10頁目 三十路のひとり反抗期
食欲が出なかったり、不眠気味だったりして不調が続く今日この頃。
頭痛や吐き気はマシになったものの、人に関する大きな悩みがなくなるまでは、完全回復はできるはずもない。
そんなわけで、今回は産業カウンセラーに会いに行ったことの話をする。
その日は、彼女に対して言いたいこと──何か理解不能な出来事が起こったり、感情が爆発して吐き出したいことがあったわけではなかったが、ここ最近のカウンセリングによって日常生活の中で自覚した「しんどさ」を何とかしてもらいたかったのだ。
「今日は、ティッシュがたくさん必要そうです」
「そうなんですか?どうかしましたか?」
「いえ……もう一つのカウンセリングで色々気付きがあったから、仕事する時にも色々分かってしんどくて。」
そこで、私はカウンセラーに誘導してもらい、何がしんどいかを説明した。
一つ目が、生活を送っている間に、過去に自分が取ってきた酷い行いを生々しく思い出すこと。
二つ目が、「きちんとしなければならない」と思う故に、できないときにごまかし続けて来たことをやめたことで、過去の自分が無理していて自分の首を絞めていたことに気がつき、過去の自分の行動が虚しく・悲しく思えて辛かったこと。
三つ目が、より自分のできないこと一つ一つに向き合うことになり、逃げなくなったことからだ。
もちろん、カウンセリングによって良いこともたくさんあった。
以前よりも自分を客観的に見られるようになったし、不安で(正確には自分で責任を取るのを恐れて)行動できないことが減ったし、他人の気持ちをより推し量れるようになった。
だが今までそんな事をしてこなかった身としては、つらくてしんどくて仕方がない。
最近は、休みの日にはほとんど何もせずに寝ている(逆に仕事の日に、現実逃避するために小説を書きがち)。
食べることがストレス発散になっていたが、最近は食べられないことや作ること自体が辛いので、スープを作り置きして適当に食べることが増えた。
そのくせ、よほど身体をいじめ抜かない(=3万歩ほどバカみたいに散歩すること)限り、仕事の前の日は緊張で眠れない。
二つ目と三つ目に関しては、以前から向き合って来たことであり、産業カウンセラーに対しても報告してきたことだ。
しかし最近は、一つ目の理由に呑まれてメンタルがやられがちに思う。
「例えば、どう言うことを思いますか?」
「そうですね……大学生の時のこととか。ちょうど親元から離れて、自分の常識が本格的に崩れて来て、自分なりにもがいていた頃だと思います。」
こんな私だが、今まで周囲の人には恵まれていた(ただし、自分がその有り難みを理解していたわけではない)。
大学の時にも、私に優しくしてくれた子達がいた。
オタク系というか、やおい系なグループの子達だった。
今までもオタク系なグループの子達がよくしてくれていたが、がっつり男同士のカップリングに萌える人達の話を聞いたのは初めてだった。
今思えば、特に彼女達の「萌え語り」は、私に無い感情を突きつけられているようで、とても衝撃的な体験だった。
私は無意識に、「対象がアイドルや二次元など色々あるけれど、世の人々は大なり小なりこのような感情を持っている。だから、もっと上手く擬態しないと」と戦々恐々としていたのだ。
その一方で、自分を締め付ける親のいない状態で、好き勝手したいという欲望のままに生活していた私は、彼女達をかなり傷つけた。
彼女達の優しい思いやりの指摘に、「何でそういう事を言うんだ」と、内心かなり憤っていた。
だが同時に、私はすぐに怒ってしまうほどに追い詰められていたとも思う。
「これだけ無理して色々な事に擬態しようとしているのに、まだ足りないっていうのか!」という怒りがあったと思うからだ。
「……なるほど。では質問しますが、人が一番傷つくのは、どういう時だと思いますか?」
私は本気で分からなかったので、すぐに答えを聞いた。
