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3.嵐の夜~理由

 マイク少年は多くを語りはしなかった。喋りたくないというより、疲労の極みにあって頭が回っていないようである。

 下手に事情を探って面倒事に巻き込まれては大変、どこまで聞き出したものやら……と、ジョセフィーヌが思案を巡らせる中、セリアンヌが直球の質問をした。


「マイク様、一体どうしてこんな嵐の夜に外を歩いてらっしゃったの?」


 打算がないからこそのもっともな質問である。

 だがマイクはそう問われて明らかに狼狽えた。

 一呼吸してためらいがちに、


「巻き込むわけにはいかないので」


と答えを拒絶する。


 ああ、やっぱり厄介事を抱えているのか。やはり嵐が止み次第出ていってもらうべきか。それとももう少し事情を聞き出してから対策を練るべきか。

 いずれにせよ彼の家に連絡を取る算段をつけねば。貴族様の家出少年だとしたら家族の方から礼金でももらえたら御の字だ。どう転んでも良いように今は精一杯親切にしよう……

 ジョセフィーヌは打算の権化と化す。



 ふと、マイクは急に何かを思い出したように顔を上げた。


「そうだ、ここって街のどのあたりなんですか」

「北西区の街外れですよ。あと10分も歩けば牧草地ですよ」

「城までは」

「歩いて1時間半ってところかしらねえ」


 1時間半、と小さく反芻して、マイクは毛布にくるまったまま立ち上がった。


「あの、僕もう行きます。ご親切にありがとうございました」


そう言って、まだ生乾きの衣類を身に着け始める。


「ちょ、ちょっとさすがにこの嵐の中はおやめなさいな」

「そうよマイク様! 川も近いし危ないわ」

「いえ、急ぐので」


 着の身着のまま。疲れ切った体で何をそんなに急ぐのか。

 打算はあるものの、ジョセフィーヌとて心配の情は持ち合わせている。


「たぶん明け方には嵐も弱くなるでしょうから、それまでは休んでおいきなさいな。お城に行きたいなら役場からの乗り合い馬車があります。明日には復旧するはずですよ」

「……」


 マイクは何か言いたそうに口を開いたが、言葉を飲み込んだ。

 心配して引き留めようとする母娘の姿に、やがて諦めたようにポツポツと事情を語り始めたのだった。



 政略結婚が嫌で飛び出してきた――。


 要は、こういうことだった。


「ひどいわ!」

とセリアンヌは同情しきり、やや憤慨といったところ。淡い恋心を抱いた直後の失恋になりかねないから必死である。


「マイク様、失礼ですが貴族様の間では――あの、マイク様は貴族様でいらっしゃいますわね?――高貴な方々の間では、そういったご結婚は珍しくないのではないかと思いますが」


 ジョセフィーヌの言葉に、マイクの表情が沈む。


「……そうですね。相手が普通の方なら僕も黙って従ったかもしれません。ですが」


ここで、マイクは言い淀む。彼を躊躇わせる何かがあるらしかった。


「相手は、チャチャ姫なんです」


 ようやく告げられた想定の範囲外すぎる名前に、ジョセフィーヌ母娘はあんぐりと口を開けた。

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