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21.山小屋の会話

 川岸で休憩ついでに食事を済ませ、ここからは徒歩での山登りとなる。

 といっても本格的に険しい山ではないから、そこまでの重装備ではない。ララベルンの話では迷わなければあと数時間ほどで聖地に着くという。

「一応、親戚が使ってるルートは知ってるから」と頼もしい言葉。


 の、はずが。そのおよそ2時間後。


「なんでこんなことにっ!」

「そっち危ないっ右に逃げてっ!」

「とりあえず川に飛び込むっ!」


 どうやらハチの巣を知らずに刺激してしまったらしく。

 ハチが黒くて動くものに寄ってくる習性があることを彼らは失念しており、黒髪で足の速いのララベルンが一番追いかけられる羽目になってしまった。早々に離脱してしゃがみ込んだマイクはある意味正解だった。

 続いてメウが離脱。ハチがララベルンを追いかけていくのを見送って、ぜえぜえ言いながら、逃げる途中に放り出した荷物を回収に向かう。茂みの向こうでドボーンと水に飛び込む音がした。

やがてのそのそと這い上がってきたララベルンは全身から水を滴らせ、ぼやく。


「またびしょ濡れだよ……」

「ご、ご愁傷さま」


 本日二度目の川ダイブ。これで無傷なのはある意味すごい。


「マイク様ー大丈夫ー?」


 後方の斜面でしゃがみ込んでいるマイクにメウは声をかける。


「だ、大丈夫、だ、けどっ……しんどっ……脇腹……いててて」


 今までが魔法で楽をしていたぶん、いきなり山道を走っては体がついていかない。野宿でそもそも睡眠も足りていないのだ。ララベルンもまた衣類を乾かさなければいけないし、今は無理に進まないほうが良いかもしれない。


「ララベルン、休憩したほうがいい気がする」

「そうだな……俺もちょっと。凹むわ……」


 そう言いながら、ララベルンは再び川の方へ歩いていくと、何かを確認したのかすぐに戻ってきた。


「もうちょっとだけ登ると山小屋がある。もう今日はそこで泊まることにしよう」


 バテ気味なマイクをなんとか立たせて、3人は山小屋へたどり着いた。



 山小屋はララベルンの身内が建てたものらしい。まさに今の自分達のように、聖地へ向かう際の小休止に使うのだそうだ。つまりこのルートは間違っていないということだ。


 小屋の寝台に身を投げだすと、マイクはそのままの格好であっという間に寝入ってしまった。慣れない野宿もあり、やはり相当に疲れていたらしい。


 メウも荷物を下ろし、一息つく。

 小屋には小型の焜炉がある。簡単な汁物ぐらいなら作れそうだ。マイクが起きたときに間に合うように作っておこう。


 ララベルンは濡れた服を着替えて小屋を出る。しばらくすると、両手に野草と木苺を摘んで帰ってきた。


「こっちはウワバミソウ。葉っぱを落として湯掻くといい」

「わ、ありがとう。マイク様食べてくれるかな」


 野菜スープを作っていると、靄でもともと薄暗かったのが、日が傾いてきたのか更に薄暗くなってきた。

 マイクはまだぐっすり眠っている。暖かいから風邪などは引かないだろうが、念のため上着をかけてやる。棚に毛布もあったが、さすがに暑いだろう。

 まだ幼さの残る寝顔に、メウは会えなかった弟を重ねた。


「王子様にはキツイ旅よね」

「その歳で結婚とか、身分の高い人は大変だよな」

「私と一つしか違わないのにね。考えられない」


 準備を終えて人心地つく。ララベルンは外に干した衣類を中に取り込んだ。あのまま外では夜露と靄で逆に湿り気を帯びてしまうだろう。靴も濡れてしまっているので、逆さまにして干す。

 器に盛った木苺がツヤツヤしていて綺麗だ。メウは夕食前にララベルンと軽くお茶をすることにした。


「んー酸っぱい! でもおいしい」

「子供の頃はよく食べたよ」

「ふふ、私も」


 メウは子供の頃の話をあまりしない。したくないのだ。でも、今はなんだか両親が存命だったあの無邪気でいられた頃を素直に思い出せた。


「……ねえ、ララベルンってもしかして」


 私の生い立ちを知ってる? と聞きかけて、やっぱり止めにした。もし肯定されたときに、どう反応して良いかわからない。同じ魔術学校の先輩の彼が何かしら知っていてもおかしくはないけれど。


「どうした?」

「あー……えっとね。私って、何かミカ・ムーラさんの気に障ることしたのかなと思って」

「えっ、いや、それは」


 露骨に動揺するララベルン。取り繕うための質問が直球過ぎたらしい。だがこれも本気で普段から気になっていたことだ。

 ミカ・ムーラはメウを嫌っている……というか、何か腹に一物ある感じで接してきている。バカにされているような感じではなく、うまく表現できないけれど、度が過ぎた塩対応というか、何気ない言葉にトゲがあるというか。


「だからてっきりララベルンはミカ・ムーラさんに命じられて私に話しかけてきてるのかと」

「それは違う! それだけは違うから!」

「う、うん。それはわかった」


 そこまで器用なタイプじゃないということも。


「ミカ・ムーラさんは何も言わないし、俺も詳しい理由は知らないんだけど……噂だと魔術大会がどうとかぐらいで……。あの、なんかごめん。知らなくて」

「魔術大会?」


 何のことだろう。学生時代に目標があって何度か出場はしたけれど。

 気になるが、ララベルンにもわからないし、自分も思い出せない。やはり謎のままだった。



 匂いのあるものは熊を呼び込むということで、食べ残しを出さないようにしっかりと全員の胃袋に納める。一眠りして元気を取り戻したマイクは夕飯をもりもり平らげると、またすぐウトウトとし始めた。成長期の少年らしくて微笑ましい気分になる。


 早めに寝て、早朝出発することにしよう。

 メウとララベルンもそれぞれ寝床を拝借すると、そう時間はかからず眠りに落ちていった。

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