「攻撃してくるかどうかわからない人に、傷つけられることです。善意や偽善は、一番の攻撃にもなることもあるんですよ。」
いわゆる「フレネミー」の話だろうか?と、私は一瞬思った。
「ぎ、ぎぜん……?でも実際、大学生の時は分からなかったですけど、その子の言うことは正しかったと思いますよ……?確かに、その時の私にとってはかなり怖かったし、追い詰められたとも言えますけど」
ここで、カウンセラーはホワイトボードに図を書いて説明してくれた。
(私は文章で説明できる気がしないし、正確に彼女の言葉を覚えているとは思えないが、一応書けるだけ書いておく。)
「カウンセラーではない、身近な人に相談すると、「本当のその人」ではなく、「身近な人が思うその人」に対して親身にアドバイスをくれることが多いですからね。それがこの場合、大学生のあなたを追い詰めることになったかもしれません。」
多分彼女の言いたいことは、結果的に正しいかどうかはさておき、「自分が傷ついた」と思った気持ちを肯定してやれということだと思う。
正直なところ、カウンセリングで話していた当時は、頭に疑問符を浮かべて質問をしてみたが、きちんと理解できていなかった。
「あなたが頑張っているのを、あなたの上司も同僚も、わかってくれていると思いますよ。」
「そうですかねぇ?確かに、前よりは「仕事の相談(漫然と不安を愚痴るのではなく、自分の思う対処法や自分の意思を伝えること)」ができるようにはなってきたと思いますけどね。でも、人と接するの本当に疲れるし無理なんで、パソコンを使う仕事にかこつけて、一人の時間を出来るだけ取れるようにしてますもん」
「それでいいんですよ。あなたは今、「反抗期」なんですね」
私は本当に意味が分からなかった。
「人が嫌ってことがですか?確かに、他人から変に色々言われたくないですけど。」
「普通反抗期を迎えた子は、「うざい」とか「ほっといて」などと言って距離を取りたがります。それと同じようなことが起こっているんですよ。もちろん、あなたは大人なのでちょっと形は違いますが……」
私は「反抗期」という言葉を聞いて、思いがけなく感動した。
反抗期がなかった私だが、(実際にどういう態度を表に出すかはともかく)正常な成長、つまり反抗期が遅ればせながら来ると思ってなかったからだ。
「三十路の反抗期」と文字にすると、正直笑えるのだが。
それから、色々と職場の人間関係からカウンセリングのフィードバックをして、今回の産業カウンセリングは終了した。
「また次回の産業カウンセリングの時には、同じことで落ち込んで来ると思います」と笑いながら、私は会社を後にした。
【心療内科とカウンセラーの違い】
医療行為としてのカウンセリングの点数はかなり低いため、心療内科では長い時間を取ってカウンセリングをすることは基本的にはあまりないそうです(3分しか話を聞かない所もあるのだとか)。
ですが、その代わり薬を出すことができるそうです。
(※長い時間を取っている所は、私費?扱いになっているらしい)
一方カウンセラーは、薬を出すことはできませんが、患者の話を聞いて対処する職業のようです。
私の場合、カウンセリングで薬じゃ対処できない色々な心理的問題を解決してもらう一方で、どうしようもない不眠やパニックになった時だけ心療内科で薬を出してもらっています。
この話も本編で入れたかったのですが、無理だったのでここで紹介させてもらいます。
【最近の食べ物によるストレス発散】
食欲がない時、趣味のない自分はストレス発散ができずにほぼ詰みます。
でも最近は、スープストックトーキョーで栄養摂取するのにハマっています。
自分で自分の体調を考えて「選択する」ことは、自信の回復にもつながります。
野菜や肉も取れるし、外国のスープや変わったスープにもチャレンジできるので、気軽に冒険ができるのも良い点です。
私は移動中にお店に立ち寄りますが、ネットで頼むことができるのも、良い点だと思います。
個人的オススメです!