私の婚約相手はやばい人でした
私はレイヤー伯爵家の令嬢のエリザです。
もうすぐ18になり貴族令嬢である私も他の貴族令嬢と同じように政略結婚のお話しがきておりました。
これも貴族の女子の定めと思って覚悟はしていました。
それで子爵家の若き当主であるクリードとの婚約が決定したのでした。
最も婚約する日時が決められただけでクリードと顔を合わせたりする事もなく婚約の期日だけが迫ってきたのでした。
そして婚姻が1週間後に迫ってきてようやく婚約相手のクリードと面会する事になりました。
これがクリードと初対面でした。
その日私はクリードに会う為に彼の屋敷にいきました。
応接室に通された私はクリードと対面したのですが、彼はやばい人間でした。
婚約相手の彼から一番最初に出てきた言葉はとんでもないものでした。
「婚約予定は破棄する!!!」
突然の婚約破棄を伝えられました。
私は彼にすぐにどういう事か尋ねました。
「婚約破棄ってどういう事ですか?」
彼はこう答えました。
「よくも目くらましをしてくれたな!!!お前のようなダサい女に付き合い続けてきたのは、ひとえに子爵としての栄光をより大きくするためだった。お前のようなダサくてうるさくて何の価値のない女をこの子爵様にふさわしいなどと考えた事は一度もない!!!お前を愛おしいと思った事などなかったんだ!!」
私は彼の話を聞いて疑問を感じてしまいました。
「あのう??そもそもクリード様とお話しするのはこれが初めてですよね??長い期間付き合ってきたかのような言い回しをされてましたけど??」
「そうだ!!!お前がこの子爵様の期待を裏切ったのだ!!!あれだけ尽くしてやったのに!!!」
「尽くしてやったと言われましたけど??あなた今まで私に何かしてくれました??手紙を貰った事もなければ贈り物も貰ったこともない、今日が初対面ですから当然優しい言葉をかけてもらった事もありません。」
「俺様の嫁にしてやろうとしただろうが!!伯爵家の娘ごときでは子爵家に輿入れなんぞひっくり返っても起こらんぞ。お前みたいな女なんぞの為に俺様の妾の席を空けておいてやったんだぞ!!」
「ちょっと待ってください。妾ってどういう事ですか?正妻になれるんじゃないんですか?」
「お前ごときの女のために正妻の席を用意するわけないだろうが!!!テメエは10人目の妾にしてやろうって言うんだ。これ以上の幸せはこの世にないだろうが!!!10人目の妾の席を開けておいてやった俺様はとってもやさしいだろうが!!この俺様の誠実さを裏切りやがって!!」
はい??頭が痛くなってきました。
伯爵家の娘ごとき??爵位的には伯爵家の方が子爵家よりも家格は上のはずですよ。べつに爵位でいばろうとかは思ってないんですけど、彼の方が爵位が下にも関わらずなぜこんなに強気に出られるのでしょうか。
あと正妻じゃないって初耳なんですけど、なんでそんな大事な話を私に知らせないんですか。
それに何よりも10人目の妾の席を開けといてやった???これ以上の幸せはこの世にない???
それで私が喜ぶと本気で思ってるんですか??
もうすでに頭が痛かったですが、一応婚約破棄する理由を彼に聞きました。
「それでなぜ婚約破棄に至ったのです?」
「お前の心に聞いてみろ!!」
「分からないから聞いているんですが??」
「はん、まあテメエのようなゴミカス女には純真な俺様の心が分かる訳もないか!!」
「お前の価値は伯爵家の令嬢である事、その1点だけだった。にも関わらずお前は価値のない血筋だった。お前から血筋が無くなったらタダのゴミカスだろうが!!!」
血筋??18年近く生きてきましたが、血筋の事を言われた事は一度もないんですが。
私はクリードに尋ねました。
「血筋ってどういう事ですか?お母様はブリス公爵家ですし?」
「そうだ、テメエが価値のない公爵家の血筋だからだ!!!」
はい?公爵家は貴族の序列では最高位のはずでよね。
この人は何を言ってるんですか。
もしかして彼はブリス公爵家に何か恨みを持っているのかもしれない。
それで公爵家の価値はないと言っているのかもと私は思いました。
「もしかして子爵様はブリス公爵家に対して恨みを持っているのですか?」
「はあ?ブリス公爵家に対して恨みなんて何もなーよ。」
「でもブリス公爵家がお嫌いなようですが?」
「いいか好き嫌いの問題じゃないだ!!公爵家っていうのは下民の中の下民なんだ。それは変えようのない事実なんだ!!つまりなんの価値もない連中なのだ!!!あいつらは貴族じゃないんだ!!!貴族というのは子爵家と伯爵家だけだ!!!分かったか!!!」
公爵は貴族じゃない!!!はあ??何を言ってるの??もう頭が追い付きません。
でもそんな事はお構いなしにクリードの大声が響き渡った。
「下民の中の下民なんざ願い下げだ!!!このゴミカス女め!!!流れている血筋以上に大事な事がこの世の中にあるか!!!レイヤー伯の血筋ならば箔がつくと思って期待しておったのに!!!下民の女風情がよくも子爵様の心を弄んでくれたな!!!」
はあー頭が痛い。この人は一体何を言ってるの?
