僕はハナちゃんのぬいぐるみ
僕は、いつだってハナちゃんの1番の話し相手で、ハナちゃんの遊び相手だ。
きっかけとは、些細なこと。
棚から偶然落ちて、床に転がった僕に、ハナちゃんはキラキラした笑顔で笑った。
転がった時の僕の表情が面白かったらしく、それ以来、僕はハナちゃんの1番のお気に入りになった。
それは、僕の何よりの自慢だった。
ハナちゃんは、いつも僕を転がしては笑い、楽しそうにしていた。
僕は、この時間が、長く、いつまでも続いてほしいと思った。
でも、ハナちゃんは大きくなるにつれて、僕から離れていった。
ハナちゃんは僕を追い抜かして、どんどん成長していく。
やがて、オシャレをしてみたり、新しくできたお友達と遊んだり、まるで僕に興味がない。
僕だけ時が止まっていて、この場に取り残されている気がした。
分かっていた。
いつかこんな日が来るってことくらい。
だって僕は、しがないフクロウのぬいぐるみだから。
ちっちゃな羽でバタバタ羽ばたいても、空も飛べないぬいぐるみ。
僕は転がって、ハナちゃんを笑わすことしかできないんだ。
でも今のハナちゃんは、僕がいなくても笑っている。元気に楽しく暮らしいている。
僕は役目を終えたぬいぐるみ。
それからどれくらいの時が経ったろう。
その日、ハナちゃんは泣きながら家に帰って来た。部屋でずっと泣いている。
どうしたの?
悲しいことでもあった?
友達と喧嘩したの?
僕は、ハナちゃんに声をかけたいけど、声が出ない。
僕は、ハナちゃんのもとまで飛んでいって、その涙をぬぐってあげたいけど、飛ぶことができない。
僕にできることは……
僕は必死に、ちっちゃな羽をバタバタ上下に動かしてみた。
体が少しずつずれていく。
あと少し、もう少し。
やがて僕は、棚から転げ落ちた。
泣いてたハナちゃんが、ハッとして、床に落ちた僕を見た。そして、僕を拾い上げると、じっと見つめた。
そして、にっこり微笑んだ。
「ありがとう」
ハナちゃんは、ギュッと僕を抱きしめてくれた。
冷たかった僕の体が、なんだかあたたかくなった。
よかった、笑ってくれた。
僕の方こそ、ありがとう。
僕は、いつだってハナちゃんの1番の話し相手で、ハナちゃんの遊び相手だ。これからもずっと。
僕は、ハナちゃんのぬいぐるみでよかった。