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ピアシリュージョン・ブレイド  作者: 白金 二連
第三幕 神は天に居まし、人の世は神も無し
40/75

40.シーン3-6(雑多に語る)

「うーん、めんどくさいですねえ。要は、あの森の中が危険なんですよね? 魔物化した木々がマナを溜め込んで、森の中でマナが濃くなるんでしょ? 蒼木みたいな感じで」

「恐らくはそうだと思います……通っただけでよく気づきましたね」


「あの森、どこまで延びてるんですか? ぎりぎり海の側まで道を寄せれば、なんとかなりません?」

「人はともかく、馬や牛などが通りたがらないんですよ。あの辺りは、やはり動物にも異様に感じられるんでしょう。人の足だけで通るには道のりが長すぎますし、木々の勢いも盛んなので、海の側まで道を寄せたとしても森を抜けるほどの時間を歩けば、やはりマナに中てられてしまう者がそれなりに出ると思われます」


「うまくいかないなあもう」

「大聖堂にあったような防護魔術でマナの流れを防ぐには、距離が長すぎるんですよ。しかも高度な術なので、扱える者もそういませんし」


「やめましょうよ、安易に魔術とかマナに頼るの。マナがどうとか魔術がどうとかそれ以前に、マナとか魔術とか使って解決してたら、人件費馬鹿にならないじゃないですか。マナも魔術も結局、扱うには生身の人間がその場に必要になるんですから。交通整備や哨戒や検問も一緒にさせるならともかく、あの魔術張ってたらろくに動けないんですよね? ただ防護魔術を張るためだけに何人も人を派遣するなんて馬鹿げてますし」

「難しいことをさらりと言ってくれますね。この世界の生き物は例外なくマナの影響を受けています。例え単なる道の建設と言えど、切り離して考えることは至難の技ですよ」


「うーん、そうなのかなあ。そういえば、人によって魔力の量とか波長に違いがあるなら、木によってもやっぱり違いってあるんですよね。木の種類とか、同じ種類でも木の個体によってとか」

「ふむ、確かにそのようですが、何かありましたか」


「マナを溜め込んでる木々を特性とか性質によって伐採と植樹で配置組み替えて、その木の配置でなんとか人為的にマナの流れや濃さを操作できませんか? 上手く流れを作り替えて、道に森のマナが侵入しないようにする感じです。全部は防ぎきれなくても、人が通れる程度であれば」

「なるほど。もっと煮詰めることが出来れば、なかなか面白い考えかもしれません」


「それなら点検のためにある程度能力のある魔術士の派遣をするにしても、定期的かつ一時的な労力で済みます」

「ですが、それでもやはり作業できる人員はごく僅かに限られてしまいますし、何よりそれだけの措置では、やはり魔力の乏しい者に一日かけて通れと言うのは厳しいのではないかと思われます」


「万人が使えないんじゃインフラとしては致命的かあ。もし通ったら絶対需要は高いと思うんだけどなあ。もう、森の上に橋か何か架けて森すっ飛ばして通りましょうよ」

「どれだけ大きな橋を作るおつもりですか……そもそも何かを作るにしても、距離がありますので、それなりの規模になるでしょう。大がかりなものになるとその分課題が多くなります」


「規模、ですか。やっぱりそこがネックになるんですね、作るのも維持するのも。私たちの足で抜けるのに約半日強、休みなしの直線距離で六十キロくらいですね。だからそうだなぁ、休憩とか疲労とか道の状態とかも踏まえたら、端から端まで長く見積もって四、五十キロくらいですか。まあ、そう考えるとかなりあるかもしれません。でもぎりぎり首都圏収まるくらいならなんとかなりそうな気もしますけど。都心から成田空港行くよりも近いじゃないですか。地下に大江戸線通ったのに森に道通ってないなんて悔しいじゃないですか」

「その辺りのことに関してはよく存じ上げませんが、規模が規模ですので。一応は海路がありますし、やはりもう少し何か踏み切るための材料が欲しいところです。デゴデゴデだって、滅多に現れませんし、いつも襲ってくるようなものではないですから」