「伯爵家の娘なら大事にしてやったさ!!!下民の娘なんざ大事にするわけないだろうが!!!!とっとと失せろ!!!お前ごときの顔なんざもう見たくもない!!!」
そう言い終わるとクリードは近くのテーブルの上に置かれていた赤ワインの入ったコップを手に持つと、何の躊躇もなくその水を私にかけてきました。
私はそのコップのワインを一身に浴びてしまいました。
するとクリードが私に怒鳴りつけてきました。
「そうだ言い忘れていた!!!テメエはこの子爵様が到底許すことができない屈辱を与えた?」
クリードの大声が響き渡る。
「平民の娘を偽ってデリーク子爵家に嫁がせようとされて、デリーク子爵の俺様は心に大きな傷をつけたのだ!!!それに対する謝罪と慰謝料10億ガルをレイヤー伯爵に要求する!!!あとテメエが汚したこの部屋の清掃代も請求するからな!!!そう伝えておけ!!!」
「部屋の清掃代???」
「テメエがこの部屋を好き放題汚しやがったからな!!その清掃代に決まってるだろうが!!!このゴミカス女が!!!」
はあ?ワインをかけてきたのはあなたでしょうが!!!
ワインをかけてきておいてなんで逆ギレしてるんですか!!
私の服を汚しておいて本当に何を言ってるんだこの男は!!!
だが私の事などお構いなしで怒鳴りつけるのだった。
「さっさと失せろ!!!このゴミカス女!!!」
私はワインに濡れた状態で馬車に乗り伯爵邸へと戻りました。
そして私はすぐに着替えると自室へと戻りました。
自室に戻った私はさっきの事を思い出してイライラしていました。
クリードの奴!!言いたい放題言って!!イライラするわね!!
私の一番のお気に入りのドレスだったのに!!!あいつ!!
でも私はとんでもない奴と婚約する所だったのを未然に回避できたわけだし、むしろ私は命拾いをしたのではないかしら?
まあそうは言ってもあれだけ罵声を浴びせられ、ワインまでかけられた事を思い出すと怒りが絶え間なく湧き出してきてその日はずっとイライラしていました。
それからしばらくして王家主催の舞踏会が開催されようとしていました。
私は舞踏会に出席する予定でしたが、正直気乗りがしませんでした。
すると夕食の席でお父様が私に言いました。
「舞踏会には行きたくなかろう?気が乗らないなら欠席で構わないぞ?」
「確かに気乗りはしません。クリードが私の悪口を言いふらしているに決まっていますから。」
「エリザ本当にすまない。エリザを深く傷つけてしまった。まさかあんな男だったとは。」
今回の縁談はアイツの方から申し込んできて、お父様が私に選択を任せてくれたのです。
私はお父様のお役に立ちたくて縁談を受けたんですが、婚約相手があそこまでやばい奴だとは正直思いませんでした。
正直舞踏会なんて行きたくない。
でも王家主催の舞踏会に行かないとなるとお父様のお立場もあるし。
今回の無茶な慰謝料の支払いもお父様は何も言わずに支払ってくれたし。
それに王家主催の舞踏会に伯爵家から誰も出席しなければ王家を軽んじているなどと噂を流されてしまう。
あのクリードならやりそうで怖い。
クリードに顔を合わせないように気を付ければいいか。
「大丈夫です。あいつに近づかないようにしますから。」
「すまないな、エリゼ。いつも辛い思いばかりさせてしまって。」
私はお父様にそう伝えました。
そして夕食後、舞踏会の準備を済ませて馬車に乗り込みました。
その日の夕方から舞踏会が予定されていた。
私も華やかな赤いドレスを着て馬車に乗り王宮へと向かいました。
王宮にはすでにたくさんの貴族達が集まっており、王宮の庭園内のあちこちで談笑が行われていた。
私はまずクリードがどこにいるかと周囲も見渡しました。
ですがタイミング悪くあいつに出くわしてしまいました。
早速クリードが大声で罵ってきました。
「おやおや下民の娘がこんな場所に何の用だ!!そうか花摘みにでも来たんだな。ここは貴族しか入れないぞ!!!はっはっはっ!!!」
私はムカついたのでクリードに言いました。
「子爵ともあろう者が女子に悪口などみっともないと思わないのですか!!」
クリードが大声で言いました。
「いいか!!俺は子爵様なんだ!!!王家をお支えする重要な人間なんだ!!!下民なんざいくらでも虫けらのごとく沸いてくるだろうが!!!」
クリードが怒りに満ちた形相で私を睨みつけてきました。
そしてクリードが私に近づいてきました。
私はすぐに身構えていましたが、それは違いました。
クリードは私の横を通り過ぎると、庭園の奥へと走っていきました。
私はクリードが走っていった方角を見ました。
すると薄汚い格好をした男が柵を乗り越えて庭園の中に入ってきたのでした。
クリードが大きな声で怒鳴りつける!!!
