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ピアシリュージョン・ブレイド  作者: 白金 二連
第四幕 ご利用に、終止符を
75/75

75.シーン4-12(お騒がせな一時共闘)

 一段と黒く大きな魔力の塊が敵の掌に収束し、ゆっくりと膨張していく。そろそろ身の危険を感じた私は、そそくさと棒立ちの人物の背後に身を隠すことにした。


 カインを盾に後ろにまわった私に気づいたミリエが、さらに私の後ろ側に張り付いた。それに気づいたオルカが苦笑いとともに体勢低くこっそりミリエの後ろに張り付き、最後に無言でミネコさんがオルカの後ろにこそっと張り付く。君らは一体何がしたい。


 連なる列車の先頭車両もさすがにまずいと判断したのか、心持ちわずかに腰を落として、重心を低く構えの姿勢をとりはじめた。手首を拘束された状態のまま両手の平を開き、右腰のあたりで溜めている。


「こ、この構えは!」


 君いつの間に亀の甲羅を背負って南の孤島で修行したのだ!


 カインの両の掌に、猛り狂うほどの魔力が見る間に収束しはじめた。彼はずいぶんと溜め込んだ弾を放つつもりのようなのだが、この衝撃が下手に四散し、先の家屋が堪えられずに瓦解したらどうしてくれよう。ここは彼の技量に期待するしかなさそうだ。 

   

 秒単位で移り変わる魔力合戦の戦況を、安全地帯と呼ぶに呼べない後ろ側から固唾を呑んでじっと見守る。

 彼の邪魔をせぬようにと、中途半端な高さに維持した左手首に疲れがたまり、私ははたと気がついた。いやいや何か忘れてないか、ちょっと待ってもらおうか。彼は何をやっているのだ。これでは魔力を打ち出す時に、私の左手首も前に引っ張られてしまうじゃないか!


「あ、ちょ、まっ」


 言っているそばからカインは勢い良く両手を前に突き出した。

 私が気付いて縄を解くよりも彼の動作が先だった。連動して前方につんのめってずっこける私を目にし、彼は「あっしまったそうだった」みたいな顔をした。覚えてろよこの野郎!


 襲撃者は一度自身の攻撃を取りやめると、威力を確かめるようにして、その身でカインの魔力弾を受け止めた。一拍置いて、口元に不敵な笑みが浮かぶ。そして何を思ったか、彼は突如こちら側へと駆け出した。


 言われてみれば挑まれたのは力比べ、別に魔力のみの勝負と限定はされていない。なんといってもゴリラ並みの腕力なのだ、それはもう魔力以上に振るう機会を待ち望んでいたことだろう。


 ちなみにこちらの隊列で、一番前に出ているのは今のところずっこけたままの私である。マイ枕も相棒もない孤独な私に一体何をしろという!


 私はすぐさま左手首の縄の端をつまんで引いた。ほどけた縄を適当に後ろへ放り、立ち上がる。


 眼前の敵は、恐らく私の背後に控える一番面白そうで目立つ人物に狙いを定め突っ込んでくる。

 神速で迫り来る勢いのまま豪腕が突き出される寸前、私はわずかばかり横にずれた。


 入り身に移る私のすぐ目の前を、圧縮された魔力弾を掌握している右の拳がカイン目掛けて横切っていく。その腕を、私は横から手を添えて抑え、そして甲を掴み取った。


 足の捌きで自身の体の方向を転換しながら移動する。相手の動きを殺さず生かし、こちらに有利な向きになるよう導く。

 小手を返し、そのまま腕を振り下ろす。敵の姿勢が崩れたところで、伏せた相手の腕を極めて動きを制する。


 ほんのわずかに敵が目を見開いて驚きの顔をした。しかし同時に、突き小手返しで抑えた右掌にそれまで込められていたはずの魔力がふっと掻き消え、かと思えば彼を中心として大きく魔力が膨れ上がる。とっさに私が腕を放して身を退いたと思った次の瞬間、肺の中身を全て押しつぶし出される圧力が全身を打ち、うめき声が喉から漏れた。


 彼は非常に勘が良い上、なかなか機転が利くらしい。伊達に三度の飯よりドンパチやるのが好きな風ではないようだ。このまま一辺倒でいっては逆に私の方が動きを読まれ、次には捌かれてしまうだろう。


 彼は気を揉む私から三、四歩ほど離れた位置まで飛び退って距離をとり、ニヤリと形の良い唇の端を持ち上げた。


 前例もあり高魔力者の外見と実年齢を確実に読み取ることは不可能らしいが、それでも面と向かって近くで見た雰囲気だけで判断するなら、彼は二十代前半から半ば頃、婦女子たちが悲鳴を上げて卒倒するには十分過ぎる花の盛りだ。ぞっとするほど度肝を抜かれる鮮烈な真紅の瞳も彼の中では微細なパーツなのである。誘目色すら彼の美貌を慎ましやかにエスコートする要素に過ぎない。


 彼こそは、神がつくりたもうた奇跡のゴリラなのである。天は二物を与えずなんていう言葉があるが、それはあくまで凡庸たる下々の願いから出た文言に他ならない。天はまさしく、彼に美、そしてゴリラという二物を与えたもうたのだ。


