1.嵐の夜~郊外にて
中学生の頃にノリ全開で作ったお話です。
楽しんでもらえたら幸いです。
ヤザト王国の首都ハサという街では、この三日間というもの、嵐に見舞われていた。
街の木々は強風で枝も折れんばかりに揺れ、雨は石畳の道を怒ったように叩きつける。川は増水し、沿道はひどくぬかるんでいて近づくのも危険である。
人々はただじっと家に閉じこもって、嵐が過ぎるのを待つほか無かった。
街外れにある小さな一軒家では、大きな目をした少女が退屈して外を眺めていた。
無論、この天気だ。月も星も出ていないし、街灯は消されている。何が見えるわけでもない。
少女はただ窓ガラスにばちばちとぶつかる雨粒に視線を移して、独り言を漏らす。
「雨、雨、雨……。夏の嵐はわたしの心をかき乱す。
星も見えないこんな夜には、なにか不思議なことが起こりそう……」
それは昔読んだ童話の一節だったような気もする。
口に出してそう言ってみると、本当に不思議なことが起こりそうな気がしてきた。
なにしろこの数日間はずっと家に閉じこもりっぱなしで、いい加減うんざり。想像でもして気分を上げないと、気が滅入ってしまう。
「セリアンヌ、ちょいとセリアンヌ」
隣の部屋で母親が呼んでいる。きっと服の仕立直しの手伝いだろう。
セリアンヌは返事をしながら立ち上がった。
(……あれ?)
外に何かが見えた気がして、思わず窓にびたっとへばりつく。
(人? うそっ、こんな嵐の夜に)
室内の明かりが窓ガラスの内側に反射してよく見えない。ランプのねじを絞って光量を落とすと、セリアンヌは再び外へ目を凝らした。
「間違いないわ! ママ大変よ、すぐ外で人がうずくまってる!」
隣の部屋のドアを開けてそう報告すると、繕い物をしていた母ジョセフィーヌは面倒くさそうに顔を上げた。
娘とよく似た可愛らしい顔立ちだが、体型はどうしてなかなか、ずっしりと立派なものである。
「バカも休み休み言いなさい。どこの世界にこんな嵐の夜に出歩く人間がいますか」
それよりこっちを手伝って、と母は言う。
「でもママ、本当に」
「あなたは空想癖があるからそんな幻が見えるんです。いいこと、セリアンヌ。空想じゃご飯は食べていけないのよ。いつも言ってるでしょう、しっかりお金を蓄えて……」
「もう! 信じないんならいいわ!」
母の言葉を途中で遮って、セリアンヌは上着を手に外へ飛び出していった。