3頁目 現実逃避したい在日宇宙人
本日のカウンセリングは、財布とその中に入ってた重要な物を全部無くした事についてと、そこから派生して自分がいかに他の事に興味が無いかという事について焦点を当てたものになった。
親とは勢いで分籍して距離を置いており、友達もいないという状況にある自分は、いざという時に頼れる人がいない。
それに加えて、引き出したばかりの生活費も無くしたというのに、「次に財布を無くした時にどうすればいいか」という単純な対策を考えようと思えなかったのだ。
それどころか、自分を心配して色々助言してくれた職場の人に対して、内心「聞きたくないから、あまり色々と助言しないでほしい」とまで思う始末。
助言を聞かないくせにガッツリ落ち込んでしまい、本当に不毛で馬鹿な事をしていると思いつつも、「何も行動ができない状態」になってしまったのだった。
「それは、「できなくなった」のではなく、元々したくなかったのに「できなくなった」と理由付けしているだけですよ。」
とカウンセラーは言う。
「身分証明書を無くしたから、貴女は再発行の為にお金を使わなければならず、その為に貴女がカウンセリングや生活の為にとっておきたいお金が減ってしまったんです。普通の人なら、次回そんな事を起こさない為に対策を考えるのですが、貴女は「身分証が必要な時に忘れるから、持ち歩きたい」という初めの考えから行動を考えられないんですね。」
そう言うとカウンセラーは、とあるアスペルガー(ASD)の女性を例にした話をしてくれた。
色々な理由から、夫によって離婚を切り出された女性。
数年間独り立ちの準備期間をもらったものの、その後に完全に赤の他人となる事になった。これは、弁護士を入れての決定だった。
しかし彼女は、弁護士と話をしたのにも関わらず「夫と結婚生活が続けられる」と思い込んでおり、独り立ちの準備期間が終わった時にも「何故自分が出て行かなければならないのか分からない」と言っていたらしい。
「あー……この女の人は、はじめに「夫とずっと一緒だ」と思ってから、考えを変えられなかったんですね。」
私は内心、「んなアホな……」と思ったものの、職場の人からすれば自分が「んなアホな……」と思われたのだろうと気がつき、頭を抱えたくなった。
この女性は離婚の時に考えを切り替えられなかったのだが、私は助言を聞いた時に切り替えられなかっただけ。
切り替えられる時もあるし、切り替えられない時もある。ただそれだけのことだ。
──そう思ったのだが、切り替えられないのにも条件があるようだった。
その状況について深掘りしてみれば、理由がよく分かった。
女性は、離婚しなくてはいけないという現実に直面することで、「子供の面倒を見る事ができない」「働きに出てもうまくいかない」という自分自身の問題と向き合わなければならなかったのだ(それらもまた、アスペルガー由来の問題でもある)。
しかし向き合えなかった場合、パニックになってはじめの考えにしがみつこうとしてしまう。
私の場合は、財布を無くして身分証まで無くしてしまったことで、「自分の貴重品すらどうでもいいと思っている人間性」や「無能さ」に直面せざるを得なくなった。
そして、その現実に向き合えずに「無くした時の対処はしたくない」「以前と同じようにしたい」と強く思い、他人のアドバイスを素直に聞くことができなかったのである。
「貴女がそういうことができないのは、私はよく分かってます。だから、隠そうとして嘘をついたり、誤魔化そうとする必要はありません。いいですね?その方が、貴女も楽なはずです。でも、貴女の為に対策はしていきましょう。」
「はぁい……。でも、財布をしまう時に毎回気をつけるのは無理だと思うので、チェーン付きの財布を買おうと思います。」
私がこう答えたのは、カウンセリング直後は気持ちが安定しているので財布に気をつけやすいのだが、気持ちが不安定になった時には意識することは不可能だと分かっていたからだった。
私は、気持ちが不安定になりやすい。
それは、「普通の社会」では口にできない本音を隠すための嘘や、「母親のルールでは許されないこと」を取り繕うための嘘を常日頃吐きつづけているからである。
そこで、カウンセリングの主題は嘘と本心についてに移っていった。