 男同士で対峙したなら余程の悪魔か鋼の心の持ち主でもない限りはまず間違いなく声援の差で心が折れる。勝っても罵倒を浴びて折れる。いざゆけパラリラ、私も君と奇跡のゴリラが対決をしたあかつきにはミラクルな方を応援したい。


 だがしかし、そんな時こそ君の殊勝な心がけの見せ場と言えよう。普段からまるでもって焦りの阿の字も表に出ない不動の心、今こそ敵に見せる時。


 やにわに背後を確認すれば、なぜかそんな不動の鋼を盾に据えた一行は、一歩どころかニ、三歩ほども後ろの方に下がっていた。

 棒立ちである。心も体も不動である。私はミラクルゴリラの側についてあの不動を潰したい。


 ミラクルゴリラは一度こちらの高魔力者らの様子をうかがってから、再度私を視界に捉えた。静かに燃える赤い瞳の奥深くでは、驚くほど入念に慎重に、一対一となったらしい今の戦況を確認している。そして、ふーんと短く関心を寄せる顔はどこか楽しそうにも見える。


「君、見かけによらずなかなかやるね。食後の運動にしちゃ面白くなりそうじゃないか」

「えっ何その裏切り」


 聞き捨てならない敵の言葉を聞いた私は、反射的にオルカの方へ目を向けた。


 気まずそうに苦笑いするオルカが言うには、なんでも類稀なる美形に見惚れた村娘の一人が、長旅により疲弊し腹を空かせた痛ましい様を見るに耐えかね、気付いた時には大層な施しをしてしまっていたとのことらしい。娘の母も家屋に連れ込まれた見目麗しい美男子に驚いて、気付いた時には備蓄の中から特に良い食材を選び取り、腕によりをかけた食事を作ってしまっていたとのことだ。


「私も何か食べたいんですけど……お腹、空いたんですけど……」

「それアンタがほぼ寝てたせいじゃないの。声かけたって、あともう少しだけとか言って結局そのまま起きてこないし」


 それよりどうするのよ、とミリエがせっつく。

 どうするのよと言われても、どう考えても胃に収めた内容物から得られるエネルギー量からしてすでに私が負けてしまっているではないか。


 確かにマナはその互換性の良さから、いくらかカロリーの代わりに熱量となって燃えてくれるかもしれない。とはいえ、そもそも魔力の量自体ですでに彼に分があるし、何よりもまず食事を摂ったという充足感からくる精神状態からして、もう優劣がついてしまうではないか。


 三度の飯よりなんて言った阿呆は誰なのだ。彼は三度の飯をしっかり確保した万全の上でドンパチするのだ。

 マイ枕も心の支えの相棒も、胃の内容物すらも何も持っていないというのに、そんな私にどうやってあのエネルギーの充填されたミラクルゴリラと対決しろというのだろう。それ以前に何ゆえ私の後ろでみな見ているだけなのだ!


 私は切なく侘しい悲境を乗り越え、緩やかに構えていた両手刀をゆるりと解いた。右手の平を目の前へと静かに掲げ、小指から順に折りたたむ。私のこの手が光って唸る!


 決闘開始を告げるゴングが視線の先で火花となって鳴り響く。真正面で銀糸が揺れる。


「……失敗したら、仇とってくれる?」

「イヤ」


 背後の答えは無情だった。瞳を閉じて、悲しみを振り払う。覚悟の光を固く強く握りしめる。微かな涙と熱い拳が刹那にきらりと煌めいた。

 同時に地を蹴る両者の間に解き放たれた闘気がぶつかる。


「天誅!」


 下してしまえ!!

 僅か一瞬、触れれば良い。伸ばされてきた腕を早めにかわし、体勢低く、横から懐へと飛び込む。


 素早く優しく、しかし確実に右手が対象下腹部に触れ、数拍置いてそこから痛ましいほど雷鳴が轟いた。ゴリラは実は物凄く繊細でありストレスに弱い生き物である。


 彼は秀麗に流れる目を見開いて、オルカとミネコさんを見た。次いで取り巻きの村人たちを確認し、もう一度ミネコさんを見る。

 心奪う熱い視線に頬を染める五十前後の熟れた幼女は、愛らしい手でそっと手近な場所を指した。彼はそのまま走っていった。


「最っ低」


 拙いながらも無事もぎ取った勝利をそっと喜ぶ私に、ミリエが心ない一言を投げつける。

 分かっていたことではないか。どうせ勝っても心折られることになると。


 極限の忍耐に歪んでなお美の絶えない後ろ姿を見送っていくばくか、散々騒ぎに騒いだ人の群れにどこか異様な静けさが訪れる。


 この場において、一番魔力的な信頼を集めているであろうミネコさんが、おもむろにカインから少しばかり距離をあけた。それに倣って、皆の関心の対象が、ミラクルなるゴリラから不浄なる歪みへと次第に移り変わっていく。


 歪みよりも奇跡の方が余程気になるらしい婦女子達の何人かだけは彼の方へと向かっていった。もう少しだけ見ていると、ちょっと飽きてきたらしい村人達のいくらかは、自身の仕事場やらどこかやらへと戻っていった。


 さすがに朝から持ち場を空けっぱなしにするのは宜しくないと判断した違いない。それだけ今この場に突っ立っている真っ赤な頭の危惧よりも、日々の維持が重要だと思えてきたということだろう。

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