「おい下民!!ここは貴族しか入れないんだ!!!薄汚いテメエが入れる場所じゃないんだよ!!!」
「申し訳ありません。ここ数日何も食べてなくて。王宮ならば食べ物を恵んで頂けると思いまして!!貴族様!!!何か食べ物を恵んでくださいませんか??」
「はあ??このクリード様がなんでテメエみたいな卑しい存在に施しをしてやらねばならんのだ!!」
その男は座り込んで頭を地面にこすり付けて言いました。
「どうか、お願いします!!!」
クリードが激高してしまった。
「貴様!!下民ふぜいがこのクリード様に命令するんじゃんねえ!!!」
そしてあろう事かクリードがその薄汚い若い男を殴り始めたのだった。
「貴様!!!下民が!!!下民が!!!」
クリードが何度も何度もその男の顔を殴りつけました。
私はたまらずクリードに言った。
「クリード!!!ただ食べ物を分けて欲しいと言ってるだけではないですか?」
クリードが私を睨みつける。
「あん???」
私は構わずに近くのテーブルに並べられていたパンを一つ手に取るとクリードの所まで移動してそのパンをその男性に渡しました。
「これをどうぞ。」
「ありがとうございます。」
その男がパンをがっついた。
するとクリードが笑いながら私に言った。
「ハン?テメエも下民だもんな??薄汚いテメエには下民の相手してるのがお似合いだぜ!!!」
クリードが大笑いをする。
「はっはっはっ!!」
すると衛兵達が駆けつけてきた。
「あそこだ!!急げ!!!」
衛兵達が慌ててこちらに走ってきたのだった。
クリードが大声で言った。
「衛兵共!!全く遅いぞ!!早くこのカス共を閉め出せ!!役立たず共が!!」
だが衛兵達はクリードを取り合さえたのだった。
取り押さえられたクリードが大声をあげた。
「おい衛兵共!!!なにやってやがる!!デリーク子爵のクリード様だぞ!!!こんな事をしてただで済むと思うなよ!!!」
衛兵の一人が兜を脱いで顔を出した。
「それはこちらのセリフだ。王子様への暴行が許されると思っているのか??」
すると薄汚い格好の男性は自分の髪の毛を引き抜いた。
いや引き抜いたのではなく黒髪のカツラを投げ捨てたのだった。
そして金髪の綺麗な髪がなびくのだった。
「ク、クリフ王子様???」
青い顔をした貴族達はそう叫ぶと慌ててその男性の前に並んで膝をつき始めた。
兜を脱いだ衛兵がその男性に言った。
「王子、お戯れはほどほどになさいませ。すぐにお召し物を用意致しますのでお着換えください。」
「ああ、すまい。」
クリフ王子は広間の奥に下がっていった。
少しして煌びやかな衣装を着たクリフ王子が現れた。
「さて、みなすまない待たせてしまったね。」
「クリフ王子様、この度はご尊顔を拝して誠に喜ばしい事にございます。」
するとクリフ王子様が私の前にやってきた。
「レイヤー伯爵家の令嬢エリゼ様??このグリュンダル・エトゥーダル・クリフはあなた様に恋をしております。私の妃になっていただけませんでしょうか?」
するとクリードが大声で言った。
「お待ちください!!!クリフ王子様!!!そいつは下民の血が混ざってるのです。純粋な貴族ではありません!!そんなクズを王家に入れれば末代までの恥になりますよ!!」
クリフ王子がクリードに言った。
「これほど可憐でお優しい方に私は会った事がありません。」
「ですからそいつは下民の出なんです!!」
「それは大した問題なのですか??」
「何という事だ。クリフ王子様がこのような下民の女にたぶらかされるとは。」
すると兜を脱いだ衛兵がクリードに言った。
「クリード!!!大事な事を忘れていないか??」
クリードがキレた様子で睨み返した。
「ああっ??」
「お前はクリフ王子様に対して暴行を行った。子爵家の当主ともあろう者が王子に暴行を加えるなどあってはならん事だ。」
「それはクリフ王子様が卑しい下民の格好をしていたからでしょう。」
「ほう、では何か?王子様が汚れた服を着ていたら殴ろうが蹴ろうが構わない!!!そう言いたいのか!!」