「その滅多な確率の不機嫌なタコにぶち当たって襲われて散々な目に遭ったから嫌なんですよ。一度あるなら二度あるでしょう。海のど真ん中で転覆の危機を体験するのはもう嫌です。森は森であんなんだし。帰りを思うと気が滅入ります……」

「ご安心ください。しばらくは借金の返済に専念していただいて、そのように物思いに耽りお心を痛める時間はとらせないよう気を付けさせていただきます。いっそ、これを機に聖都に腰を据えられてはいかがですか?」


「とまあ、しばらくは右肩上がりで物流は増えそうですね! いやー、賑やかだなあ!」

「賑やかなのはそっちじゃない。アンタたち、ほんっと仲いいわね。もうすぐ着くわよ?」


 完全に二人の世界に入り浸り、話し込んでしまったキュリアさんと私を見かねたのか、ミリエが呆れまじりに割り込んだ。致し方ない、感覚的なもののせいか、何やらどうしてもキュリアさんと話が弾んでしまうのである。


「ずいぶん盛り上がって長々と話し込んじゃって、もう」

「そっちはそっちで若者同士盛り上がればよかったのに」

「アンタが一番ちっちゃいじゃない!」

「いーもん! 多分大きくなるもん!」


 このままでもまあ諦めはつくのだが、多分予想としては、成長とともに、もう少し出るところは出て締まるところは引き締まった美ボディになる予定である。予定というか、希望である。


「だっ、れもそんな話してないわよ!」


 胸元をしみじみと見比べる私の頭を、赤くなったミリエが杖で叩こうとして身を乗り出した。


「ミリエ様、狭いのであまり無茶をなさらないでください」

「もうっ、 二人だってあっけにとられてるじゃない!」


 キュリアさんに窘められてしぶしぶ杖を収めたミリエが、オルカとカインに話を振った。


「え、い、いや、別に」


 騒ぐミリエと私の間に挟まるように身を縮めていたオルカが、気まずそうに手を振って気にしていないような意を示す。何だか怯えた小動物みたいで可哀想である。荒ぶる女には構わぬが吉、もしかしたら彼には女の姉妹が多いのかもしれない。今日も今日とて寝癖ながらもきれいに手入れされた長めの髪を後ろで括ってはいるが、女の家族の多さゆえの習慣なんてことも有りうる。


 一応、もうひとりの男子の様子も確認しておいたところで、私は積み上げていた荷物のひとつを彼が膝にかかえていることに気がついた。いつの間に!


「あっ、落ちちゃったんだ、ごめんごめん」


 あくまでもさりげなく謝罪を交え、即座に荷物を元の位置に積み上げた。しかもこの荷物、結構重い。資料集と教科書をぱんぱんに押し込んだ学生鞄並みにずしりと重い。なぜ何も言わないのだ。怖いから勘弁してほしい。


「恐らく……不可能なことではない」


 突如彼が口を利いた。


「は!? 何が? ビッグバンが!?」


 なぜ彼がいきなり巨峰の話題に乗ってくるのだ! むっつりも甚だしい! 誰か私を助けてほしい!


 驚きのあまり動揺する私に冷たい一瞥と「何の話だ」と短い言葉をくれてから、彼は続けた。言っておくが、私以外の全員が瞠目している。


「そうではない、森の木でマナの流れを変えるという話だ」

「いつの話だよ!」


 今言うなよ!と私は思わず立て続けに突っ込んだ。それにどの道、それだけの処置ではインフラストラクチャーとして成立しない可能性が高いのだ。私だって聖都との行き来はあるのだから、陸路の充実は好景気にある今の社会の今後の課題と言えなくもない。


「なに、何か良い案あるの」

「お前に教えるつもりはない」


 一応尋ねてみたところ、彼は見事につっけんどんな答えをくれた。じゃあ言うなよ。

 それにしても、自ら反応を寄越すということは、彼は私たちの会話をある程度の関心をもって聞いていたということになる。それはそれで、色々と驚きだ。

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