼び掛ける。
「おい括弧、起きてるか?」
『コンニチハ。お呼びでしょうか、使用者。【括弧】には睡眠の概念が無いので『起きてるか』という問いかけは不相応なのですが』
「冗談を言ってる場合じゃない。力を貸してほしい」
『リョウショウ。状況把握を完了。使用者への敵意を持つ生物を確認。対象1。フルパワーの【種火生成】での焼却を推奨』
「却下だ。もっとふんわりしたヤツを頼む」
『ヤレヤレ。文句ですか。では――む、警告。戦闘対象の魔力解放を確認。【魔究空間】での魔術反転を推奨』
「え……? 魔術反転って何?」
『デスカラ。【魔究空間】にて敵の魔術を吸収後、空間内の魔力層をいくつも経由させることで威力を増幅。それを射出します。試算では吸収時の7倍になると想定されます』
「つまりどういうこと……!?」
『イイカラテヲカマエテクダサイ。はい、せーの』
「……くっ!」
括弧に促されたエデンが両手を構えるのと、魔術師の魔法が発動するのは同時だった。
「くらえッ! 【火炎弾】!」
放たれた炎はまるで銃弾のような速度でエデンに迫り、その身体に直撃しようかというところで――消滅した。
エデンが展開した【魔究空間】に触れた瞬間、爆発することもなくである。
「括弧、まさか吸い込んだ……?」
『ハイ。使用者が受けた魔術を【魔究空間】に取り込みました。増幅処理が完了すれば高威力で撃てます――が、対象敵意以外を巻き込んでしまう可能性が高いため、増幅を行わずに当該魔術を六つに分割。内一つを射出します』
そう括弧が伝え終わるや否や、エデンの両手から【火炎弾】が発射された。
バシュン!
「――うぐっ! バカな……これほど簡単に魔法を反射するなんて、ありえない……」
炎の弾丸に顔面を捉えられた魔術師は体勢を崩して地面に倒れこみ、そのまま気絶した。
『ヒット。しかし威力は減衰させました。放っておけばそのうち目を覚ますかと』
「ありがとう括弧。助かった」
『オヤクニタタテコウエ……。いえ、この程度の作業、次回からは使用者が自力でやってください。それでは』
「……ありがとうって言ってるんだから素直に受け取ってほしいもんだ」
何故かツンデレ気味に会話を切られてしまった。
その理由も分からないまま戦闘は終わり、辺りは静寂に包まれる。
「ふぅ、どうにかなった。……さて」
エデンは【魔究空間】から括弧お手製のポーションを取り出し、こちらを呆然と見つめている二人に歩み寄る。
「たしか、ロートとヴァイスだっけ? これ、もしよかったら使ってくれ」
「……い、いいの?」
「ああ、もちろん」
「そ、それじゃありがたく。良かったわねロート」
「ありがとうございます……」
差し出されたポーションを姉のヴァイスが受け取ると、顔を怪我している少年――ロートは礼儀正しく頭を下げた。先程の魔術師と比べると雲泥の差である。
「た、助けてくれてありがとう。ねぇ――」
ヴァイスが何か言おうした瞬間。
「やるねえ兄ちゃん! 見てて爽快だったぜ!」
群衆から飛び出してきた野次馬にエデンは肩をバシバシと叩かれた。
それを皮切りに、静けさを保っていた人々は一人が騒ぎ出すとやがて二人、三人とその数を増やしていく。
「ねぇ奥さん見た? いっつも偉そうにしてるくせに呆気なくやられちゃったわよ!」
「すごかったわねー! 店番をしてる主人に話したらどんな顔するかしら!」
そんな会話をする主婦たちや。
「どうだ兄ちゃん、ウチの店の用心棒をやっちゃくれねえか?」
「あっ、なら私のところもお願い! あんな奴らにお金を払うよりよっぽど良いからさ!」
と、エデンをスカウトしようとする者たちもいる。
そんな騒ぎの中心で。
「え、あ、いや、俺は…………ッ」
エデンは自分の意識が遠のいていくのを感じた。
この感覚はまだ小さかった頃に一度味わったことがある。
あれはそう……魔法を覚えたての頃、調子に乗って箒を何時間も飛ばしていた時にもこうなった。
とどのつまり――魔力切れだ。
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