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6.嵐の夜~魔女

 目の前で予想外に扉が開いて、セリアンヌは危うく階段を落ちそうになる。よろけた彼女の目に飛び込んできたのは、剣先でいたぶられる母の姿だった。


「ちょっ、いたっ、痛いってば!」

「隠してることがあるだろう! さっさと白状しろ」


 ちくちくちくちく

 怪我をしない程度の力で、尻をメインに突付かれている。暴れるとぐっさりいきそうだからか、男たちにがっしりと体を抑え込まれている。


「お、おじさんたち誰よ! ママにひどいことしないで!」

「あたしはなんにも隠し事なんてしてないよ! いい加減にしておくれ」

「地下室か。怪しいな」


 セリアンヌを押し退け、男の一人が階下を覗き込んだ。


(そっちはダメーっ! メウさん、助けてメウさんーっ!)


 セリアンヌが心で呼びかけたのは、親友の魔法使いの名前だ。セリアンヌの胸のペンダントがうすぼんやりと発光する。

 魔法が発動したことに、男たちは気づいていないようだ。


「人探しをしているんだ。お嬢ちゃんはこっちで待っててくれ」


 セリアンヌは入り口から引っ張り出され、そのまま複数人の男に通せんぼをされた。もう地下へは下りられそうにない。



   *   *   *



 首都ハサから離れた森の中。焚火を囲んでにぎやかな一団がある。


「皆さん今日もお疲れさまでした!」

「明日からまた東の方は忙しくなりますが、今夜は一旦忘れて盛り上がりましょう!」


 嵐が過ぎ去ったあとの森。枯れ木の倒壊はあったものの、街なかの被害に比べると大したことはない。首都から東はまだ嵐の真っ最中だろうが、西の方から徐々に落ち着いてきている。


 この集まりは災害対策に回っていた西の魔法使いたちのちょっとした打ち上げだった。

 何しろ3日も続くひどい嵐だったため、あちこちで家が破損したり、土砂崩れが起きていたのである。子供が行方不明になった、家畜が川に流された、食料が水に浸かってしまった、怪我をした……などなど、各地でトラブル続出である。


 国の西側は林業が盛んで、丘陵・山野が多いため、ことに土砂崩れ被害は大変なものだった。

 行政の命令で対物魔法が得意な魔法使いが近隣エリアからかき集められ、その対策にあたっていた。同時に救護班として白魔術専門の医療チームも作られていた。


 まだ新米魔女といった様子の細身の少女が一人、ふわぁとあくびをした。


「メウちゃんお疲れねー」


 先輩魔女さんたちが労ってくれる。

 メウは今回、医療チームの魔法使いの一人として駆り出されていたのだった。新米だからか人間よりも動物の治療のほうが多かったが。

 炊き出しで空腹も満たされ、酒も振る舞われて大人連中の一部はほろ酔い状態である。


「すみません、私そろそろ帰ります。また何かあったら呼んでください」


 責任者を探して断ると、眠い顔をしているのが丸わかりだったのだろう、はははと笑って送り出された。


 とにかく疲れた。

 メウは学校を卒業して魔法使いになってまだ1年も経っていない本当に新米中の新米魔女だ。

 登録ギルドや役所から魔法絡みの仕事を紹介してもらって細々と食いつないではいるが、まだ新人だからそう仕事が多いわけではない。今回のように一日中飛び回って魔法を使って、という状況は初めてのことだった。

 大変だけど、やりがいのある仕事だった。自分の力なんて些細なものだけれど、やり遂げた感があって嫌な疲れではない。


 ひときわ明るい焚火を囲んだ一団から豪快な笑い声が聞こえてくる。40代のおじさん連中はどうしてあんなに元気なんだろう……なんて自分の親世代を思って少し複雑な気持ちになる。


 メウは魔法のほうきに跨って、森をあとに飛び立つ。

 ああとにかく。今は着替えて、体を洗って、ぐっすり眠りたい。


 自分の家の方を目指して飛び続けると、遠くにはまだ真っ黒な雨雲が。やはり東はまだ嵐が抜けていない。首都のあたりの天候が回復するにはあと数時間はかかるだろう。


 と、少し離れたところから男の声がした。自分を呼んでいるようできょろきょろと見回すと、斜め後ろの方から見慣れた男がやはりこれも空を飛んで近づいてきた。メウと違うのは、彼は魔法のほうきではなく、魔法のマントで空を飛んでいる点である。


「やあ、こんばんは。今帰るところか。西の方は大変だったみたいだね」

「こんばんは、ララベルン」


 にこやかに話しかけてくるこの黒髪ロングの魔法使いは、ララベルンという名前である。彼には少し思うところがあるので、メウはいささか塩対応である。


「確か今回は医療チームだったよね。君は白魔術が得意だから」

「ええ。回復魔法をあんなに使ったの初めて」


 そういうララベルンはどうして一人でここにいるんだろう。いつもは彼の怖い女上司と一緒なのに。

 疑問に思ったが、疲労から積極的に会話をする気分でもなかったので口にはしなかった。


「俺は南の方で一日中飛び回ってたよ。川に流された金庫やら子供やら抱えて。ミカ・ムーラさんは城に詰めてたから久々に一人だった」

「そう」


 聞くまでもなく、彼の口からその怖い女上司の名前が出る。

 切れ長の目、陶器のように色白の肌、全身黒尽くめの衣装に身を包むそのいかにも魔女然とした魔女は、メウと折り合いが悪い。

 ララベルンが何かと話しかけてくるのも、このミカ・ムーラが裏で何か画策しているのでは、とメウは疑っていた。このララベルンという男。鼻筋が通っていて表情は柔らか。一見すると好青年なところが曲者なのである。


「この辺りから雨か」


 首都が近づくにつれ、雨がぽつぽつと顔に当たるようになってきた。

 メウの家は首都からは距離があってもう嵐が収まりつつある地区だが、ララベルンは首都住まい。もうしばらく嵐と付き合うことになるだろう。


 そろそろ自分の家が近くなってきたなとぼんやり考えていたときだった。


  ――メウさん! 助けてメウさん!


 胸のペンダントがほんのり温かくなり、友人セリアンヌの声が響いてきた。

 驚いたメウは、その場で急停止する。


「え、ちょっ、メェーウウゥー……!」


 並び飛んでいたララベルンは止まることができず、そのままスピードに乗って飛んでいってしまった。慣性の法則バンザイ。


(セリアンヌに何かあった!?)


 眠くてぼうっとしていた頭がたちまち覚醒する。メウは首都のセリアンヌ宅に進路を変え、目一杯にスピードを上げた。

ようやくメインヒロインの登場です。

セリアンヌはサブキャラなのでした。

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