「貴女はアスペルガーなので、人の心が本当に分からないんでしょう。例えばこういう話がありますが……」
そうしてカウンセラーはまた例を挙げてくれたのだが、本当に理解できなかったので、例を書き起こせるほど頭に残っていない。
実際に、カウンセラーにも「分からない」と答えた。
「……アスペルガーの特徴に加えて、家庭が機能不全だった為に、人との心の交流が全く理解できないというのは分かりますよ。だから、貴女は「何もしない時間」が怖いんですね。」
「そうなんです。何も興味が無いし、うまく喋れないし、好きな物も無い。なのに、無言の時間が怖くて、ついいらないことや嘘を話してしまいます。「ああこれ、かわいいね」とか。思ってないクセにね。」
自分がいいと思ってないものを、いいと言う必要は無い。
とはいえ、せっかく話題のない私のために、相手が頑張って話してくれているのを「どうでもいい」「興味ない」とバッサリ切る勇気は私には無い。
変に思われないように、相手が「本当にそう思っているのかよ」と思ってたとしても時間が潰れるように、空回りだろうが笑って話していかないととやっていけない。
「最近、思うんです。私……本当に人と話すのが苦痛なんだなって。興味が無いから何の話題も無いし、嘘をつかなきゃ仕方なくなっちゃうんです。嘘をつかないで黙っているのはもっと無理。そうしたら、もうどうしようもないじゃないですか……食べ物の話題すら、温度差があって辛いんですから。……」
「分かりますよ。泣きたいなら、今泣いてください。」
そうして、私は声を上げて泣いた。
最近、普段感じていた居心地の悪さが、どうしようもないものだと思い知っていた。
財布を無くした事がきっかけで、職場で人と関わる毎に毎度毎回感じさせられていた。
私はアスペルガーではあるが、カウンセリングを受けているのと、自閉傾向に偏りまくってはいないせいか(違ったら訂正します)、他人が「よく分からない微妙な雰囲気」になっているのは察する事ができた。
その理由の一つと向き合う事になって、どうしようもなく逃げ出したい気持ちになっていたのだ。
カウンセリングを受ける前の様に、「死にたい」と思う日がぐっと増えた。
とはいえ、本当に死にたいわけではないのだ。
ただ、生きている間に何となくずっと感じていた苦痛から、解放されたいという気持ちで「死にたい」と言っているだけだ。
つまりは、ただの現実逃避でしかない。
「……すいません。突然なんですけど、コロナが終わったらワークショップに参加したいです。……また気持ちが変わるかもしれませんけど。」
散々泣いた後、私はケロッとしてカウンセラーにそう頼んだ。
それはカウンセラーが主催しているもので、私のような人が参加しているものだという。
が、私はありのままの自分を見せなくてはいけないことの恐怖から、自分には必要なのは分かっていても参加したいと思えなかったのだ。
「……今まで本当に参加は無理だって思ってたのに、何でこんなにコロッと気が変わったんでしょうね。訳分からん……」
「分かりましたよ。……それは、貴女が自分の心をきちんと正直に口に出したからです。無理だと思っている事でも、一つ一つ問題を解決していけば、できるようになっていきますよ。」
「そんなもんなんですかねぇ……」
アスペルガーや機能不全家庭で育った子供であることで、知らずに迷惑をかけていることはまだまだたくさんあるだろう。
とはいえ、人間やめるわけにもいかないので、しんどくてもやっていくしかない。
仕事無くなったら、いよいよ無敵の人堕ちするしかない。
カウンセリングを受けながら、現状をマシにするために耐え忍ぶのみだ。
アスペルガーゆえに、国語でも小説は苦手だけど現代文はできる(数学的な考え方の文章問題なら解ける)
とか
英語の文法問題は得意だけど、英語の小論文は書けない(同様に数学的な考え方の問題なら解けるという意味)
とか
世界史は暗記問題なので、興味さえあれば解ける
※しかし国語的な文脈を読む問題はできないので、やばいやつ(自分)は決して文系の勉強が得意な訳ではない
なんていう、学校の成績に関わる話もしました。
けど、うまくその会話を入れられなかったです。
小説を読むのが苦手なので、普段小説はいっさい読みません。
なろう系列で色々書いてるのは、普段人に相手にされないからって理由が一番大きいかもですね。切ないね……