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なろうラジオ大賞参加作品

ランドセルなんて捨ててしまえよ

 事情により再投稿しました。

「ランドセルなんて捨ててしまえよ」


 まるで何でもないことかのように、彼は言った。

 私はその時の彼がとても勇ましく見えたんだ。




 私は学校へ行くのが嫌いだった。

 所詮、いじめられっ子というやつだ。小学一年生、女の子なのに青のランドセルを背負って行ったせいで笑われたことから始まり、それからずっとずっと周りから後ろ指を指されてきた。


 それは五年生になった今でも変わらない。

 いつも、私を嗤う者がいた。誰とも趣味が合わず、いつもひとりぼっちな『異物』である私を誰も認めてはくれなかった。

 そして、ある朝、普段通りに登校して、汚い言葉が書き殴られている机を見て――ふと思ったんだ。


 もう、嫌だなって。


 気づいたら私はふらふらと屋上までやって来ていた。

 本当は立ち入り禁止なのだけどこの際どうでもいい。そのまま、吸い寄せられるように柵の前まで歩いていく。


 ――ここから飛び降りれば楽になれるよね。


 そう思いながらひょいと柵に足をかける。恐怖はなかった。直後、全身を空中へ投げ出そうとし……。


「死ぬなよ。命が勿体無いぜ?」


 声がした。

 慌てて振り返れば、そこには私よりはるかに背が高い男子生徒がいた。

 今までどこに潜んでいたのだろう。全く気配を感じ取れなかった。そんな私の驚きをよそに男子生徒はニヤリと笑う。


 彼の何か企んでいるような笑顔に、どうしてか心惹かれた。

 渋々ながら足を下ろした私は、彼に胸の内を明かすことにしたのだった。




 そして私の話を聞き終えた男子生徒が言った言葉が、冒頭の一言である。

 私はあまりにも衝撃的すぎて、しばらく絶句してしまった。


 でも考えてみれば私を不幸にしたのはこのランドセルなのだ。

 なら、確かに捨てればいいのかも知れない。そうすれば学校に行かなくても良くなるのでは、だなんてことも思った。


 だから私はドタバタと教室に急いで戻り、持ってきたランドセルを踏みつけボロボロにしてから、屋上から投げ捨てた。

 そうするとさっきまでの絶望的な気持ちが嘘のように晴れ、思わず笑顔になった。


 そうだ、お礼を言わなくちゃ。

 そう思って屋上を見回したが、もう誰もいない。

 彼は一体誰だったのだろうと私は首を捻った。



 それ以来私はいじめられる度に新しいランドセルを捨てまくり、とうとう先生に叱られて停学処分になった。

 しかし少しも後悔はしていない。だって、彼の言葉のおかげで今も私は生きていられるのだから。


 もしももう一度彼と会えたら、ありがとうと伝えたいな。

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― 新着の感想 ―
[一言] なんか意外なものが心を縛ってたりしますからねー。 彼女にとってはそれがランドセルだったと。 男の子は主人公の心の声だったのかもしれないですねぇ。
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