「王子の腰巾着ふぜいが図にのるな!!!」
「ならワシが直接言ってやろう!!!」
声がした方を振り返ると国王様が現れたのだった。
「国王様??」
「父上??」
今度は貴族達が国王様のもとに整列するのだった。
国王がみなに言った。
「せっかくの舞踏会を邪魔してすまぬな。」
すると国王がクリードに言った。
「デリーク子爵!!!貴殿から子爵の位と子爵領であるバステニアを取り上げる!!!」
クリードが驚いて言った。
「何??」
「バステニアの領民達からワシ宛に直訴状が届いておる。デリーク子爵の過酷な税の取り立てにもう耐えられないとな!!!」
「なんだとクソ下民共が!!!この子爵様があれだけいたぶったり搾り取ってやったのに!!その恩義を忘れやがって!!!」
「それに加えてレイヤー伯への恐喝行為と我が息子クリフへの暴行、爵位を取り上げられて当然であろう!!」
そして衛兵達がクリード子爵を取り囲んで、彼を取り押さえたのだった。
「はなせ!!!馬鹿野郎共!!!俺は子爵様だぞ!!!」
クリードは大声でわめき散らしながら地下牢へと連れていかれたのだった。
私はその様子を見ながらため息をついた。
「まったくとんでもない奴ね。あんなのと婚約する予定だったと思うとぞっとするわ。」
「エリゼ様、災難でしたね。」
クリフ王子は屈託のない笑顔を私に向けてくる。
そうだクリードが喚き散らしていたせいで忘れていたがクリフ王子様から求婚されたのだった。
私はどうしていいか分からず変な返答をしてしまった。
「えっと?あの??クリフ王子様??」
やばい、どうしよう??クリフ王子様から求婚されるなんて??
「エリゼ様は可愛くて素敵ですね。」
クリフ王子様は屈託のない笑顔でそう言ってくる。
すると急に私の心臓はドキドキと脈を打って、顔は真っ赤になっていただろう。
私はドギマギした気持ちを自分で感じながらクリフ王子様に見られているのが恥ずかしくなりました。
「少し歩きませんか?」
私はクリフ王子様と庭園を歩く事にしました。
庭園は綺麗な噴水や花々が手入れされており、とても美しかった。
「クリフ様?いつから私の事を??」
「ずっと前からです。舞踏会で会う度にとても素敵な方だと思っておりました。」
「突然の事で困惑されるのも当然でしょう。ゆっくりお考えください。返答はいくらでもお待ちいたしますので。」
「あのうクリフ様?いつもあのような格好で城の外に出歩かれるのですか?」
「ええちょくちょく出かけていますよ。この王国の人々の営みをこの目で直接見ていきたいと思っていますので。王子の格好で行けばみな私に気を使わせてしまいますからね。」
クリフ王子様はちゃんと王国の人々と向き合おうとしている。
どっかの誰かさんとはえらい違いですね。
するとクリフ王子は私に笑顔で言いました。
「クリフで構いませんよ。エリゼ様。あなたにはクリフと呼ばれたいですしね。」
「分かりました。」
「でしたら私の事もエリゼと呼んでください。」
「分かりました。エリゼ様。」
「クリフ??」
「すいません、エリゼ様とお話しできてとても舞い上がっているのです。心臓がドキドキしているのです。」
えっ??クリフも私と同じ事を思ってたの??
「ぷっ!!クスクス!!」
「ひどいですよエリゼ!!勇気を出してあなたに告白したのですよ。」
「ごめんなさい。クリフ。実は私も一緒なのです。クリフの前では心臓がドキドキして恥ずかしくなってしまうのです。」
「えっ?それじゃあ。」
クリフと一緒にいられたらどれだけ幸せだろう。
クリフとお話した時間はひと時でしたが本当に楽しくて心地よいひと時でした。
「クリフ、お受けします。私もクリフが大好きになりました。あなたと添い遂げたいです。あなたにとっての大事な人でありたいです。」
クリフといつまでも一緒にいたい心からそう思いました。
ずっとクリフの側にいたい。クリフと添い遂げたい。心からそう思えて心からそう願えたんです。